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HORNETさん
平均点: 6.32点 書評数: 1148件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.408 7点 アルテーミスの采配- 真梨幸子 2017/02/11 11:39
 「アルテーミスの采配」と題された「週刊全貌」の企画は、「AV女優の素顔を暴く」という名目でインタビュー記事をまとめるというものだった。だがそのはずが、取材されたAV女優が次々に殺害され、取材にあたった名賀尻に困惑が広がる。やがて、企画の裏に、黒幕や邪悪な計画の存在が匂い始める。取材対象となったAV女優の連続不審死の真相は?そこにある黒幕の正体は?


 AV業界を題材としながら、芸能界の光と影や、富や名声にあこがれる人の俗的な本質を描くさまはなかなかに興味深く面白かった。この作家は、そういう俗っぽい人間欲や心の弱さなどを、登場人物の心情描写や語りによって描くのがなかなかに上手い。端から見れば、無思考に、流されて愚かなことをしているようにしか見えない人たちの内面を上手に言語化していると思う。
 個人的には、「殺人鬼フジコ」は話が進むにつれてだんだんと大味になっていく印象があったが、こちらはそれよりも丁寧に作りこまれていると感じた。

No.407 8点 ぼぎわんが、来る- 澤村伊智 2017/02/05 15:58
 第22回日本ホラー小説大賞受賞作。
 東京の製菓会社で働く新婚の田原秀樹のところに、会社の後輩が訪問者の取り次ぎに来る。後輩が話す伝言には誰も知らないはずの、生まれてくる娘の名前が。慌てて向かうがそこには誰もおらず、かと思うと、急に後輩の腕から血が滴り出す・・・。その後入院し、憔悴しきって会社を辞めてしまう後輩。その後も次々に起きる不審な電話やメールに、秀樹は幼いころ祖父に聞かされた、「ぼぎわん」という化け物の話に思い至る。
 途方に暮れる秀樹は、幼馴染の大学教授の伝手で霊媒師・比嘉真琴と、オカルトライターの野崎を紹介してもらい、その力を借りて解決を図ろうとするが―

 第一章は上記の田原秀樹の視点で描かれるが、その後第二章では妻の香奈、三章はライター・野崎の視点で描かれる。視点人物の入れ替わりにより、見えていなかった事実や心理が明らかにされ、ことの全貌・真実が次第にはっきりしてくる構成が秀逸。
 民俗学を下敷きにして「ぼぎわん」という名の由来や伝承が描かれていることも面白く、ホラーでありながらも幾分かのリアリティを感じる作品になっている。
 まるで映画を見ているかのように臨場感を感じながら一気に読んでしまうが、決して安っぽい疾走感で引っ張っているのではなく、緻密に練られたプロットと人物描写で読ませる筆力があった。
 よかった。

No.406 5点 小鬼の市- ヘレン・マクロイ 2017/02/04 17:51
 不審な死を遂げた報道機関の支局長・ハロランの後釜に上手いこと収まったフィリップ・スタークという主人公が、その死の真相を追っていく物語。現場に残された不可思議な状況からの謎の提示は魅力満点、その後のストーリーも平板な部分がなく、飽くことなく読み進められるが、ただ大戦中の政治事情が色濃く関係してくる点が難解だった。
 ラストは怒涛の勢いで伏線が回収され、マクロイの作りの巧みさが実感できる。ウィリングの登場の仕方は薄々わかっていたので驚かなかったが…。
 上記したように、当時の政治事情、各国の立ち位置についてそれほど知識がなく、その点で難しさを感じたので読者としてこの点数となった。作品のクオリティは高いと思う。

No.405 6点 真実の10メートル手前- 米澤穂信 2017/02/04 17:35
 「王とサーカス」を読んでからこちらを読んだ。「さよなら妖精」のシリーズは読んでいないので、逆から進んでいる感じか(?)。印象として、「王とサーカス」よりも主人公・太刀洗の無骨な雰囲気が強かった。話としてもブラックな要素が強い。こっちの方が好みかも。
 作りのクオリティは、話によってややまちまちだった感はある。

No.404 6点 ブラック・ヴィーナス 投資の女神- 城山真一 2017/01/23 21:23
 2016年・第14回『このミステリーがすごい!大賞』大賞受賞作。
 依頼を受けて、株式投資によって希望の金額まで増やす稼業を営む都市伝説の女「黒女神」こと二礼茜。大手銀行を辞めて公機関で働いていた百瀬良太は、ひょんなことから彼女の仕事を手伝うことになる。
 卓越した能力をもつ美人女性と、付き人さながらにアシストする冴えない男、多くの謎に包まれた女性の背景と、それが次第に明らかになっていく様子、など、非常に大衆受けしそうな内容で、映像化向き。実際にリーダビリティも高く、サクサク読める。現実離れした点は多分にあるが、エンタメと割り切って読めばそれはそれでよし。

No.403 8点 パイルドライバー- 長崎尚志 2017/01/23 21:03
 住宅街で起きた一家惨殺事件は、15年前に未解決となった事件に酷似した状況だった。退職して家業を継ぐことを考え始めていた刑事・中戸川俊介は現場に向かうが、そこに表れた男に脳天チョップを食らわされる。それは15年前の未解決事件を担当していた、“パイルドライバー”の異名をもつ元名物刑事・久井だった。アドバイザーとして捜査に関わることになった久井とコンビを組むことになった俊介。ぞんざいな態度に始めは反感を感じる俊介だが、類まれなる刑事としての嗅覚と捜査手腕に、次第に見方を変えていく―。
 軽快な文体とキャラ立てのよさ、なかなか巧みに仕組まれた伏線で、飽くことなく読み続けられる。捜査路線は15年前の事件との2本立てになるので、やや諸要素が複雑でややこしい点もあるが、逆に言えばよく考えてあるというか、 凝った仕掛けともいえる。脚本家(?)出身らしく、作家としてはあまり聞いてない名だが、普通に十分面白かった。

No.402 7点 逃げる幻- ヘレン・マクロイ 2017/01/07 19:23
 マクロイ作品初読だが、「なんて上手い作家なんだろう」というのが素直な感想。大戦後のヨーロッパの社会情勢、玄人好みの上質な書を書くが売れない作家の夫と大衆的で低俗だが売れている作家の妻という夫婦事情、その他複雑な家庭事情・人間模様が見事にクロスして描かれ、精密に絡んでいる。衆人環視化の中での人間消失、ムアでの殺人、密室殺人と魅力的な謎が順次提示され、様々な謎が積み重ねられていくのだが、ウィリングによる謎の解明がまた見事。
 密室の真相がちょっと拍子抜けしたが、それ(密室トリック)だけが単独にならず、犯人解明のライン上に乗っていたので〇。
 ただ、当時についての知識があまりないので、特にムア(?)などの描写についてイメージがあまり浮かばなかったのが難点…。

No.401 5点 ミスター・メルセデス- スティーヴン・キング 2017/01/03 15:51
 キング作品をそれほど読んでいるわけではないが、破壊力のあるホラーや、狂気を描いた作品のイメージが強いので、それに比べると本作品は、割と昨今ありがちな平板な話に思えてしまった。
 翻訳ものにしては読み易く、特に下巻は疾走感もあって一気に読めてしまうのはいいが、サイコな犯罪者と退職刑事の戦いという設定にもあまり新鮮さは感じられず、この評価になった。
 いかにも映画化がウケそうな話、と感じるのは私だけだろうか。

No.400 5点 孤狼の血- 柚月裕子 2017/01/02 16:02
 日岡秀一が初めての刑事勤務となり配属された捜査二課で、仕えることになった大上章吾は、広島弁のべらんめえ調で部下をどやしつけ、やくざからも「ガミさん」と一目置かれるこわもて刑事だった。金融会社の社員が失踪した事件を負うことになった2人だが、そこにはヤクザの裏事情が絡んでいる様子。捜査を進める中で、大上とヤクザのただならぬ関係が垣間見えるようになり、その公正とは言えない捜査手法に、日岡は大上への不信と反発を感じ始める。だが、大上の信念、どんな手を使ってでも目的を遂げようとする姿勢に、次第に見方が変わってくる・・・・
 ヤクザ組織の相手をする暴対の刑事たちが、決してきれいごとだけではやっていけないという様を描き出しているストーリーは骨太で、非常に読みごたえがある。読者としても、始めは大上のやり方に反発を感じる部分はあるが、日岡との人間的なやりとりを見ているうちに、次第に魅かれていく部分も確かにある。最後の仕掛けは半ば予想通りで、それほど驚きはなかったものの、結末としては悪くない感じがした。

No.399 6点 はなれわざ- クリスチアナ・ブランド 2016/12/24 23:33
 御多分に漏れず、クリスチアナ・ブランドの代表作と名高いため、「まずはこれから」と読んだ。促音が大文字で表記されているようなポケミスで、歴史を感じた(笑)。
 最終盤の展開直前には「え、結局そんな結末…」と思ってしまったのだが、その失望が最後に一気に裏切られてよかった。かなりスッとした。中盤では、島の当局の理不尽な捜査を阻もうと、各自が推理を披露したり独白をしたりするのだが、それが最後にあんなふうにひっくり返して生きてくるとは…結構素直に驚いた(面白かった)。
 ただ、島や海岸の構造とか、舞台となったホテルの構造とかがいまひとつ頭に描きにくくて、一枚だけ図はあったが文章で読み進めていると具体がイメージしづらく苦労した。海外古典には往々にしてある婉曲的な登場人物の物言いも、すぐに理解できない所がよくあり、こちらも苦労した。
 中盤がやや冗長な感じはあるが、全体的には満足感の方が高かった。

No.398 5点 おやすみ人面瘡- 白井智之 2016/12/17 12:55
 氏の作品は初読。帯に「綾辻行人&道尾修介がいま最も注目する」とあり、「東京結合人間」も気になってはいたので、かなりの期待を込めて読んだ。期待を高め過ぎたのか、正直思ったほどではなかった。
 物語中にちりばめられる各謎の筋道だった解明や、さりげない手がかりの置き方もうまいとは思う。が、いろいろなところに仕掛けすぎ、しかも人面瘤によって推理が二転三転するので(そこが売りでもあったらしいが)こんがらがってくる。大仰な舞台設定の割には、各過程で解き明かされるのがアリバイとか指紋とかいう通俗的な内容で、それぞれの推理に「なるほど」とは思うがそれ以上の感動はなかった。
 ただ言い換えればこれだけ複雑な仕掛けをよくも考えてまとめあげたものだ、とも思った。

No.397 7点 誰も僕を裁けない- 早坂吝 2016/12/14 22:44
 キワモノだった印象が強い本シリーズだったが、急にミステリ色が濃くなった印象。といっても、やはり正攻法からは離れているとは思うが…。
 「〇る」の〇をなぜ隠したのか、本格ファンならすぐにわかるのに。それが分かればトリックはおのずと分かるので、その点では目新しさはない。2つのストーリーが並行して描かれる構成と、その結び付き方は意外ではあったが、人によっては姑息と感じるかもしれない。まぁ私としては悪くはなかった。
 シリーズ読者として、心のどこかでらいちは絶対的存在であってほしいというのがきっとあって、その点でやや格落ちしてしまった感があるのはやや残念だった。小松凪のようなキャラに先を越されるのはちょっと…。
 一見ありきたりに見えるタイトルの真意には、なかなかやるな、と感じた。サクッと読める分量にしてはよかったので、この点数。

No.396 8点 去就- 今野敏 2016/12/10 16:28
 今回のテーマはストーカー。被害に遭っていたという女性が当のストーカーに呼び出され、ボーイフレンドを同伴してその場に行ったら、そのボーイフレンドが殺害され、ストーカーと被害女性はそのまま行方不明に。早速大森署内に指揮本部が設置され、伊丹と共にその指揮にあたることになった竜崎だったが、事件は当初のとらえとは違う様相を見せるようになってくる。

 徹底した合理主義で(しかも天然)、部下からも厚い信頼を寄せられている竜崎の強いリーダーシップ、痛快な組織での生き様がある意味主となる本シリーズだが、事件の真相を探るミステリとしても〇だった。たてこもりの一幕は、こちらもはじめから胡散臭いと思っていたが、事件の真犯人については意外だった。用いられた凶器の違和感、乗り捨てた車の停め方、携帯電話からの着信など、手がかりからの推察や、捜査員の感触を頼りにチームで真相にたどり着く過程は非常に読みごたえがあった。

 マスコミに反応して、世間への面子やアピール目的で対策を講じ、その煽りを現場の捜査員が被る・・・という、作中で述べられていたことに強く共感する。ある業界に対して持ち上がった批判的な世論に対して、「その答えを作るために」目に見える活動を打ち上げるという上層部の発想が、下々にどれだけ無駄な労苦を生んでいるか、どれだけ無駄な金を使っているか、本当に考えるべきだと思う。

No.395 5点 真贋- 今野敏 2016/12/10 16:01
 目黒区で起きた窃盗事件。盗品以外は一切物色の跡がない現場の様子から、萩尾&秋穂コンビはすぐに窃盗常習犯「ダケ松」の仕業と見破る。しばらく後に、身柄を確保されたダケ松。だが、その様子に不審を感じた萩尾は、ダケ松が何かを隠していると感じる。同じころ、管内のデパートで陶磁器展が催され、その警備にあたることになった。そこでは、国宝・曜変天目が展示されるという。ダケ松の事案にあたるうちに、両者の隠されたつながりが明らかになっていく…
 萩尾警部補&秋穂コンビのシリーズ2作目。前作「確証」が非常に良かったため、文庫になるのを待ちきれずに単行本で購入したが・・・あっという間に読めてしまった。リーダビリティが高いともいえるのだが、厚みがなかったとも・・・
 盗犯捜査のプロ・萩尾の鋭い洞察がこのシリーズの胆であり、魅力でもあるのだが、推理→確定までがあまりにも一足飛びのような気がしてしまった。(前作「確証」で萩尾の推理は間違いないと証明されたから、確証は要らなくなった?(笑))抑揚のない捜査過程をだらだら書いてほしいとは思わないが、特にダケ松がに弟子をかばっているという読みや、八ツ屋長治とのつながりなどは、トントン拍子すぎる感じがした。
 真作と贋作の入れ替わりトリックは、そう難なく看破することができた。

No.394 8点 恩讐の鎮魂曲- 中山七里 2016/12/04 23:09
 少年院時代の御子柴の恩師、稲見教官を弁護するという話で、期待を裏切らない面白さだった。
 少年時代に殺人を犯した御子柴の人格を矯正し、今の道に導いた一番の恩人、稲見元教官が、入所していた介護施設で介護員を殺害したという。「衝動的な感情で人を殺めるような人ではない」…今こそ恩に報いようと、稲見の弁護に駆け付ける御子柴だが、当の稲見は「刑を免れようなどと思わない。きちんと私を罰してほしい」と望む。弁護の最大の障壁は依頼人自身という異質な状況の中、介護施設で何が起こったのか、御子柴は真実を暴きにかかる―
 要介護老人と介護士の、感情的な諍いと思われていた事件には、誰もが驚く背景があった。その実情が法廷で明らかにされる場面での、裁判長、検事を含めた周囲の驚愕を想像しながら読むのは単純に楽しかった。被害者、入所者、稲見の隠された「つながり」は、あまりにも出来過ぎているという感はあるものの、それが本作品の核なのでまぁ自分はとやかくは言わない。
 ただ、シリーズ当初の酷薄で薄情なイメージが次第に薄れ、むしろ情に厚くすら見えてくる御子柴の変容は、好ましくも感じるが、一方で寂しい感じもするのは私だけか。

No.393 5点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2016/12/04 22:42
 国名シリーズの中でも小粒という世間の評価を耳にしていたため、読むのが後回しになっていて、ほとんど「シリーズ読破目的」で読んだ。そういう構えがいけなかったのだろう、読んでいてもイマイチ興が乗らず、えらく時間がかかってしまった。(古本で購入したのがかなり昔の版で、狭い行間でびっしり書いてある体裁だったのも手伝った)
 犯人の意外性はなかなかのもので、悪くはなかった。が、それを看破するための手がかりの文章中のちりばめかたが、よく言えば巧妙、悪く言えば意地悪な紛れ込ませ方、と感じた。事件現場や捜査中の言動の描写を、そこまで注意してくまなく読んではいられない性分なので、解決編を読みながら前の部分を何度も繰り直した。
 それに、時代のこともあるので一概にはわからないが、それにしても警察がきちんと捜査しているような案件で被害者の確認はこんなものなのだろうか?とも思った。一方で、銃弾の弾道痕の解析までする科学的な捜査がされているのに…。あまりにアンバランスな感じがどうしてもしてしまう。

No.392 7点 ヒポクラテスの憂鬱- 中山七里 2016/11/26 20:08
 法医学会の権威、光崎教授の研究室に属する、栂野真琴を主人公とした短編シリ―ズの第2弾。
 相変わらずの光崎教授の天才的な卓見と、誰に対しても歯に衣着せぬ物言いは痛快。今回は、全編を通して「コレクター」と名乗る、県警の掲示板に意味ありげな書き込みをする人物が登場する。各編でそれぞれに解決ある話を示しながら、一冊を通して「コレクター」に迫る、と構成で前作よりも味付けがされている。
 ただ、その分一作ずつの質は前回の方がよかったような気もする。県警が事故や自殺でさっさと片付けようとする事案の、真相の意外性とその手際は、個人的には1作目ほどではなかった。

No.391 5点 スリーピング・マーダー- アガサ・クリスティー 2016/11/26 19:51
 記憶の奥にかすかに残る殺人。魅入られるように決めた新居が、実は自分が幼いころに住んだ家で、それがきっかけでその記憶が蘇る。殺人は本当にあったのか、であれば犯人は誰なのか―。
 ミステリである以上、実際に殺人があったことは間違いない(まぁ、そうではなかったという解決もあり得ないことはないが、そんなことなくてよかった。これはネタバレにはならんでしょう)
 過去に起こったことを暴くスト―リ―なので、周囲に真犯人はおり、素知らぬ顔で主人公に付き合っている人間の中にそれがいるのかと思うと…というスリルはあった。
 ミステリとしては標準レベル、だと思う。翻訳ものとしては読み易いのは相変わらず。

No.390 5点 呪い殺しの村- 小島正樹 2016/10/09 21:40
 タイトルといい、表紙といい、閉鎖的な村という舞台といい、「呪殺」といい…横溝正史、三津田信三を思わせる本格志向の作家というのはよく伝わってくる。その雰囲気は好きだし、東京の殺人のシ-ンなどはちょっとぞっとしたし、読み物として面白く読め、メインのトリックはなかなか面白かった。
 しかしながら今一つ評価が伸び悩むのは、大仰な謎の提示の割には明かされるトリックが小粒というか、小手先な感じがするのと、トリックに必要な部分以外が「木の陰で目立たないようにやり過ごした」的な雑な感じがするからだ。ある意味同等に不可能だと思われる部分なのに、「なんとかした」みたいになってしまっているのが、一方では理詰めで追っているのに非常にアンバランスで、腑に落ちない。
 数多くの謎を入れ込み、ある程度のところまではそれらを結び付けているのだが、最後の詰めが雑な感じがして、ある意味「風呂敷を広げ過ぎて、収集しきれていない」感じがする。
 本格好きであれば好まれそうな作家なのだが、他作品でもたいてい5~6点あたりで軒並みとどまっているのは、そんなところに原因があるのではないかと思う。

No.389 9点 確証- 今野敏 2016/10/09 20:57
 捜査三課・盗犯担当のベテラン刑事、萩尾秀一と、相棒の新人・武田秋穂は、渋谷で起きた窃盗事件の捜査に乗り出す中、前日の同時刻に同じ渋谷で起きた強盗殺人事件との関連を疑う。しかし、強盗殺人事件を担当する捜査一課の菅井は、そんな萩尾たちをはなから見下し、自分たちの方針に従うよう高圧的な態度で要求する。盗犯捜査一筋、周りからも一目置かれるほどの実力者萩尾もただでは引かない。「窃盗事件は、前日の強盗殺人犯に対するメッセージだ」と考える萩尾たちの捜査は果たして…。
 相変わらずキャラ設定がうまく、いぶし銀の捜査官・萩尾、分かりやすいほどの憎まれ役・菅井の対立が面白い。もちろんそうしたエンタメ要素だけでなく、2つの事件とその背景にある盗犯者たちの人間関係、真相へと近づく捜査過程も面白い。
 読ませる作家、今野敏健在。そう思わせる快作だった。

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HORNETさん
ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.32点   採点数: 1148件
採点の多い作家(TOP10)
今野敏(50)
有栖川有栖(45)
中山七里(41)
エラリイ・クイーン(37)
東野圭吾(35)
横溝正史(21)
米澤穂信(21)
アンソロジー(出版社編)(19)
佐々木譲(18)
島田荘司(18)