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名探偵ジャパンさん
平均点: 6.21点 書評数: 370件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.7 6点 T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか- 詠坂雄二 2017/10/28 16:18
作者らしい、ちょっとひねくれた結末のミステリでした。
絶海の孤島に渡ったメンバーが残した映像パートと、それを検証する現在パートが交互に進行していくのですが、他のレビュワーの方も書かれていた通り、映像パートが退屈です。これは、わざと平坦な文章にしてドキュメンタリー色を強めた、という解釈もできますが、作者は冒頭の「前説」で、「映像が退屈なため、それを解決するために小説という形にした」と書いており、それだったら、もう少し何とかならなかったのかな、とも思うのです。
事件の真相自体も、過去に似たような例があるものの派生バージョンです。そこは作者も承知していたのでしょう。やはり「前説」で、「(真相は)物語的な驚きに欠けたもの」と前もって書いています。ただ、これは決して「逃げ」ではなく、「この話の肝はそこじゃないんだ」という表明でしょう。
詠坂作品は、ほとんどの作品が有機的になにかしら繋がっていて、本作もその「詠坂ワールド」の一翼を担う一作であるわけで、乱暴な言い方をしてしまえば、「コアなファンのための作品」ということもでき、それが本作の一番の肝なのでしょう。

No.6 6点 ドゥルシネーアの休日- 詠坂雄二 2016/08/01 14:02
我らが詠坂雄二が挑んだのは、超人的な「探偵」が社会と個人に与える影響と、それにより引き起こされる問題。です。(最近こういうの多いな)
連続猟奇殺人事件が起こりますが、当サイトのジャンルが「サスペンス」となっていることからも、解決において「推理」は存在しません。誰かが「推理」によってこの事件を解いてしまったら、その人物が「探偵」となってしまい、「探偵不在」のテーマに矛盾が生じてしまうためです。
(ウルトラマンの力を借りない、といいつつ、ウルトラセブンに助けてもらう、みたいな。違うか)

前置きなしのいきなりの事件発生から作者の筆致の巧みさで、ぐいぐいと読ませます。
「佐藤誠」の名前が途中出てきたときには、「きたー!」と思うと同時に「またかよ! 佐藤誠でどんだけ食いつなぐんだよ(笑)」とも。ですがこれは、冒頭に触れた探偵、月島凪の裏返しであることは言うまでもありません。行方不明の探偵とすでに死刑執行されている殺人鬼が、今なおこの世に影響を与え、(月島は存命ですが)「凡人」たちを翻弄する様子を描いたサスペンス作品なのです。

「推理」で真相を暴くわけにはいかないため、犯人、その動機の暴露には多少強引な手口が使われますが、「これはミステリではなくサスペンスなんだ」と分かっていればそれほど不自然には感じません。

ラスト、ある登場人物の思わせぶりな近況が書かれて物語は終わります。間違いなく次回作に登場してくるでしょう。
我々はまだまだ「佐藤誠シリーズ」を楽しむことが出来そうです。

No.5 6点 ナウ・ローディング- 詠坂雄二 2014/12/05 22:24
「インサートコイン(ズ)」に続く、テレビゲームをテーマとした短編集第二弾。もちろん舞台はおなじみ遠見市。

・「もう1ターンだけ」
「あきらめたらそこで試合終了だよ」あまりに有名なこのエールを、作者なりに解釈し、夢に向かって進む若者への応援メッセージを込めた作品なのだと感じた。しかし、この作者のこと、素直に応援などするはずもなく、もうひとつのメッセージを込めている「どんなにあきらめなくてもいずれ寿命は尽きるよ」

・「悟りの書をめくっても」
「リアルタイムアタック(RTA)」なる競技(?)をめぐる事件。「働かない二人」という漫画に出て来た、「ゲームが下手でも、楽しんでいるほうがゲーマーとして格が上」という台詞を思い出した。

・「本作の登場人物はすべて」
いわゆる「エッチなゲーム」をめぐる謎に主人公が挑む。にもかかわらず、主人公の達観しきった一人称や行動から、まったくエロさは感じない。この主人公、性欲はあるのか? と余計なことを考えてしまう。

・「すれちがう」
ニンテンドー3DSのすれちがい通信をガジェットに使った日常の謎的ミステリ。作者、詠坂雄二が大活躍? 本短編集の中ではかえって浮いてしまう、オーソドックスなミステリ。

・「ナウ・ローディング」
ほぼゲームとは関係のない、「遠見事件」の外伝的作品。これを読む前には、「遠見事件」を読んでおかれることをお勧めする。

全般的に主人公の人生を達観しきった(ような)中二的語りが、人によっては少々ウザいと感じるかもしれない。同じような構成の「インサートコイン(ズ)」のほうがゲームとの関わりも深く楽しめた。逆に言えば、こちらのほうがゲームに明るくない読者の方は楽しめる。

No.4 8点 インサート・コイン(ズ)- 詠坂雄二 2014/09/18 11:31
私自身もテレビゲーム好きということで、思い出補正も手伝い甘めの点数になったかもしれない。テレビゲームに興味のない人が読んでも、この面白さは伝わらないと思うのでご注意を。

・穴へはキノコをおいかけて
「スーパーマリオブラザーズ」
動くスーパーキノコと、動かないファイヤーフラワーの考察に、なるほどと膝を打った。

・残響ばよえ~ん
「ぷよぷよ」
ミステリでおなじみのあのガジェットが使われている。テトリスではなく、ぷよぷよでなければこれは使えない。内容は主人公の青春譚。こういった甘苦い思い出を一切持たない私は、この手の話を読むのが辛い(笑)。

・俺より強いヤツ
「ストリートファイターⅡ」
ちょっと他の作品からは浮いている。ストⅡを題材に無理矢理作った話という印象を受けた。同時に居合わせたはずの三人の体験談が微妙に食い違うというのに、何かミステリ的な仕掛けを期待してしまった。

・インサートコイン(ズ)
「シューティングゲーム全般」
「遠見市シリーズ」の常連キャラクターにある出来事が!
攻撃性のみを持つシューティングゲームが、暗いストーリーを持つはめになったという考察は頷ける。あれだけバカスカ破壊しまくるゲームでストーリーが脳天気だったら、ただの破壊魔だからね。多くのシューティングで、自機のみが世界を救う最後の切り札、という設定も無関係ではないだろう。

・そしてまわりこまれなかった
「ドラゴンクエストIII」
ドラクエ1.2.3、いわゆるロト三部作の重大なネタバレ含む。未プレイの方は読まれないよう。作者の言うとおり、そんな人間がこの宇宙にいるとは思えないが。
題材ゲームの容量が、現在のデジカメ写真一枚程度のデータ量でしかないということに、驚いたというか、ショックを受けた。
主人公が、ドラクエ3最大の伏線の謎に挑むという話だが、本作のタイトルも内容の伏線になっているといったら、勘のいい人にはネタバレになってしまうだろうか。

「ミステリ」ではない、あえて分類すれば「日常の謎」的なものになるのだろうが、ファミコン世代と呼ばれる人たちにとっては、ノスタルジックな思い出が絡まり、とてもひとことで言い表せない読後感を受けるのではないか。これは、80~90年代にゲームを趣味とした人間だけが感じることのできる感覚のはずだ。
各作品で展開されるゲームについての考察、研究は、どれも的確かつ面白く、ゲームを知っていれば、なるほどと納得するものばかりだ。実際に制作を手がけたゲーム作家がこの考察を読んだら、「よくぞ気付いた」と唸るだろうか、それとも「そこまで考えてなかったよ」と笑うだろうか。
作中に頻繁に作者「詠坂雄二」が登場するが、それが、漫画「Dr.スランプ」の作中に作者の鳥山明がよく出てきたことを思い出して、変に面白かった。

No.3 7点 電氣人閒の虞- 詠坂雄二 2014/08/04 10:29
「リロ・グラ・シスタ」で酷評したにも関わらず、「佐藤誠」に続き本作も購読してしまった。実は詠坂雄二が好きなのかもしれない・・・

本サイトのジャンル分けが「サスペンス」ということで、最初から色眼鏡で見ながら読んでいたのだが、オチ、そして最後の一文には爆笑させてもらった。

~~以下ネタバレ~~



読後の方にはお分かりのように、本作は「電氣人間」が過去を述懐している。という構成になっている。最後に、未来の出来事を持ち出していることからもそれは明らかだ。
そうすると、電氣人間が犯した二件の殺人の場面が、寸でのところで文章が切れているのはなぜだろう。
「それ以降(電氣人間が殺人を行う場面)を書いてしまったら、本作のネタがバレてしまうから、当たり前だろ」と言われるかもしれないが、それはメタレベルでの話。飯城勇三の言うところの、「神のメタレベル」からの介入ということになる。作品世界の外側にいる作者(神)が、「小説として成立させるためには、ここは書かないほうがいい」と判断した。ということだ。
私はこの、「神(作者)の介入」というのが好きではないので、飯城が言うもうひとつのメタレベル「未来からのメタレベル」として
考えてみたらどうなるのか。本書「電氣人間の虜」が、作中世界に実在する書籍、という立場を貫き通すには。
多くのミステリ小説は「実際(作中世界)に起きた事件を小説家なり事件の記述者なりが当時の資料を元に小説化したもの」という形を取っている。(そう捉えることが可能)本作も、そう考えなければ、わざわざ殺害シーンを省く理由が見つからないからだ。
では、この「電氣人間の虜」を書いた人物は誰なのだろう。それは、唯一電氣人間と交信できる韮澤以外にはありえない。妖魔ハンターとして活躍を続けるうちに、もう全ての秘密を明かしてもいいだろう、と韮澤が判断して、相棒との出会いのエピソードを、「電氣人間の虜」として執筆、出版したというものだ。もしかしたら、作中にも登場するプロ作家である詠坂雄二に執筆を依頼したのかもしれない。であれば、この本の作者が「詠坂雄二」であるということも、作中世界から逸脱することなく受け入れることができる。

書評というか、読み終わって考えついた、とりとめもないことを書き連ねただけになってしまったが、楽しめました。
詠坂雄二は今後も追いかけていこうと思います。

No.2 7点 遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? - 詠坂雄二 2014/07/23 09:43
まるごと作中作という構成、首切りのホワイダニット、最後の一行まで驚かせる構成と、ミステリとしては楽しめた。しかし、何だか釈然としない、しこりのようなものが残るのはなぜだろう。それは、主役の佐藤誠がシリアルキラーであるにも関わらず、充足した人生を送って死んでいったことへの嫌悪感なのか。
作中のルポで、世間が佐藤誠を英雄視することへの疑問を呈していたが、それを言う本人が佐藤の信奉者で獄中結婚までしてるのだから、説得力ゼロである。あの世界のネットでは、「佐藤誠まで結婚できているというのにお前らときたら」などと書き込まれているのだろうか。
現実でも大量殺人者が英雄視されることへの皮肉や批判が込められているのだろうし、作者もミステリの仕掛けとしてこういった構成を取ったにすぎない。
それでも、佐藤に殺された他の八十人近くの被害者の遺族はどんなことを思っているのか、ということを考えてしまう。
よくできたミステリで、読中は楽しんでいたし、「フィクションにそんなに目くじら立てることもないだろ」と言われるかもしれないが、やはり私はこういう作品は好きじゃないと痛感した。

No.1 4点 リロ・グラ・シスタ- 詠坂雄二 2014/07/20 21:34
有栖川推薦、という触れ文句で購入した。
例のトリックものであった。これが使われた小説を読むのは、私がここ最近読んだ小説7作中これで3作目である。いくら何でも頻度が高すぎないだろうか? 手軽に読者に驚きを与えられる方法ではあるし、流行りがあるから仕方ないのだろうか。それとももうミステリは、(読み手がスレたこともあって)こういった手法でなければ読者を驚かせることはできなくなったのか。そもそも、読者を驚かせるだけがミステリではないと思うのだが。

本作については、まず他の方々もご指摘の通り、非常に読みにくい文体に、まず戸惑った。(お前本当に高校生かよ、と突っ込みも。作者は大人かもしれないが、一人称で語る作中人物が何者であるかを考慮してほしい)事件自体も「早く真相を知りたい」と思わせる引力に欠け、惰性で読み進めたようなところがあった。(それ故に最後のあれが必要だったのかもしれないが)
しかしながら、最近の書き手としては、SF、ファンタジー、ホラー的世界を使わない、リアル派路線の作風らしいので、今後に期待したい。

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名探偵ジャパンさん
ひとこと
絶対に解かなければいけない事件が、そこにはある。
好きな作家
有栖川有栖 綾辻行人 エラリー・クイーン
採点傾向
平均点: 6.21点   採点数: 370件
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