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りゅうぐうのつかいさん
平均点: 6.29点 書評数: 84件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.14 6点 どちらかが彼女を殺した- 東野圭吾 2017/07/24 19:22
『私が彼を殺した』の方を先に読み、そちらでは「推理の手引き」を読んでも犯人がわからず、ネットでネタバレ検索をしてようやく理解できたので、本作品は最初からかなり注意深く読んだ。それにも拘わらず、本編だけでは、加賀が他殺であると判断した根拠に確信を持てずじまいで、「推理の手引き」まで読んでようやくある程度の確信を持ったが、やはり、ネットでの確認が必要であった。
「推理の手引き」を読むと、文庫版では親本からカットされた箇所が一つあり、難易度が増しているとのこと。
タイトルどおり、容疑者が二人だけに絞られたシンプルなフーダニットの作品。被害者の兄の和泉康正が地元警察の捜査に委ねずに、証拠を一部隠ぺいして自殺と見せかけ、自ら調査して、犯人を追求する話。事件を取り巻く状況は凝っているし、最後に関係者が集まってからの訊問による二転三転も面白い。しかし、容疑者の供述に嘘が多くてわかりにくいし、犯人特定の条件となった○○○は根拠として弱いのが難点。

No.13 7点 私が彼を殺した- 東野圭吾 2017/07/24 19:19
最後まで読んでも、「犯人はあなたです」と加賀刑事が指摘した人物が誰なのか、わからなかった。さらに、「推理の手引き《袋綴じ解説》」を読んでも、わからなかった。ネットでネタバレ検索をして、「ああ、そうだったのか」とようやく理解できた次第。この作品のように解答を示さないままで終了、というのは一つの趣向だとは思うが、正解がわからないままではモヤモヤ感が残る。ネットで調べることができて、良かった。
登場人物の数は限られており、その中で殺人事件を引き起こす愛憎関係が巧く構築されている。毒入りカプセルの数合わせの問題だったり、カプセルの入手とすり替えの可能性など、魅力的な謎が盛り込まれている。関係者が集められてからの論争によって、二転三転する展開も面白い。視点を容疑者の間で次々と変えていき、複数の人物が自分を犯人だと思い込んでいるところは、連城三紀彦氏の某作品に似ていると感じた。
犯人を特定する決定的な手掛かりが最後のページで示されるので、読者挑戦ものにするのであれば、最後のページに挑戦状を挿入するのであろう。最後のページの手掛かりから犯人を特定するのに必要な情報があちこちにさりげなく盛り込まれているので、パズルとして、結構難しい問題ではないだろうか。

No.12 8点 ナミヤ雑貨店の奇蹟- 東野圭吾 2016/12/26 17:55
まさに奇蹟の物語である。
ナミヤ雑貨店のシャッター郵便口と牛乳箱によって、32年前と今とがつながるSF設定の話で、過去にナミヤ雑貨店店主が行ったナヤミ相談の内容と、強盗三人組による過去の相談者への現在からの回答とがオーバーラップしながら描かれていく。いくつかの物語が、「ナミヤ雑貨店」と「丸光園」とによって絶妙にリンクし、最後にあっと驚く奇蹟がもたらされる。
店主は、自分の回答内容が相談者のその後の人生にどのような結果をもたらしたのかを心配するが、どんな相談に対しても真摯に取り組む店主の回答に対して、相談者は感謝し、自分なりに咀嚼して、人生に生かしたことがわかる。
読後感が良いのは、登場人物が根本的には良い人ばかりだからであろう。
強盗三人組から送られた白紙の便せんに対する店主の回答がまた、何ともすばらしい。見事なエンディングだ。

No.11 6点 犯人のいない殺人の夜- 東野圭吾 2016/11/01 17:26
東野圭吾公式ガイドでの作者の自作解説を見ると、本短編集は初期のものがほとんどで、短編の書き方がよくわからず、いろいろなことを試しながら書いた時期の作品を集めたものとのことであり、読んでみると確かにそういった感じがした。
「踊り子」と「犯人のいない殺人の夜」が良かった。

「小さな故意の物語」
学校の屋上から転落した友人の死の謎を探る話。最後にひねりがあるものの、やや物足りない真相。事件の背景にある微妙な女心が印象的。

「闇の中の二人」
読み進めていくうちに犯人の見当はつくが、その背景にある事実と動機が意外。
「闇の中の二人」とは誰のことか。最後の一文が印象深い。

「踊り子」
塾の帰りにふと目撃した、新体操を踊る女の子に魅せられた少年の話。
その女の子がやがて姿を見せなくなり、少年の家庭教師がその謎を探ると、もの悲しくも意外な事実が判明する。

「エンドレス・ナイト」
刑事の臭覚で事件を解決する話。
主人公の女性の大阪嫌いが印象的であり、隣接県に住む私にはその心情が良くわかる。

「白い凶器」
所々に挿入されている二人の会話が誰と誰の会話なのかと思って読み進めていくと……。
動機が何とも意外であり、この動機に関する事実は初耳だった。
「白い凶器」というタイトルが動機を示しているのが面白い。

「さよならコーチ」
犯人はあるものを利用して殺人を行うが、逆に利用されていることが後でわかる。

「犯人のいない殺人の夜」
この作品は確かにトリッキーだ。理解力に乏しい私は、初読では最後まで読んでも、「あれ?どういうこと?」と理解できず、最後の方を読み返して、ようやく理解できた。<夜>と<今>を交互に描いたり、<夜>の視点となる人物を変えたりして、読者を欺いているところが巧妙。由紀子の写真、ドウダンツツジ、チューインガムといった小道具が、真相解明につながっている点も面白い。

No.10 5点 浪花少年探偵団- 東野圭吾 2016/10/11 20:13
タイトルから、少年たちが活躍する話かと思っていたが、そうではなくて、少年たちの担任教師であるしのぶセンセが活躍する物語。
五編から成る短編集で、いずれの話でも死体が発見されるが、謎の中身は「日常の謎」系の軽いものばかり。
いずれも、しのぶセンセのヒラメキを契機に真相にたどりつく話だが、やや荒唐無稽で無理矢理な真相のものが多く、突出した出来ばえの作品はなかった。
がさつで、おせっかいで、うるさくて、言葉使いが汚い「大阪のおばちゃん」。
その「大阪のおばちゃん」の特質を、若いながらも持ち合わせているしのぶセンセを始め、しのぶセンセに思いを寄せる新藤刑事や悪ガキなどの間で交わされる大阪人特有の会話のノリが面白いと感じれば楽しめると思うが、個人的にはあまり楽しめなかった。

No.9 7点 天使の耳- 東野圭吾 2016/09/24 17:42
交通事故にまつわる奇妙な話を集めた短編集で、法の裁きに期待できないがための私刑を扱った作品がいくつかある。
ミステリーとしては「天使の耳」が一番、物語としては「通りゃんせ」が一番、「捨てないで」もなかなかの出来。

「天使の耳」
交差点で起こった交通事故で、赤信号で突っ込んだのはどちらの車か、関係者の証言をもとに検証する話。
ユーミンの曲が放送されていた時刻、交差点での信号制御のタイミング、野次馬の撮影した動画の時刻などから、論理的に衝突した時刻が推定されていくが、キーとなったのは、盲目の美少女の「天使の耳」。
ここまででもミステリーとして十分な内容だが、さらに最後にブラックな事実が判明し、唖然とさせられる。

「分離帯」
分離帯を飛び越えて、対向車と激突して亡くなったトラック運転手。
その妻の綾子は、高校生の時に融通の利かない校則のために停学となり、今また、法律では事故の原因を起こした人物を裁くことができないことを知る。
そんな、彼女が取った捨て身の行動とは何か。

「危険な青葉」
人通りの少ない道で、後続車からスピードで煽られ、ガードレールに激突し、一時的に記憶を失った映子。
近辺では、幼児殺人事件が発生していた。
第3章に入る手前で、真相に近いこと(真相よりももっとひどいこと)が予想できていた。

「通りゃんせ」
車を当て逃げした人物から、修理費支払いの連絡があり、さらに別荘に宿泊してほしいとの依頼があった。
別荘にはその人物も来ており、意外な話を聞かされることに……。
ラストの場面はもの悲しく、切ない。

「捨てないで」
前を走る車が投げ捨てた空き缶によって、失明した真知子。フィアンセとともに、犯人を探そうとするが……。
一方、空き缶を投げ捨てた斉藤は、浮気がばれそうになり、殺人を計画する。
空き缶が両者をつなぐ重要な役割を果たし、2つの話が最後に絶妙にリンクする。
タイトルには、空き缶を捨てないで、私を捨てないで、という2つの意味が込められている。

「鏡の中で」
乗用車が交差点の右折中に、対向車線の停止線に止まっていたバイクに突っ込んだ謎。

No.8 6点 夜明けの街で- 東野圭吾 2016/08/30 18:05
主人公の渡部は、「不倫する奴なんて馬鹿だ」と言っておきながら、些細な出来事から同僚の秋葉との関係を深め、不倫という地獄の底に落ちていく。不倫相手の秋葉は、実家で15年前に殺人事件があり、被害者の妹や刑事から、犯人ではないかという疑いを持たれていることがわかる。事件の時効が近づく中、何の不満もないはずの妻子を捨てて秋葉との愛に走ることができるのか、秋葉が殺人犯だとしても愛し続けることができるのだろうか。主人公の気持ちの揺れや苦悩が描かれている作品だ。

ありきたりな不倫話が延々と続き、それを長々と読まされるのは、正直苦痛であった。東野圭吾作品なので、ただの不倫話では終わらないとは思っていたが、どういうオチになるのかは、最後まで見通せなかった。
作者の作品としては、意外というほどの真相でもないが、秋葉が15年間守り続けた秘密の内容にはひねりがあるし、秘密を持ち続けた理由も斬新。ミステリー的な要素としては、被害者の妹の調査内容や、推理の論理性も見逃せない。
作中に、結婚や夫婦に関する作者の考えが随所に出てくるが、警句的な内容で面白い。この作品のテーマは、結婚とは何か、夫婦とは何か、ということではないだろうか。
最後に「新谷君のはなし」がおまけとして付いているが、新谷君の最後のつぶやきが何とも人間くさい。
どうにもぱっとしない主人公だが、この経験からどのような教訓を得るができたのだろうか。

(ネタバレ)
読み進めていくうちに、秋葉が渡部に意図的に接近したことに気づいたが、なぜ、そのようなことをしたのか、その理由が全く思い浮かばなかった。秋葉の告白によって、その理由がわかるが、これもなかなか面白い。結局、渡部は秋葉に弄ばれただけ。
新谷君が渡部と秋葉の浮気の手助けをしたのは、実は新谷君が有美子と不倫をしていて、自分が有美子と逢い引きする時間を確保するためでは、と思っていたのだが。

No.7 6点 新参者- 東野圭吾 2016/07/26 17:28
メインとなる殺人事件は1件だけだが、その捜査の課程を描く中で、聞き取り調査を行った下町の家族内で起こる「日常の謎」をサブストーリーとして織り込んでおり、連作短編のような趣きを持っている作品。
下町の風情や人情が描かれており、加賀はそこで暮らす人々のいざござや悩みに助言を与えるアドバイザーのような役割を担っている。
特に印象に残っているのは、「上着を着ていたかどうか」という些細な違いから真相に気づく「煎餅屋の娘」。
加賀が本事件の結末で見出したのは、壊れているように見えて、失われていなかった家族の絆であり、父親が真に果たすべき役割。
殺人事件の犯人は最後の方にならないと登場しないし、推理の決め手となる事項は後出しで、謎解きの要素は薄く、地道な捜査過程を描いた警察小説。その捜査の課程をつぶさに見ると、被害者がある勘違いをしていることに気づいて洋菓子屋を探し出すなど、加賀の頭の良さには脱帽するしかない。
「事件によって心が傷付けられた人も被害者であり、そういった人を救い出すのも刑事の役目」、「犯人を捕まえるだけでなく、どうしてそんなことが起きたのかを追求する必要があり、それを突き止めないと同じ過ちが繰り返される」という加賀の言葉が重く響いた。

No.6 6点 禁断の魔術- 東野圭吾 2016/07/05 19:24
「禁断の魔術」とは、正しく使えば人類に豊かさと便利さをもたらすが、間違った使い方をすると人類を滅ぼしかねない両刃の剣である「科学技術」のこと。
殺人事件に関連して、不思議な現象が見つかり、その解明のために警察が湯川に協力依頼するというパターンどおりの話だが、依頼される前から湯川は事件に密接に関わっている。
現象を説明する科学知識自体はそれほど面白いものではないし、事件を取り巻く背景もどちらかと言えばありきたりなもの。
この物語の良さは最後の光原町での襲撃場面に集約されている。そこで湯川が取った行為に驚かされたし、湯川が伸吾に語った内容はガリレオ先生らしい含蓄のあるもの(しかし、あの場面で伸吾がイエスと言ったならば、湯川はどうしていたのだろうか)。
最終的に襲撃の対象とされた人物に対して、何のお咎めもないのはやりきれない。それを証明する証拠が出てきたのだから。
(備考)
私が読んだのは、短編4つを収めた短編集ではなく、「猛射つ(うつ)」を長編化したものです。

(ネタバレ)
始球式の結果は、センター前ヒットではなく、ピッチャー強襲ヒットで、ピッチャーの顔面直撃にしてほしかった。

No.5 6点 怪しい人びと- 東野圭吾 2016/05/27 23:23
ロアルド・ダールの「あなたに似た人」と同様に、「奇妙な味」を持ったライトな短編集。
各短編ともに、冒頭からの興味深い話で関心を引き、不思議な謎が示され、それなりのオチが用意されている。
主要な登場人物が3人で、いずれもが"怪しい人びと"である「灯台にて」が最も面白い。
「寝ていた女」
友人の逢い引きのために部屋を貸してやると、見知らぬ女が居付くことに…。
「もう一度コールしてくれ」
2年前の高校野球のコール(判定)を巡る恨み。その時の審判宅に押し入って、再度聞いたコールの結果は…。
「死んだら働けない」
仕事のやりすぎにはくれぐれもご用心。
「甘いはずなのに」
新婚旅行で出会った老人が、重要な役割を担う。
「灯台にて」
僕と祐介との関係は、旅の前後でどのように変わったのか。
「結婚報告」
学生時代の友人からの結婚報告の手紙に同封されていた写真。友人の顔が別人のように変わっている…。
「コスタリカの雨は冷たい」
コスタリカで強盗に襲われる話。この短編集では、一番意外性のない真相。

No.4 6点 虹を操る少年- 東野圭吾 2016/03/21 17:32
ミステリーではなく、ファンタジー。
光楽、光のメロディーという概念が何といっても面白い。以前より、音楽が人を感動させることに不思議さを感じており、それと同じことを光でできないかという発想に斬新さを感じた。
カリスマ、教祖としての光瑠のキャラクター設定や、彼がやろうとしたことも魅力的。
夜の闇を失ったことによる人の光への感受性の低下、教祖と呼ばれる人物と光との関連性、ダーウィン進化論と関連付けて権力者との闘争につなげるなど、下地となるアイデアもすばらしい。
素材として、とても良い内容を持っていながら、物語としては消化不良の印象が拭えないのは何とも残念。
光瑠が功一に託した光楽の楽譜によって光瑠の居場所がわかるという設定には、いくらなんでも無理がある。

No.3 5点 魔球- 東野圭吾 2016/01/04 18:10
東野圭吾さんの作品としては、平凡な内容。
最後まで読んでも意外性はないし、人間ドラマとしての深さも感じられなかった。
人間ドラマとしての深さが感じられない理由としては、事件の背景にある動機が肯定できないことが大きい。
爆弾設置事件の真相、愛犬が先に殺されていた理由、ダイイングメッセージ等のミステリー的仕掛けもそれほどのものではなかった。
「魔球」がこの作品のキーワードなのだが、それが作品の意味として、ピタリとはまっているとは思えない。

No.2 6点 片想い- 東野圭吾 2016/01/04 18:02
「肉体としての性」と「実際の性」とのギャップに苦しむ人物を中心人物に据えて、その解決を模索した社会派推理小説、そのように感じた。
気になったのは、その中心人物である美月が、直情径行で、あまりに単純な人物として描かれている点だ。
最初はミステリーという感じはしなかったが、美月が行方をくらましたあたりからミステリーらしくなり、事件の背景にジェンダー問題を解決するための大掛かりな企てがあることが判明する。その企ては結局挫折し、結末には救いがない。本当の問題解決のためには何が必要であるのか、提案や考察がなく、置き去りにされている点にちょっと不満を感じた。
末永睦美と相川冬紀という二人の脇役の存在と、その発言が光っている。
タイトルの「片想い」とは、誰の誰に対する片想いなのであろうか。個人的には、中尾の「女性としての美月」への片想いではないか、と思った。

No.1 8点 真夏の方程式- 東野圭吾 2015/10/20 18:03
「真夏の方程式」というタイトルから、「容疑者Ⅹの献身」や「聖女の救済」のように、湯川が難解なトリックを解く話かと思っていたが、そうではなかった。
300ページを過ぎ、捜査の進展とともに判明した事実から、真相が透けて見えるようになり、ありきたりで平凡な真相、わざわざガリレオ先生を登場させる必要がないのではと感じたが、最後にその印象は逆転した。
湯川の事件解決方法、成美や恭平に最後に語った事柄は、ヒューマニズムにあふれている。湯川という人物は、理系の天才であるだけではなく、人間性を見通す能力があり、深い人間愛を持っていることが伺える。事件の真相には理系人間でないと気づかないような事項があり、また、この解決方法を取るために、湯川を登場させたのだろう(警察官がこの解決方法を取るわけにはいかない)。
子供嫌いの湯川が、恭平に対して積極的に働きかけているのは意外であった。
また、湯川の発言には、事業に対する反対意見のあり方など、考えさせられる内容が随所にあった。

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