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名探偵ジャパンさん
平均点: 6.21点 書評数: 370件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.9 6点 倒叙の四季 破られたトリック- 深水黎一郎 2020/01/02 17:19
作者初の「倒叙もの」だそうですが、器用な人ですから、それはもうごく当たり前に書きこなしてしまいます。こういう何でも出来る感においては、深水黎一郎の右に出る人っていないのではないでしょうか。

文庫化にさいして、ノベルズ版にあった最後のエピローグが削られたそうです。私が読んだのは、その文庫版だったため、気になってノベルズ版も確認してみました。

※以下、ノベルズ版のエピローグに触れています。というか、文庫で削ったということは、作者的にはこのエピローグは「なかったこと」にするつもりである可能性が高く、いわば「存在しないもの」に対してネタバレが成立するか? という問題はありますが。

ノベルズ版のラストでは、探偵が一連の事件の背後にいる「黒幕」の存在に気付き、そこへ捜査の手が伸びることを暗示して終わっています。このエピソードを削ったということは、文庫版においては本作の「黒幕」は未だ健在であり、もしかしたら、この「黒幕」を某名探偵の孫漫画の「地獄の傀〇師」よろしく、探偵のライバル的キャラクターに育てようという考えがあって、最後のエピローグを削ったのかもしれません。

No.8 7点 ジークフリートの剣- 深水黎一郎 2019/07/08 14:12
面白かったですねぇ。
最後の最後に披露される大ネタ「ジークフリートの剣」は、これ、感動していいんですよね?(笑)ここに至るまでの数々の仕込み、「ああ、あれも伏線だったのか!」ということも含めてが一気に氷塊して、非常にすがすがしい気持ちで読書を終えました。
私は今後、本作のタイトルを思い返すたび、いえ、それどころか全然別の場所、媒体で「ジークフリート」という固有名詞を目にするたび、この「大ネタ」が否応なく思い出されてきて、こみ上げる笑い、じゃなかった、感動を止められないと思います。よく「恐怖と笑いは紙一重」なんて言いますけれど、感動と笑いもそうだと私は思いますよ。いい話です。

No.7 7点 大癋見警部の事件簿- 深水黎一郎 2018/11/24 22:49
好きか嫌いかで答えろと言われたら、私は好きですね。
ただの「クズトリックのバーゲンセール」で終わらず、登場人物たちのドタバタ、特にメタ発言などで笑いを交えながらの展開に、「それ(バーゲンセール)だけでは読者に申し訳ない」という作者の矜持が見えます。
本格ミステリを知っている読者は笑え、本格ミステリ初心者も各話に出てくるミステリ用語の勉強になる(?)、隙のない作りになっています。

※以下「CHAPTER3 現場の見取り図」についてのネタバレがあります!



ただひとつ、「CHAPTER3 現場の見取り図」だけはいただけません。犯人だけ姓名ともに記載しているというのはアンフェアなのではないでしょうか。であれば他の人物も姓名揃えて表記するべきです。

No.6 7点 虚像のアラベスク - 深水黎一郎 2018/09/30 20:00
公演を控えた名門バレエ団に「公演を中止しなければどんでもないことが起こる」という意味の脅迫状が届けられる。欧州から来る要人もその公演を鑑賞する予定であることから、警視庁の海埜警部補が警備の担当に当たることになって……

二編の中編で構成された一冊です。二編にストーリーのうえで繋がりはないのですが、必ず一本目の「ドンキホーテ・アラベスク」から先に読んで下さい(ちなみにラストに「史上最低のホワイダニット」というタイトルで別項が設けられていますが、これは二本目の「グラン・パ・ド・ドゥ」の続きですので、決して先に読んでしまわれないようご注意下さい)。
一本目の冒頭から、バレエに関する専門用語とその解説が執拗に書かれます。正直退屈なため読み飛ばしたくなるのですが、面倒くさがらずに、これらの用語(とそれらが意味するバレエ特有の動作)をしっかり憶えておくと、二本目がより楽しめます。その意味からも、絶対に一本目から順に読むことを強くお勧めします。

深水黎一郎の代表シリーズ「芸術探偵シリーズ」で、しかも発行から半年以上も経っているというのに、まだ書評がなかったのですね。ぜひこの感動を多くの人たちで分かち合いましょう。

No.5 6点 言霊たちの夜- 深水黎一郎 2018/06/17 19:50
ミステリではないのですが、かなり笑えるので好きです。
特に三話目の「鬼八先生のワープロ」は、出だし数ページでもう、作者が何をやりたいのか、何を読ませて、どう笑わせてくれるのかが手に取るように分かり、実際そのとおりでした。
とはいえ、これは決してネガティブな感想ではなくて、予想を越えて期待に応える、想像していた以上に凄まじかったですね(笑)
言ってみれば、全編下ネタの嵐で、読む人をかなり選ぶ内容ですが、ただのおふざけではなく、知識と教養に裏打ちされた下ネタとでも言いましょうか、下品だが上品な仕上がりとなっています。ただ、でも絶対に人を選びます(笑)気が置けない、寛容な人にしか勧めてはいけません。
逆に言えば、もし本作を(特に「「鬼八先生のワープロ」が面白いよ」などという言い方で)勧めてくる人がいたら、その人はあなたのことを相当に心の広い人物だと認めてくれているということでしょう。

No.4 7点 人間の尊厳と八〇〇メートル- 深水黎一郎 2017/08/28 20:19
上質な作品が揃った短編集でした。

「人間の尊厳と八〇〇メートル」
表題作であり、一本目に持ってくるだけあって、かなりの完成度です。「日常の謎」と言うほどゆるくはなく、読み終わってみれば、漫画「カイジ」に通ずるような虚々実々の駆け引きが行われていたことが分かる、変則的などんでん返しものでしょうか。

「北欧二題」
一本目でハードルが上がった、というわけでもありませんが、打って変わってオーソドックスな「日常の謎」ものが二本続き、肩すかしをくったような。ただ、カタカナを一切用いない文章は反則的にかっこいいです(笑)。

「特別警戒態勢」
ミステリに慣れた人であれば、すぐにオチは読めるでしょう。ですが、短い中にうまくまとめられており、さすがの構成力の高さです。

「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」
結果的に犯罪を暴いたのですから、この「牙」はいい方向に働いたのでしょう。「善人」である被害者の行為を「牙」と感じてしまうこと自体が、その人が悪人であるということなのでしょうか。考えさせられる一作です。

「蜜月旅行LUNE DE MIEL」
ミステリ……? まあ、面白かったですけれど。
海外旅行で浮かれる無粋な日本人。それをコケにして優越感に浸る元自由人。無粋も自由人もひっくるめて、旅行者全てを金づるとしか見ない現地人。これも色々と考えさせられました。

真面目な(?)本格から、「ミステリー・アリーナ」のような変化球。「最後のトリック」のような型破りまで。深水黎一郎の引き出しの深さを改めて知った短編集でした。

No.3 8点 ミステリー・アリーナ- 深水黎一郎 2017/08/22 20:34
かなり凝った趣向の大作でした。
作中の「ミステリー・アリーナ」という番組自体に何か仕掛けがあることは、かなり早い段階から提示されますが、出題テキストと、それに答えていくキャラクターと司会者のやりとりが面白く、いい意味で、「仕掛けはとりあえずどうでもいいから、解答を聞かせてくれ」という気持ちになります。

作中作が、あの手この手で回答者を騙しにかかる手段は、「作品を楽しむ」「作品で楽しませる」というよりも、「どれだけ早くトリックを見破るか」「いかに読者を騙すか」に重きが置かれる昨今のミステリ事情を強烈に皮肉っている、と捉えることも出来るのではないでしょうか(それだけがミステリを読む目的であれば、ミステリ「小説」という形を取る必要はなくなるでしょう。「推理クイズ」的なテキストに特化するべきです。まあ、「推理クイズ」で十分だろ、と言いたくなる「ミステリ小説」もあるにはありますが)。

騙し手段のそのほとんどが、「よく読め、確かに書いてあるだろ」的な詐欺まがいの契約書のような細かい記述トリックと「よく読め、嘘は書いてないだろ。お前の勝手な勘違いだ」という叙述トリックに終始しているというのも、昨今のミステリの流行りを茶化しているように思います。
ラスト付近である人物が語る、これまた昨今流行りの「多重解決を成立させるために〈タイムリープ〉や〈パラレルワールド〉を持ち出すSF的設定」についても、その人物は痛烈な言葉を投げかけます。これには私は全面同意してしまいました。

「暮しの手帖」を編集した花森安治が言った、「ミステリを読む醍醐味は騙される快感にある。それを先回りして謎を解くなどというのは、ミステリの読み方としては愚の骨頂」という意味の言葉を思い出しました。

No.2 6点 花窗玻璃 シャガールの黙示- 深水黎一郎 2015/11/04 11:51
河出文庫から、「花窗玻璃 天使たちの殺意 」というタイトルで改題、加筆修正されたもので読了。
「あの『最後のトリック』の作者による何とか」みたいな帯が掛かっており、「またぞろ何か仕掛けが?」と思い構えて読んだが、ごくオーソドックスなミステリだった。
本編の半分近くは芸術、聖堂に関する蘊蓄。特に読む必要はないが、作者の語り口がうまいのか、飽きることなく読ませられる。面倒な方は、「事件の舞台となった聖堂だけ、左右の塔の高さが揃っている」という蘊蓄だけ憶えていればいいです。(なにげにネタバレっぽい)
幻想的、芸術的でハイソサエティな作風に似合わない、豪快で力業なトリックは、かえってギャップ萌え(?)しました。
作中の探偵の言葉で、「言語文化が衰えていくのを食い止めるのも作家、言語学者の使命」みたいな台詞があり、なるほどそうだな、と思った。一般の人たちが言葉の楽な言い回しや、簡略化、誤用による意味の変化などに慣れていくのは仕方ないが、言葉を商売道具とする作家までもがそれに倣ってしまっては駄目だ、ということだ。

No.1 7点 ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!- 深水黎一郎 2014/12/05 10:32
河出文庫で「最後のトリック」の改題で出版されていたもので読了。
当初の変なタイトルの頃のものからは加筆・修正が成されているらしい。
ミステリにおける「意外な犯人カテゴリ」最後にして難攻不落の砦「犯人は読者」に挑戦した意欲作。
結果として、他の方も書かれている通り、読者(もちろん私も含まれる)に殺意がないため、皆が想像したような「読者=犯人」の成立は微妙といえる。(言うなれば過失致死といったところだろうか)
しかし、そこを抜きにしても、導入部から引き込まれ一気に読んでしまった。普通にミステリとして面白いため、「犯人は読者」という色眼鏡を掛けた状態で読み始めてしまうのはもったいないかなと思った。だがこのキャッチーな煽りがなければ、本作を書店で手にしたかと言われれば唸ってしまうところで、作品の売り方というのは難しい問題だなと改めて感じた。
通常のミステリのように、明らかな殺意を持って被害者を殺害せしめ、トリックを労して完全犯罪の成立をもくろみ、しかし、最後には名探偵の推理の前に屈服する真犯人。それが本を読んでいる読者。そんな小説を書くというのは、果たして可能なのだろうか? そしてもしそんな小説が出て来た暁には、ミステリ界はどうなってしまうのか。
誰もが書きたい、読みたいと思いながらも決して届かない地平、「犯人は読者」それを体験できる日がいつか来るだろうかと、未来に思いを馳せてしまった。

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名探偵ジャパンさん
ひとこと
絶対に解かなければいけない事件が、そこにはある。
好きな作家
有栖川有栖 綾辻行人 エラリー・クイーン
採点傾向
平均点: 6.21点   採点数: 370件
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