海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

ROM大臣さん
平均点: 6.07点 書評数: 135件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.95 4点 バビロンの影- デイヴィッド・メイスン 2023/01/26 14:35
謀略小説と冒険小説の中間に位置する作品である。ハワードら九人の行動を精密に描いて、フセイン暗殺の準備をする過程に冒険小説としての魅力がある。また彼らの行動を軍事衛星で追って、阻止しようとするアメリカのアナリストたちの行動も同時に描いている。
しかし、登場人物が多いため、重要なキャラクターである九人の男たちが十分に描かれておらず、盛り上がるはずのクライマックス・シーンも淡々と描写しているだけに不満が残る。どちらにしても欠点がないわけではないが、ラストのどんでん返しはなかなか気が利いている。

No.94 5点 悪夢の八月- ティモシー・ウイリアムズ 2023/01/26 14:28
アパートの一室で発見されたその死体は、ひどく損傷を受けており、死後数日は経っていた。一方、時を同じくしてポー川で自殺騒動が起こる。二つの事件には関係があると睨むトロッティは、警部補のピザネッリを連れて独自の捜査を続ける。
癖のある主人公、悲しみを通り越した先に生まれた乾いたユーモア、どこか嚙み合わない会話、簡素でいて奇妙にずれた章大、耳慣れないイタリア語の人名や地名、八月のイタリアが持つうだるような暑さ、そういったものが混然一体となって作品世界を構築している。

No.93 6点 陸軍士官学校の死- ルイス・ベイヤード 2022/12/20 14:43
舞台は一八三〇年のニューヨーク州。ウェストポイント陸軍士官学校である夜、一人の士官候補生の首吊り死体が発見される。一旦は安置所に保管された遺体だったが盗み出されてしまう。
重厚な文章でつづられた歴史ミステリでありながら時に軽みというか、脱力ものの趣向が飛び出すこともあり、被害者同士のミッシングリンクが明らかになった時は笑ってしまった。とはいえ、最後に明かされる事件の動機はロマンチックとは程遠く、とても生々しく哀しい。

No.92 5点 精密と凶暴- 関俊介 2022/12/20 14:37
歴史の影で戦ってきた異能者「シノビ」が主役。内閣情報調査室の依頼で、特異な力で戦う男女二人の物語。
冒頭の犯罪組織の親玉を仕留める場面を読むだけで、超能力を活かしたアクションを中心に捉えようとしていることが伝わってくる。アクションと謀略で埋め尽くす物語は、とにかく緩むことなく突き進む。
日本の官僚機構を背景にした謀略の図式は、荒唐無稽に思えるぐらい派手である一方、うやむやに片付けられる物事が多い現実と重なり合って、妙な生々しさを感じさせる。

No.91 4点 ストーカーズ- ケネス・J・ハーヴェイ 2022/12/20 14:30
物語は、ニューヨークの広告代理店に勤める美貌のキャリアウーマン・アクシスが、一人の男に尾行されているところから幕を開ける。男は、仮釈放されたばかりの殺し屋のスカイホース。スカイホースは、無言電話、留守宅への不法侵入と、ストーカーぶりを発揮していく。一方アクシスには、学生時代からのボーイフレンド・ダリーがいるのだが勝手に合鍵を作って部屋に押しかけてくる、もう一人のストーカーなのである。
作者は映画編集助手の経歴を持つだけあって、二つの物語をカットバック風に交互に進めていくあたり、読者を退屈させることがない。ただ、双方の結びつきが稀薄なため、ストーリーが完全に分離してしまっているのが残念。また、ストーカーによる恐怖を堪能することも難しい。

No.90 6点 女副署長 緊急配備- 松嶋智左 2022/12/20 14:22
殺人事件の捜査を中心に捉えつつ、それぞれの悩みを抱えた警察官たちの姿が描かれている。狭い町での人間関係、親の介護に子育てといった身近な問題から、警察官としてのキャリアと矜持、そして殺人事件の意外な真相と、決して長大ではないのに、多彩な要素で読ませる。
主人公・田添杏美の存在も大きい。小さなコミュニティ外からやってきた者であり、警察組織でもマイノリティの女性であり、それでも臆せず言うべきことは言う。そんな彼女が赴任から間もない状態で組織を率いて問題に立ち向かう様子も本書の大きな魅力となっている。

No.89 6点 ブルー・ムーン亭の秘密- パトリシア・モイーズ 2022/12/20 14:15
古き良き時代を思わせる本格ミステリであり、中心となる謎はシンプルなものだが、手慣れた作者だけに楽しめる出来となっている。
キャラクターも相変わらず魅力的だが、とりわけ不運な境遇のスーザンがデレクのプロポーズを受けるエピローグは爽快であり、それまでのすべての不幸を洗い流してくれるかのようだ。
サービス精神も随所に盛り込まれており、まさに洒落たイギリスの本格ミステリの手本のような作品といえるだろう。

No.88 6点 - ガイ・バート 2022/11/29 15:15
アワ・グローリアス高校の校舎の片隅には、長いこと使われていない地下室が人知れず存在する。マーティンの発案で、五人の少年少女がその地下室で、食料や飲料持参で三日間暮らすことになった。ところが三日経っても誰も迎えにやってこなかったため、五人はパニックに陥ってゆく。果たしてマーティンの身に不測の事態が起こったのか、それとも五人を閉じ込めることが彼の目論見だったのか。
本書の特異さは、その語りのスタイルにある。三人称で綴られている部分があるかと思うと、五人の生徒の一人である少女リズの手記や、その友人でもあるもう一人の少女の告白などが随所に挿入されるのである。
エピローグに至って、実際に起きたことがある程度明かされ、複数の語り口が選択された理由も明白となる。ところが、本書で最も恐ろしいのはこの解明部分である。宙吊りのまま謎が幾つも残されているせいもあるが、それ以上に敢えて具体的に書かないことによって、読者のおぞましい妄想を掻き立てるような筆法が選ばれているせいでもある。

No.87 5点 スロート- ピーター・ストラウブ 2022/11/29 15:04
私(ティム)とジョンとは十代のころからの付き合いだった。大学卒業後、私は徴兵され、ベトナムの地で死体処理班の一員として働いた。グリーンベレーとなっていたジョンとその地で出会ったが、死の瀬戸際に立たされた地獄を見た彼は何もかもが変わっていた。
ティムとジョンの少年時代の挿話のさりげない切なさ、大量殺人者のドラゴネットの不気味なリアリティ、ジョンの岳父ブルックナーの孤独な存在感、いずれも強い印象を与えるが、さらに鮮烈なイメージで圧倒するのが、ベトナム戦争の描写である。抑制のきいた乾いたタッチが、極限状態に起きる狂気と暗黒を抉り出している。
現在と過去が複雑に交錯し、幾重にも歪められた迷路を抜けてたどり着いた結末は、いささかあっけない感じもする。いくつか説明不足もあるが、充実した読後感を与えてくれる。

No.86 5点 切り裂き魔ゴーレム- ピーター・アクロイド 2022/11/29 14:55
一八八一年、夫のジョンを毒殺した罪で、エリザベスが絞首刑に処されるところから始まる。時制が目まぐるしく前後するばかりか、三人称記述のあいだにジョンの手記やエリザベスの語りが入り乱れ、一読しただけではプロットを呑み込めないほど複雑。
マルクスや喜劇役者ダン・リーノら実在の人物が容疑者として登場したり、ユダヤ神秘主義やチャールズ・バベッジの解析エンジンに言及するなどの凝った趣向が、世紀末ロンドンのパノラマの如きこの小説に、虚実皮膜のスリリングさを付与している。

No.85 6点 評決- バリー・リード 2022/11/29 14:48
物語の主人公は、ボストンに住む弁護士ギャルヴィン。妻子を持ちながら、愛人との情事にふけり、酒に溺れ、もはや破滅寸前の状態だった。そんな彼が再起をかけて取り組むことになったのは、ある医療過誤事件だった。
物語はまず、ぼろぼろの状態だった主人公の状態から語られていく。弁護士会から資格を剥奪される寸前だったギャルヴィンは、自分を一人前の弁護士に育てた恩師カッツ・モウ老人を訪ねる。そして恩師との再会により気を持ち直した彼は、入院している原告の女性に会いに行く。短い場面だが実にこの場面こそ、読者の心をつかむ重要なシーンだろう。そこから先の物語は、医療過誤専門の弁護士として豊富な知識と経験を持つ作者の独壇場だ。原告側、被告側ともに、ありとあらゆる手を使って言い分を主張し、証人への尋問から有利な証言を得ようと奮闘する、法廷小説の醍醐味に満ちている。
いくつものエピソードを配しながら、真実を裏付けるために行うギャルヴィンの努力と闘いが感動的。

No.84 6点 カリブの悪夢- フランク・デ・フェリータ 2022/11/29 14:39
不倫のカップルであるフィルとトレイシーは、豪華クルーザーに乗って、二週間のカリブの船旅を楽しもうとしていた。乗組員である船長夫妻は好感の持てる人柄で、旅は快適なものとなるかに思われた。ところが、嵐に遭遇して思わぬ方向に船が流されたのをきっかけに、船上は逃げ場のない地獄へと一変してしまう。
舞台の大部分は船上、主要人物は四人というサイコドラマである。船行不能になったクルーザーで、船長夫妻が次第にその恐るべき本性を現してゆくくだりの畳みかけは迫力満点。

No.83 4点 復讐の天使- エリカ・ホルツァー 2022/10/05 17:05
頻発する犯罪に悩まされるアメリカ。犯罪と密接に結びつくミステリでは、こうした現実が作品に投影されることが多いが、そのような作品の中で、単なる道具立て以上の、よりメッセージ色が強い作品が登場するのも当然であり、本書もその一例といえる。
こうした試みは歓迎されるべきものであろうし、犯罪を防ぐために何をなさなければならないか、という作者の心の声も伝わってくる。だが小説として成立させるために、無理が生じ結果としてその力を失ってしまい、退屈な読み物になってしまったようだ。

No.82 6点 ナイト・マネージャー- ジョン・ル・カレ 2022/10/05 16:55
六か月前までカイロのホテル、ネフェルティのナイト・マネージャーだったジョナサン・パインは、チューリヒのホテルで憎むべき敵と遭遇した。その名は、リチャード・ローパー。闇の武器商人であり、ジョナサンが愛した女性、ソフィーを死に追いやる原因になった人物である。
個人的な憎悪を動機に、国際的武器商人に戦いを挑むジョナサン・パインと彼をスパイとして潜り込ませ、イギリス情報内部の武器商人と結託する権力者との必死の駆け引きを開始するレナード・バーの二人の戦いを柱にして描いている。
危険地帯へ送り出したジョナサンの情報が、バーたちの駆け引きの敗北によって漏洩し、ジョナサンは危機に陥る。男の誇りにかけてジョナサンを救出しようとするバーの姿が胸を打つ。

No.81 6点 雷鳴の館- ディーン・クーンツ 2022/10/05 16:46
囚われの乙女を襲う謎めいた怪異の数々というゴシップ・ロマンスの伝統的スタイルを踏まえながら、作者はヒロインを「まな板の上の鯉」的な極限状況にいきなり放り込み、不条理極まるシーンを次々と直面させることによって、ゴシック特有の冗長さを排し、緊迫感あふれるストーリーを展開している。
神も仏も畏れぬ結末のつけ方は、作者らしい。

No.80 5点 古代都市ローマの殺人- ジョン・マドックス・ロバーツ 2022/10/05 16:41
紀元前70年、有力な法律家ホルタルスが、保護を務める法務長官を父に持つ、若きローマ貴族のデキウスは、二六人会の委員としてローマ市内の警備の任に就いていた。その担当地区で、二つの殺人事件が相次いで発生した。
数々の圧力にもめげず、デキウスはついに修道院長に頼み込み、元老院の報告書の封印を解くことに成功するが、そこには思いがけない人物の名前が記されていた。
歴史ミステリの場合、ある程度史実に基づきながら、いかに独自の小説世界を構築していくかというのが、成否の分かれ目の一つとなるが、その点は十分成功しているといえる。

No.79 5点 処刑前夜- メアリー・W・ウォーカー 2022/10/05 16:27
事件解決から10年の歳月を経て、処刑を目前に再び動き出した事件の顛末を描いている。
少々強引すぎる点も見受けられるが、ヒロインの感じる焦燥感、別れた夫の再会や処刑制度への反感、ブロンクが獄中で書いた詩を挿入するなどして、骨太で読み応えのある作品に仕上がっている。
また、モーリーの亡くなった父親にまつわる事件について触れている個所がある。主人公が犯罪ライターという職業を選ぶきっかけとなり、警官である夫との出会いのきっかけともなったこの事件は、モリーという人間を形成する重要な要素であるだけに、もう少し詳しく描き、作品の重層化を図ってほしかった。

No.78 6点 決断- バリー・リード 2022/08/26 12:51
ギャルヴィン弁護士のオフィスに、駆け出しの弁護士ティナが訪ねてくる。薬の副作用で使用者に先天性欠損症のある子供が生まれている。責任をとらない製薬会社に訴訟を起こしたい。新米弁護士の力ではどうにもならないので、自分の代わりに訴訟を引き受けてほしいというのだ。
前半はティナの正義感による薬害訴訟と、あまり動きのない裁判手続きに終始するが、後半に入りこの裁判はイギリスに移り訴訟の可否を左右する関係者が、次々と不可解な死を遂げ、サスペンスが強まっていく。
好男子でその正義感に魅力あるギャルヴィン弁護士。そのラブ・ロマンスもとかく硬く難しくなりがちな法廷ドラマを和らげている。裁判の緊張感を保ちながら意外な結末が待っている。

No.77 4点 片目の説教師- テッド・サクリー・ジュニア 2022/08/26 12:43
あるパーティーでプレスコットは、バーローと喧嘩もどきの一幕を演じ、それ以降ポーカーにのめり込むようになった。ポーカーを通じて町の有力者たちの観察を始めたプレスコットを町から追い出そうとしているかのように、次々と事件が起こり始める。
ポーカーを通じての心理戦、謎めいたところのある主人公の過去、犯人のアクションなど様々な趣向が凝らされている点が興味を引くが、核となる謎に引っ張っていくほどの魅力がないためか、それらの趣向が空回りしている印象を与えてしまう。

No.76 7点 流れは、いつか海へと- ウォルター・モズリイ 2022/08/26 12:36
元刑事の私立探偵オリヴァーが、十数年前に刑事を辞めざるを得なくなった彼自身の冤罪の解明と、死刑宣告された黒人ジャーナリストの無実の証明に奔走する。
過去と現在を巧みに往復しながら、二つの事件を掘り下げて緊迫感を高め、予測できない着地点へと向かう。特にオリヴァーの相棒の時計職人で元犯罪者メルの肖像が出色。メルと共に行う戦慄と恐怖と昂奮の探索と闘争がたまらなく面白い。
決して一様ではない罪悪の認識と正義の捉え方もいいし、節々で示される人生・社会観念も新たな思索を促す。

キーワードから探す