皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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アイス・コーヒーさん |
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平均点: 6.50点 | 書評数: 162件 |
No.8 | 7点 | 乱れからくり- 泡坂妻夫 | 2014/12/13 12:24 |
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日本推理作家協会賞受賞作。「玩具」や「からくり」をテーマに玩具メーカーの一族に起こった惨劇を描く本格ミステリになっている。
前にも後にも例がある真相ではあったが、それでも尚結末の驚きは凄まじかった。著者らしい騙しのテクニックが存分に活かされていて極めて完成度も高い一冊になっている。冒頭で隕石が降ってきて人が死ぬあたりから相当荒唐無稽な話ではあるが、一応筋が通っているので安心して読める。唯一気になったのはアレとアレの誤認というトリックで、これだけは納得がいかなかった。 また、からくり尽くしの「ねじ屋敷」に仕掛けられた庭園迷路の謎も面白かった。まさかあの図面を使って…。真相に直接かかわってくる謎ではないと思うが、細かいところにこれだけのこだわりが出来るのも著者の強みだろう。玩具のペンダンチズムもそれなりに楽しんで読んだので自分は最初から最後まで退屈しなかったが、この手の薀蓄が嫌いな人は一字一句いやいや読むくらいなら適当に読み流した方がいいだろう。 これら様々なネタを詰め込んだうえで、一つの結末に向けて作動する壮大なからくりを作ってしまうのは凡人には出来ない仕事だ。感心した。 |
No.7 | 8点 | 11枚のとらんぷ- 泡坂妻夫 | 2014/06/21 18:33 |
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マジキ・クラブなるアマチュア奇術クラブを巡って起こる、奇術にまつわる見立て殺人を描いた本作。最初から最後までまさに奇術尽くし。
見どころはやはり作中作「11枚のとらんぷ」だろう。奇術に関するトリックを小説風にまとめた短編集というこれは、各々が面白くてよく出来ていた。確かに実演は難しそうだが、そこが推理小説においての騙しの面白さだろう。 本筋の物語では、この作中作を見事に利用して殺人事件の真相を解き明かしていく。張り巡らされた伏線といい、犯人当てのロジックといい、本格ならではの楽しさが堪能できる。 しかし、重要な役割を占める作中での奇術のトリックなど、視覚的なイメージが思い起こせないと分かりづらい部分があり少し残念だった。(この問題は「しあわせの書」にて克服される。) 著者のマジシャンとしての才能を存分に発揮し、凝りに凝って書かれたという点で、驚くべき作品。そして、ユーモアも忘れない著者には感服。 |
No.6 | 6点 | 生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術- 泡坂妻夫 | 2014/04/08 17:30 |
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「しあわせの書」を超える驚愕の仕掛け本として出版された本作。その特異な形状については改めて説明する必要はないだろう。今年に入って復刊されたことは、非常にありがたい。
袋とじのままで読める「消える短編小説」は、話の流れもぎこちなく、良くわからない展開だ。設定上やむを得ないところではある。しかし、ページを切り開いて長編になった途端、次々とトリックが炸裂して全く違った世界が見えてくる。この珍しい演出が見どころだろう。 長編の内容は、透視術を巡る超能力のインチキを見破る地味なもので、大きな期待をかけてはいけない。ただ、ガンジー、不動丸、美保子のユーモラスな会話が前作以上に登場し、面白かった。一つ残念だったのはページ数の都合からか、謎解きが分かりづらかったこと。そこは、読者が頭を働かせてよく理解するしかない。 今は亡きミステリー界のマジシャンが遺した力作を、是非多くの人に読んでほしいと思う。 |
No.5 | 7点 | しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術- 泡坂妻夫 | 2014/03/20 19:50 |
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巷で話題の「しあわせの書」。泡坂氏によって仕掛けられた「あるトリック」が見事だった。この手の遊び心はミステリファンでなくとも楽しめる。
次元の違うメイントリックはさておき、書評を見てみると本筋の内容はあまり面白くないという意見が多いようだが、私はその点も満足している。この設定でこれだけの内容をかける作家は、泡坂氏をおいてほかにいないだろう。確かに展開が歪なところもあるが、クライマックスは事件の真相に驚かされっぱなしだった。(ところで、最重要人物だと予想していた桂葉華聖が、途中ほとんど登場しなかったのは残念。) 一つ残念だったのことは、「妖術」で登場人物たちの動きにあった滑らかさが失われてしまったことか。やはり、ヨギガンジーは短編向きの探偵だ。 |
No.4 | 6点 | ヨギ ガンジーの妖術- 泡坂妻夫 | 2014/03/05 17:27 |
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近頃話題の「ヨギ ガンジー」シリーズ最初の短編集。謎のヨガ使い、ヨギ ガンジーが妖術と奇術を使ってインチキ超能力を見破っていく。ネタとしては地味だが中々笑える。
トリックがよく出来ているのは「帰りた銀杏」や「蘭と幽霊」。奇術のネタが元となっているため、真相は肩すかしだったりするがそれにしても完成度は高い。ちょっとした伏線、怪奇性の提示、そしてガンジーの解決。ヨガ探偵の個性が光る。 また、心理トリックを使った「釈尊と悪魔」などは「亜愛一郎」的な部分があって、本作の趣旨から外れている気もするが名作には違いない。 他にも、ガンジーらしさが堪能できる「ヨギ ガンジーの予言」などミステリとしてはそれほどではないにしろ、構成やストーリーの上手さ、さらには泡坂的ユーモアが目立つ連作短編集だ。早速、未読の「しあわせの書」を読まねば。 |
No.3 | 8点 | 亜愛一郎の逃亡- 泡坂妻夫 | 2013/11/12 18:43 |
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カメラマンにして名探偵、亜愛一郎最後の短編集。ついにあの人物の正体も明らかになり、大団円を迎える。
個人的には「火事酒屋」がベスト。心理トリックや論理などのあれやこれを詰め込んだ傑作だ。なかなかあれは気付かないもの。逆説的な「赤島砂上」や、軽快な展開と解決にいたるまでの道筋が楽しい「球形の楽園」も面白かった。「歯痛の思い出」はいつ事件が起きたのかもわからない異色作だが、鮮やかな解決を見た。すべてが伏線である。 そして「亜愛一郎の逃亡」は、まず意外な裏設定に驚く。あの人物はいつも登場するから大体その目的は分かるが、良く出てくる○○○○氏が○○だったとは…本筋のトリックが肩すかしだったのはわざとか?最後に愛一郎のルーツである、あれが出てきたときは感動した。 |
No.2 | 8点 | 亜愛一郎の転倒- 泡坂妻夫 | 2013/10/24 17:20 |
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容姿は二枚目、立居振舞は三枚目なカメラマン・亜愛一郎の短編集第二弾。
奇抜なトリック、興味深いテーマ、言葉遊び的なパズルという点で前作とはかなり類似した構成となっている。個人的なベストはさっきタクシーから降りたはずの人物が、後部座席で首を切られて死んでいる「三郎町路上」。首切りの理由や、運び込んだ方法など不可能に見える殺人を亜が解決する様子は痛快。 回文をテーマにした「意外な遺骸」や病院を舞台にした不可能犯罪「病人に刃物」なども奇抜で面白い。 一作一作にそれぞれのテーマが決められ、そこから読者を引き離すように勧められていく展開は、右手に注目させておいて左手で作業をする手品の様。ただ、テーマに走りすぎて違和感が消えてしまう作品も見受けられたので、前作よりはやや劣る(某作品は題名からしてわかってしまうかも。)。というより前作がすごすぎたのか… |
No.1 | 9点 | 亜愛一郎の狼狽- 泡坂妻夫 | 2013/09/29 13:19 |
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雲や虫ばかり写すカメラマンの亜 愛一郎、グズでドジながらもひとたび事件が起これば名探偵ぶりを発揮する。シリーズ第一弾。
「DL2号機事件」を最初に読んだときは、その犯行動機の馬鹿馬鹿しさに感心した。確かにそれは人間が誰しも考える事で、狂人の論理的思考を鋭く分析したものだ。 個人的には「曲がった部屋」が気にいっている。これも心理トリックでありながらも、物理トリックを応用した名作。他にも「黒い霧」で犯行理由を追及したり、「掘出された童話」で暗号を解読したり、と盛りだくさんでとても楽しめる。手品の様でありながら、種を明かされるとなおさら興味をひかれる。 |