皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
青い車さん |
|
---|---|
平均点: 6.93点 | 書評数: 483件 |
No.12 | 5点 | ウインター殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2017/02/24 19:13 |
---|---|---|---|
まだストーリーの肉付け前で、梗概のような状態のまま発表されたヴァン・ダインの最終作。トリックらしいトリックがなく、今の読者が満足できるレベルには残念ながら達していません。完成形でないために情景描写に浸れないのも寂しいです。これまで時として疎ましく思う場面もあったヴァンスの皮肉な薀蓄やセリフ回しがないのも、それはそれで味気なく感じました。せめて完全に出来上がるまで作者には頑張ってもらいたかった、と思うと心残りです。
図書館で借りるなどしてヴァン・ダイン全作をコンプリートしましたが、有名な『僧正』『グリーン家』だけの作家ではないことがわかりました。『ベンスン』や『カナリヤ』などはファイロ・ヴァンスのキャラが楽しめ、『カブト虫』『ケンネル』『ガーデン』ではテクニックが冴え、『ドラゴン』『カシノ』『誘拐』でもそれぞれ他にはない趣向を凝らしています。傑作ぞろいではないにしても時間と興味がある人にはぜひ体験してほしい作品がそろっています。 |
No.11 | 4点 | グレイシー・アレン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2017/02/24 18:56 |
---|---|---|---|
ヴァン・ダイン12長篇の中で一番の失敗作はこれだと思います。作風とミスマッチな人物がいるだけでなく、その人物を十分活かせず散漫な印象の話になってしまっているのが大きな減点要素です。完全に映画化目的で書いたということもあってか、作者の気合が感じられない、やっつけ仕事的な出来に終わってしまった感があります。 |
No.10 | 6点 | 誘拐殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2017/02/24 18:46 |
---|---|---|---|
9作目の『ガーデン』までならともかく、この『誘拐』以降は大方の人から「駄作ばかり」と言われがちで、本作の発表当時の評判も散々だったとのことです。しかし、僕はそれほど酷い出来とは思わない、それどころか結構好きです。プロットは常套的といば常套的で、ヴァンス独特の推理も見られないなど難点は多いものの、作者の新たな路線を打ち出そうという苦心の跡である、誘拐殺人を扱ったユニークさは素直に面白いと言えます。とりわけ、ヒース部長が『ベンスン』の頃とは比べものにらないほど魅力的になっているのが感じられる銃撃戦のくだりがツボでした。というわけで、個人的には少なくともこの10作目までは読んで損はないと主張したいです。 |
No.9 | 8点 | ガーデン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2016/03/09 12:39 |
---|---|---|---|
9作目となる本作は原点に立ち帰ったようなストレートな本格ミステリーとなっています。犯人のキャラが薄いのがやや不満ではあるものの、小粒ながらもしっかりとした銃声のトリック、ブザーを利用した計画の軌道修正、犯人の致命的ミスなど、様々な要素が含まれており、まさに古き良きパズラーを思わせます。また、ファイロ・ヴァンスの饒舌が抑えめになり、すっきり読みやすくなった文章には好感が持てます。
競馬の出馬表が入っているのも面白い趣向で、20世紀アメリカの娯楽がモチーフとなる本作の印象をより強めています。クライマックスでのヴァンスの芝居がかった大復活劇も見どころで、個人的には名探偵の冒険譚としても楽しめる名作としてお薦めしたいです。 |
No.8 | 6点 | カシノ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2016/03/09 12:25 |
---|---|---|---|
後期のヴァン・ダインの試行錯誤が見て取れます。最初期にはなかった特殊な謎の設定で、今回は未知の毒物をめぐるストーリーがポイントとなります。序盤から事件が続発する刺激的な展開が読む者を引きつけ、そこもこの時期ならではの作者の工夫だと思えます。
大きなミスディレクションを除けば、実はかなり単純な事件です。毒殺のトリックは、多少薬学の知識がある人ならば見抜くことは可能だと思います。作者がどれほどその道に精通していたのかは知りませんが、8作目にしてはじめて毒殺をメインにフィーチャーした意欲は高く買えます。 もうひとつ特徴的なのはサスペンスフルなクライマックスです。個人的にはアリだと思いますが、ヴァン・ダイン作品にはミスマッチという声もあるようで難しいところですね。あと、ギャンブルに興じる人々を描こうとしたのかもしれませんが、内容的にカジノは特別重要ではありません。そこは次作『ガーデン』でより上手く扱われます。 |
No.7 | 5点 | ドラゴン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2016/03/09 12:06 |
---|---|---|---|
ヴァン・ダインの六作限界説はまったく当てにならないとは思うものの、他と比べると劣るのは否めません。
カーばりの怪奇的な事件にファイロ・ヴァンスが挑戦する、という試みは悪くないです。プールに飛び込んだ青年が跡形もなく消え去る、この謎の求心力は『ケンネル』にも負けません。しかし、その魅力的な謎の提示に対し、トリックがあまりに頼りないという問題があります。特に竜の足跡については完全に肩透かしです。そもそもダイナミックなトリックを得意とする作家ではないため、発端の怪奇性と謎解きのせせこましさからアンバランスな印象を受けてしまいます。そして何より、犯行機会がもっともあるのは誰かを考えれば犯人が割れてしまうという弱さがあります。 推理の面白さ次第では異色の傑作になってもおかしくなかったと思うので、かなり惜しい作品です。 |
No.6 | 8点 | ケンネル殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2016/02/28 21:37 |
---|---|---|---|
密室の中で死んでいた悪名高い男。その現場をマーカムとともに見に来たヴァンスは、次々と不可解な謎に出くわす。被害者は銃弾で頭を撃ち抜いていたが、背中にも匕首のような刃物で刺された傷があった。また、彼は着替えをし、髪に櫛を入れていながら、靴は外出用のものだった。そして、現場近くにはとばっちりで怪我をしたスコッチ・テリアが……。この奇怪な殺人事件にヴァンスが挑む。
謎をこれでもかと大放出した作品で、作者の読者を楽しませようという気概を感じます。密室は既存のアイディアを複合させた機械的なトリックで、手堅く理にかなった解決です。しかし、これはあくまで添え物で、メイン・トリックは「なぜ、この状況が成立してしまったのか」です。当時としては誰も考えつかなかったであろう奇想で、後に多くの作家がマネをしたそうです。これはオリジナルのトリック創造が不得意というイメージがあったヴァン・ダインとしては、一番の傑作アイディアと思います。 他に、劇的な演出による第二の殺人で加速する物語の謎や、犬をロジカルな推理の材料にするところなど見どころが多く、個人的には『僧正』『グリーン家』に次ぐ名作です。 |
No.5 | 6点 | カブト虫殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2016/02/28 21:05 |
---|---|---|---|
エジプト博物館で資産家が死亡。スリッパやネクタイ・ピンなどから、彼を殺害したのは出資を拒まれたブリス博士かと思われたが、ヴァンスはあまりのあからさまさからその説に疑問を抱く。しかも博士は阿片入りのコーヒーを飲まされ前後不覚に陥っていた。果たして真犯人は誰か?
魅力的な導入部は素晴らしいです。名探偵ファイロ・ヴァンスが今回活躍するのは博物館。この舞台もユニークです。ミステリーとしての肝は犯人の設定の意外さですが、これは同じパターンの有名作品をすでに読んでいたのでさほど驚きではありませんでした。エジプト絡みの装飾が若干ゴテゴテしている印象で、すっきりスマートに処理できていた元ネタと比べると雑多で却って野暮ったくなっている気もします。とはいえ、その装飾過多がヴァン・ダインらしくもあり、クライマックスの展開に至るまで飽きずに読むことができます。 |
No.4 | 9点 | グリーン家殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2016/01/28 19:55 |
---|---|---|---|
館ものというのは今やかなり古風なガジェットですが、その礎の本作はミステリ好きなら必ず通るべき道でしょう。トリックやロジックの弱さは否めませんが、グリーン家の面々が次々と殺されていくサスペンスの構築は現在でも光るものがあり、『僧正』と並び模倣が多く生まれたその偉大さは誰にも否定できない筈です。最大の弱点は現代の読者からは犯人が見え見えなところですが、この「意外な犯人」のパターンも本作が確立したものであることを考慮したら9点は堅いと思います。 |
No.3 | 7点 | カナリヤ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2016/01/28 19:35 |
---|---|---|---|
現代の読者の目で見たら、トリックは古びていて確かに物足りないものでしょう。ポーカーのプレイ・スタイルから犯人を推理するなど、前作以上に恣意的で危なっかしく思えます。ですが、僕はその古臭さも含めかなり気に入っている作品です。密室やアリバイ・トリックの古さも作品世界にクラシカルな味を付けるファクターといえると思います。ヴァンスのシニカルな言葉で締める結末も印象的です。『グリーン家』『僧正』と比べてあまり読まれない作品ではありますが、アメリカの本格黄金時代の雰囲気を味わいたい、という人には是非おすすめしたい佳品。 |
No.2 | 7点 | ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2016/01/28 19:16 |
---|---|---|---|
デビュー作というだけあって、ファイロ・ヴァンスの鼻持ちならないキャラクター、衒学趣味といったヴァン・ダイン作品の基礎となる要素がふんだんに詰め込まれています。心理的探偵法の有用性は怪しいところもありますが、表面的なアリバイがいかに証拠として薄弱であるかを証明してみせるクライマックス近くの実験は実に鮮やかです。その他、マーカムの地道で着実な捜査をこき下ろしつつも、なんだかんだで親友関係を続けているヴァンスも微笑ましいです。ヴァンスのことをよく思っていなかったヒース部長刑事が彼に尊敬の念を抱くきっかけの事件でもあります。ミステリーとして評価しない人も多いですが、アメリカを舞台とした名探偵の冒険として読めば、こんなに面白いものはありません。 |
No.1 | 10点 | 僧正殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2016/01/20 23:25 |
---|---|---|---|
プロットの巧みさはヴァン・ダイン全作のなかでも随一です。現場周辺の詳細な見取り図を多数取り込むことで不気味な連続殺人がリアリティを帯びており、犯罪実録を読んでいるような面白さがあります。ファイロ・ヴァンスの推理は他の作品でもそうであるように根拠に乏しく「粗いプロファイリング」に近いのですが、それを差し引いても終盤の二転三転する展開のスピーディーさは今でも十分通用するもので、本作を多くの作家が参考にしたのも納得です。館ものの王道パターンを確立した『グリーン家』も捨てがたいですが、僕は開放的な空間で独特なムードを創り上げた『僧正』を推します。 |