皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1148件 |
No.368 | 7点 | 死と砂時計- 鳥飼否宇 | 2016/02/27 18:05 |
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「魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室」
一短編として標準以上の出来。この一話目で、本物語の特殊な設定にも目が慣れる。凶器の在りかについてのくだりなど、秀逸。 「英雄チェン・ウェイツの失踪」 予想はできるのだが、そのうえでやはりオチがよい。そうだろうとは思ったのだが。 「監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦」 この話は”動機”が奥深くて面白い。禿頭にしていたことの説明も秀逸な仕掛けだと感じた。 「墓守ラクパ・ギャルポの誉れ」 思い出せないが、何かの作品で似たような設定の話を読んだ気が… 「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」 非常に面白かった。ラストの結びにも関係してくるのが、連絡短編集の構成としてもうまい。 「確定囚アラン・イシダの真実」 この話の、さらにラストが衝撃。いい気持にさせといて・・・やるなぁ。 |
No.367 | 7点 | 片桐大三郎とXYZの悲劇- 倉知淳 | 2016/02/20 22:03 |
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読みやすさ、ユーモラスな作調、一方で内容としてはしっかりロジカル。幅広い層に受け入れられそうな快作。
引退した聴覚障害の俳優が探偵役と、クイーンのドルリイ・レーンに重ねた設定になっているが、その探偵役の大スター・片桐大三郎のキャラクターはレーンとはまったく対照的で(表紙からも察せられるとおり)、味があってよい。倉知淳らしい。その表紙や登場シーンのイメージから、実力もなく、偶然やあてずっぽうで事件がうまく解決する、というパターンかと思ったら、いやはや推理に関しては純粋に天才的だった (笑)。 クイーンの悲劇四部作を知っている読者なら、思わずニヤニヤしてしまう設定や場面が満載だが、主となる謎自体は(あたりまえのことだが)別仕掛けで施してあり、上手につくってあるなあと思う。ただ、kanamoriさんがおっしゃっているように、私も「夏の章」と「Z」との関連はぴんと来なかった。ただ、作品としてはこの「夏の章」と、最後の「秋の章」が「やられた」感が強かった。特に最後の「秋の章」は、犯人と手口もすぐわかったのに、最終的に騙された…。 |
No.366 | 5点 | 赤い博物館- 大山誠一郎 | 2016/02/20 21:39 |
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時効等で捜査が打ち切られた事件の証拠品を保管する「犯罪資料館」。自らの失態でそこへの異動を命ぜられた、元捜査一課の寺田聡の役割は、そうした事件の証拠品を事件ごとにラベルを貼って保管すること。花形の捜査一課からの「左遷」に忸怩たる思いを抱える寺田だったが、館長の緋色冴子は実はキャリアで、未解決に終わった事件を、証拠品から再検討し、真実を暴き出す名捜査官だった―。
作品は事件ごとの短編。 ①「パンの身代金」…パンに異物を混入された製パン会社の社長が、金を要求され、犯人の要求に従ってお金を持って行った先で殺害。身代金(?)は手付かず。 ②「復讐日記」…女子大生と関係をもった教授が、彼女を殺害。その数日後に教授も殺害される。女子大生の彼氏の犯行として終結した事件だったが―。 ③「死が共犯者を別つまで」…交通事故で死んだ男が最後に残した言葉。「俺は交換殺人をした…」その真相は? ④「炎」…両親と叔母(母親の妹)を火事で亡くした幼い娘。叔母の元恋人が3人を殺害し、火を放ったことになっていたが…。 ⑤「死に至る問い」…26年前の殺人事件と全く同じ状況で行われた殺人。 「密室蒐集家」ほどではないが、基本的にパズラー小説のアイデア集。謎解き主体というかほぼオンリーで、そこが嗜好の主体にある読者には歓迎されるだろう。私も好きである。 ただ、「突発的に起こったことに対応したことによる不可解状況」というパターンが多い印象。そういう手で来られると、読者としては「そりゃ看破できないっしょ」って感じになるかな。 その点、②④はロジカルで面白かった。 |
No.365 | 3点 | まほろ市の殺人 冬- 有栖川有栖 | 2016/02/07 14:19 |
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ここまでの評価が低いのも納得。私は有栖川有栖のファンだけに、擁護したかったのだが、書評サイトである以上それはダメかな、と。
まず、この「真幌市」シリーズでは、我孫子氏が「夏」の作品で双子ネタを書いているので、ただでさえ「かぶってる」感があったうえに、そちらの方の質と比較するとさらに評価が下がってしまう。 簡単に言えば、偶然に次ぐ偶然、偶然の超過積載。いくらなんでも・・・・。 基本的に、有栖川氏のこういった企画的短編は、「機会があればどこかでやってみたかったアイデア」レベルのものがよくある気がする。 |
No.364 | 6点 | まほろ市の殺人 秋- 麻耶雄嵩 | 2016/02/07 14:10 |
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真幌市出身の人気推理作家・闇雲A子と、捜査一課刑事・天城憂が、市内で半月ごとに殺人を犯す「真幌キラー」を追う。コメディタッチのふざけた名前の登場人物でありながら、事件は陰惨、また主要登場人物も次々に殺されていくという、二面的でシュールな雰囲気は相変わらず麻耶氏らしい。
この短い作品の中でほとんど間断なく人が殺され続け、どんどん情報が増えていくので混乱してくるが、それらが巧みにまとめられ、意外な真相に結び付いていくさまを楽しむことができた。流石である。「A子」という変な名前も何かしらに関わってくるのかと思っていたけど、それはなかった・・・(笑) |
No.363 | 6点 | まほろ市の殺人 夏- 我孫子武丸 | 2016/02/07 13:59 |
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「まほろ市の殺人」シリーズ・春「無節操な死人」から、この「夏」へ。倉知氏の軽いタッチの作品から一転する。その反動もあったからか、ミステリとしてしっかりしている印象が強かった。
双子等、姉妹関係が出てくる時点でトリックはそこにあることは感付くのだが、予想を超えた結末だったので素直に面白かった。ただ、姉妹要素に+αされる要素の方が、(本当にそういうのがあるのか知らないけど)ちょっと現実離れしている感じがして、それは予想できないでしょ、とも思ったが。 双子ネタにもまだまだ余地はあるのだな、と感心させられた。 |
No.362 | 4点 | まほろ市の殺人 春- 倉知淳 | 2016/02/07 13:51 |
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舞台設定や軽妙なタッチの物語描写は読み易く好感が持てるが、話としては・・・最後まで読んで力が抜けてしまった。
バカミスと言っても差し支えないだろう。このシリーズは他に我孫子武丸、麻耶雄嵩、有栖川有栖という錚々たるメンバーで描かれているが、企画ものということもあり、各作家の遊び心というか、「書いてみたかったアイデア」集というか、そんな感じがする4編でもある。 |
No.361 | 6点 | 浜中刑事の妄想と檄運- 小島正樹 | 2016/02/07 13:38 |
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群馬県警の浜中康平刑事は、難事件や大きな事件の解決に何度も寄与し、数々の輝かしい実績をもって若くして捜査一課配属となった。・・・ただ、本人は全くそのような上昇志向はなく、鄙びた片田舎での駐在所勤務を切望している。普通の刑事なら「やった!」と小躍りするような手柄も、彼にとっては「また夢(駐在所勤務)が遠ざかる・・・」という悲劇でしかない。人が良く、望んでもいないのに手柄が「転がりこんでしまう」という一風変わった刑事を主役としたシリーズ中編2本立て。
どちらも、犯罪の場面から物語が始まる倒叙法で、その真相に浜中刑事らが迫っていく展開のお話だが、ただ犯人VS刑事のせめぎ合いが描かれいてるだけでなく、ちゃんと仕掛けも施してある。ただ、1作目も2作目も、伏線の張り方がややわかりやすく、何となくわかってしまう感じはしたが、それなりに真相には納得させられ、面白いと素直に感じた。 氏の作品は初読。基本的に本格王道タイプの方らしいので、そっちのほうをまた読んでみたい。 |
No.360 | 7点 | 悲しみのイレーヌ- ピエール・ルメートル | 2016/01/23 15:59 |
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多くの人が恐らくそうであるように、私も「アレックス」「死のドレスを…」を読後に、遡る形で本作を読んだ。これまでの2作が話全体に仕掛けを施すパターンだったので、それが作者の特徴だと思っていたが、デビュー作(?)の本作はさすがに一応フーダニットだった。とはいえそこはルメートル氏、猟奇的殺人、犯人とのやりとり、名作ミステリを絡めたミッシング・リングなど、そこに一色も二色も味が加えられており、展開部分が読み物として非常に楽しめる。だから、フーダニット作品であったにもかかわらず、読んでしばらくしたら、物語の概要は覚えているが、犯人は誰だったか忘れてしまっていた(笑)。ただちゃんと「犯人は誰か」というメインの謎も十分驚きに値する結果である。
まだ出版作品が少ないということもあり、これで一応、出版作品は網羅していることになったので、ルメートル作品は続けて読んでみようかと思う。展開部分を読み進めるのが楽しい作家だと思う。 |
No.359 | 6点 | 下山事件 暗殺者たちの夏- 柴田哲孝 | 2016/01/23 15:31 |
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昭和二十四年、鉄道総局は運輸省から独立し、「国鉄」として生まれ変わることとなった。その初代総裁に抜擢されたのが下山定則である。だが、この初代総裁の命題は、前代未聞の「職員10万人規模の人員整理(つまりクビ切り)」であった。当然、労組の激しい反発、社会不安の中、下山は団体交渉の矢面に立たされる日々。混乱の渦中、しかし7月4日についに、3万7000人の整理対象者を示した「第一次整理者名簿」を発表した。
それから一夜明けた7月5日。いつものように自宅を出た下山総裁は、午前9時半ごろ、「5分くらいで戻る」と運転手に言い残して三越本店へ入ったきり、行方が分からなくなった。「国鉄下山総裁失踪」のニュースが流れる中、翌7月6日未明、足立区五反野、国鉄常盤線の下り線路上で、バラバラの轢死体となった下山総裁が発見された。 これが戦後最大の謎とまでいわれる「下山事件」。史実である。 警察による捜査はされたものの、事件についての明確な結論は公的に示されぬままに終わり、事実上の「迷宮入り」事件とされているが、時を経て多くの関係者の証言が明らかにされ、現在では当時の政治的実権を握っていた者、あるいは暗躍していた者たちによる「謀殺」であったというのが最も有力な説である。 本書は、事件関係者と目される人物の孫である著者が、自身の取材活動により究明してきた真相を小説仕立てで書き上げたもので、実質、創作物語の娯楽ではなく事件の真相解明を主眼にしている。下山総裁の総裁就任から、迷宮入りとなるまでの顛末を時系列に沿って描き出している内容だ。 柴田氏が調査によって「明らかになった事実」をつなぎ合わせていく中で、その「隙間」を想像による創作で埋めていった、という体である。だが、各場面でのかなり具体的な描写は、これが「事実」であったのだとすると、背筋が寒くなる思いである。史実に沿って描かれているので、政府要人や闇組織のメンバー、事件の目撃者など非常に多数の人物が登場するのが厄介だが、主要な人物さえ理解できていれば問題はない。むしろそれより、当時のGHQと日本政府、GHQ内部の各機関の状況、社会情勢等についてある程度の予備知識がないと、難解に感じるかもしれない。 下山事件の推理では、清張の「日本の黒い霧」が有名だが、そういった他の著作を読んだり、ネットでのまとめを見たりしてから本書を読んだ方がよいかもしれない。 それにしても、このころの日本の事件には謀略、謀殺といった説があるものが多い。事実だとすると、法にまで関わる高級公人が、裏で人を殺していたということであり、空恐ろしい。 |
No.358 | 7点 | 七色の毒- 中山七里 | 2016/01/11 16:25 |
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色を含んだ題名を冠した、「切り裂きジャック」の犬養刑事を探偵役にした連作短編集。短編でページ数が限られているため、真相に結び付く伏線もどうしてもわかりやすい示し方になってしまい、各編とも序盤から中盤にはもう大体の真相が見えてくるが、持ち味が謎解きだけではない話なので大丈夫。著者の筆力、無駄のない展開で十分に満足できる。出版に際して書き下ろされた最後の「紫の献花」は、短編集の締め方が堂に入っている。
何よりも一番印象に残ったのは、E-BANKERさん、メルカトルさんも書かれているように「白い原稿」。主人公が「篠島タク」とか、出版社が被災地に文庫本を寄贈したとか、もうどう考えてもP社の文学賞事案への強烈な皮肉(批判)。ちなみにE-BANKERさん、私も「K〇〇〇OU」は読んでませんが、Amazonで¥1で1,000冊近く中古本として出品されていたところからも、推して知るべしです(笑) この「白い原稿」のことがあって「かなり楽しめた」かな。ただミステリ短編としてももちろん、十分平均以上のレヴェル。 |
No.357 | 7点 | 亡霊館の殺人- 二階堂黎人 | 2016/01/10 22:31 |
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カー・マニアの著者が、カー作品のパステーシュ2編と、翻訳版の解説やカー特集に寄せた論考を載せた作品集。
ミステリ作家には割とよくあることだが(というかミステリしかほとんど読まないので他ジャンルでもそうかもしれないが)プロである作家が、自身が好きな他作家のことになると いちファンになってしまい、その他作家のよさを共有したくて、「作家」という立場を大いに活用して推している。 もちろんミステリファンとしてその気持ちは大いにわかるし、やはり素人にはかなわない見識を備えているので、その「カー推し」は読んでいて非常に興味深く面白い。この7点はほとんどそれである。 実際私自身はカー作品は数点しか読んでいない。本書の「パンチとジュディについて」(ハヤカワ「パンチとジュディ」の解説文)で、クリスティやクイーンが世間に広く認知され多く読まれるのに対して、カーはマニアしかあまり手を伸ばさないことについて、著者の考察が書かれていたが、かなり的を射ていて自分で笑ってしまった。 しかしこの一冊を読んで「今年はカーを読んでみようかな」と思えた。そう思うと著者の目論見は成功している。 一編ずつ短いし、1日で優に読める。半分「ディクスン・カー ガイド」だと思って読んでも、損した気分にはならない。 |
No.356 | 8点 | 王とサーカス- 米澤穂信 | 2016/01/10 22:09 |
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まず、この「さよなら妖精」シリーズを読んでいなくても大丈夫。前作までを読んでいないとわからないことはない。そういう点で米澤氏はいつもフェア(?)な感じがする。
実は氏の講演を聞く機会に恵まれた。その講演の中で、「小説(ミステリ)を書くには三つの要素が揃えばよい」と話されていて、それは①物語②謎③舞台だとおっしゃっていた。そして氏のこだわりというか、信念として最も伝わってきたのは、「①物語と②謎は不可分のものでなくてはならない」と言われていたことだ。つまり、「こういう『謎』を解く話のアイデアができた」というとき、それをどんな物語の中でも使えるのではなく、その「謎」が必然的に結びつく物語でなければばならない、ということ。例えば本作品のメインとなる謎やトリックも、「この、『ネパールという舞台、取材に行った太刀洗…』といった設定の話と不可分に結び付いたもの」にならないとダメ、ということである。 前置きが長くなったが、それが見事に具現していた。米澤氏は、上記のような考えから「謎の解明だけで終わるミステリはダメ。ミステリはクイズではない。物語に結び付いて終わらないとダメ」ということもお話しされていたが、それがよくわかる。本作品も、一応フーダニットではあるが、骨子がそれだけの痩せたものではない。ジャーナリズムの意味について、受け止める我々について、私たちが気付かなかったそこに内在する問題について、ミステリとしての謎に絡んで描かれている。 米澤氏の深く考え抜かれたプロット、哲学的ともいえる深い物事への深い洞察に、こちらも腕を組んで考えてしまう。 |
No.355 | 7点 | 鍵の掛かった男- 有栖川有栖 | 2015/12/31 18:59 |
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大阪・中之島にあるホテルのスイートに5年にわたり長期滞在していた男が首つり自殺の体で発見された。警察はもちろん自殺で処理するが、同じホテルをよく利用し、死んだ男とも懇意にしていた大御所作家が、「自殺のはずがない。真相を調べてほしい」とアリス&火村に依頼する。
いつもワトソン役のアリスが、今回は探偵役としてかなり活躍していた。物語は「犯人は誰か?」以前に「自殺か他殺か?」の検討から始まり、フーダニットの捜査が主ではなく死んだ男・梨田がなぜ銀星ホテルに長期滞在していたのか?どういう過去があったのか?などの梨田の人生の謎を解くことに置かれる。 相変わらず読み易い文調と、アリスが探偵として活躍している面白さがあり、特に氏のファンである私には楽しかった。ただ、梨田氏の真相はかなり予想通り・予想の範疇だった。犯人は確かに予想外だったが、物語の本筋は「梨田氏は何者か?」であるので、結果として主たる謎は予想内で、副次的な謎について予想外だった、というようになる。 やはりガッツリ「連続殺人、犯人探し」というフーダニットを有栖川作品でよみたいなぁ。 |
No.354 | 6点 | その可能性はすでに考えた- 井上真偽 | 2015/12/31 18:40 |
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「その他の可能性をすべて排除する」という逆説的な方法で「奇跡」を証明しようとする探偵の前に、考え得る現実的な(正確にはあまり現実的ではないので…「どんなに不自然でもロジック上可能な)解明を次々と突き付ける挑戦者(?)という体のお話し。探偵への各刺客をかわした後に、その反撃がもとになってつきつけられる課題、という全体を通す仕組みはうまいなぁと思った。
作品の雰囲気として、円居挽の「ルヴォワールシリーズ」に近いものを感じたのは私だけ?絶世の美男美女が探偵や刺客を務める枠組みは、ラノベテイストな感じもなくはないが、仕組まれたロジックが決して「ライト」などとはいえないレヴェルにある。登場人物の格式の高さを描こうとしたためか、修辞がうるさすぎるきらいはあるが、深く考えられたプロットに舌を巻く面白さがあるのは間違いない。 |
No.353 | 5点 | 仮面病棟- 知念実希人 | 2015/12/17 21:32 |
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古本で購入したので知らなかったが、メルカトルさん曰く帯に「怒涛のどんでん返し!一気読み注意!!」とあるそうだ。ただ、最近の「どんでん返し」を謳う作品全般に多いのだが、「この後、まだどんでん返しがあるよ!」ということが内容的にも雰囲気的にも「わかってしまう」のがどうも…。本作品もその一つ。だから帯で謳うような衝撃はない。
さらに、そこで明らかになる真犯人も、ミステリを読み慣れている本サイトの読者なら半分以上予想通りだと思う。だから読後の印象は「そうだったのか!」よりも「やっぱりそうだったか」である。 ピエロのマスクをかぶった男が登場する、といったC.Cらしい序盤は非常に良かったし、その後もスピード感のある展開だったことは間違いないのだが、予想を遙かに超える仕掛けだったとは言い難い、といったところ。 よく考えられたプロットではあった。著者の今後に期待したい。 |
No.352 | 6点 | 書斎の死体- アガサ・クリスティー | 2015/12/17 21:19 |
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何をするにしても、「やってないこと」で「やりだすと かかりそうなもの」は二の足を踏み続けるもので…。いや何が言いたいかというと、クリスティ好きなんだけど、ずっとポアロに偏っててミス・マープルものは初めて読んだ。
基本的に事実が順に示されて、途中の推理過程はほとんど抜きで探偵役の推理がズバッと入ってくる感じはやはり同じような感じ。ただ、それでもポアロは割と行ったり来たりするけど、マープルは事実が分かったら直線距離で真実が見えてくる感じで、こっちのほうが天才肌な感じがした。 これはクリスティ作品に往々にして感じることだけど、仕掛けの一番の胆は「動機」。もう少し大きく言えば「事件の枠組み」ということで、それが後段に根本から大きく揺るがされるから、意外性が高まるのだと思う。そして「いかにもコイツが怪しい」という特定の人物を前半で作らないから、あざとさがなくてよい。 とりあえず、クリスティ作品でマープルものにも手を広げた点で、個人的には意義があった(笑) |
No.351 | 5点 | テミスの剣- 中山七里 | 2015/12/12 21:06 |
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「ミステリ」という観点から見ればそう評価は上がらないかも。基本的に「冤罪」を題材にした社会小説の色が濃いかな。それが一本太い幹としてあって、枝葉にミステリが数点添付されている、といった印象。
しかも、その「枝」は根元から分かれている感じじゃなく、幹のかなり上の方で枝分かれして一本一本も短い。つまり、話のかなり後段になってこれまでなかった事実がでてきて、急展開する。それでも一番の黒幕はかなり前からなんとなく予想がついていて、急展開の部分が「答え合わせ」のような感じになってしまった。 冤罪をテーマにおいた話自体は面白く、リーダビリティは高かったので非常に読み易かったし、先に述べた後半の急展開もなんだかんだいって「面白くなっってきたぞ」という印象はあったが、話全体の仕掛けに関してはやはり弱く、いわば「冤罪テーマの社会小説をなんとかミステリ要素も盛り込んで仕上げた」作品という感じ。 警察小説の疾走感が好きな人には好まれそう。ここまで書いておいてなんだが、基本は面白いと思う。 |
No.350 | 6点 | ゴースト・スナイパー- ジェフリー・ディーヴァー | 2015/12/07 21:02 |
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楽しく読めたことは間違いないのだが、充足感という域にまでは至らず、それがなぜなのか模糊としていたが、ここまでのお二方の書評にそれを教えていただいた。
1日ごとを追うお決まりの章立てで、スピード感、臨場感は変わらずあってよいのだが、そうか…なるほど…確かに「敵が小物」ね。それは当然組織の大きさとかそういうことじゃなくて、手ごわさとかそういうことね。 あと、微細証拠物件を収集して緻密に論理的に詰めていくのがライムの手法だけど…ラストの展開などはちょっと神がかりに飛躍しすぎ。大味なハリウッド映画みたいな詰め方だったなぁ。 個人的にうれしかったのは岐阜県関市のナイフ(要は包丁)が出てきたこと。まぁいい使われ方ではないけど。 |
No.349 | 7点 | 三幕の殺人- アガサ・クリスティー | 2015/11/25 22:03 |
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<ネタバレ要素有>
読んでから知ったのだが、この作品では創元版とハヤカワ版でなんと犯人の動機が全く違うそうな。私が読んだのはハヤカワ版で、ポアロが最後まで悩んでいたのはその動機の部分(悩んでいたのは第一の殺人だったようなので…確か。そこは両者同じらしいが)なので、結構評価に影響するのでは、と勝手に憶測した。提案だが、今後本作品の書評は創元版か、ハヤカワ版か明記してはどうか? 真相は予想外で、読んだ甲斐があると思える面白さだった。読者の情をさんざん引き寄せておいて、あっさり(?)切り捨てるどんでん返しに感じる人もいるかもしれない。だからこその「やられた」感はある。さすがで、上手いと素直に思う。 サタースウェイト氏は本作品の中心的人物だが、非常に良い意味で余分な温度がなくてよい。冷たい人間という意味では決してなく、客観的に事件を俯瞰する役割として非常に機能している。多くの読者が共感的感情を抱いて読む感じがする。ある意味読者視点の代替機能を担っていると思う。 発想・着想としては「ABC」に類似したものを感じないこともないが、全て読後の概観である。高いリーダビリティに牽引され、一気読みしてしまったことは間違いない。 |