皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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ROM大臣さん |
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| 平均点: 6.06点 | 書評数: 163件 |
| No.123 | 5点 | がん消滅の罠 暗殺腫瘍- 岩木一麻 | 2023/10/18 15:41 |
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| デビュー作「がん消滅の罠 完全寛解の謎」の続編。ある日夏目は、高校時代からの友人である森川雄一から奇妙な話を聞かされた。森川の勤める生命保険会社で契約を締結してからまだ日が浅い複数の顧客が、相次いで同じ種類の皮膚癌だと診断されたというのである。
人工的に癌を発症させることが果たして出来るのか、という謎がまず提示される。それを追求していく過程で浮き彫りにされるのが、癌患者など救いを求める人を喰い物にする代替医療の実態である。弱みに付け込んで金をむしり取るだけではなく、適切な医療処置を受けることを怠らせて、救える命を失わせているのだとしたら、それは殺人行為と呼ぶ者もいるだろう。 ある殺人事件を軸にしながら、作者は代替医療をめぐる人間模様を描き出していく。スリラー的展開は読みごたえがあり、不正に対する強い怒りも感じられる作品である。 |
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| No.122 | 7点 | 死まで139歩- ポール・アルテ | 2023/10/18 15:31 |
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| 一九四〇年代末、法学士のネヴィルは、謎の女と嗄れ声の人物が暗号めいた会話を交わしているのを耳にした。また、ロンドン警視庁のハースト警部と犯罪学者ツイスト博士のもとに現れたパクストンという男は、嗄れ声の人物によって毎日封筒を運ぶ仕事のために雇われたが、その中身は白紙だったと語る。やがてパクストンが殺害され、現場には六足の靴が並べられていた。一方、ロンドンは無数の靴だらけの屋敷で、五年前に死んだ男の遺体が発見されたが、現場は完全な密室であるのみならず、床には埃が積もっていて、遺体を運び込むことは不可能だった。
現場に犯人が近づいた痕跡がない「足跡のない死体」というシチュエーションを、作者は異様な執着すら感じさせるほど好んでいるが、本書ほど奇抜なシチュエーションが提示された例はないだろう。本当に解けるのか不安になるくらい不可解な謎は、ツイスト博士の推理によって確かに解き明かされる。だが、そこに説得力を覚えるかどうかは意見が割れるだろう。 |
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| No.121 | 5点 | アフター・サイレンス- 本多孝好 | 2023/10/18 15:22 |
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| 刑事事件の被害者やその家族と面談するカウンセラー・高階唯子が主人公。彼女の仕事はクライエントが胸に秘めた思いの「傾聴者」となり、「語るべき言葉」を引き出すことで回復の礎を作ること。
全五編中の白眉は、「迷い子の足跡」。未成年誘拐の被害者である高校生の少女が警察に語った犯人像は、信憑性に欠けるものだった。存在の尻尾すら掴めない、いわば「幻の男」だったのだ。唯子は、実母も含めた他の大人たちがみな疑う証言を信じ、少女の人間性を深く理解することで事件の真相に近づいていく。 記憶とは、唯一絶対のものではない。自他の心理の介入によって、たやすく書き換えられてしまう。だから傷つきもするが、だからこそ救われることもある。ミステリとしては座り心地の悪い結末となっているが、そこにメッセージは宿る。 |
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| No.120 | 6点 | 満鉄探偵 欧亜急行の殺人- 山本巧次 | 2023/10/18 15:11 |
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| 舞台は日中戦争前夜、昭和十一年の満州。南満州鉄道株式会社の資料課に勤める詫間は、総裁・松岡洋右の密命を受けて、社内で相次ぐ機密書類の紛失事件を調査することに。
謎の美女にソ連のスパイ、さらには陸軍特務機関に憲兵隊の思惑が絡み合う中、真相を追う詫間は、大連からハルビンへと向かう欧亜急行に乗り込む。 題名通りに欧亜急行の中で殺人事件が起きる物語だが、殺人の謎解きよりも、国家や組織に関する利害関係が生み出す謀略の渦に重点を置いた作品である。これまでも鉄道を多く描いてきた作者だけに、豪華列車の旅の描写はいたって緻密だ。鉄道に限らず、時代の描写の物語の雰囲気も、予想を裏切ることのない作品である。 |
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| No.119 | 6点 | 青に候- 志水辰夫 | 2023/09/07 14:07 |
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| 物語は、一人の若い侍が江戸に戻ったところから幕を開ける。彼の名は神山佐平。播州の小藩に召し抱えられていたが、家中の騒動に巻き込まれ家臣の一人を斬って追われる身に。秘密を握ったまま姿を消した同僚の行方を追う佐平を、何者かがつけ狙う。
大きな企みに巻き込まれた主人公がその企みに立ち向かい、危険に遭遇しながらも自分自身の道を開く。本書では、過去への視線と未来への行動とがバランスをとって物語を支えている。佐平の冒険は、「きのう」の事件に決着をつけるだけのものではない。自分自身の「あした」をつかみ取る旅でもある。 若い佐平の青さも、武家の生まれではなく、豪農の次男坊で絵師を志していたというその生い立ちも、そして幕末という激動を予感させる時代も、すべて未来を切り開く行動に重要な意味を与えている。それだけに、「あした」へと向かう最後のページが胸を打つ。 |
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| No.118 | 6点 | スリープウォーカー- ジョセフ・ノックス | 2023/09/07 13:58 |
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| 十二年前のムーア一族惨殺事件の容疑者として逮捕され、終身刑を言い渡されていた「夢遊病犯」ことマーティン・ウィックが、癌のため入院することになった。マンチェスター市警の刑事エイダン・ウェイツは、相棒のサティとともに警護にあたる。彼らは、ムーア一家のうち唯一発見されていない長女の死体の在処をウィックから聞き出すことを期待されていたのだ。ところが、病院に現れた不審な女をエイダンが追おうとした直後にウィックの病室から火の手が上がり、ウィックは死亡する。駆け付けたエイダンに「俺じゃない」と言い残して。
死期が迫ったウィックが殺されなければならなかった理由、彼が冤罪だったのか否かという謎、病院に現れた女の正体など、数多くの魅力的な謎を配置して興味を惹きつける。またクライマックスでは、古典的な本格ミステリさながら、エイダンが関係者一同を集めて謎解きをする場面もあり、そこで明かされる真実は十分な意外性を具えている。 |
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| No.117 | 6点 | 雪の階- 奥泉光 | 2023/09/07 13:48 |
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| 昭和十年、女子学習院に通うう学生が親友の死の真相を追求する物語は、推理小説的興趣に事欠かないし、武田泰淳「貴族の階段」の本歌取りともいうべき設定で、兄と妹、女同士の関係、セクシャリティの主題、重要な場面での睡眠薬の使用など、武田作品を踏まえている。
文学的には心霊音楽協会、霊視能力などオカルト的な要素も満載して、現実と虚構の境界を著しく浸食していく点と、自由自在に視点が移動する精緻かつ濃密な語りは至高の技巧だろう。 |
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| No.116 | 7点 | 不死人(アンデッド)の検屍人ロザリア・バーネットの検屍録 骸骨城連続殺人事件- 手代木正太郎 | 2023/09/07 13:39 |
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| 主人公のひとりクライヴと美少女のロザリアが訪れたエインズワース伯爵家の城には、祖先が吸血鬼になったという呪われた伝説が存在している。
作中の世界は、不死人などの超自然的な怪異が存在しており、作中人物たちもそのことを前提として行動している。にもかかわらず、連続殺人の謎解きは意外なほど堅実で合理的。ロザリアによる真相究明は、京極夏彦「百鬼夜行シリーズ」における「憑物落とし」を連想させる。 一旦すべてが明らかになったかに見えた後に浮上してくる真相の構図も戦慄的で、ホラーと本格ミステリの融合としてよくできている。 |
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| No.115 | 7点 | 運命の証人- D・M・ディヴァイン | 2023/09/07 13:33 |
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| 全四部からなる物語の主人公は、事務弁護士のジョン・プレスコット。今、弁護士でありながら法廷の被告席に立っている彼は、自分が告発されている二件の殺人事件について回想していた。六年前、ジョンは友人の会計士ピーター・リースからノラ・ブラウンという美しい女性を紹介された。ジョンは一目で彼女の虜になったが、ノラはピーターと結婚してしまう。ところが、ある事件によってジョンを取り巻く事態は急転する。そして、忌まわしい第二の事件が。
裁判シーンから始まるので、作者には珍しい法廷ミステリかと思って読み進めると、物語の大半はジョンが殺人罪で逮捕されるまでの経緯の描写で占められている。主人公と恋人や友人や同僚、あるいはその家族たちを中心とする限定された人間関係の中で繰り広げられる濃密な心理劇はまさに作者の真骨頂。また、冒頭の法廷シーンで二件の殺人事件の被害者の名前が明記されていないため、誰が殺されたのかという興味を牽引し、サスペンスが盛り上がる。 しかし、法廷シーンも決して付け足しではなく、謎を解く上で重要な役割を担っている。すっかり投げやりな気分になっていて、自分の裁判さえもどこか他人事のように眺めていたジョンが、自身の無実を証明すべく奮起するきっかけとなる出来事の描写も印象に残る。 |
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| No.114 | 5点 | 殺人者の手記- ホーカン・ネッセル | 2023/07/07 13:06 |
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| バルバロッティ警部補が活躍する警察小説。バルバロッティが休暇の旅行へ出かける直前、手紙が届いていた。「エリック・べリマンの命を奪うつもりだ。お前に止められるかな?」。やがて文面のとおり、その名前の男が遺体で発見された。その後も彼のもとに、新たな予告殺人の手紙が届く。
主人公は、別れた妻との間に三人の子供がいる四十七歳で、捜査よりもバカンスを優先させ、事件解決も神頼みというダメな中年男。それだけに彼の家族や恋人らにまつわるサブストーリーがなかなか面白い。もちろん本筋となる事件の展開も奇妙で、主人公同様、翻弄された。 |
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| No.113 | 8点 | 自由研究には向かない殺人- ホリー・ジャクソン | 2023/07/07 12:59 |
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| 主人公は、女子高生のピップ。彼女が自由研究のテーマとして選んだのは、五年前に町で起こった十七歳の少女アンディの失踪事件だった。
交際相手の少年サルが、アンディを殺して自殺したとされていたが、サルを知るピップは彼の無実を証明するため、サルの弟を相棒に再調査を進めた。しかも現代女子高生らしく、メール、フェイスブック、携帯電話など最新マルチメディアを駆使しての独自の事件捜査を行ってみせるのだ。何より、ピップが次々と事件の関係者にインタビューしていくことで隠された事実をあぶり出し、疑問点の見直しから真相へと迫る展開は、まぎれもなく探偵小説の王道を行くもの。邁進するヒロインの魅力とともに、彼女へ迫る危機などの展開も含め、ミステリとして申し分ない。 |
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| No.112 | 8点 | 網内人- 陳浩基 | 2023/07/07 12:53 |
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| ネット上で誹謗中傷にさらされた女子中学生が自殺した。姉のアイは、悪意の主を突き止めて復讐すべく、ネット専門の探偵、アニエに調査を依頼する。
作中にはインターネットに関する専門知識が大量に披露されている。視点人物のアイは、その方面には素人であり、彼女がアニエから専門用語などを教わることで、読者に対する案内の役目も果たすことになる。 凄腕のハッカーであるアニエは、時には非合法的手段で情報を集めるなど、善悪を超越した立場にいるキャラクターであり、その倫理観も独特だ。そういう人物でなければ、匿名性の大海に紛れ込んだ悪意の持ち主には迫れないという透徹した達観が本書の底流にはある。 途中でアイの復讐相手の正体が明かされる。つまり犯人の意外性は放棄されているわけで、本格ミステリとしての興味は期待できないだろうと思っていたが、思いがけないところに仕掛けが用意されていて満足。 情報化時代のミステリとして、香港の特異性に収まりきらない普遍的な面白さにあふれた作品といえる。 |
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| No.111 | 4点 | ドクター・スリープ- スティーヴン・キング | 2023/07/07 12:45 |
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| 雪に閉ざされたホテルを舞台に、怪異や幽霊が波状的に襲ってくる恐怖、正気を失っていく父の恐怖を描いた前作から30年後。「かがやき」といいう一種の超能力を持つ少年だったダニーは、父と同じくアルコール依存症に苦しむ中年男になっていた。
幽霊が次々に現れる前作は正調ホラーといった趣だったが、続編はホラーであると同時に中盤から真結族との駆け引きや死闘が中心となり、冒険小説的な要素も強い。この作品の中で、キングは特に新しいことをしていない。語られるのは真新しいストーリーながら、「呪われた町」「グリーン・マイル」など先行作品に出てきたイメージ、モチーフの変奏が多く、これは「ミザリー」で使った手だなという箇所もある。子供の日に見た悪夢や怖い映画、空想に出てきたモンスターを呼び戻す彼の小説は童心を感じさせ、死が物語の中核にあっても常にパワフルで若々しかった。それがここにきて、老いや死の描き方に微妙な変化が生じているように思える。 |
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| No.110 | 6点 | わたしたちが火の中で失くしたもの- マリアーナ・エンリケス | 2023/07/07 12:35 |
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| 路上の汚い子、異形のものの気配を漂わす隣家の庭、川底からよみがえる死者の噂、自らの肉体に火を放つ女性たち。古典的、土俗的なモチーフと現代都市の闇を交差させ、これでもかと恐怖のバリエーションを作り出す手腕に舌を巻く。
作品には母国アルゼンチンの歴史が濃い影を落とす。著者が十歳になるまで軍事政権の支配下にあった。人が突如行方不明になり、拷問され、骨となって発見される。幼児期に見聞きした悪夢のかけらが時折顔をのぞかせる。あるいは数々の失政が生み出したブエノスアイレスの極貧エリア、ビジャを舞台とする物語に潜んでいる。 心に恐怖を呼び覚まされるとき、人は意識の奥底に押し込めた不安やおぞましい記憶と向き合う。だからこそ、豊かな文学の源泉なのだと再認識する。 |
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| No.109 | 6点 | 愛して殺してマイアミで- ポール・リヴァイン | 2023/05/18 13:15 |
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| 売り出し中のテレビキャスター、ミッシェル・ダイアモンドがある夜自宅で首を絞められたうえ、コンピュータのモニターに顔を突っ込んで殺されていた。そしてさらに第二、第三の殺人が起きる。
本書は読者の意表を突く趣向や伏線がたっぷり盛り込まれており、特に事件の鍵は、ジェンダーが重要なポイントになっている。 殺人現場に残された詩の解釈をめぐって、あれこれ推理するくだりなどは、ややもすればペダンティックになりかねないところだが、向こう見ずの行動とジョークに満ちたおしゃべりで、相手を煙に巻きながら解決に突き進む弁護士ラシターの活躍が、この作品を一気に読ませる魅力あるものにしている。 |
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| No.108 | 6点 | 水よ踊れ- 岩井圭也 | 2023/05/18 13:06 |
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| 一九九七年、中国返還を間近に控えた香港。二十歳の交換留学生・瀬戸和志は、十三歳から十七歳まで暮らしたこの地を再訪する。その地にはかつて想いを寄せた少女・梨欣がいた。彼女は三年前、マンションの屋上から落ちて死んだ。警察は自殺と結論づけたが、和志はその場から慌てて立ち去る男を目撃していた。その真相を求め、香港に戻ってきたのだ。
不器用な青春、激化する民主化運動、複雑な民族問題、格差の現実、濁った政治、そして揺れ動く香港の熱気が濃密に絡み合い、真に迫った描写で綴られていく。しかもある箇所で本作の主題が明らかになると、より物語の厚みが増し、さらに梨欣の死についての答えが示されてからの猛烈な熱量には大いに圧倒された。 |
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| No.107 | 5点 | テロリストよ眠れ- レグ・ギャドニー | 2023/05/18 12:55 |
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| M15への転身で新しい人生の道に進もうとしていた恋人メアリを、テロリストの銃弾により目の前で狙撃されたアラン・ロスリン。復讐のために手掛かりを得ようとするが、残された日記に記された彼女の姿は疑念を生じさせる。
日記を読むということによって生まれるメアリの愛への疑念を、事件の捜査によって払拭しようとするロスリンの心の葛藤は、絶えず続く。その緊迫感と重圧感は独特の空気を生んでいる。 複雑な心理描写と社会的な腐敗を通してそれぞれのキャラクターを描くが、やや類型的になっている面が惜しい。 |
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| No.106 | 6点 | 匣の人- 松嶋智左 | 2023/05/18 12:48 |
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| ある事情で刑事課から交番勤務に移動した貴衣子。部下に配属された新米警察官の里志は、とらえどころのない性格で彼女を困惑させる。大事件など起きない平穏な町で技能実習生が殺される事件起き、里志の性格も災いして、彼にある疑いがかけられる。
事件そのものは小粒だが、その転がし方が実に巧妙。殺人事件以外にも、外国人の技能実習生に関するトラブル、老人の徘徊と、小さな町の抱えた多彩な問題を絡めて描き出す。それぞれに困難を抱えた人々が救いを得る畳み方も、温かい読後感を残す。 |
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| No.105 | 6点 | 脅迫、空港閉鎖!- ジャック・トロリー | 2023/05/18 12:35 |
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| リンドバーグ空港は、住宅をかすめて飛ぶ飛行機の引き起こす騒音が公害化し、市全体が停滞した状態に陥っていた。そのサンディエゴ市内で連続殺人が起こった。
犯人の動機が多かれ少なかれ、住人が持つ飛行場への不満の鬱積である点が目新しい。犯人の動機が、最初のうちは荒唐無稽のように思えるのだが、逆に現実離れした犯人の行動の異常性を身近に感じさせる効果を上げている。 飛行機の騒音という解決されない重苦しいテーマを掲げながらも、独特の軽みを帯びたタッチで作品の雰囲気が暗くなるのを防ぐ作者の手腕は評価されてもいい。 |
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| No.104 | 4点 | 冬のさなかに ホームズ2世最初の事件- アビイ・ペン・ベイカー | 2023/03/09 13:50 |
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| シャーロック・ホームズと「ボヘミアの醜聞」に登場するアイリーネ・アドラーとの間に生まれた娘、論理学者のマール・アドラー・ノートンの活躍するシリーズ第一作。本編では、シリーズの語り手兼ワトスン役を務めることになる、フェイ・タリスとマールとの出会い、二人を巻き込んだ最初の事件の顛末が語られる。
本書がホームズのパスティーシュであることは、作者の前書きで明かされるが、それがなければ、ごくありきたりの現代米国ミステリに見えてしまったかもしれない。というのも、舞台が米国というのがピンとこないし、時代色もうまく出ていない。また、当時の婦人解放運動に作者の主張を反映させているところが、いかにも現代の米女流作家らしいが、それがどうにもホームズの世界と結びつかない。 作者の意欲は認めるが、いろいろ詰め込みすぎた結果、全体としてかえってまとまりを欠いてしまった。 |
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