皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
名探偵ジャパンさん |
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平均点: 6.21点 | 書評数: 370件 |
No.7 | 7点 | 怪盗グリフィン、絶体絶命- 法月綸太郎 | 2023/07/08 21:07 |
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ジュブナイルとしては、耳慣れない言葉が飛び交いすぎてませんか? と感じなくもないですが、往々にして子供という存在は背伸びをしたがるものですから、これもありかと思います。
怪盗ものとスパイもののいいとこ取りのような、騙し合いの展開は読んでいて飽きないですし、こういう知略の応酬はミステリ作家が書くスリラーっぽくて楽しめました。 |
No.6 | 6点 | 法月綸太郎の消息- 法月綸太郎 | 2019/10/01 15:03 |
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名探偵・法月綸太郎の作品集としては、実に七年ぶりの本だそうで、特に「あべこべの遺書」が収録された「7人の名探偵」を未読の人にとっては、「生きとったんか、ワレー!」と言いたくなる、まさに(作者もあとがきで触れていましたが)相応しいタイトルです。
今や作家・法月綸太郎は小説家とミステリ研究・批評家の二足のわらじを履く文筆家なわけでして、その性格がモロに反映された作品集となっています。 で、その「研究家」としての二編は、「凄いことを発見、研究して書いているのは分かるけど、(私が浅学なせいで)いまひとつピンとこない」というのが正直なところで、作中に触れられている数々の古典を読み込んでいる方であれば、また違った(というか本来の)楽しみ方ができるのでしょうね。確かにこれは小説にする必要はなかったかもです。 「まっとうなミステリ小説」である残り二編は、これぞ法月の面目躍如! と言いたいところなのですが、どちらも魅力的な謎に合理的な解決が図られるのはいいとして、短編向きのネタではなかったのかなと思います。この二編を中編に膨らませたものと、研究家としての二本を別個に刊行したほうがよかったように感じました。 |
No.5 | 8点 | 法月綸太郎の冒険- 法月綸太郎 | 2016/08/22 11:01 |
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「死刑囚パズル」
久しぶりに本書を再読して、まずこの一編。「こんなに辛気くさい話だったのか」と、過去に読んだときとは印象が全然違っていました。「死刑直前の死刑囚をわざわざ殺さなければならない理由とは何か?」にだけ焦点を絞った、もっと明朗快活なパズラー(もちろんこの評は全く当てはまりますが)だった記憶がありました。本書後半の「図書館シリーズ」での探偵綸太郎のイメージで上書きされてしまったのでしょうか。 作品の雰囲気はともかく、丁寧で論理的なミステリであることに変わりはなく、非常に完成度の高い作品です。こういうのを「本格ミステリ」というのだなぁと、読後にため息が漏れました。 個人的には、捜査の途中で綸太郎がボタンを押すところが好きです。この行為の結果を見るに、まるで神の采配かのように、犯人の想いは無駄にならなかったのかなと。切ないながらも、ある種のハッピーエンドといえる物語なのではないでしょうか。 「黒衣の家」 ブラック落ちの一編です。 「誰がやったのか?」「どうやったのか?」を推理させながらも、最後に明かされるのは、恐ろしくも切ない「ワイダニット」でした。 「カニバリズム小論」 前代未聞の食人の理由もですが、そこに至る蘊蓄も面白いです。最後にちょっとした落ちも用意されており、サービス精神満点の一編です。 「切り裂き魔」 ここから問題の(?)図書館シリーズに突入。ミステリファンならば、この犯行動機には情状酌量の余地ありとしてくれるでしょうが、普通は司書に申し出ますよね。 「緑の扉は危険」 本書収録の図書館シリーズで唯一殺人が起きます。被害者の奥さんが蔵書の寄贈を断った理由。被害者の言い残し。それにより導き出される密室トリックの真相。全てが見事に決まった快作です。タイトルもかっこいいです。 「土曜日の本」 私は本作のもとになった競作集を読んでいないため、他の作家さんとの比較は出来ないですが、題材をメタに取り込んで仕上げた、さすが法月といった一編でした。肝心の大元の謎が解かれないのは、本作がメタ作品だから許されます。 題材の真実は、本当にゲームセンターあらし(炎のコマとかを使う人じゃない)だった可能性が高いでしょう。 「過ぎにし薔薇は……」 「そこまでするか?」と言いたくなってしまいますが、切ない犯行動機の一編で最後を飾っています。 初読時のベストは何と言ってもやはり「死刑囚パズル」だったのですが、今回再読してみて、ベストは「緑の扉は危険」に変更しました。好みの変化なのでしょうか。「緑の扉が開かない謎」が解明されると同時に、全ての言動の謎が氷塊する一発逆転に爽快感を覚えました。 私はいわゆる「日常の謎」系のミステリを読むのは得意としないのですが、法月の図書館シリーズは別でした。普段、殺人犯相手にガチな探偵を行っている綸太郎が、たまに息抜き的に日常の謎に携わる。恐らくこのギャップに惹かれたのです。 しかし、自分と同名の探偵に作中で異性に恋慕させるとは(地の文で綸太郎が穂波に惚れているということを明確にしてしまって)、これを書いていて法月先生は随分と面はゆかったのではないでしょうか。(同じ、探偵と作者が同名のクイーンは、ご存じの通り二名の合作ペンネームですので、そういった面はゆさはなかったのでしょう) 我が身を削って(?)読者を楽しませてくれる法月先生はプロ中のプロです。私、大好きです。 |
No.4 | 6点 | パズル崩壊- 法月綸太郎 | 2016/07/31 17:10 |
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先に書いたものが私のNo.100の書評だと、投稿してから気付きました。
(よりによって「ノックス・マシン」が記念の100番かよ……何かレジェンド作品にするか、有栖川ものを解禁して書きたかった……) 失礼、心の声が漏れました。 しかしながら、次に書こうと思っていた作品が、同じ法月作品の「パズル崩壊」であり、しかもここに、復活した角川文庫版での解説で大森望が書いているように、「ノックス・マシン」の萌芽がすでに認められていたことを発見し、これは運命的なものだったのだと思いました。 収録作の、「重ねて二つ」「懐中電灯」「黒のマリア」までは、オーソドックスな(若干変化球ですが)本格が続きますが、四作目の「トランスミッション」から、まさにギアチェンジしたかの如く、本格ミステリに片足は残しながらも、もう片方の足はその場所から大きく離れていくのです。股裂き限界まで。 特に「ロス・マクド(以下略)」は、「ノックス・マシン」収録の問題作「バベルの牢獄」を想起させます。 しかし相変わらず法月は、展開に直接関係のない作中周辺の事柄まで、(恐らく稿量の許す限り)逐一本文に書き込んできます。(七作目の「カット・アウト」とか凄いよ) 「読者が読み飛ばしてしまうようなことでも、取材で得た情報を書き込むことで作品にリアリティが生まれる」と言ったのは作家の森村誠一ですが、確かに、「こういうことあった、ありえたかも」という問答無用のリアリティが「カット・アウト」にはあります。他の作品もかくの如し、です。 「法月先生、二十年前から変わってないんだなぁ」と、変に安心しました。 「パズル崩壊」とは、言い得て妙というか、取りようによっては自虐的な(法月のキャラクターらしい)タイトルです。 最後に収録された、「……GAL(以下略)」が、「構想中の長編の冒頭部分」というのも、他の作家がやったら「何だよ真面目にやれ」と言いたくもなりますが、法月なら、「んー、許す」となってしまいます。(しかもこのプロットは、大作「生首に聞いてみろ」に取り込まれ、消滅してしまったそうです) 「探偵綸太郎もの」の短編集のような、明るく快活で万人が楽しめる本格ミステリとは違う、「ブラック法月」の神髄をこの短編集に見ました。 私は「悩めるミステリ作家 法月綸太郎」というキャラクターが大好きですので、若干甘めな採点になってしまったかもしれませんが、皆さんは、まかり間違っても、「ねえ、何か面白いミステリない?」と訊かれたご友人に、本作をお勧めしてはいけません。 |
No.3 | 5点 | ノックス・マシン- 法月綸太郎 | 2016/07/30 15:27 |
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「どうした? 法月」
法月綸太郎といえば、「悩めるミステリ作家」というキャッチコピーでおなじみの(?)本格の権化のような人、というイメージだったのですが、悩みすぎておかしくなってしまったのでしょうか? などと失礼な物言いはさておき、作者が楽しんで書かれた作品であるということは読んでいて分かります。好きでもなければ、こんなわけの分からないものを書くものですか、いや、失礼。 お遊びはお遊びでも、法月綸太郎クラスの賢才の稚気は、やはりひと味違うというか、「バベルの牢獄」なんか、「こんなことのために……」と読後腰が砕けました。 monyaさんが書かれた通り、本格ミステリとSF(しかも、SFがきちんと「サイエンス・フィクション」していた古典のガチSF)双方に余程の理解がないと、雰囲気で面白がることは出来ても、作者と同じ土俵で真に楽しむことは出来ないでしょう。 本格ミステリはともかく、SFは学生時代片足だけ突っ込んですぐに引き抜いた私には、とても理解の及ばない領域でした。 「引き立て役倶楽部の陰謀」は抜群に楽しめましたが、他の作品(のSF要素)が足を引っ張り、この点数となりました。 いや、しかし、「ノックス・マシン」も、「論理蒸発」も、もっと分かりやすく書くことは出来たはずですよ。「ノックスの十戒に第五項がある理由」「クイーンの『シャム双子』にのみ『挑戦』がない理由」作者の筆力であれば、ミステリを知らない読者にも、噛んで含めるようにおもしろおかしく解説しながら、ユーモア作品に仕上げることは出来たはず。 「だが、断る」ですよ。 分かってもらえなければそれでいい。「遊び」とは、他人でなく自分を納得させるためのものですから。 E-BANKERさんの書かれたように、これを出版させる版元はエライですよ。 法月もこれで気が済んだでしょう。すっきりとしたところで、また傑作本格ミステリを生み出してくれることに期待します。 |
No.2 | 7点 | キングを探せ- 法月綸太郎 | 2015/11/02 10:08 |
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ベテランの面目躍如とでも言うべき、見事なプロット。
それも、大どんでん返し的なビックリ箱でなく、思わず「ううむ」と唸ってしまうような、「渋知」な仕掛け。変な表現ですが、色気があります。 言及しておきたいのは、事件に挑む探偵綸太郎の存在。 警察の捜査に手を貸す素人探偵、という、かつては当たり前だったギミックが通用しなくなってきた昨今。(作家も読者も)作品にリアリティを求め、また、警察の科学力の飛躍的な向上も相まって、今や「素人探偵」という存在は、完全なファンタジー化してしまった。 現在、素人探偵の居場所は、警察の捜査介入を防ぐ絶海の孤島や、警察の捜査能力そのものを落とした過去を舞台とした作品、もしくは、警察が介入するまでもない「日常の謎」くらいしかないだろう。 僅かな毛根や、被害者の爪の間に残留した皮膚片からDNA鑑定により個人が特定されてしまうほどの科学力。網の目のように張り巡らされた携帯電話など個人ネットワーク。およそ、一介の素人が幅を利かせる余地などないかのような、先鋭された現代社会という敵とも戦いながら、今なお綸太郎は素人探偵として活躍し続けている。これはかなり大変なことではないかと思う。 他の方の書評にも書かれていたが、綸太郎や親父さんの法月警視の口から、ネットスラングなどが漏れるのも面白い。遠い過去や、浮世離れしたファンタジーではない、今我々と同じ時間を共有している名探偵。俄然、綸太郎に親近感が沸こうというものだ。 |
No.1 | 6点 | 犯罪ホロスコープⅡ 三人の女神の問題- 法月綸太郎 | 2015/02/19 17:21 |
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黄道十二星座をモチーフにした連作短編集。
とはいっても、綸太郎シリーズは比較的リアルな本格ものなので、こういった星座にまつわる事件ばかりが起きる世界、というのは相容れないと思うのだが。 (「機動戦士ガンダム」の敵として宇宙人が出てくるような違和感。綸太郎シリーズは、リアルかスーパーかで言えば、リアル、なのだ) 最後になって、「星座にまつわる事件を意図的に引き起こしていた黒幕が登場し、綸太郎と最後の対決」なんて展開も頭をよぎったが、そうならないで安心(笑) とはいえ、個々の作品はさすがの完成度で、他の方もおっしゃっていたように、このプロットを生かして「星座」というしがらみを外した自由な短編として書いたほうがよかったと感じる。 「Ⅰ」のほうも既読だが、あまりに昔のことなので、ほとんど記憶になく、また機会があればレビューしたい。 |