皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ことはさん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 288件 |
No.148 | 7点 | 甘い毒- ルーパート・ペニー | 2022/09/11 01:09 |
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いくつかのネット評などをみて、解決部分以外は読みづらいのかなと構えていたが、杞憂だった。会話主体の文章で、キャラクターもきっちり書き分けられ、ストレスなく読める。
第1部では、進行形でチョコレートの盗難/廃棄事件と、関係者の人間関係、過去の事件の説明などが淀みなくすすみ、不穏な空気が感じられるなか、一旦調査は終了する。第2部で事件がおきるが、ここでも事件は証言として伝えられて、会話が主体なので、スムーズに状況理解できる。終盤、ある事実が判明して、そこからいくつが重要事実が証言され、「幕間」を挟んで、解決編に一気になだれ込む。飽きさせない構成だった。 判明する事件の構図は、ありがちかもしれないが、かなり好き。 また、解決編であげられる「ありえないこと」は、「たしかに」と思わされるもので、そこから展開される推理は(唯一とはいわないが)実に説得力がある。クイーンの初期作と比べると、推理の意外性も、推理の強度もすくないが、”読者への挑戦”があることを納得するだけの説得力はある。 全体として、確かに、キャラクターの描き込みは深くなく、主人公の個性も乏しい。ドラマ的な盛り上げも少ないので、小説にドラマを求める人とか、ミステリ的ガジェットを求める人とかには、面白みは少ないのかもしれない。 しかし、「謎とその解決」を(段取りも含めて)楽しめる人ならば、楽しめるだろう。私は、シンプルに「謎とその解決」だけになっていることに、かえって好感をもった。 クラッシックな謎解きミステリの佳作として、おすすめできる。 |
No.147 | 6点 | 海のオベリスト- C・デイリー・キング | 2022/09/04 23:16 |
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読み終わって振り返ると、「謎と解決」は、いまひとつ。提示された謎のうち、いくつかは途中で判明するし、それも「なぁんだ」というものもあるし、被害者の二人のうちの一人の扱いは「なんだかなぁ」という感じだし、途中でたたかわされる心理学による推理も「どうなの?」と思うし。
惹句として使われる「手がかり索引」は、初期クイーンの諸作の「手がかり」と比べると、圧倒的に薄味で、惹句以上のものではない。 逆に面白かった点は、銃撃戦のシーンや、「船が沈むかも?」というシーンや、飛行機が飛び立つというシーンで、舞台設定もあわせて考えると、極めて映像的な作品だといえる。 評判をきいて期待していた部分と、違う部分か楽しめた作品です。 |
No.146 | 6点 | 英国風の殺人- シリル・ヘアー | 2022/09/04 23:01 |
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解説に「戯曲が元」というような記述があって、たしかに舞台のようだった。各章、それぞれ1つの場で進行する構成は、舞台を見ている状況を思い描いて読むと、各章がイメージしやすいと思う。そのためか、全体の構成は見通ししやすく、謎やキャラクターの葛藤がすっと入っきて読みやすい。
クリスマス・ストーリーとして構想されていると思われ、雰囲気も良い。雰囲気の良さは翻訳によるものも大きいと思う。(英語がわかるわけでもないし、原書を読んだわけでもない、日本文からだけの感想だけれど)良い翻訳だと思う。 皮肉めいた状況や展開は、いかにも英国風のユーモアだなと感じる。解説で称賛されているのも、その点だと思う。 けれど、ミステリとしては、あまりみどころはないかな。真相として提示される内容も、矛盾のない仮説のひとつ以上に証拠がない。ある部分、意外ではあるが、それだけかな。 キャラクターも魅力があり、英国風のユーモアがある小説としては大いに楽しめるが、ミステリとしての楽しみとはベクトルが違う気がする。 |
No.145 | 7点 | スティグマータ- 近藤史恵 | 2022/07/19 00:24 |
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「サヴァイヴ」「キアズマ」と変化球がきた後、今回は「サクリファイス」「エデン」と同じ白石の語り。ああ、私は白石の語りが好きだ、と気づかせてくれた。
「サクリファイス」「エデン」も白石の語りだったからよかったんだな。抑制が効いていて、基本的に冷静で、けれどときに熱くなる。熱くなっているるときも、語り口は冷静。ああ、この語りいいなぁ。白石の語りでの続編を早く書いてほしい。 とはいえ、「サクリファイス」「エデン」とプロットとして似すぎている点は気になる。次回作は別のプロットにしてほしい。 最後に、本作を読んだとき、めずらしい経験があったので書いておきます。 本作は、本屋の店頭で文庫化したのをみつけたのだが、そのとき「早速読もう」と思って読みかけていた小説は一旦止めて、買い求めた本作を読み始めた。読んでみると、途中で重要なキャラとしてヒルダという人物がでてくるのだか、読むのを一旦止めた小説が、なんと「ヒルダよ眠れ」だった。ヒルダなんていう名前を小説で読んだのは他に記憶に無いのに、たまたまその2作をこんな風に読むなんて、「いやいや、どんな偶然だよ」と唖然とした。 |
No.144 | 6点 | キアズマ- 近藤史恵 | 2022/07/19 00:18 |
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「サクリファイス」シリーズ扱いだが、同じ自転車競技を題材にしている(同じ世界線の?)別キャラの話。シリーズとしていいのか?
「サクリファイス」シリーズとしては、疾走感に劣るので少し点は低い。(つまらなくはない) |
No.143 | 7点 | サヴァイヴ- 近藤史恵 | 2022/07/19 00:17 |
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「サクリファイス」での周辺キャラを主人公にしたサイドストーリー。
「サクリファイス」の世界が楽しめたなら、楽しめます。とはいっても、「サクリファイス」を読んでキャラを知っていないと、そんなに楽しめないかも、と思われるところはある。 |
No.142 | 8点 | エデン- 近藤史恵 | 2022/07/19 00:16 |
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「サクリファイス」と比べるまでもなく、ミステリ要素はほぼ無しです。ミステリを期待する人は読む必要はないかもしれません。
ただ、美点は「サクリファイス」と同様なので、「サクリファイス」が楽しめたら、本作も楽しめます。「サクリファイス」にあったミステリ的無理がない分、かえって本作のほうがまとまっているかもしれない。舞台も海外になって、スケール感が大きくなっていて楽しめます。 とはいっても、「サクリファイス」と楽しみの質が同じすぎるので、「サクリファイス」より採点は下にします。 |
No.141 | 9点 | サクリファイス- 近藤史恵 | 2022/07/19 00:15 |
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他の人も書いているが、ミステリとしては無理を感じる。それは、ある人物の心理がまったく理解できないから。といっても、それは本作のポイントでないと言いたい。
ミステリとしてではなく、スポーツ小説として傑作だと思う。 文章は軽快で疾走感があり、エンタメ小説としては最高。自転車競技のルールや駆け引きもストーリーの中でスムーズに語られ、キャラも立っている。(青春というには年齢が高いが)青春小説としての雰囲気もある。夢中になって一気読みでした。 どのジャンル読みにも、遠慮せずにおすすめできる傑作です。 |
No.140 | 5点 | 孤独の島- エラリイ・クイーン | 2022/06/24 00:09 |
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再読。まったくクイーンらしくない話だが、それなりによかった印象がある。はたして再読でどう感じるだろう?
まず冒頭、悪役側から描かれるが、この悪役に魅力がない。設定は類型的で、知性が感じられず、げんなりしてしまった。 主人公が登場してからは持ち直すが、中盤の裏のかきあいも、いまひとつもりあがらない感じがした。とはいえ、クイーンらしい部分もある。なにしろ、主人公が考える。行動する前に、まず考える。ああ、これはクイーンらしいなぁ。まあ、そのために捜査小説の味がでてきて、サスペンスが弱まってしまっているところがあるかもしれない。 終盤には熱い展開があり、全体的には悪くない。初読時はこの終盤の印象がよかったんだなぁと納得。 「最後の一撃」より後のクイーン長編では、上位になりますね。 1つ小ネタ。主人公が登場の直後、映画の感想をいう場面がありますが、内容からすると、映画は「明日に向かって撃て」ですね。ディリンジャーは「ジョン・デリンジャー」(日本語ウィキペディアに記載あり)のことでしょう。本作も「明日に向かって撃て」も1969年の発表です。 |
No.139 | 8点 | ブルー・シャンペン- ジョン・ヴァーリイ | 2022/06/19 01:04 |
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「プッシー」と「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」以外は既読。この2作を目当てで読んだ。
「プッシー」 ちょっと切ないSF話。いい話だけど、これがヒューゴー賞/ローカス賞受賞はちょっとできすぎ。 「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」 これはいい。 最初はどういう状況かわからない。説明抜きで現場の描写がされる。それから少しずつ、どこで、なにが起きていて、以前になにがあったのか、これからどうなりそうなのか、見えてくる。状況が見えてくるにしたがい、どんどん深刻さがわかってくる。そこからはスリリング。一気読み。最終盤はかなり深刻な状況なのに、描写は淡々としていて、これもヴァーリイの味だ。これが絶版か。残念。 解説の「あらゆる悲劇がTVカメラの眼でとらえられ(中略)提示される、今の現実の世界の苦さ」というのは秀逸。解説が書かれたのは1995年だが、これは今のほうが皮膚感覚でわかる。 また解説に、「ブルー・シャンペン」の続編とあるが、メインストーリーは「ブルー・シャンペン」と全然絡まず、バッハ以外にも共通の登場人物が登場して「ブルー・シャンペン」の後日談が近況報告のように少しあるだけなので、続編といっても、映画のシリーズ(007シリーズでQとかMとかは毎回でるといったような)ものの第2作というほどの感覚だろう。シリーズ第3作がないのが残念だ。 短編集全体としては、これも『逆光の夏』と同レベルのベスト盤といってもいい。個人的には「残像」がもっとも好きなので、『逆光の夏』を押すけれども。 |
No.138 | 7点 | さようなら、ロビンソン・クルーソー- ジョン・ヴァーリイ | 2022/06/19 01:01 |
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短編集『逆光の夏』がよかったので読んでみた。〈八世界〉全短編2。
「びっくりハウス高価」 これは描写を楽しむ話だろう。ストーリーは好みではなかった。 「さようなら、ロビンソン・クルーソー」 書評済みなので略。本短編集のベストの1つ。 「ブラックホールとロリポップ」 メインの設定が途方もない。そこから展開されるサスペンスフルな1編。本短編集のベストの1つ。 「イーノイノックスはいずこに」 1巻の「歌えや踊れ」で説明された”共生者”の冒険譚。本作は「歌えや踊れ」の後のほうが”共生者”のイメージがわいていいかも。 「選択の自由」 ”変身”がまだ日常になっていない時代の人々の戸惑いを描いた話。現在のほうが、より現実のジェンダー問題とつながるというのは、さすがの視点というべき。 「ピートニク・バイユー」 異世界での法の問題が面白い。 以上だが、レベルは高いが、やはり『逆光の夏』がベスト盤だったのだと思う。 |
No.137 | 7点 | 汝、コンピューターの夢- ジョン・ヴァーリイ | 2022/06/19 00:59 |
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短編集『逆光の夏』がよかったので読んでみた。〈八世界〉全短編1。
「ピクニック・オン・ニアサイド」 少年の冒険譚。ただし舞台は月。ほろ苦い青春物の味わい。 「逆光の夏」 書評済みなので略。 「プラックホール通貨」 遠い宇宙空間でのぎりぎりでの交流を描いた話。孤独感と切なさがいい。 「鉢の底」 『逆光の夏』の解説にあった「太陽系名所案内の趣」がもっともでている1編。 「カンザスの幽霊」 人体改造などの〈八世界〉の設定がひねって使われたサスペンス風味の作品。本短編集のベスト。 「汝、コンピューターの夢」 サイバーパンク風の、おかしいような怖いような1編。どこか既視感があるが、本作の発表が1976年ということを考えると(『ニューロマンサー』が1984年)、これが最初期の作で、以降、類似作が作られたのだろう。 「歌えや踊れ」 ”共生者”という設定を掘り下げた話。”共生者”については、次巻でまた使用される話がでてくる。 以上だが、レベルは高いが、やはり『逆光の夏』がベスト盤だったのだと思う。 |
No.136 | 8点 | 悪魔を呼び起こせ- デレック・スミス | 2022/05/26 00:22 |
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再読。(いまひとつだった記憶だけで、完全に忘れていて、初読の感覚でした。犯人も仕掛も忘れていた。やはり、どんどん記憶を失っているなぁ)
結果……。いや、これよくできてるなぁ。傑作。 事件が起きるまでが案外長く、視点人物もぶらつきがあり(複数の人物の心理が3人称記述で行われる)読みづらく、少し退屈して「やはり、記憶どおり、いまひとつかな」と思ったが、読み終わってみると、事件が起きるまでの退屈な部分にも、いくつもの伏線がはられていて、唸らされた。もちろん、事件発生後にも、いくつも伏線がはられていて、うん、これはすごくよい。 推理の取っ掛かりになる情報は(解説にある通り)少しフェアでないが、そこからパタパタと展開される論法もかなり説得力があってよい。解決編では、正面衝突しそうな2つの乗り物がするっとすり抜けるイメージが浮かんだ。エピローグに相当するシーンも(ちょっとピント外れ感もあるが)微笑ましく好感。途中に挟まれる密室談義(ロースンの小説が、作品内では現実扱いになってるし!)も楽しい。 なぜ、昔の私は楽しめなかった? 思うに、密室の解法が”知恵の輪”のように丁寧に外していくもので、一読、インパクトに欠けたからかもしれない。そして、そのひとつひとつは、どこか既視感があったからかもしれない。また、xxxのxxがxxならxxxxできると思ったからかもしれない。 まあ、探偵も個性に欠けるきらいはあり、ストーリーは一本調子といった感じもある。しかし、逆に言えば、謎解きミステリとして不要なものは入っていないとも言える。 もう一度いうが、よくできている。これは好き。 |
No.135 | 6点 | ジョン・ブラウンの死体- E・C・R・ロラック | 2022/05/14 19:04 |
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最近「エラリー・クイーンの事件簿1」を読んだが、その中の「消えた死体」が、そのまま「ジョン・ブラウンの死体」(ジョン・ブラウンという人物が殺される)だったので、思いついて、積読だった本書を読んでみた。
冒頭、盗作の疑いがある作品の話で目を引くが、これはすぐ背景になり、その後はムーア地方で地道に捜査の過程をおっていく。このあたりの読み心地は、クロフツにきわめて似ていて、それでいてクロフツより情景描写に味わいがある。 そして、終盤、盛り上げて締め。と、よく出来た作品だった。 私は好感だけど、捜査の過程をおっていく部分が、人によっては単調と思うかもしれないなぁ。また、会話は常に冷静な感じで、もっといきいきとしていれば、より面白かったと思う。 推理については、心理の推定が説得力があって、実によかった。うん、クラシカルな英国ミステリを読みたいなという人には、文句なしにおすすめできる良作です。 |
No.134 | 6点 | 龍神池の小さな死体- 梶龍雄 | 2022/05/07 18:47 |
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古書が高価になっていた本書が復刊。過去の作品が容易に読めるのは喜ばしい。
さて、世評が高かったので期待をもって読み始めたが、期待ほどではなかったのが正直なところだ。 (プロットに少しふれてしまうが)タイトルのとおり、「昔の龍神池の事件を主人公が調べ直す」というかたちで物語は始まるが、途中から現在の事件に少しずつ焦点が移動していく。これがまず残念。昔の事件は、伝承などが絡んだ幻想的なものなのに、現在の事件はきわめて現代的(”現在”といっても、作品発表時期の”現在”なので、学生運動が盛んでかなり古色蒼然としているが)なので、味わいが違いすぎて、違和感が拭えなかった。 たしかに世評のとおり、メインの趣向は大胆なものだし、伏線はたくさん存在する。これはなかなか楽しめたが、見せ方が魅力的とは思えなかったのも、残念なところ。伏線の魅力は、「あれが伏線だったか!」という気づいたときの驚きにあると思うが、驚きを演出するようには感じられなかった。 とはいえ、かなり読みやすく、一気に読めるので、読んで損はないかな。 (ただし、1章はかなりの違和感があった。主人公が状況説明をするが、主人公がどういう人物かの紹介もないので共感もなにもないし、会話の相手も、会話をすすめるためだけの質問を適時入れていくだけ。これは読みすすめるのがちょっとしんどいかなと考えたが、2章からはかなり普通の描写になった。なんでだ?) |
No.133 | 7点 | 赤の組曲- 土屋隆夫 | 2022/05/04 18:53 |
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再読。(面白いと思った記憶だけで、完全に忘れていて、初読の感覚でした。メインの仕掛けすら忘れていた。やはり、どんどん記憶を失っているなぁ)
メインの仕掛けは、とても好み。これに気づけば、パタパタとすべてがはまるようにできている。いいなぁ、これ。ただ、新本格以降の作品をたくさん読んでいれば、想定の範囲内になってしまうかも。 構成も、(目次にあるとおり)きれいな4章構成。各章毎に、カタリと事件の様相が変わるポイントがあって、飽きさせない。 ただ、別作の感想にも書いたが、土屋隆夫の文学味はやはり好きでない。本作では、(多分当時でも)保守的な考えが散見して、気が削がれるところがあった。動機も「またか」というもので、土屋隆夫の文学的射程はせまいだろうと思う。 とはいえ、それらは少量で、ほぼ「事件の発生と、その解明」に費やされているので、ミステリを楽しむ邪魔にはならない。「ビゼーよ、帰れ。シューマンは待つ」という言葉や、真相に気づくきっかけなど、印象的な部分も多い。土屋隆夫の私的ベストは本作で決まりです。 |
No.132 | 4点 | エラリー・クイーンの事件簿1- エラリイ・クイーン | 2022/05/02 23:50 |
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数十年ぶりの再読。
ノベライズのため、心理描写が薄いからだろう。読み応えが軽い。 ・「消えた死体」 元の長編から、事件の構図はそのままで、周辺状況を変更させた作品。 若いときは、タイトルになった「死体を消す理由」が気がきていると感じてかなり評価が高かったが、今回の再読では、それ以外がかなり評価が低い。 エラリーは名探偵らしくないし、警察連中はポンコツだし、オリジナルはこんなキャラじゃないよ、と残念だった。さらに、これはノベライズの悪いところがでてしまったのだと思うが、会話が安っぽいし、味気ない。特に、エラリーとニッキーの会話は、目も当てられない。(事件簿2の「完全犯罪」は、エラリーとニッキーの会話が少なかったので目につかなかったのだと思う) 「死体を消す理由」も、「最終的な落とし所はどうするつもりだった?」という点が疑問で、少し評価がさがった。 総じて、おすすめはできないかな。 ・「ペントハウスの謎」 これもノベライズのためだと思うが、エラリーが、違法侵入したり、タクシーで追跡したりと、私立探偵小説の探偵のような行動をして、キャラが違う。ガジェット満載だが、定形のガジェットで面白みは少ない。 |
No.131 | 7点 | ルピナス探偵団の憂愁- 津原泰水 | 2022/04/29 22:08 |
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「ルピナス探偵団の当惑」より、平均はかなり良い。1作ずつみてみよう。
「1.百合の木陰」 メンバーの病死という、ショッキングな出だしだが、語りは軽快。ラストの3行に見事に収斂する。 でも、1つ疑問点。xxがこんな複雑なことするかなぁ? 「2.犬には歓迎されざる」 ドードー鳥、ドイルの妖精写真、など、会食のシーンがとても楽しい。なにも事件がないのに、こんな会食いいなぁと思わせる筆致だ。しかも、それらが最後に伏線として立ち上がる。これは、よくできている。 でも、1つ疑問点。もっと穏便な方法があったんじゃないかなぁ? 「3.初めての密室」 冒頭の会話がいい。もうこの手の会話が主体の青春小説のほうが面白いのではないかと思う。また、犯人との対峙で、1作目のメンバーの出自が思い出される構成は見事。 でも、1つ不満点。事件が重すぎるよなぁ。 「4.慈悲の花園」 ある事実から一足飛びに真相にたどりつくが、これはちょっと飛躍が過ぎるだろう。卒業式前という設定やラストシーンと、本筋の事件がアンバランスと思われる。ラストシーンが、1作目に繋がるのがよくできているだけに残念。 1つ不満点。やはり、動機は共感どころか、理解もできない。 全体として、小説として読ませる部分はたくさんあって良いのだが、ミステリとするための作りに無理がある気がする。個人的意見では、”作者はミステリのセンスはない。でも、小説家としてのセンスはある”ということになる。 |
No.130 | 5点 | dele ディーリー- 本多孝好 | 2022/04/25 22:56 |
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デビュー作を含む「MISSING」が、このミス10位に入っただけあって、本作もミステリ的作り”謎と解決”をもっている。
ただし、それは”依頼者は、何を、なぜ、削除してもらおうとしているのか?”という謎で、解決に相当するのは”依頼者の思い”だ。 それぞれ、なかなか感じさせる”思い”なので、読みやすい、ちょっとほろりとさせるいい話が読みたいときには、最適かもしれない。 けれど、「MISSING」のころと、なにか違う。「MISSING」には、もっと強烈な皮膚感覚のようなものがあった。うまくできているのだが、なにか足りないなぁ。 |
No.129 | 6点 | エラリー・クイーンの事件簿2- エラリイ・クイーン | 2022/04/24 00:51 |
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数十年ぶりの再読。
ノベライズのため、心理描写が薄いからだろう。読み応えが軽い。けれど、それぞれの作品に、見どころがないわけではない。 ・「〈生き残りクラブ〉の冒険」 このプロットは好きだ。ある日本の有名作品を思い起こした。手がかりの提示シーンの演出もよい。犯人指摘シーンの演出は、警視が無能に見えていただけないが、ラジオ向きの演出として作られたのだろう。 ・「殺された百万長者の冒険」 プロットとしてはみるところはないけれど、手がかりと推理はなかなか面白い。スポーツ観戦と移動手段は、当時としてはキャッチーだっのではないかなと感じた。 ・「完全犯罪」 元の長編と構図は同じだか、犯人指摘の段取りは違う。ある1点から事件の構図を転換させるまではよいが、その後の人物特定は即断だろう。とはいえ、競売シーン(元の長編と同じ展開だが、こちらのほうがテンポがよい)など、楽しいシーンもおおいので、佳作ですね。 |