皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1121件 |
No.181 | 7点 | エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン | 2012/01/16 22:09 |
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首なし死体、T字十字架への張り付け、連続殺人という、小説でしかありえない、陰惨で劇場的な展開は基本的に好き。エラリイの国名シリーズを読むのは4作目だがこれだけ事件が間断なく連続するのは、(「悲劇4部作」を除いて)珍しいのではないか。一事件を追う過程がじっくりと描かれているのもそれはそれでよいのだが、こういう、間断なく事件が続くことで謎が深まる(=逆説的だが、逆に真相が見えてくる)展開も停滞感がなくてよい。そういう意味で、飽きることなくページを捲ることができた。
ただし、真相解明への決定打の提示については、うーん・・・だし、何よりもこれだけの大掛かりで劇場的な犯罪を仕組むにしては動機が抽象的&大衆的過ぎる気がするのが難点(もっとはっきり言えば薄弱)。ツヴァール家とクロサック家の対立という、それらしい背景が用意されていただけに、それなりのものを期待していた。 |
No.180 | 6点 | 殺戮にいたる病- 我孫子武丸 | 2012/01/16 21:39 |
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(ネタバレあり)
このサイトの評価を見て思うに、この手の、読者にどんでん返しを食らわす叙述トリックものは、それがその人にとって「最初に読んだ『この手のもの』」かどうかが重要なのではないか。つまり、こういう叙述トリック作品は初めて接したときが最も衝撃が大きく、逆に言えば、以降は(同類の作品に接しても)その作品を越えることはできないのでは。綾辻行人の某作品、歌野昌午の某作品、乾くるみの某作品が、投稿者によって非常に評価が高いのは、(勝手な推測だが)その作品がこうした叙述トリックとの初対面だったのではないだろうか。 私にとってそれは綾辻氏の某作品だったし、だからその後こうした作品を読んでもその衝撃を越えることはできない。本作品もそうであり、加えて「そうなんじゃないかな・・・」と予測ができてしまっていたのでなおさらだった。 しかし、仕掛け方が予測できただけで、その中味はさっぱり分からなかったし、何より展開自体がリーダビリティに優れており、飽きたり、一足飛びに結論だけを見たいと思ったりせずに楽しんで読めた。結末の驚きはそれほどでもなかったが、そのメイントリックに全てをかけた作品という印象はなく、過程の部分もなかなか読み応えのある魅力的な作品と感じた。 |
No.179 | 7点 | 開かせていただき光栄です- 皆川博子 | 2012/01/04 21:49 |
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18世紀のロンドン、外科医ダニエル・バートンは私的解剖教室を開き、5人の若い弟子とともに解剖学の研究の励んでいた。研究のためと、非合法にも屍体を入手していたこの教室から、身に覚えのない四肢を切断された少年と顔を潰された男性の屍体が。
事件の解明が進められていく現在と、事件の背景となった過去とが交互に展開され、最後にそれが一致するという構成が妙。師匠との信頼関係・結束に嘘はないが、何やら不審な様子も窺える弟子たちとの真意の測りあいも見もの。そんな弟子たちも一方で「解剖ソング」なるものをつくり、口ずさむユーモアもあり、場が和む。 ミスリードなのか本当に真相を解明しているのか、見極めきれない展開にページをめくる手が早まる。そのはやる気持ちに応えるだけの、驚きと納得の結末。読後感も良◎でした。 |
No.178 | 5点 | 叫びと祈り- 梓崎優 | 2012/01/04 21:05 |
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「砂漠を走る船の道」…砂漠の一行に起きた連続殺人。一番よかった。 「白い巨人」…巨大な風車の塔に消えた人の怪。うーん、そんなオチ? 「凍れるルーシー」…聖人リザヴェール様にまつわる怪。雰囲気的には嫌いじゃない。ただ、宗教色の薄い我々には理解できない。「叫び」…アマゾンの小民族に起こった悲劇。これはミステりーなのか? 「祈り」…この連作のオチ。個人的にはなくてもよかった。
そんな感じでこの評価です。 |
No.177 | 6点 | ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2012/01/04 20:55 |
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ヴァンスの高慢ちきな物言い、推理とは関係のないペダントリーはうっとうしい限りだが、「殺人犯の心理とはこういうものだ」「事件現場で大事なのはこういう点だ」などの持論の演説は(おそらくヴァン・ダイン自身の持論だろう)なかなか興味深く読めた。「犯罪の推理には物的証拠などより心理的根拠こそが最も重要」という考え、それによって真相に到達するフーダニットは、現代では通用しないだろうが、だからこそ今ではなかなかない作品とも言える。心理的要素から犯人をあばく過程もまたなかなか面白かった。 |
No.176 | 7点 | 麒麟の翼- 東野圭吾 | 2012/01/04 20:34 |
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冒頭の事件発生のシーンから引き込まれた。確かにミステリよりもヒューマンドラマの要素が濃い作品だが、それはそれで楽しめる。最初被害者として同情的に見られていた会社員家族が、事件の背景が明るみになるにつれ冷たくあしらわれていく様など、読み入ってしまう。
一応フーダニットの体はとられていると思うが、手がかりとなる情報があと出しになっている点は否めない。だが、結末の衝撃度は大きく、私としては「新参者」よりこちらのほうが(結末に限って言えば)好み。 やはり東野圭吾は加賀恭一郎シリーズがよい。 |
No.175 | 6点 | マスカレード・ホテル- 東野圭吾 | 2012/01/04 20:21 |
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警官がホテルマンに扮して一流ホテルでの予告殺人に対処するという設定、宿泊客のさまざまなエピソードが積み重ねられていく退屈させない展開、相変わらずの無駄のない軽快な文体など、高いリーダビリティで一気に読み進められた。
「新参者」のように、物語中の各エピソードがそれぞれにひとまず完結し、オチも用意されていて作者の構成の巧みさを感じさせられる。肝心の、本筋の殺人事件については、推理して読み進めるというより、進んでいく捜査を見物しているようになってしまうところはあるが、観客として楽しめるのでそれもまたよし。 |
No.174 | 5点 | ミステリが読みたい! 2012年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2012/01/04 20:06 |
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大衆的だが、いつも「このミス」は買う人間で、以前原書房の「本格ミステリ・ベスト10」も買ってみたら、内容的に似たり寄ったりで無駄遣いした気がした。この「ミステリが読みたい!」は今年初めて購入したが、こちらは買ってよかったと思えた。ランキング内容等はどうしても(なのか?)似通ったものになってしまうが、そのあとに100冊まで内容紹介・解説がされている点が大きく違う。ジャンル、テーマ別にランキングがされているのも興味深い。ミステリ読書の指針として実用性が高い一冊だと感じる。 |
No.173 | 5点 | このミステリーがすごい!2012年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2012/01/04 19:48 |
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私はAmazonやBOOKOFFで中古本を買ったり、図書館を利用したりと、書店で最新刊を購入することはめったにないので、今後読む本の参考になっている。ランキングは、他の方も書いているように独自色がなくなってきている=つまり、かなり一般的な人気投票になってきている感は確かにあるが、まぁ周りの人が多く読む本も読みたい庶民なので、個人的にはさほど不満はない。
「私のベスト6」が結構好きで、とても個性的なベスト6を選んでいるものに興味を引かれる。巻末の読みきり短編も、暇つぶしに読むにしてもなかなか質の高いものだった。 |
No.172 | 5点 | ゴーグル男の怪- 島田荘司 | 2012/01/04 19:31 |
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殺人事件の周辺に見え隠れする、ゴーグルをして町を疾走する謎の男・・・という、怪奇小説といってもいいような設定は、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズみたいな雰囲気。(表紙の絵もそんな感じ)もともとはTV番組の企画で作られたものを加筆修正したらしいので、そういう仰々しい、絵的にインパクトのあるものにしたのかな。
さまざまな登場人物の思惑や過去が倒錯する展開は、それなりに読み応えがあって面白かった。結末は一抹の消化不良感が残らないこともないが。 |
No.171 | 8点 | 警官の条件- 佐々木譲 | 2011/12/03 22:14 |
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前作「警官の血」の3代目、安城和也を主人公としたシリーズ2作目。前作で、上司・加賀谷の暗部を告発する役目を務め、辞職に追い込んだ和也が、捜査一課の係長に抜擢され、薬物ルートの摘発に取り組むことに。しかし、大きく様変わりしてきた麻薬ルートに対応できず、威信が失墜しつつあった警視庁がした決断は、加賀谷の復帰。加賀谷は一課としのぎを削る五課につくことになり、先を越されまいとやっきになる和也だったが・・・
ミステリというよりは警察小説。謎解きが主体ではないので、そういう意味での評価は高くないかも。しかし、和也と加賀谷の交錯する思い、衝撃(でもないかな?)の結末と、読み応えは十分。読後の満足感はかなり高かった。 |
No.170 | 8点 | 転迷- 今野敏 | 2011/12/03 22:03 |
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前作「疑心」の竜崎が恋に揺らぐ様はちょっと見たくなかったが、久しぶりに「原理原則」に則って迷いなく突き進む竜崎らしい竜崎を見て快感だった。降りかかる4つの困難を、一貫した姿勢で対処していく姿に胸がすく。楽しめた。 |
No.169 | 6点 | メルカトルと美袋のための殺人- 麻耶雄嵩 | 2011/12/03 21:56 |
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嫌味で子憎たらしいメルの推理も筋道だってきちんとしており、ミステリとしての質は高いが、「水難」のように超科学的な要素や偶然がからむこともある点では好みが分かれるかも。メルと美袋の決して友好的とはいえない関係も同じく。私も推理は楽しめたが、メルの非人道的な価値観にはちょっとついていけない感じも受け、必ずしも読後感がよいものばかりではなかった。 |
No.168 | 5点 | 謎解きはディナーのあとで- 東川篤哉 | 2011/12/03 21:44 |
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1作目「殺人現場では靴をお脱ぎください」が、推理の筋書きとしても、この作品の売りの宝生と執事の関係を知る驚きからも一番。2作目以降は、設定が分かった以上、パターンは分かるので、あとはトリック、謎解きの面白さにかかるわけだが・・・。まぁ1作目以上のものはなかった。でもそこそこは面白かった。 |
No.167 | 6点 | 出雲伝説7/8の殺人- 島田荘司 | 2011/09/18 22:08 |
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吉敷竹史シリーズ。山陰地方を走る6つのローカル線と大阪駅に、流れ着いた女性のバラバラ死体が。なぜか首はついに発見されなかった・・・。
犯人は作中でほぼ確定し、路線・時刻のトリックを解明するハウダニット。とはいえ、時刻表のややこしさを単純化する配慮が要所になされ、割とややこしくて面倒臭いという感じはなく読み進められた。 「天才肌の名探偵」御手洗潔と対照的な、地道で泥臭い吉敷竹史のキャラクターがよく出ている。よって、ストーリーの展開もまさに地道な捜査をそのままなぞるようだが、それが分かりやすい。トリックの妙もさることながら、犯人をあぶり出す最後の過程も趣向が凝らされていて、メイン以外にも謎解きが楽しめる作品と言える。 |
No.166 | 9点 | 人形はなぜ殺される- 高木彬光 | 2011/09/18 21:56 |
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このサイトで非常に評価が高いので中古で購入して読んだ。期待にたがわず、人形が殺されるという舞台設定、首なしや轢断死といった事件の陰惨さ、これぞ本格という雰囲気が存分に楽しめた。
「推理を楽しむ」タイプのミステリ愛好家の大好物、「読者への挑戦状」もあり、そういう点でも楽しめたが、その挑戦状が親切すぎたのか、タイトルが親切すぎたのか、「好きな割には推理音痴」の私がほとんど真相を看破できた。そういう意味で、読者の思惑をはるかに凌駕する「参りました!」という爽快感ではなく、「神津恭一郎の推理に肉薄できた」という自分への満足感で読後感もよかった。 それもすべて、精緻なプロットと、後出しなどのないフェアな作品展開によるものだと感じる。氏の他の作品も、是非読みたいと思えた。 |
No.165 | 5点 | フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン | 2011/09/18 21:34 |
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国名シリーズ第2作。百貨店社長サイラス・フレンチの妻、ウィニフレッドが,衆人注視のデパートのウィンドウで死体となって出てきた。事件当日から姿を消しているウィにフレッドの娘・カーモディ,明らかになるその素行,アパートに残された統一性のない書籍,ブックエンドの白い粉・・・さまざまな要素をつないで推理を組み立てるエラリイ―。
劇場型的な事件の幕開けに本格志向の期待が高まったが、その後の展開は正直そこそこ。些細な異変に目を向け、そこから推理を組み立てるエラリイの知見には圧巻だが、物証から人物の限定へと進む過程に大味さを感じる(つまり「このことができるのはこの人しか・・・」の部分が完全に物理的ではない気がする)が、時代を考えればいたしかたないかも。 少なくとも本格黄金期を飾った作者の名には恥じない、よく組み立てられた話であったことは間違いない。 |
No.164 | 8点 | 離れた家―山沢晴雄傑作集- 山沢晴雄 | 2011/09/18 21:20 |
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砧順之介の事件簿として「砧最初の事件」「銀知恵の輪」「死の黙劇」「金知恵の輪」、短編「扉」「神技」「厄日」「罠」「宋歩忌」「時計」、中編「離れた家」。アリバイトリック等をメインにした、基本に忠実というか、飾り気や無駄な伏線のない、リアリズム描写による質実剛健な作品群。作者の愛好家振りが表れた、将棋を題材にした「銀知恵の輪」「金知恵の輪」、二話が照応している「神技」「厄日」など、シリーズ的な趣向も面白いが、人間消失・瞬間移動のトリックを扱った表題作「離れた家」がやはり一番よかった。 |
No.163 | 7点 | 秋期限定栗きんとん事件- 米澤穂信 | 2011/09/18 21:18 |
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互恵関係を終わらせた小鳩君、小山内さんの煮え切らなさにやきもきするが、そっちのほうも、本筋の事件のほうも、ラストにすっと胸がすく。学園ものというライトな設定、事件も本格のような重さはないが、伏線もよく考えられ、下手な本格よりミステリ的にも面白かった。 |
No.162 | 5点 | こめぐら- 倉知淳 | 2011/09/18 21:01 |
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「Aカップの男たち」ブラ愛好家たちのおばかで大真面目なやりとり、「さむらい探偵血風録 風雲立志編」いちいちカメラをにらむ主人公の侍が最高。バカミスの面白さを堪能。ミステリ的には・・・かもしれないが、つまみ食いのように読書するにはオススメの一冊。 |