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テツローさん
平均点: 7.46点 書評数: 108件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.88 8点 どんどん橋、落ちた- 綾辻行人 2003/02/17 22:52
 「伊園家の崩壊」が、重い・暗い・救いがないで、読み終えた後気分的に鬱になったので、そこを少し減点。
 作品集として、全体の方向性は良いと思います。小説ではありますが、性質としてはクイズパズルの類と言っていいですね。でも、僕はそういうのもありだと思ってますので。
 表題作と「フェラーリは見ていた」が好きです。「意外な犯人」ですが、米澤穂信の某作の方を先に読んでいたので、トリック分かってしまって残念。

No.87 8点 ウロボロスの偽書- 竹本健治 2003/01/28 01:25
 無理矢理解決を付けるなら、酉つ九が全てたくらんだ、ということになるのだろうか? 解決を付けようと考える方が野暮かな?と思わなくもないけど。ただやはりラストが……もう一つすっきりさせて欲しかったな、と思う。
 全体としては、ややこしくて面白かった。トリック芸者シリーズの方の小ネタも、いいかげんなネタながら、「そこはそれ」、結構楽しめた。
 殺人鬼の章は、「殺戮にいたる病」を連想してしまったが。
 あと、下世話な話ながら、玉櫛と猪口奴のレズシーンにも、殺人鬼の章並の濃厚な描写をして欲しかった。

No.86 9点 らんぼう- 大沢在昌 2003/01/03 00:18
「らんぼう」 新潮文庫
 ハードボイルドってあまり読まないのですが、裏表紙のあらすじ等で魅かれて手にとってみました。
 主人公2人が、悪漢供に遅れをとらないところや、全然容赦無いところが、爽快でした。僕がハードボイルドを苦手な理由に、善玉が暴力で蹂躙される描写が見てられないからというのがあるのですが、この作品はそういう部分が本当に全く無いんですね。良かったです。
 ハードボイルドファンの人はどう思うか、ちょっと聞いてみたいですね。

No.85 7点 ジュリエットの悲鳴- 有栖川有栖 2002/11/20 00:47
 ミステリではないが「登竜門が多すぎる」が適度に笑えて良い。ミステリでは「世紀のアリバイ」が、この中では一番かな。短いし、論理的に分かる代物でもないが、ラスト思わず「あっ!!」と言わされた。
 「タイタンの殺人」SFミステリな訳だが、もうひとひねり欲しいかな。「パテオ」幻想譚としてどうこうより、主人公があわれだと思った。
 「裏切る眼」「危険な席」「夜汽車は走る」ヒロインの描写が少々…。ヤな女だなと思ってしまう。
 表題作、最後主人公は、自殺したのか? 雰囲気は良いが、後味悪し。

No.84 8点 ペルシャ猫の謎- 有栖川有栖 2002/11/11 22:04
 本格ミステリとして良いのは「暗号を撒く男」くらいか?これとて「単なるクイズやん」という批判はあろうが、これはこれで、と思う。「赤い帽子」は本格ではない、通俗物と言う感じだが、良い読後感だった。「ひたすら虚ろだ。まるで、黒々とした穴のように」の辺り、ぞくっ、とした。ここから火村につながるのかと思ったがそんなこともなく。
 表題作は、う〜ん…僕も落ちはこれでも良いと思うが、『あり得ない仮設を消し去り、最後に残ったのが、どれほどありそうになくても真実だ』を納得させるためには、消し去られる仮説を、もっと積み重ねるべきだったと思う。「切り裂きジャックを待ちながら」「わらう月」もハタと膝打つ解決とは言いがたい。もう少し長く書くべきかと。
 「猫と雨と助教授と」は、同人的キャラ萌え感が前面に出過ぎで、ちょっと。「悲劇的」も似たようなものだが、ラストの火村の突き放すような一言は良い。火村というキャラのこういうスタンスは、シリーズ通して好きだから。

No.83 7点 準急ながら- 鮎川哲也 2002/10/16 23:55
 前半と後半で主要登場人物が違うし、前半は海里昭子と巴屋のそれぞれの事件と、二つの事件の関連を調査する展開で、後半がアリバイ崩しメインの展開なのだから、第1部第2部という風にもっと大きい括りにした方が、メリハリが効いて良かったと思う。細かい事ですが。
 前半の方が面白かったかな。多数の証言を元に事件を形作る捜査過程が良かった。文章もテンポ良く読みやすい。
 後半のアリバイ崩しも、トリックそのものは良いのですが、鬼貫が一人だけで考え、煮詰まっていく辺りが、どうかなと。もっと他の刑事とディスカッションしてくれぇ、などと思った。アリバイが崩れた後も、事件のことを感慨深く振り返ることも無く、「手がかりにすぐ気付かなかったことを部下に揶揄されたらどうしよう」と考える、ここら辺も何かずれてるな、と感じた。
 文章は言われるほど古い訳では無いし、描写される風俗・世の中の様子は、程好くノスタルジーを感じさせます。全体としては、良です。

No.82 8点 館という名の楽園で- 歌野晶午 2002/10/11 00:21
 冒頭の挨拶文が良い味。「探偵小説愛好家はいかなる夢を追いかければ」「『ドグラ・マグラ』初版本を書棚に鎮座さしましょうか」「カーの未発表原稿を発掘しましょうか」ここらへん、良いツカミだと思う。
 提示された謎はオーソドックスだが、使い方・見せ方が上手いと思う。実は最初僕は、森博嗣の某作やいしいひさいちのパロディ漫画のように、大広間が回転するのかと考えたけど(見事なはずれ)。
 最初主人公かと思った小田切氏が、全然活躍しないのは「あれ?」という感じでしたが、全体的には、内容も文量も良かったです。

No.81 8点 タンブーラの人形つかい- 竹本健治 2002/09/17 21:27
 1巻はまだ、不可思議な殺害方法を暴く(ハウダニッド)というミステリ的興趣があったが、今回は最初から最後までSF活劇ですねえ。ラスト、主人公ネコが人形つかいドゥーガーを捕らえる際の罠が、ミステリっぽいと言えば言えるかも。
 でも、おもしろくない訳ではない。活劇物として、また、サブキャラ・ノイズの悶々恋愛物(笑)としてなら、標準以上と思う。

No.80 8点 茨姫はたたかう- 近藤史恵 2002/07/20 02:12
 ストーカー問題の部分より、主役の、他人との付き合い方、距離のとり方、自分の周りの世界との接し方、これらの描写が少々身につまされるような感じだった。この問題は女性に限ったことではないと思う。
 ミステリの部分、犯人の豹変振りが変やなと思ったけど、イヤな奴が犯人やったし、力(りき)先生のロジックの披露もあったから、まあ良し。
 探偵チームと主役となる女性ゲストキャラとの、距離のとり方がいい感覚していると思う。それほど深く関わらず、と言って顔も会わさないまででは無い。探偵役を整体師にしたのは、大ヒットですよね。彼ら自身が抱えている問題についても、メインストーリーと遊離することなく、エピソードとして無理無く挿入されてると思う。

No.79 8点 カナリヤは眠れない- 近藤史恵 2002/07/20 01:25
 心の病気に苦しむ女性(この作品では買い物依存症)が、何とか立ち直るまでを描くのが、おおまかなストーリーだが、彼女が犯罪に巻き込まれていたことが最後に判明する。後半かなり過ぎてからようやくミステリになったという感じ。こういう構成のミステリは、主題となるエピソードがどうしようもないと、ミステリ部分がいくら良くても駄目だが、この作品は大変良い。主役の依存症の描写に引き込まれるし、後に判明する主役を狙う悪意の存在も、なるほど、これがそうだったかと吃驚させられた。
 ちなみに同じ構成のミステリで、加藤薫「アルプスに死す」(オール讀物推理小説新人賞受賞作、「殺意の断層」に収録)も、是非挙げておきたい。

 主役はその女性ゲストキャラで、探偵チームの方が狂言回しだが、このチーム、いい味出してます。職業探偵ではなく、医者(整体師)と助手2人と患者の集まりなのだけど、その設定を上手く活かしてます。探偵役の力(りき)先生の、患者でワトソン役の小松崎雄大に語る一言一言が、全体のテーマを匂わせるようになってるんですよね。このシリーズは、長く続けて欲しい。

No.78 7点 まほろ市の殺人 冬- 有栖川有栖 2002/07/17 23:50
 最初、三千万円の隠し場所を決めかねて右往左往するユーモアミステリになるのかと思ったが、そんなこともなく(それで押し通してくれても良かったと思うが)、次に、殺した男の幻に延々付きまとわれる幻想小説になるのかと思ったが、そんなこともなく(それで押し通されてたら腹がたったろう)、まともにミステリとして決着したのでちょっとびっくりした。絶対幻想小説で落とすんだと、読んでる途中は思っていたから。(ミステリで良かった)
 「幻想都市の四季」四部作全てに出る中川刑事が、唯一格好良い作品。この作品が倒叙物だけに、まるでコロンボの様。他の作品でも、もっとこういう活躍が欲しいところだった。
 謎解きは確かに無理無茶が多いとは思うが、全体的にまあ及第点はあると思う。

No.77 9点 まほろ市の殺人 秋- 麻耶雄嵩 2002/07/16 22:24
 表題の主人公2人に、真幌キラーと怪盗ビーチャム、ミッシング・リンクに解決編のロジック、他。これだけのガジェット・小道具を盛り込んで、このページ数で過不足無くまとめているのは、正に見事だと思う。特に、解決編のロジックは、伏線の張り方とも併せて良かった。小道具の仰々しいネーミングに惑わされないように、注意が必要かも。
 ただラスト、作品内世界で解決を見ない(読者にのみ分かる)のが、イマイチと言えばイマイチ。「春」もそうだったが、向こうは犯人に同情の余地があるのに対し、こちらは同情の余地が無い。後味悪いかも。

No.76 7点 まほろ市の殺人 夏- 我孫子武丸 2002/07/14 22:30
 最初は主人公の友人が探偵役になるのかと思ったら、そんなこともなくて。最後、その友人の想いを、そんな風にすることないのに、と少々疑問。
 ミステリとして伏線は露骨過ぎるほど張られているのに、ラストの解決はどうやってもたどり着けるものではないだろう。
 この作品の見所はやはり、主人公の恋愛とすれ違い、犯人の独白とその狂気なのだろう。雰囲気は良かった。

No.75 7点 まほろ市の殺人 春- 倉知淳 2002/07/12 20:12
 間抜けな話、この評が一番的を射ている。全体的には良。こじんまりとだが、上手くまとまっていたと思う。
 途中で一度あったダミーの解答、無理無茶だと作品内でも言われていたが、これで貫き通してくれても、面白い作品になったんじゃなかろうか。
 ちなみに西澤保彦「解体諸因」に収録されていても、区別はつくまい。

No.74 7点 猿若町捕物帳 巴之丞鹿の子- 近藤史恵 2002/07/10 00:23
 時代ミステリ(捕物帳)など、初めて読んだかな。少々ネタばれ有り。
 姉弟相姦や、サド・マゾといった、インモラルなエピソードが所々出てくる。あまり突っ込んだ描写ではなく、テーマでもないので、必然性が感じられず、最初読んだときは「何だ?」と疑問符だった。再読したら、まあ、ゲストキャラの、物語が閉じた後の行く末が決して平坦なものではなくとも、強く生きていくことができるということを感じさせる為の、ワン・ステップだったのだと読めなくも無い。
 ミステリとしては、「ABC殺人事件」の変型、かな?ミス・ディレクションがあまり生きてないように感じた。
 堅物の主人公、玉島千蔭は良いキャラですね。親父さんも子分の八十吉も、良いチームだ。

No.73 8点 有限と微小のパン- 森博嗣 2002/07/03 23:18
 下の人の書き込みで「カタルシスに欠ける」とあるのを読んで、「犯人が捕まらないか、真相が公けにならないのかな?」などと考えてしまったが、読んでみるとそんなことはなく、10巻で起こった事件はきちんと解決していた。財力・資本力や、コンピューター・VR(ヴァーチャル・リアリティー)の技術力を駆使して、自分の思い通りに他人を支配しよう、全てを糊塗しようなどと考えてたやつが、(別の人間が)誇らしげに真相を犀川・萌絵と語り合ってるところを警察に聞かれて、全てばれるという、かなり間抜けな退場の仕方をしていたのは、むしろすかっとした。
 10巻で起こった事件の謎解き・トリックは、膝を打つものではなかったが、外国の作品に前例もあるし、特に酷いものとも言えないだろう。それより、ラストで犀川が真賀田四季の居場所を看破した際のロジックの方が、はたと膝を打つものだったと思う。クイーン並といったら言い過ぎ?
 1巻から続いている真賀田四季の件は、確かに公けにされることはなかったので、この四季というキャラクターにどういう想いを持っているかで、カタルシスを感じるか感じないか、分かれるのかも…。
 このHPに限らず、真賀田四季を「最も魅力的な犯人」とする意見は良く見る。僕はどうだろう? 読んでる最中は“怪物”とさえ思っていたかも。良い意味でも悪い意味でも。でも、10巻ラストの犀川との対峙シーンは、割と良かった。少々好印象の方に傾いた感じ…かな?

No.72 4点 この島でいちばん高いところ- 近藤史恵 2002/06/29 01:07
 まず「この作品はミステリーか?」という問い掛けから、始めなければならない。
 無人島に取り残された五人の女子高生が、一人、また一人と殺されていく。サスペンスを主眼に置いた作品かと思ったら、犯人の謎の男が途中から露出しだして、所々で男女間の性暴力のエピソードがはさみ込まれる。また、普段の高校生活を振り返ったりしながら、少女から大人への変質、取り巻く世界への妥協・融合・旅立ちといった心理描写に落ち着いていく。生き残った二人が十年後、「あの頃の私達には、もう戻れない」で、カーテンフォール。
 まとまり、悪いなあ、と…。サスペンス部分の方がおまけで、少女の生・いのちを描くのが、やはり主題だったのだろうか。ただ、その部分が充分にうったえられてるとも読めなかった。400円文庫なのに、テーマを盛り込み過ぎてるんじゃなかったろうか。もう少し文量がいるだろう。どっちかにしぼるべきだったと思う。

No.71 9点 麦酒の家の冒険- 西澤保彦 2002/06/29 00:13
 ビールが好みじゃない僕は、2割ほど損をしているかもしれない。

 事件が連続して起こったりはせず、与えられた決して動かしようの無い結果だけから、推論に継ぐ推論を重ね続けて、最後には「一体何が起こったのか?」にたどり着く。これ、いいですねえ。何より、展開される論理が全て、説得力に富む内容なのが、すごいと思う。それは、一つの立てられた仮説もそうだし、その仮説を論破する説もそう。よくこれだけ、積み重ねられたものだと、この作品を読み終えたとき、しばし感動にひたったものです。

 キャラクターの想いの描写、タカチの想いが、ひねくれてて、まどろっこしくて、微笑ましい。そう思った。

No.70 7点 朱の絶筆- 鮎川哲也 2002/06/13 00:39
 山荘物連続殺人で、この題材・プロットはまさしく僕好みであった。中盤過ぎぐらいまでは、事件の展開や警察の捜査、人物の会話も面白かったのだが、ラストあたりの展開が性急だったと思う。これは、事件そのものもそうだし、探偵の謎解きもそう。
 事件では、第4の事件が何か無理っぽいと思えた。ここまで連続殺人が起こっていれば、心理の面や実際の警備の面でも、これ以上犯行を重ねることは奇跡に近い、という考えが頭の片隅に湧き出てしまった。「りら荘」の時は、もっと犯行数が増えても気にせず読めたのだが、今回はちょっと気になってしまった。惜しい。
 星影龍三の登場が400頁を過ぎて、というのはどんなものか? やったことは本当に謎解きだけ。事件の始まりから関与しなくてもよいから、もう少し他の登場人物にからんで欲しい。傲岸不遜という性格設定だからこれで良いのかもしれんが、キャラ人気獲得のためにはもう少し登場シーンが必要では?(鮎川作品でそれを考えることはないか!?)
 「りら荘」に比べて(本来比べる必要も無いのだが、何かどうしても比較してしまう)、上記の点で不満を感じた。
 ……「白樺荘事件」はまだかっ?

No.69 9点 動く家の殺人- 歌野晶午 2002/06/12 00:57
 シリーズ3作目にして、ようやく探偵役に好感が持てるようになった。1作目2作目と比べて、別にキャラクターが変化した訳では無いのだが、作者が作品内世界へ降りてくることもなく、天上にのみ位置し、「こいつはこういうことを言うキャラ、こいつはこういう行動をとるキャラ」という風に、ただ淡々と駒を動かすようにキャラを動かしている、そう感じるようになったから。
 これ、本当に感覚的な物言いなので、根拠があるわけでもなく、そんなことないという意見もあるかもね。

 劇中劇がかなり良い出来だったと思う。本当の舞台劇にならないものだろうかと思うくらい面白かった。
 現実の事件の方は、最初のダミー解決はほとんど図形パズルの域で、真の解決もしょぼいかな?とは思うが、これはこれで良いとも思う。その図形パズルも素直に面白かったから。
 信濃譲二の退場時のセリフは、もう少し気の利いたものにして欲しかった。

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