皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
名探偵ジャパンさん |
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平均点: 6.21点 | 書評数: 370件 |
No.7 | 4点 | 黒い森- 折原一 | 2020/05/16 15:57 |
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折原一はときどきこういうことをやりますね。
本の前後がそれぞれ「生存者」「殺人者」というタイトルになっていて、その両方を読み終えたら、いよいよ完結編ともいうべき「206号室」に進みます。この「206号室」は袋とじになっていて、否が応でも期待を高まらせます。ですが…… 完全な「ギミック負け」の一作になってしまった感があります。「前後どちらから読んでもよい」と言いながらも、「なるべく「生存者」のほうから読んでくれ」とも書いてあるので、こんなことなら普通に前後編にしたほうがよかったのでは。 作中の「ミステリーツアー」の目的も早々に察することができますし、ラストも特に意外性のあるものでもなく、「インパクトがあったのは本のギミックだけ」という作品になってしまったと思います。 折原一は多作ゆえか、当たりはずれの落差が他の作家よりも激しいように感じます。 |
No.6 | 5点 | 蜃気楼の殺人- 折原一 | 2018/05/20 21:39 |
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折原一といえば叙述トリックの第一人者ですが、かつて「ミステリといえば旅情もの」という時代がありました。その時代においては、「旅情ものを書かねばミステリ作家にあらず」とまで恐らく言われていたのでしょう。仕方なく(?)折原も旅情ものを書き、そこへ得意の叙述トリックも組み込んだのですが、旅情と叙述は「ベストマッチ」とはいかなかったみたいです。
折原ミステリには、やはり狂った人間が必要です。最後になってようやくそういった人物が出てくるのですが、時すでに遅しというか、場違い感がすごいです。折原作品としては異色というか、楽しみ切れない中途半端な作品になってしまったのは残念です。 |
No.5 | 8点 | 冤罪者- 折原一 | 2017/08/03 20:45 |
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これこれ! これですよ、これが折原一の真骨頂!
これだけの長さ、登場人物の多さ、事件の複雑さ。だけれど読ませます。 「これはきっと、ああだろ。で、この人が実はこれで……」と予想しながら読み、また、その予想をある程度当てさせて、読者が気持ちよくなったところで、さらに裏をかく。ボールを持たせて、主導権を握った気にさせて、いい気分になったところを速攻カウンターの餌食に。みたいな感じでしょうか。 内容がかなりきつく、女子供にはお勧めできない(女子供は折原一を読まないだろ!)というところが玉に瑕でしょうか。 |
No.4 | 5点 | 遭難者- 折原一 | 2017/08/03 20:41 |
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うーん。凝った構成の割には……。
逐一挿入される様々な書類。登山計画書、検死報告書、登山行程地図。はたまた、写真まで。これらが何かトリックに意味を持ってくるのだと信じて疑いませんでした。 決してつまらないわけではないのですが、ちょっと乱暴に言うと、これくらいの内容であれば、ここまで凝る必要はなかったのでは。と思ってしまいます。 ミステリ(サスペンス)として一定の水準は当然クリアしているのですが、我らが折原はこんなものではないんだ。と言いたくなるのです。 |
No.3 | 7点 | 倒錯のオブジェ 天井男の奇想 - 折原一 | 2017/07/25 23:14 |
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折原一の作品ほど、語るに困るものはないのではないでしょうか。
いえ、「叙述トリックだよ」というのは、そもそも折原作品にとってはネタバレになりえないのですが、内容についてどう語ったらいいのかが分かりません。 「それじゃあ無理に書くなよ」と言われればそれまでなのですが、私も中には「読んだけれど特に語りたいこともないため書評を書かない作品」というものも結構あります。ですが、折原作品については、何か触れておかないといけないような。それほど力のある作品ばかりですから。 折原一。もっと有名になってもいいのではないでしょうかねぇ。ミステリファンの中では当然ビッグネームですが、一般の人にも浸透してほしいというか。ガチガチのミステリってアレルギーを持つ人も多いでしょうが、折原作品みたいなのは好きな人も多いでしょう。作風から映像化可能な作品が少ないせいもあるのでしょうが。 あ、本作については、かなりの技巧を凝らしている割には分かりやすい構造をしているのではないでしょうか。折原レベルの作家であれば、いくらでも構造を複雑にすることは出来るでしょうが、読者に伝わらなければ意味がありません。その着地点を折原はよく分かっています。さすがです。 折原作品を読み慣れている人は「天井男なんて妄想でしょ」読み慣れていない人は「天井男の正体って何?」そう思いながら読み進めることでしょう。そのどちらに対しても驚きの結末が用意されています。 |
No.2 | 7点 | 倒錯の死角−201号室の女−- 折原一 | 2017/05/01 01:08 |
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「読んだと思っていたのに、実は読んでいなかった」という作品は結構ありまして、本作もそのひとつでした。(折原一の作品は似たようなタイトルが多いので)
作者の実質デビュー作。「デビュー作にはその作家の全てが詰まっている」とはよく言われることですが、言い得てまさに。「視点」「時間軸」「反転」「誤解」叙述トリックに用いられるありとあらゆる技巧が駆使され、「これぞ折原一」というにふさわしい作品に仕上がっています。 「ある登場人物に対する錯誤」も、他の方が書かれているように「いやいや、それは間違えないだろ」と思ってしまいますが、最近の世間を見るに、そうとも言い切れないような気がしてきます。「姉妹?」と思ってしまう親子や、「えっ? そんな年齢なの?」と驚く芸能人など、たまに見かけますし(なにげにネタバレ)。時代がようやく折原に追いついたのでしょう(多分、違う)。 |
No.1 | 4点 | 帝王、死すべし- 折原一 | 2015/01/16 10:07 |
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「久しぶりに折原一の叙述トリック(読む前から決めつけてる)に騙されるか」と、文庫新刊コーナーにあった本書を購入した。
まあ、裏表紙に「叙述トリックの名手、折原一の…」としっかり書かれちゃってるし。 読了して、何だろう。騙されたことは騙されたが、いまひとつ、かつての折原作品を読んだ時のような、「うわー」感がなかった。 どんな凄いマジックも、見慣れてくると凄いと感じなくなるようなものだろうか。 叙述トリックというものが、「読者を驚かせる手段」から、「それを使うこと自体が目的」になってしまった感じがある。 折原一のそれは、もはや「名人芸」の域に達して、「驚く」というより、「さすが」と喝采するようなものになってしまったのではないだろうか。 大ベテラン漫才師の漫才に、爆笑はしないが、「うまいなー」と感心してしまう心境に似ているだろうか。 「帝王の正体はこの人だったんです」 「そうでしたか」 「嘘は書いてませんよね」 「そうですね」 「騙されましたか」 「はい、騙されました」 何だか小説を通して作者とやりとりする会話が、無機質なドライなものに感じてしまった。 |