皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
クリスティ再読さん |
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平均点: 6.40点 | 書評数: 1325件 |
No.4 | 8点 | 悪魔のような女- ボアロー&ナルスジャック | 2018/09/05 19:30 |
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その昔「生きているひとは死んでいて、死んだひとこそ生きているような」というキャッチコピーの映画があったが、本作はまさにそれ。霧深い情景の中で、
死人も生きている人も、同じなのだ。われわれの感覚は粗雑だから、死人は別のところにいると思い、二つの違った世界があると信じこんでいる。そんなことはない!見えない死人はそこにいて、いろいろとこまかい仕事をつづけている。(ガス栓を忘れずに固く締めてくださいね) と主人公が思い込むような、コッチとアッチの境界が曖昧な世界を描ききった力技が素晴らしい。「死者の世界」が最後のほうなぞまさに主人公の帰るべき家、心休まる世界なのだ! というわけで、本作のミステリとしての結末なんぞただのオマケ。カーテンコールとかそういう部類だろう。超自然だったとしても、作品としてちゃんと成立しているさ。「ミステリ」であるのがタダの口実みたいに見える作品、ということでもイイんじゃない? |
No.3 | 5点 | 犠牲者たち- ボアロー&ナルスジャック | 2018/05/25 22:55 |
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作品的にはそう悪くないのだけど、本作は「死者の中から」のアイデアを別視点でアレンジしたような作品なんだよね....「別人なのに似てる」vs「同じ人なのに別人」、「別人なのに同じ人と主人公は思い込んで恋する」vs「主人公は別人が嫌になって引く」と、同じネタを逆にしたようなアイデアで書かれている、と言っても過言じゃない。まあそこらへんをどう考えるか、だろう。ひょっとして「死者の中から」のボツ案みたいなものかな。
読み比べると分かるんだけど、本作は「死者の中から」と比較しても動きが少なくて、フランス的な恋愛小説、って感じの読後感になる。もちろんボア&ナルだから、ミステリとしての仕掛けはちゃんとあるんだけどね。しかし本作の本当に面白い部分は、マヌーに対して主人公がとった態度が、そのままクレールが主人公に対してとった態度になる、というあたりの皮肉な部分で、これはミステリとは全然関係のない要素である。そう見ると、何かバランスの悪い作品ということになってしまうなあ。 あとそうだね、本作の背景にダムがある、のが心理的な象徴みたいなもの。夫が「コンクリの薄いダム」の権威、というのが意味深。最近ダム萌えというかダムマニアって流行ってるみたいだね。 |
No.2 | 6点 | 死者の中から- ボアロー&ナルスジャック | 2018/01/03 22:53 |
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ヒッチの「めまい」の原作として有名すぎるくらいに有名な作品。今回久々に再読して印象に残るのが、第一部が第二次大戦のフランス侵攻の前夜の話、という時代面での息苦しさがうまく小説内容にマッチしてることだったな。ただし、第二部での主人公がルネによってマドレーヌを再現しようとするあたりは、どうしてもヒッチの映画のヴィジュアルの説得力に負けてしまう。「めまい」ではそれに加えて、ジェームズ・スチュアートのある種の不健全さが垣間見れて、きわめて倒錯的な面白さ(ヒッチ曰く「死姦」だそうだ)を感じるのだね...まあだから小説評価としては、残念ながら「映画ほどじゃない」ということになる。
逆に小説でのいいところは、犯人たちの仕掛けが「効きすぎて」逆に墓穴を掘ることになった、ということに読み終わって気が付く、というあたりのような気がする。映画だとこういう見方をしづらいように思う。 あとそうだね、ボア&ナルって心理主義というか、心理描写が長々...という印象がないわけじゃないが、本作とか風景の客観描写が意外にハードボイルド文っぽい抑制的な美があるあたり、不思議なほどにアメリカンな印象を受けた。意外というか、アメリカニズムの普遍性というか、面白いな。 |
No.1 | 7点 | 呪い- ボアロー&ナルスジャック | 2017/01/04 16:11 |
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実家の本棚を眺めると、まだほとんど評を書いてない作家だと、アンブラーとかロスマクとかシムノンとか、結構沢山並んでる。2017年はここらも順次消化していきたいな。で、ボアロー&ナルスジャックである。この人の作品も結構、ある。昔結構好きで読んでたな。
「死者の中から」とか「悪魔のような女」は映画が超名作なので有名だけど、本作だって地味な心理劇のわりに道具立てがユニークで面白い。枠組みは「悪魔のような女」に近い悪女物で、主人公の獣医が、依頼を受けてチーターの診察のため往診に行くが、その飼い主であるアフリカ生れの女流画家と不倫の恋に陥る。で、どうやらその女、アフリカ由来の呪術を使うようなのだ。主人公の妻の身の上に不可解な事故が立て続けに起きて、主人公は心理的にアフリカ生まれの女に呪縛されて...という話。 主人公は獣医が天職のような、動物を肉体として共感的に理解する能力のある男。なので、そういう動物の「肉体」の視点から自分の恋を理解するあたりにクールな良さがある。その獣医のクランケであるチーターとの交流などいろいろ引っかかりのいいネタが多い。 女流画家が住むノワルムゥチエ島に、本土の主人公が通うのだが、この島と本土とは日に2度の干潮によってできる砂嘴を通る「海の中の道」を通る必要がある。なので、逢引きには時間制限があるのだが、最後にこの海の中の道(ル・ゴア)が二人の運命を引き裂くことになる...もし評者がフランスの映画監督だったら、絶対映画にしたいと願うくらいにこの「海の中の道」が絵的に気に入っている。 まあ、ボアロー&ナルスジャックなので、ちょっとした仕掛けもある。濃密な小説世界に洒落た仕掛けがうまく埋め込まれているのを楽しむタイプの小説だ。だからそう意外な真相でもないが、それが気になるわけではない。小品、って感じはあるけど、イイ映画を見たような情感がある。 |