皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ALFAさん |
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平均点: 6.67点 | 書評数: 190件 |
No.7 | 8点 | 底惚れ- 青山文平 | 2023/12/12 11:09 |
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短編「江戸染まぬ」をそのまま冒頭に置き、230ページを加えて長編化したユニークな作品。「江戸染まぬ」はじわりと滲みるサスペンス風味と捻りのあるエンディングが効いた秀作だった。
ここでは刺された男が・・・以下ネタバレします。 実は命拾いしていた。 半端者の自分を始末してくれた女の恩に報いようと知恵を絞るうちに、やがて身上がって女郎屋の楼主として成功する。デュマの冒険小説を読む思いがする。 人物の出し入れが実に巧み。 謎の鍵を握る信との再会。主人公に手を貸す銀次との出会い。それぞれの絡みによって、けっこう都合のいい展開が自然なものに見えてくる。 信の人物造形もいいし、銀次の因縁話もプロットに奥行きを与えている。 最後に謎解きがあるが、ミステリ風味は薄い。 万事めでたしとはならない、ふわりとしたエンディングがいい。 |
No.6 | 5点 | 泳ぐ者- 青山文平 | 2023/12/05 15:37 |
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徒目付片岡直人を主人公とする長編。
連作短編集「半席」から数年後、30歳近くなった直人が関わる三つの話。 離縁された女が元の夫を刺殺した件、大川を泳いで渡って切り殺された男の件、上司内藤から持ち掛けられる海防の話。 それぞれが無関係のまま終わる。ミステリ長編としては纏まりがいかにも悪い。 切り分けて連作中編に仕立てたらさぞいい作品になっただろう。 メインテーマである直人の内省的な物語も、そのほうが流れが良くなったのではないか。 |
No.5 | 9点 | 白樫の樹の下で- 青山文平 | 2023/11/29 15:39 |
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第18回松本清張賞受賞作。
作者は若者を描くのがうまい。この作品にも三人の若い武士が登場する。ともに少年時代から同じ道場に通う腕達者だが無役。彼らの屈託や青臭さや危うい情熱が丁寧な文体で綴られる。 もとよりただの青春譚にはならない。互いの亀裂は次第に深まっていく。「たぶん、俺たちがもう十歳ではないということだろう」主人公の登にかけた昇平の言葉が滲みる。 四人目の若者、巳乃介も魅力的である。富裕な商家の次男坊ながら剣の腕がたつ。気に入った刀を身近に見ていたいから、といって登に名刀を預けるが、これはやはりよくできた口実だろう。この時すでに養子縁組で武士になることは決まっている。身近にというなら自分が差せばいい。見ていたいのは在るべき処を得た名刀と、それを帯びた凛々しい登の姿ではないだろうか。このあとも巳乃介改め岡倉武明は献身的に登を支える。 大江戸の辻斬りという茫漠とした事件を、巧みな人物造形で精緻なミステリに仕立てている。途中で示されるダミー解もスリリングでいい。 唯一残念なのは・・・以下ネタバレします。 二つの事件の複合であること。 |
No.4 | 7点 | 遠縁の女- 青山文平 | 2023/11/29 07:13 |
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作者はあるあとがきに、「構成ではなく考証から始める」と書いている。
時代物に限らず、多くの作家はまず構成を考えてから資料を読み込むが、この作者の場合は徹底的に資料を読み込むなかでおのずとストーリーが降りてくるということだ。 今回は織物の流通、新田開発、藩の財政などの資料が読み込まれていると伺える。 中編3編のうち、お気に入りは「機織る武家」。 主人公の嫁、婿、姑三人が絡むドラマだが、主人公の心の持ちようで婿と姑の人物像が変容していく様が面白い。 ミステリの要素はないがウェストマコット名義の名作を読む思いがする。 表題作は唯一のミステリだが終盤の急展開がいささか慌ただしい。 遠縁の女の人物像をもう少し丁寧に描いてほしかった。主人公の人生を変えるほどの存在なのだから。 |
No.3 | 7点 | やっと訪れた春に- 青山文平 | 2023/11/23 11:20 |
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端正な文体で綴られた長編時代物ミステリ。
情景描写、人物の造形、過去の因縁話、いずれも申し分ない。 冒頭、主人公が濠に落ちる話はミステリ的興趣があって面白い。 (少しネタバレ) 一方本筋の謎は、残念ながら犯人推定のプロセスが物足りない。なぜ暗殺者は鉢花衆でなければならぬのか。鉢花衆の残るひとりがなぜあの人物と推定できるのか。 クローズドサークルならともかく、町あるいは藩というオープンな設定においてはこのロジックではいかにも弱い。 さらにはいくら主君の命とはいえ、三代にわたってあの強烈な「斬気」を保ち続けられるのか。などミステリの根幹部分で腑に落ちないところがある。 とはいえ、上質な時代物としては十分楽しめた。 |
No.2 | 8点 | 江戸染まぬ- 青山文平 | 2023/11/23 08:19 |
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作者の端正な語り口が気に入って選んだ2冊目の短編集。
中でもお気に入りは表題作「江戸染まぬ」。じわりと滲みるサスペンス風味から一気に捻りの効いたクライマックスへの構成が見事。 「日和山」「台」もいい。片や活劇、片や人情喜劇からいきなり歴史が顔を覗かせてのエンディングというのが痛快。 このサイト的にマッチするのは表題作のみだが、楽しめたので1点オマケ。 |
No.1 | 8点 | 半席- 青山文平 | 2023/11/15 08:55 |
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すべてホワイダニットというユニークな時代物連作短編集。主人公は20代の徒目付、片岡直人。下級とはいえ幕臣である。旗本への出世を目指してはいるが「爺殺し」と揶揄される青臭く誠実な人物像がいい。
ホワイダニットを探ることで必然的に犯人や被害者の心に深く分け入ることになる。というわけでこの話、頼まれ御用を通して成長していく直人の物語と読むこともできる。 どの話も直人が仮説をたて、犯人が自白するパターンで、読者が謎解きをする余地はあまりない。 お気に入りは「見抜く者」。「己よりも強い相手ならば、心おきなく剣が振るえる。」逆説的な動機が面白い。 表題作「半席」は89歳にしてなお現役にしがみつく老醜を描いて深いが、もはやミステリの枠を超えているのでは・・・ 端正な楷書のような文体も好ましい。 |