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平均点: 5.92点 書評数: 96件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.36 6点 空想クラブ- 逸木裕 2022/08/09 15:13
吉見駿は、祖父から特殊な能力を授けられた中学生。ある日、「空想クラブ」というグループを作った仲間たちの一人である真夜が溺死した。だが葬儀の帰り、駿は河川敷で真夜の姿を目撃する。彼女は死の瞬間にある謎が気にかかったせいで成仏できず、その場にとどまっているらしい。
駿は、「空想クラブ」の元仲間たちに声をかけ、真夜のために謎を解こうとするのだが、彼らにもそれぞれ事情があり、非協力的な態度を示す者もいる。また駿も、自分が果たして真夜の成仏を望んでいるのか、自身に問いかけざるを得なくなる局面に突き当たる。しかし、それらの障壁は、登場人物ひとりひとりが救いに到達するプロセスでもある。ファンタジー性の強い異色作だが、テーマ性とストーリー性の融合という点で完成度が高い。

No.35 6点 騙る- 黒川博行 2022/08/09 15:01
登場人物の軽快な語りで成り立つ物語。関西の骨董業界で繰り広げられる、油断ならない駆け引きを描いた6編を収録。
物語の中心にあるのは、骨董の真贋とそれをめぐって動く金。他人を出し抜いて儲けたいという精神と、美術品の専門家としての矜持が、時には同じ人物に同居している。一筋縄ではいかない人々が、騙し騙される攻防を繰り広げる。
駆け引きを描き出す、軽妙な会話と語り口が楽しさを醸し出す。骨董にかかわる人々のしたたかさが小気味よい。

No.34 7点 雪に撃つ- 佐々木譲 2022/08/09 14:51
雪まつりを迎えて観光客で賑わう札幌の街で、警官たちが遭遇する複数の事件が同時に進行する。盗まれた自動車、釧路から家出した少女、住宅街での発砲事件。互いに何の関係もなさそうな事件が、やがて一つに繋がっていく。
派手な要素は無く、主人公たちが事態を解決しようと奔走する過程が語られる。抑制された静かな物語だが、登場人物たちの心情はしっかり描かれ、苦難に巻き込まれた人々にかける言葉も心に残る。

No.33 6点 オイディプス症候群- 笠井潔 2022/08/09 14:41
七〇年代後半、ギリシャの孤島に集まった男女十二人が次々に殺される。奇病オイディプス症候群をめぐる謎とギリシャ神話への言及、そして宿敵の国際テロリストの影が絡み合う難事件に、ナディアと矢吹駆コンビが挑む。
お約束の、駆の独断的な現象学的直感は健在だが、あまり鼻につかない。推理小説の成立のネタに単純な権力論が展開され、モデルを知る人は楽しく読めるだろう。

No.32 5点 パレード- 吉田修一 2022/08/09 14:31
男三人、女二人の五人が、2LDKで共同生活をしている。皆それぞれ、悩みがあるが隠し装うことで、また自分を演じることで、日常は破綻なく過ぎていく。その心地よさとユーモアが、この底流としてある。
ところが、突如亀裂が入る。隠されていたものが噴出する。平穏に見えた日常が途端に苦み走ったものになる。でもそこで物語は終わらない。瞬時に日常はまた、この奥深さを覆うのだ。そして平坦さがさらに広がってゆく予感、その不気味さと平穏さが読み手に残る。

No.31 6点 新世界より- 貴志祐介 2022/08/09 14:19
SFとしては古典的なパターンで、黄金時代のSFを彷彿させるアイデアを波乱万丈活劇の中にうまく埋め込んであるから、SFに馴染みがない人でも大丈夫。
上巻が少年物の冒険小説。サマーキャンプですごいものを発見し、事件に巻き込まれる話と並行して、この世界の謎が少しずつ明らかになってくる。下巻は語り手が大人になってからの話だが、上巻のいろいろな出来事が伏線になって、クライマックスの怒涛の展開につながる。

No.30 5点 ZERO- 麻生幾 2022/08/09 14:09
中国の大物スパイを巡って一人の警察官を公安警察の極秘組織(ZERO)が衝突する。それは日中にまたがる四十五年間の歴史の闇を探る戦いの始まりであり、やがて日本政府、中国政府、警察、海上自衛隊の思惑が複雑に絡み、一触即発の危機を迎える。
サスペンス豊かに、鋭くテーマを問い、いくつものドラマで心を揺さぶる。いささか作りすぎの部分もあるが、読みどころ満載の娯楽作。

No.29 7点 いくさの底- 古処誠二 2022/07/19 15:45
第二次大戦中期のビルマの山村を舞台にしている。賀川少尉率いる警備隊がその村に配属された夜、何者かが少尉を殺害した。事件はごく限られた関係者以外には伏せられることになったが、そのためかえって疑心暗鬼が拡大する。犯人は敵である重慶軍か、村の住民か、それとも隊の内部にいるのか。
本書には激しい戦闘シーンはなく、村人たちは少なくとも表面上は日本軍に友好的である。重慶軍の襲撃の危機に晒されているとはいえ、登場する日本軍の兵士たちは凪のような状況にいる。しかし戦闘そのものは起きていなくても、戦争とは多くの人間ドラマが絶えず交錯するものだ。本書ではそれを、日本軍と現地の住人との交流として表現される。そこに突如投げ込まれる殺人事件という変事。だがそれは、この場所、このタイミングでしか起こり得ない出来事であったことが結末に至り明らかとなる。
謎解きの構成が、戦争小説としてのテーマと完璧に結びついている点といい、抑えた筆致が醸し出す不穏な緊張感といい完成度の高いミステリといえる。

No.28 6点 果鋭- 黒川博行 2022/07/19 15:31
堀内・伊達コンビのシリーズ第三作目。
今回、二人が関わるのはパチンコ業界。著者にはパチンコの釘師が主人公の「封印」という作品もあるが、現在のパチンコ業界には職人的な釘師に居場所などもはや存在しない。本書で描かれる業界の裏側、それは警察と暴力団が利権を貪る魑魅魍魎の巣窟だ。
堀内と伊達のやり方は相変わらず無茶の連続で、関係者の拉致、暴力団相手の喧嘩沙汰などは朝飯前だが、元刑事らしく正攻法の聞き込みも堂に入ったものである。とはいえ、警察の威光を背負っていた時と大きく異なるのは、しくじったら命の保証はないということ。
毒を以て毒を制すというが、このシリーズでは主人公たちもそれ以外の登場人物もまさに猛毒、ほぼ悪党しか出てこない。漫才さながらの軽快な掛け合いによってそんな猛毒コンビを魅力的に見せる著者の手腕が冴える一作。

No.27 6点 僕が殺した人と僕を殺した人- 東山彰良 2022/07/19 15:18
二〇一五年冬、米国で連続殺人鬼「サックマン」が逮捕され、弁護士の「わたし」は刑務所に会いに行く。台湾から米国に移住したわたしは、三〇年前に台湾で殺人鬼と出会っていた。一九八四年夏、台湾の中学生の「ぼく」は牛肉麵屋の息子のアガンと弟のダーダー、正義感の強いジェイたちと友情を育み、ある犯罪計画を立てる。
現代と過去のパートを並行させて、殺人鬼が誰であるかを中盤以降で明らかにするが、フーダニットの興味で読むと肩透かしを食らうだろう。またホワイダニットの興趣もない。あるのは事実ではなく本質をめぐる言説で、「人間はいつだってその誰かの想いによってつくられる」(ジャック・カラン)を引用して、人物たちが背負う罪と想いを具体的に明らかにしていく。
文章は詩的で、時に象徴的。重くはなく、むしろ軽やかにリズムを刻み、直情的で愚かな行為に満ちた青春の日々を生き生きと捉え、自分にもこれに似た想いがあったと、振り返ることになる。触れれば痛みを感じるような記憶の棘、つまり罪や後悔の念が改めて喚起され、それが誰かに影響を与えたかもしれないと思い至る。
本書はミステリ的構成を逆手にとって、謎は解かれるよりも解かれないほうがはるかに輝くことを、青春小説の文脈で十二分に示している。

No.26 7点 レディ・ジョーカー- 高村薫 2022/07/01 15:01
日本社会でタブーとされてきた同和問題や、大企業と結託して闇社会を形成している総会屋・暴力団などにも目を向けて、組織そのもの、ここでは企業だけでなく、警察もその内側から容赦なく描かれている。
もちろん、グリコ・森永事件が題材となっているが、この作品は単に現実に起きた企業犯罪をなぞっているのではない。むしろ、そのような犯罪が、人間の孤独と怒りの深い情念から紡ぎだされていくプロセスを生々しく描き出しているのだ。
現代社会の犯罪ルーツが、人間の感情の源泉に根ざしている事実に、驚愕させられるだろう。

No.25 8点 シャイニング- スティーヴン・キング 2022/07/01 14:51
巻頭にエドガー・アラン・ポーの短編「赤死病の仮面」から引用があり、作品の中にも何度か出てくることからもわかるように、明らかにポーの影響のもとに書かれた作品である。
ホテルが命を持ち、最後に爆発する場面はポーの「アッシャー家の崩壊」を思い起こさせるものがある。展開は巧みで最初から結末を予感させる「REDRUM」を出し、それに向けて様々な伏線が張り巡らされていることで、登場人物の心理の中で恐怖感が高まるのに比例して読者に恐怖感を募っていく。ホラーものとしては非常に計算された作品といえる。

No.24 7点 忘れられた花園- ケイト・モートン 2022/07/01 14:37
第一次大戦前夜の一九一三年、ロンドンから豪州の港に着いた船には、白いトランク一つを提げた身元不明の幼女が乗っていた。
物語の時間軸は大きく分けて三つ、ストーリーラインは四つある。ひねりの連続で展開されるモダン・サスペンスだが、全編が古典名作へのオマージュに彩られている。古いトランクから謎の文書が出てきて物語が始まる、というのはクラシックな欧米文学ノ常套だし、また孤児院の少女が壁に囲われた庭園を慈しむことで成長していくバーネットの「秘密の花園」を精密な下絵にしているのは言うまでもない。
本書はあえて謎を解かないミステリであり、二度にわたる「不正解」をそのまま内包して終わる。そうして答えを出さない地点に留まり得たことで、人が過つことの秘密にむしろ一歩踏み込んでいる。

No.23 7点 怒り- 吉田修一 2022/07/01 14:23
一年前に起こった殺人事件。犯人は逃走。三つのポイントに現れる犯人と思しき謎の人物。謎の人物と人々との交流が丹念に辿られ、皆それぞれの場所でそれぞれの関係を築いていく。三人の人物の中、一体犯人は誰なのか。
一行たりとも目が離せない。犯人探しというミステリ要素もさることながら、一番の読みどころは近しい人間に疑いを抱かざるを得ない登場人物たちの葛藤でしょう。
その不信感は、それぞれの自分自身への自信のなさに根ざしていて、疑いは自身への辛い過去や心の傷と向き合うことに繋がる。展開はやるせないけれど、救いも用意されている。

No.22 7点 ベルリンは晴れているか- 深緑野分 2022/07/01 14:12
ドイツ少女の見た世界の残酷さ、赤軍兵に蹂躙される祖国。連合軍も決して味方ではない。戦中はナチスに両親や大事な家族を奪われ、ただ生きるために必死に駆け抜けて、やっと戦争が終わったと思っても、まだ誰にも救いは訪れない。
あの時代に生まれ、あの国に生まれ、どう生きるのが正解だったのか、何が正義で何が悪なのか、簡単に出せない問いを突き付けられる。
ものすごく凄惨で重いテーマなのに、エーリヒを訪ねるカフカとの旅はユーモラスだし、主人公アウグステをはじめ登場人物が一人一人生き生きとして悪役ですら魅力的。読後感もなぜだかすがすがしい。

No.21 5点 教団X- 中村文則 2022/07/01 14:01
絶望を描くことでしか描けない希望、悪を描くことでしか描けない善が、この物語には描かれている。作者の無垢なほど純真な想いが創り出した生命の物語のように思えた。
読んだ誰もが好感を持つというタイプの作品ではないが、読んだ者すべてに強烈な印象を残す過激で大胆な作品であることは間違いない。既存の枠組みから外れようとする強い意志のようなものを感じる。

No.20 6点 粘膜蜥蜴- 飴村行 2022/07/01 13:53
舞台は第二次世界大戦前夜の日本。物語は、町に一つしかない病院の院長にして、莫大な資産を武器に軍や中央の政治家との間に太いパイプを持つ絶対的権力者・月ノ森大蔵の一人息子・雪麻呂が同級生の真樹夫と大吉を自宅に連れ帰ってくる場面から幕をあける。
気持ち悪い巨大生物が現れるはわ、爬虫人の秘密が明かされ、それが見事に第一章の雪麻呂たちの物語につながっていくわ、読み応え満点の秘境小説にして冒険小説になっている。惜しむらくは、ラスト。せっかくここまで常軌を逸した展開だったのに、因果応報という予定調和に着地してしまったところ。

No.19 5点 雨利終活写真館- 芦沢央 2022/07/01 13:40
遺影を専門にした写真館を舞台にした連作ミステリ。
どの話も、トリックの真相に向かって書かれているのではなく、その背後で揺れ動いている人の心情を繊細に描き出しているのが印象的。
人間ドラマとして胸に迫ってくるのは、作者のそうした心遣いがあるからでしょう。やがて明らかになるのは写真が撮られた際の状況だけでなく、そこに写った人々の深い思いといえる。
作者にしては珍しく、ハートウォーミングなストーリー。

No.18 6点 重力ピエロ- 伊坂幸太郎 2022/07/01 13:30
舞台は連続放火事件が起きている仙台市。街の落書き消しを仕事にしている泉水の弟・春は、兄が勤める遺伝子情報会社のビルが放火に被害に遭うことを予測。放火現場に残された落書きが、暗号になっているのではと推理する。
DNA遺伝子の仕組みや、フェルマーの最終定理、ガンジーの思想、兄弟が幼かったころに家族で見に行ったサーカスでのエピソードなどを、さりげなく本筋にメタファーとして織り込ませる手際といい、小説としてのうまさも実感できる。

No.17 5点 世界は密室でできている。- 舞城王太郎 2022/07/01 13:19
奈津川家シリーズにも顔を出す探偵メンバーの十二歳から十九歳までを描いた青春ミステリ。
「密室」だけど、もう一つのテーマはタイトルが示す通り、「世界」であって密室で出来上がっているこの窮屈な世界システムから決死の覚悟で逃れようとする子供の真摯な闘いを、この小説は描かんとしている。
それを記述する文体にはリズムがあり、スピードがあり、個性がある。

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