皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ことはさん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 288件 |
No.5 | 6点 | 奇術探偵 曾我佳城全集- 泡坂妻夫 | 2025/08/17 22:13 |
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シリーズを通しての感想としては、詰め込みすぎのため、ミステリの興趣が薄くなっている、というところかな。奇術の描写の中で事件が起きるものがおおいが、それらの作品は事件が起こるのが話の中盤になっていて、質疑がなく、即解決となり、あっけなくなっている。
あとは、佳城のキャラがあまりたっていないと思う。佳城がなにを考えているか、伝わるような描写が少ないからだろうな。 他に、佳城を出しておけばシリーズに入れられるので、実験的な作品もあるところは、評価したい。 以下に、各話の寸感。 「天井のトランプ」 奇術の仕掛けとダイイング・メッセージを絡ませた、典型的な佳城譚。まとまりのよい作。竹梨警部が登場。以降、いくつもの作に顔を出す。 「シンバルの味」 壊したものを治す仕掛けをを絡ませた、これも典型的な佳城譚。舞台設定が凝っているのにも、理由があるのもよい。シリーズのベストの1つ。 「空中朝顔」 ミステリでない。短い人情噺。 「白いハンカチーフ」 泡坂妻夫の得意な論理と伏線だが、いろいろ無理が目立つ。テレビ番組のトレースという実験的構成は面白い。 「バースデイロープ」 竹梨警部が登場。事件にほとんど関わらない人物を、主な視点として描く実験作。シリーズのベストの1つ。 「ビルチューブ」 問題のない日常に並行して、裏ですすんでいる事件を終盤で暴く、泡坂妻夫が得意とする構成。事件と関わらないが、「雪まくり」という現象が印象的。「天井のトランプ」の法界と「バースデイロープ」の節子が再登場。シリーズのベストの1つ。 「消える銃弾」 竹梨警部が登場。シリーズで初めて佳城が探偵役として事件を依頼される。奇術の仕掛けが中心なので、鮮やかさに欠ける。串目匡一が初登場。以降は多くの作に顔を出す。 「カップと玉」 暗号解読を軸にした作品。暗号以外はドタバタコメディのタッチ。 「石になった人形」 竹梨警部が登場。奇術の仕掛けが作品の仕掛けと直結している。佳城の立ち位置が特徴的。 「七羽の銀鳩」 日常の謎風の結末に、もうひと捻りするのがよい。その話の落とし方は、いかにも泡坂妻夫の味わい。 「剣の舞」 竹梨警部が登場。冒頭の奇術ショーのエピソードとは、全く別視点で事件が語られ、終盤にきれいにつなげる構成が見事。 「虚像実像」 竹梨警部が登場。奇術の趣向は面白い。事件は、謎と解明より動機に焦点があたっているのが、シリーズでは異色。 「花火と銃声」 竹梨警部が登場。トリックは平凡だが、構成や推理の段取りで楽しませる。 「ジグザグ」 事件が派手だが、必然性は薄いし、趣向や推理にもみるべきものがない。残念な作。 「だるまさんがころした」 謎と解決らしきものはあるが、ミステリは風味付け。ミステリでないジャンルの読み心地。 「ミダス王の奇跡」 手がかりの提示が気が利いている。シリーズとしては、ある仕掛けがあり、重要作。 「浮気な鍵」 竹梨警部が登場。視点人物が途中で入れ替わり、ふたつの話の絡みが興味を引く。トリックはシンプル。最初の視点人物の市塚尚子は面白いキャラ。 「真珠夫人」 事件が起きるが、ミステリ的な推理や解決はほぼなし。あるのは動機の謎だけだで、共感はできるが、小粒すぎる。 「とらんぷの歌」 事件に使われるギミックは面白いが、ミステリ的にはそれだけ。あとは奇術の会の描写を楽しむ話。 「百魔術」 奇術のトリックがそのまま事件のトリックで、ミステリ的にはシンプル。動機が特異で、かつ、ある伏線にもなっているところがポイント。 「おしゃべり鏡」 死体の発見で閉幕という、泡坂妻夫らしいユニークな構成。 「魔術城完成」 やはりこれは、「こんなキャラではないはず」の思いが拭えない。 |
No.4 | 4点 | 黒き舞楽- 泡坂妻夫 | 2025/04/14 01:18 |
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亜愛一郎シリーズの次にでも本作を手にとった読者がいたら、ものすごく戸惑うだろう。ミステリではなく恋愛小説だ。ミステリらしいフックや展開が少しはあるが、最終的にミステリとしてまとまるわけではないので、それらはミステリに擬態するためのものに感じた。
恋愛小説を全然読まないわけではないが、本作は、登場人物の行動に理解が及ばず、あまり楽しめなかった。共感できないだけでなく、なにを考えているかわからない。これはたぶん、相性なのだろう。 たまたま本作を読む直後、日本文化のTV特集番組を見たが、そこに本作を読み解く手がかりがあった。本作では浄瑠璃が絡んでくるが、その番組では能について取り上げていて、日本の文化には「余白」の文化があると説明していた。表情が変わらない能のお面から、鑑賞者が様々な表情を読み取ることで作品が完成する。「余白」を埋めるのは鑑賞者なのだ。 本作は、極めて「余白」が大きい作だ。様々な葛藤があったであろう展開を、ほんの少しのエピソードだけですませているし、各エピソードの描写も多弁ではない。そこで登場人物がなにを感じたか、それを埋める作業は読者に委ねられているようだが、私はどうもよい読者ではなかった。 |
No.3 | 7点 | 11枚のとらんぷ- 泡坂妻夫 | 2025/03/29 19:30 |
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Ⅱ部は抜群に面白い。ミステリ・ショート・ショートとして、これほどの出来の作品は他にないと思う。
全体の趣向もかなり好き。読み直してみると、キーとなる事(これは数十年ぶりの再読でもさすがにおぼえていた)は、冒頭からそれとなく匂わせてくるし、全編にいくつも振り撒いているのがわかる。解決編での、それらの伏線の指摘は素晴らしく、テンションがあがる。 そのわりに、そこまで高得点でないのは、Ⅰ部とⅢ部にある。Ⅰ部は、(再読では伏線を拾えて楽しめたが)趣向を知らずに読むと、ドタバタを含む奇術ショーなだけで、事件が起きるまでが長すぎて飽きてしまうし、Ⅲ部は、解決編までは奇術大会の模様で、ミステリ的興趣は薄い。この辺、奇術に興味がある人には楽しいのだと思うが、あまり興味がない私は楽しめなかった。 再読で気づいたのは、亜愛一郎シリーズのキャラ「三角形の顔の老婦人」が出ていること。なんで記憶していなかったかなぁ。 |
No.2 | 7点 | ダイヤル7をまわす時- 泡坂妻夫 | 2025/03/09 02:14 |
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再読。今回は創元推理文庫で読んだ。その解説で初めて意識したが、初出からすると「煙の殺意」と「ゆきなだれ」をつなぐ作品群になるとのこと。「煙の殺意」と「ゆきなだれ」が、どちらも傑作短編集なだけに、比較すると本作はやや見劣りがする。すこしきつい言い方をすると、2つの作品集に入れなかった落穂拾いの感もある。それでも最盛期の泡坂妻夫の作品なので、水準は十分にクリアーしている。特筆すべきは、語り口が各話で凝らされているところかな。ベストは「飛んでくる声」。
前半3作が、「煙の殺意」に似た「謎と解決」が主。ページ数が長め。 「ダイヤル7」は、手がかりと、そこから紡がれる反転が魅力的。こういう「手がかりと推理」の部分でも、泡坂妻夫はうまいなぁ。「芍薬に孔雀」は、作者らしい特殊なカードや設定で楽しいのだが、とんでもない偶然や展開に、無理がおおきいところがある。「飛んでくる声」は、サスペンス調の前半が泡坂妻夫としては異色。でも終わってみると、「構図の反転」と「伏線の回収」は、安定の泡坂印。 後半4作は、「ゆきなだれ」に似た「動機の謎、What done it」。ページ数が短め。 「可愛い動機」は、ちょっと奇妙な話。シンプルすぎるてあまり楽しめなかった。「金津の切符」は、本作ではすこし異色で倒叙もの。前半の、コレクターである主人公の心情が身につまされた。「広重好み」「青泉さん」はシンプルなWhat done it。「青泉さん」の足跡の処理に、謎解きミステリ作家としての泡坂妻夫のセンスがあると思う。 |
No.1 | 6点 | 花嫁のさけび- 泡坂妻夫 | 2019/08/31 14:36 |
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再読。「レベッカ」と続けて読んでみた。
以前読んだときは、メインの仕掛けに「すげぇ」って思ったけど、うーん、仕掛け以外の部分がどうにも楽しめない。もうこれは好みとしか言えないのだけど……。やっぱり登場人物の心理描写がないからかなぁ。仕掛けを考えたらしょうがないとはいえ、うん、仕掛けをメインに楽しんでた若い頃とは好みが変わってきたということでしょう! |