皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
猫サーカスさん |
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平均点: 6.18点 | 書評数: 433件 |
No.53 | 6点 | 代償- 伊岡瞬 | 2017/11/29 19:44 |
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主人公の弁護士圭輔のもとに、小学生時代苦手だった達也から弁護の依頼が舞い込む。2部構成の本作。ふたりの子供時代が語られる前半では、まだ少年にもかかわらず卑劣な達也という男の本性がたっぷりと描かれている。巧みに他人をそそのかし、いつも自分は安全地帯にいる狡猾さ。そして後半の法廷場面では、悪魔のような手口で罠を仕掛けてくる達也に、圭輔は追い詰められていく。誰も過去の罪からは逃れられず、いずれは代償を払わなくてはならないという苦い主題の物語。だが、最後には救いが待ち受けている。 |
No.52 | 5点 | 神の子- 薬丸岳 | 2017/11/29 19:42 |
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詐欺グループの一員として活動し逮捕歴のある町田は、常人離れした知能と記憶力の持ち主。町田を取り巻くさまざまな人物の視点から語られる本作は、一種の群像劇ともいえるでしょう。町田と関わらざるをえなくなったり、窮地から助け出されたりした者たち、それぞれの複雑な内面や感情の起伏などが書き込まれているため、どんどん物語に引き込まれてしまう。さらにホームレスの少年・稔の行方をめぐるエピソードや町田に異常な関心をしめす謎の人物の存在など、物語は重層的に展開し、思いも寄らないクライマックスをむかえる。このクライマックスが個人的には好みでは無いが、読み応えの大きい犯罪ミステリ。 |
No.51 | 5点 | プロメテウスの涙- 乾ルカ | 2017/11/25 19:49 |
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大胆な趣向を取り入れたホラー長編。北嶋涼子のクリニックに、あや香という少女が訪れた。母親によると、突然人格が変わり、奇妙な動きをし、奇声をあげ、注意してもやめようとしないという。一方、学生時代に涼子と親友だった浅倉祐美は、留学先のアメリカで不死の体をもつ死刑囚と出会う。全身がんに侵され、ほとんど死にかけていながら何年も生き続けていた。やがて両者をつなぐ思いも寄らない事実が判明する。親友同士が同時期に事件の当事者と出会うなど、ご都合主義的な設定もあるのだが、場面ごとの状況や物語の展開がリアルに描かれているせいか、そんな偶然性を深く考えないまま一気にラストまで読んでしまった。作者は、現実味のある細かい描写を、丹念に積み重ね、およそあり得ない超自然的な出来事を生々しく物語っている。この迫力は半端なものではない。 |
No.50 | 7点 | 秘密- ケイト・モートン | 2017/11/25 19:44 |
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物語は現在、50年前、第二次大戦中の1941年を行き来しながら進む。穏やかな現在と対照的に、戦時下のロンドンでは爆撃機が飛び交い、波乱万丈のドラマが繰り広げられる。恋をし、夢を抱く若者たちの姿は生き生きとしまぶしい。「これだけは長く生きていれば誰だって、どこかで後悔したくなるようなことをやっているはずよ」と死の床で母が漏らした言葉の意味が明かされた時の驚き。語り口もストーリーも仕掛けも、文句なく素晴らしい。なによりローレルの動機が母を糾弾するためではなく、愛する母を理解するためだという事に心を揺さぶられた。 |
No.49 | 6点 | 脇坂副署長の長い一日- 真保裕一 | 2017/11/20 18:50 |
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タイトルからJ・J・マリックの古典「ギデオンの一日」を思い出す人も多いでしょう。複数の事件が同時進行するモジュラー型警察小説の始祖同様、次々と事件が起きる。続発する事件と出入りする人物たちの交通整理が鮮やかで、しかも一つ一つの事件に細かいひねりをもたせ、署内の派閥争いも添えて、一つにより合わせていく。特にアイドルの「一日署長」の話を実によく広げていて清新かつ緻密。最後の最後まで、波乱をもたせるサービス精神もうれしい。 |
No.48 | 6点 | 沈黙の殺人者- ダンディ・D・マコール | 2017/11/20 18:49 |
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YA小説のため、中高校生向けだと思うが大人でも十分楽しめる。野球チーム監督を殺害した罪で裁判にかけられる18歳のジェレミー。妹ホープだけは無実を信じているが、兄は裁判の間中、一言も話そうとしない。ジェレミーには障害があり、弁護人は心神喪失による無罪を主張しようとしている。沈黙を続ける兄にかわって、ホープは友人の助けを借りながら事件の解明に奔走する。意外な事実が次々と明らかになり、誰もが予想し得ない衝撃のラストへとつながっていく。殺人事件の謎解きミステリだが、同時に裁判劇でもあり、家族の絆の物語でもあり、切ない恋の物語でもある。 |
No.47 | 6点 | 契約- 明野照葉 | 2017/11/20 18:48 |
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仕事も恋も上手くいかない、あるOLの身に起こった不可解な出来事を巡る物語。子供時代はキラキラと輝いていたのに、社会に出た後はずるずると駄目な大人のまま30歳を過ぎてしまった。おそらく同年代の多くの女性が共感する要素に満ちている小説でしょう。特にヒロインが充実した人生を取り戻していく過程はぞくぞくするような読み応えがある。怪しい「契約」の背後に隠された悪意の、なんという恐ろしさ。女性ならではの心理や感情がたっぷりと描かれた異色サスペンス。 |
No.46 | 7点 | 許されようとは思いません- 芦沢央 | 2017/11/13 18:14 |
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童話作家の姉を誇りにしていた妹の地獄を描く「姉のように」は、実に緊密で、サスペンスに満ちていて、どんでん返しも鮮やか。女性画家による夫殺しの真相「絵の中の男」は、芸術家の苦悩をスリリングンに描いていて、連城三起彦氏のある短編を思い出す。全体的に悪意と毒が目立つが、表題作は温かな余韻を残す。祖母の殺人行為の謎を解きつつ、苦悩と絶望に満ちた祖母の人生をわが身に引き付けて、ある選択をするのが感動をよぶ。 |
No.45 | 5点 | 楽園の世捨て人- トーマス・リュダール | 2017/11/13 18:13 |
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故郷デンマークを捨て、家族を捨て、アフリカ北西沖のカナリア諸島にやってきて18年。主人公のエアハートは海岸に遺棄された車の発見現場に居合わせる。中には、身元不明の死体が。だが、観光への影響を恐れる警察は、事件をうやむやにしようとしていた。北欧産の小説だが、舞台は南の島。主人公は探偵役ではあるが、決して思慮深くはない。感情の赴くまま場当たり的に振る舞い、時には意地を張ってトラブルに。流されて生きてきた男が踏みとどまることを選ぶ。長大だが決して冗長ではない。格好悪いけれど頑固で折れない男の、風変わりな活躍を楽しむことが出来る。 |
No.44 | 5点 | 約束の森- 沢木冬吾 | 2017/11/13 18:12 |
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人間不信に陥った警備犬という風変わりな設定。物語は、妻を殺人事件で亡くしたのち退職した元公安刑事・奥野のもとに、奇妙な依頼が舞い込む場面から始まる。マクナイトという名のドーベルマンを相棒にした奥野は、見知らぬ若い男女らと偽りの家族を演じ生活していく。前半、語られていくのは、奥野を中心とした疑似家族の日常。その中でマクナイトがかつて酷い虐待を受けていたこと、そして娘役のふみ、息子役の隼人という二人の暗い過去などが明かされる。やがてクライマックスに向け派手なアクションが炸裂する。ジャンルでいえば謀略活劇スリラーというべき長編ながら、家族を失ったり大きな傷を抱えたりした者たちの再生が大きなテーマとなっている。 |
No.43 | 8点 | ブエノスアイレスに消えた- グスタボ・マラホビッチ | 2017/11/07 18:41 |
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幼い娘とベビーシッターがブエノスアイレスの地下鉄で姿を消してしまう。父は必死で行方を捜すが、調査は一向に進展しない。何年にも及ぶ彼の探索は、やがて都市を離れ、密林へと向かう。家族の失踪に苦しむ男の、長い年月にわたる旅路を描く。不穏な気配の漂う文章と、緻密な構築で読ませる。結末の驚きも申し分なく、非常に分厚いけれど、最初から読み返したくなる一冊。 |
No.42 | 6点 | 竹島- 門井慶喜 | 2017/11/07 18:40 |
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今日的な問題を扱っているが、中身は怪しい連中の騙しあい。土居健哉は、知り合ったばかりの老人、坪山博から妙な話を持ち掛けられた。なんと先祖伝来の和本を持っており、それは「竹島問題」の決定打となる内容だという。健哉はさっそく外務省へ行き、買い取りを持ち掛けるが不調に。すると次は韓国の外交当局へと足を向けるのだが・・・。架空の取引や偽物の売り込みなどで相手をだまし、大金をせしめる。コン・ゲーム小説の一種ながら、領土問題をめぐって日韓外交のトッププレイヤーがしのぎをけずるという、前代未聞のスケールで描かれた物語。サッカー日韓戦を観戦中に行われるとんでもない大博打の場面もさることながら、すんなりとは終わらない逆転劇も鮮やか。美術などを題材にしてきた作者が、まさかこんな大風呂敷を広げに広げ、人を食ったユーモア小説を書くとは何重もの驚きである。 |
No.41 | 6点 | リターン- 五十嵐貴久 | 2017/11/03 18:23 |
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ホラーサスペンス大賞受賞作「リカ」の続編。前作は怪物と化したストーカー、リカを描いたホラーだったが、この作品は本格的な警察捜査ものとして展開していく。もっともリカの偏執ぶりと底なしの狂気と不死身な存在感は、本作でも存分に発揮されており、クライマックスにかけての迫力は鬼気迫るものがある。しかし、なにより怖いのは、事件が解決した後のエピローグで描かれる、第二の”リカ”の誕生。身体の自由をすべて奪ったうえで、惚れた男を自分だけのものにしたいと願う女。その激しくゆがんだ愛は、心底怖いもの、これぞホラーである。 |
No.40 | 7点 | マプチェの女- カリル・フェレ | 2017/11/03 18:22 |
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失踪人の行方を追う探偵が、意外な真相を暴き出す。私立探偵ものでは使い古された枠組み。そのようなおなじみの形式でありながら、鮮烈な個性を見せてくれている。アルゼンチンの歴史の闇と、近年の経済危機がもたらした貧困を背景に据えたずっしり重い物語。過剰な熱さをもって語る作者の冗舌が印象深い。その熱量ゆえに分厚さも相当なものだが、読む者の血をたぎらせる激しい一冊。 |
No.39 | 6点 | 私の命はあなたの命より軽い- 近藤史恵 | 2017/11/03 18:21 |
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妊婦で、夫の海外赴任、そして久しぶりの実家ながら、くつろげない雰囲気が漂うという難題がいくつも重なることで、ますます彼女の不安は増幅されていく。家族も臨月の彼女を気遣うためか、秘密は内緒にされたまま。そんな家庭内の不穏な状況が臨場感たっぷりに描かれている。「ホテル・ピーベリー」や「はぶらし」など、心理サスペンスの作品を世に送り出している作者は、本作でも巧みな構成を見事な語りにより、切迫感あるサスペンスをつくりだしている。タイトルの「私の命はあなたの命より軽い」という言葉がつきつける現実の残酷さ、やりきれなさが深く胸に残る。 |
No.38 | 7点 | カクテル・ウェイトレス- ジェームス・ケイン | 2017/10/28 13:09 |
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酒に溺れて暴力をふるう夫が事故死し、ジョーンは幼い息子を義理の姉に預けてバーで働き始める。そこで知り合った裕福な老人とハンサムだが貧しい青年。ジョーンは息子との理想の暮らしのため富豪を選ぶが・・・。物語はジョーンの一人称で語られる。誰もが最初、世間知らずの美しい女性に共感を覚えるでしょう。やがて彼女が「信頼できない語り手」である可能性がちらつきはじめ、徐々に落ち着かなくなっていく。物語は不安と疑惑の不協和音を響かせ、真相を読者に委ねて終わる。巧みで怖い。 |
No.37 | 6点 | 疫神- 川崎草志 | 2017/10/28 13:04 |
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人類を滅亡させかねない脅威をめぐるサスペンス。ケニア・エチオピア国境地帯で「オレンジカビ」による感染症が猛威をふるい、国際的な医療チームが派遣されたものの、30人をこえる患者は一人残らず死亡してしまう。致死性の高い菌類の恐怖とその免疫に立ち向かう人々の活躍が描かれている本作は、多くの謎めいたエピソードが展開するため、読みだすと先を追わずにおれなくなる。また、パニックものというよりもSFホラーの感覚が強く地球史、生物史レベルのスケールで語られ、大胆な趣向が導入されているため、そこに超自然的な恐怖が感じられる。なんともいえない不気味さが漂う作品。 |
No.36 | 4点 | 白衣の嘘- 長岡弘樹 | 2017/10/23 19:26 |
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命をテーマにした6編からなる医療ミステリ。いずれも劇的な展開をたどり、意外な真相が明らかになる。特に「涙の成分比」は温かな余韻に包まれる。人物の内面のリアルな葛藤よりも、アイデアやトリックを優先しているので、いささか人工的に見えるところもある。ただ本格ミステリ志向の作者の場合、人工的とは独創的の意味であって、果敢な挑戦をしている?と思いたい。 |
No.35 | 5点 | 探偵工女 富岡製糸場の密室- 翔田寛 | 2017/10/23 19:22 |
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世界文化遺産に登録された創業まもない明治6年の富岡製糸場を舞台にしている。糸繰りの工程や工女の生活などが、観光ガイドとして使えるほどリアルに描かれているのも、作品の魅力となっている。皇太后と皇后の訪問を目前にした富岡製糸場で、工女の死体が密室状態の石炭小屋で発見され、友人が失踪する事件が発生。事件には、技術指導するお雇い外国人の偏見や、明治維新という時代の激変によって格差が広がっていた史実など、現代とも無縁ではない社会問題が絡んでいることも分かり、真相が生々しく感じられる、 |
No.34 | 8点 | 夜に生きる- デニス・ルヘイン | 2017/10/18 19:21 |
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禁酒法時代の米国でギャングとして生きる若者の姿を、時代の手触りとともに生き生きと描き出している。ギャングの愛人に溺れていく姿、刑務所内のスリリングな抗争、ギャング同士の血なまぐさい争い、すべてが読み応えたっぷり。主人公のジョーは冷徹さと人情を併せ持ち、頭のいい魅力的な人物として精彩を放つ。また他のギャングたちも個性的で強い印象を残す。そして警官の父親とジョーの屈折した関係が、のちのジョーの家族観につながっていく流れも感動的。文句なく楽しめるアウトロー小説。 |