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HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1121件 |
No.40 | 8点 | ヒポクラテスの悲嘆- 中山七里 | 2024/03/17 12:42 |
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光崎教授率いる浦和医大法医学教室の助教授・栂野真琴と、埼玉県警刑事・小手川が、遺体の解剖から事件の真相を解くシリーズ第5弾。今回は、いわゆる「8050問題」と言われる、中高年の「ひきこもり」となった子供を抱える高齢な親を題材にした連作短編集となっている。
現代社会の問題をテーマとして取り上げ、その現状をリアルに描きながらミステリにまとめあげる手腕は相変わらず素晴らしい。謎解き要素だけでなく、一つ一つの物語の肉付けがしっかりしていて、非常に面白い。3作目の「8070」だけは「老々介護」の問題だったが、これまた面白い。それぞれの物語に仕掛けられたミステリも一つ一つ味があり、「8050」など特によかった。 「解剖でこそ分かる真相」というネタをこれだけ並べられる氏の発想、創作力を、素直に尊敬する。 |
No.39 | 5点 | 能面検事の死闘- 中山七里 | 2023/06/04 20:33 |
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南海電鉄岸和田駅にて、無差別殺人事件が発生。7名を殺害した笹清政市(32)は、自らを失うもののなにもない“無敵の人”と称する。ネット上で笹清をロスジェネ世代の被害者だと擁護する声があがるなか、大阪地検で郵送物が爆発、6名が重軽傷を負った。被疑者“ロスト・ルサンチマン”は笹清の釈放を求める犯行声明を出す。事件を担当する大阪地検の不破俊太郎一級検事は、調査中に次の爆発に巻き込まれー連続爆破事件は止められるのか?“ロスト・ルサンチマン”の真の目的は何なのか?(「BOOK」データベースより)
昨今どこかで耳にしたような事件に端を発する、作者らしい作品。冒頭の無差別殺人は始めから逮捕されているので、それに便乗して爆破事件を仕掛ける“ロスト・ルサンチマン”の正体が中核となるフーダニット。不破の目的不明な被害者への延々とした聞き取りが伏線となって真相につながる仕組みだが、その仕掛けが「森の中の木を隠す」ためにちょっと無駄に長い気が。確定的な事実をもとに真相を追求する一点でブレない不破と、いちいちいちいち義憤に駆られたり世間的な感情論に同調したりする惣領美晴とのやりとりも読み応えはありながらもちょっとくどい。そのやりとりを介して、作者の価値観を披歴されているようにも感じる。 エンタメとしてはいつもながらの水準だとは思う。 |
No.38 | 5点 | 殺戮の狂詩曲- 中山七里 | 2023/05/14 18:50 |
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入居一時金が1千万円以上という高級老人ホームの職員・忍野(おしの)忠泰は、ある晩、入居者が寝静まった頃合いに施設に侵入し、入居している高齢者9人を次々に惨殺した。「令和最初で最悪の凶悪殺人事件」と世を騒がせる大事件。弁護を名乗り出たのはかの悪徳弁護士・御子柴礼司。元<死体配達人>と令和最悪の凶悪犯のタッグに、裁判の行く末を全国民が注視する―
目を覆いたくなるような惨殺シーンから始まる冒頭のつかみはよかったのだが、その後の展開があまりに冗長。2016年に起こった「相模原障害者施設殺傷事件」を材にとっているのは明らかなのだが、ミステリとしての仕掛けは一点、それもちょっと小手先的な仕掛けで、物語の多くは「心証が最悪の容疑者を弁護する、心証が最悪の弁護士」に対する事件関係者の対応が描かれている冗長なもので、短・中編でまとめられるようなネタを、シリーズものの強みで長編に引き延ばしたような印象だった。 そのやりとり自体はまぁ面白く、「もと少年犯罪者が弁護士」という点が本シリーズの核でもあるので悪くはないのだが、逆に言えばシリーズ初読の読者は完全に置き去りにされる作品ではないかと思う。 |
No.37 | 5点 | カインの傲慢- 中山七里 | 2022/10/20 20:34 |
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相変わらず読みやすく、テンポの良さで一気読み。
「平成の切り裂きジャック」事件捜査に携わった犬養が、類似の連続殺人事件の捜査に。今回も臓器移植問題をテーマに、社会的なメッセージも含まれた内容になっている。 しかし中山氏の作品に読み慣れてきたせいか、中盤くらいで「意外な犯人」のあてがつくようになってしまった。今回も見事思っていた通り。そもそもわずかな兆候から真相に迫る嗅覚を持っている犬養が、「どんでん返し」に関わる部分だけ手がかりをスルーしているのが見えてしまう。本作でいうなら、「送襟絞」という柔道技の犯人の手口が見えた時点で、警察関係者に目が向かないはずがないのに、一切そうした描写がなく(むしろ避けて)物語が続けらていることで、作者の目論見に感づいてしまった。 それ以外のドラマ性が強いので面白く読めるが。 |
No.36 | 4点 | 人面島- 中山七里 | 2022/05/08 21:13 |
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相続鑑定士の三津木六兵の肩に寄生する人面瘡は、毒舌ながら頭脳明晰で有能な探偵。六兵は「ジンさん」と呼び、頼れる友人としている。
そんな六兵がある日派遣されたのは、長崎にある島、通称「人面島」。村長の鴇川行平が死亡したため財産の鑑定を行うという名目で派遣された六兵だったが、ありがちな話、鴇川家には相続の利権をめぐる複雑な事情が。そんななか、相続人の一人である、行平の息子・匠太郎が何者かに殺害される。時代から取り残された閉鎖的な孤島の村で、横溝正史ばりの陰惨な連続殺人事件が幕を開ける――。 う――ん…なぜだろう…中山氏の作品では自分としては珍しく、入り込んで読み進めることができなかった…。相続を取り巻く家族関係の確執が紋切型に感じたのか、秘密の鍾乳洞とか抜け道とかいう設定が陳腐に感じたのか…自分でもイマイチわからない。限られた登場人物の中で、真犯人も割と予想通りなうえ、不可能犯罪と思われた第一の殺人のトリックもふたを開けて見ればトリックというほどでもない。 登場人物が豊かな語彙で論理的かつ軽妙にやりとりする、氏の作品の特徴は、現代的な舞台の方がしっくりするのかもしれない。 |
No.35 | 6点 | 能面検事の奮迅- 中山七里 | 2022/05/04 21:33 |
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大阪地検のエース検事・不破俊太郎。組織に渦巻くパワーゲームや人脈、上席への忖度などに全く関心を見せず、無表情で流儀を貫く。そんな不破が今回あたることになったのは、小学校を作ろうとする学校法人への、国有地の不当な安価売却。しかも捜査に入ったとたん、特捜部の文書改ざん疑惑が発覚する―
森友学園事件をモチーフにしたのは明らかだが、ミステリとしての仕掛けは全く別物。信頼できる検事の文書改ざん疑惑、「何かあるはず」と読者を惹きつける手際はさすがで、その裏に隠れた真相もよく仕組まれていて面白い。 それにしてもシリーズを読んでいると、事務官・惣領美晴の、俗物的・大衆的な正義感と、いつまでも学習しない不破とのやりとりにだんだんイライラしてくる。「思わず口にしてしまう」「不破に一蹴される」「自己嫌悪に陥る」というくだりを何回も何回も繰り返していて、いい加減煩わしい。 今回は岬次席検事も登場し、「中山七里ワールド」の一端も楽しめる。多作で、シリーズの多い作家だが、是非本シリーズも精力的に続けて欲しい。 |
No.34 | 5点 | 騒がしい楽園- 中山七里 | 2022/01/23 22:19 |
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幼稚園教諭の神尾舞子は、世田谷にある若葉幼稚園へ転任してきた。転任早々、園児の声に対する騒音苦情や待機児童問題など様々な問題に直面することとなったが、そんな中、幼稚園で飼っている動物たちが次々に殺されるという不穏な事件が起こる。大事になることを心配していたその矢先、舞子が担任していた女児が殺害される事件が起きた―
保育に関わる昨今の世相を映し出しながら、今の幼稚園教諭を取り巻く厳しい環境を描き出す。保護者やマスコミの愚かさをズームアップした描きかたは読んでいてかなりストレスがたまる。ただ、この事件に関しては実際に起こっても、「園」の責任はこんなふうに糾弾されるだろうか…?とも思った。(夜中に園児が殺された事件なので) わりと上に書いたような社会様相を描くことがメインになっている印象で、ミステリとしては、手がかりをもとに推理を組み立てていく線は薄い。いちおう真犯人が最後に明かされるフーダニットではあるが。 |
No.33 | 6点 | 毒島刑事最後の事件- 中山七里 | 2021/11/23 20:14 |
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題名から、毒島シリーズこれで終わりか?と思ってしまいそうだが(そうかどうかはわからないが)、少なくとも本作は前作「作家刑事毒島」の前日譚、一度刑事として退職するまでの話。そういう意味での「毒島刑事最後」。
毒島が小説家になる前の、純粋な刑事時代の話なので、前作のように出版関係に限った事件集ではない。唯一それに近いのが二編目の「伏流鳳雛」で、これは近いというより「作家刑事毒島」の焼き増しのような雰囲気(事件の様相は違うが)。といっても、前作が好きだった私はむしろそれが面白かった。 本作は連作短編で、全編を通して犯人を操っている「教授」の正体を最後に暴くことになる。これは中山作品によくある構図なのだが、主犯が属犯を洗脳して意のままに操るということが、ちょっと現実離れしすぎていて素直に頷けなかった。どんでん返しを意図しすぎてちょっと無理がある話になっていないかなぁ。 本シリーズが今後も続くのなら、出版関係を舞台にしたフーダニットで、毒島の毒舌が炸裂するという、普通の短編のほうがいいかな。 |
No.32 | 7点 | 護られなかった者たちへ- 中山七里 | 2021/10/20 15:32 |
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生活保護の受給、それを取り扱う福祉保険事務所と行政をテーマにした社会派ミステリ。
全身をガムテープで拘束されたまま、放置されて餓死させられるという事件が連続して発生。手口は同一犯を思わせる共通したものだが、被害者のつながりが見出せない。しかし、被害者の過去を洗っていくうちについに、ある福祉保険事務所で同時期に勤務していたという共通項が見つかる。犯行は、生活保護対象者の逆恨みなのか―? 相変わらず読ませる文章で、ノンストップで読破してしまうリーダビリティ。前半部で犯人も明らかにされ、両者のせめぎ合いが並行的に描かれていく倒叙形式かと思いきや…まぁ、ある意味想像の通り。 ミステリとしては、登場の仕方や描き方で、真犯人もほぼ透けて見えるものだったが、生活保護問題というテーマ小説としての面白さがあるので、全体的には〇。 |
No.31 | 6点 | 嗤う淑女二人- 中山七里 | 2021/10/16 10:53 |
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「嗤う淑女」の蒲生美智留と、「連続殺人鬼カエル男」の有働さゆり、希代の悪女二人が夢の(?)共演。
ホテルでの同窓会で起きた大量毒殺。ツアーバスの爆発事故。深夜の中学校での放火殺人。何の脈絡もないいくつもの事件だが、それらをつなぐのは被害者が身に付けていた「番号札」。 2人の目的は何なのか。なぜ、タッグを組んでいるのか。 別々の作品をまたいで登場する人物により展開される「中山七里ワールド」を楽しめる。 |
No.30 | 6点 | 隣はシリアルキラー- 中山七里 | 2021/10/16 10:37 |
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毎晩アパートの隣室から、浴室で何かを解体しているような音が聞こえてくる…警察に知らせても本気で取り合ってもらえず、日に日に募る恐怖。並行して近隣で連続して起こっている女性のバラバラ殺人。隣人はシリアルキラーなのか―
<ネタバレ含む> 主人公の妄想なのか、それとも本当に行われていることなのか。てっきり真実は前者で、それがどんでん返しになるのかと思ってたけど違ってた。その点では逆の意味で「裏切られた」かも。 どんでん返しはちょっと変化球。でも、服装のことがさり気なく描写されている時点で何かあるとは思っていたので、予想の範疇だった。 |
No.29 | 8点 | ヒポクラテスの悔恨- 中山七里 | 2021/09/26 17:27 |
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斯界の権威・浦和医大法医学教室の光崎藤次郎教授がテレビ番組に出演。歯に衣着せぬいつもの物言いで、司法解剖についての現状を痛烈に批判した。すると、ネットを介してある犯行予告が届く。「あなたの死体の声を聞く耳とやらを試させてもらう。自然死にしか見えない形で一人、人を殺す」―疑わしい案件を全て解剖に回す羽目になった埼玉県警は大わらわ。果たして光崎はこの犯行を見抜けるのか―?
相変わらず無駄なく、とはいえ物語性も損なわない絶妙のストーリーテーリング。氏は小説の執筆にあたって取材活動等は一切行わないそうなのだが、それでなぜこのような専門的な題材を克明に描写できるのか、本当に不思議(ご本人はこれまで読んだ膨大な書籍と、映画鑑賞とですべて賄えるとおっしゃっていた) 連作短編の形になっており、全編を通して最後はネットで犯罪予告をした犯人解明に辿り着くのだが、登場人物が限られていることもあってその予想はだいたいついてしまう。しかしながら事件を事故に見せかける「ハウダニット」の解明部分が本作(本シリーズ)の幹なので、そのことによって魅力は損なわれない。 光崎教授、キャシー、古手川のキャラクター造形の上手さが、飽きさせないシリーズとして続く大きな要因になっていると感じる。「御子柴シリーズ」と並ぶくらい、安定的に高いクオリティを提供してくれる。 |
No.28 | 6点 | 復讐の協奏曲- 中山七里 | 2021/08/22 12:30 |
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少年時代に幼女誘拐殺人を犯し、「死体配達人」として世を震撼させた経歴を持つ弁護士・御子柴礼司のもとに、800人以上の一般人から懲戒請求書が届く。それは〈この国のジャスティス〉と名乗る者が、ブログで世間を扇動したためだった。対して御子柴は、すべてに損害賠償を請求し、徹底抗戦することに。事務員の日下部洋子は膨大な事務作業に追われることになった。そんな矢先、ある晩洋子が会食した男性が殺され、洋子が容疑者に。洋子の弁護を引き受けた御子柴は、いつものやり方で弁護業務を進めていく。すると、今まで知らなかった洋子の出自が明らかになり・・・
御子柴シリーズ第5作。今回は、これまで陰で御子柴を支えてきた事務員・日下部洋子が物語の核になる。また、金と名誉だけを求める外道弁護士・宝来兼人が御子柴の事務所を手伝うという副次的な要素も加わり、シリーズを通して読んできた者には楽しめる要素が多い。 ただ、ミステリとしては仕掛け方がやや甘く、殺人事件の犯人と凶器のトリックはある、「苗字」が出てきたときにピンときた。そもそも前半で不可解な消え去り方をしているのに、それが放置されているのがひっかかっていたのですぐに分かってしまった。 本シリーズが好きなので、御子柴の「御子柴らしさ」を読み味わうこと自体私は楽しいが。 |
No.27 | 7点 | 夜がどれほど暗くても- 中山七里 | 2021/05/09 14:04 |
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「週刊春潮」編集部・副編集長の志賀倫成は、タレントの不倫疑惑記事など、芸能関係のスキャンダルを暴く記事作りを生業としていた。だがある日、離れて暮らしていた大学生の長男が、大学講師の夫婦宅に押し入り、夫婦を殺害して自身も自死。「加害者の親」として一転、世の好奇の目、社会的非難の「的」となる。「本当に息子がそんなことをしたのか―?」信じられない思いにくれる間もなく、世のバッシングにさらされる日々。そんな中、志賀の前に現れたのは、被害者夫婦の一人娘・14歳の奈々美だった。
「社会正義」を大義名分に、自身の日々の鬱屈をぶつけて留飲を下げる大衆の「悪意」。これまでも氏の作品ではたびたび描かれているが、そうした人間の暗部についての描写説明がことさら上手く腑に落ちる。本作では、加害者の親である志賀と、被害者の娘である奈々美が次第に心を通わせていくのだが、現実にはそんなことは難しいだろうと思うからこそ、物語りとして面白い。 夫婦殺害事件の真相ももちろん用意されているが、物語全体の主軸は謎解きよりも人間ドラマ。相変わらずぐいぐい読ませる展開で、満足のいく一冊だった。 |
No.26 | 5点 | ふたたび嗤う淑女- 中山七里 | 2020/08/10 09:58 |
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前作の蒲生美智留に変わり、今回は美智留そっくりに整形した野々宮恭子が暗躍する連作短編。FX、出版詐欺、地面師などさまざまな手段で標的を陥れる様が描かれ、ラストには氏らしいどんでん返しも用意されている。
一つ一つの話はそれなりに面白いのだが、全体的には前作同様のパターンをなぞっている感じで新鮮さはなかったし、やや小粒になった感もあった。 ラストのどんでん返しは、これも物語当初から往々にして予想できるもので、「ああ、やっぱり」と感じた時点で私にはどんでん返しにはならなかった。 なんか、各短編のつなぎ方とか、全体的な展開の仕方が真梨幸子のイヤミスに雰囲気が似ていたなぁ。 |
No.25 | 8点 | ヒポクラテスの試練- 中山七里 | 2020/08/03 19:52 |
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浦和医大法医学教室に、光崎とは旧知でありながら憎まれ口をたたき合う仲の城都大附属病院・南条がやって来た。南条は、前日に搬送され肝臓がんで急死とされた前都議会議員・権藤の死に疑問があるという。というのも、9カ月前の検診で何の以上もなかった権藤が急死というのは、肝臓がんの進行度合いからは考えられないからだ。例のごとく埼玉県警の古手川が捜査に駆り出される中、明らかになってきたのははなんと「エキノコックスの突然変異」。これが事実なら、日本に未曽有のパンデミックが起こる可能性が。しかし、感染が疑われる都議たちは、何故か感染経路と目されるアメリカ視察について固く口を閉ざしている。自分の命と引き換えにしても守らなくてもならない秘密とは何なのか―!?
久しぶりに出た、「ヒポクラテス」シリーズ。今回は、始めの章は短編として一応結びつつ、そこから話が続いての長編となっている。キャシーと真琴がアメリカに飛ぶことになり、物語のスケールが広がっていく中、各節目に謎が仕掛けられており、読者を飽きさせない展開はさすが。大筋をしっかり保ちながら、各所で小さなどんでん返しを散りばめている全体の仕組みに嘆息し、十分に楽しませてもらった。 |
No.24 | 5点 | どこかでベートーヴェン- 中山七里 | 2019/07/21 16:12 |
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ミステリよりも、若者の「夢と才能」談義に多くが割かれており、青春群像ものの色が強い。ただその内容はありがちな甘ったるいモノではなく、中山氏らしい骨太の表現と内容なので、読み応えはあった。一方で、音楽・曲に関する描写も非常に多く、こういう部分をうるさく感じる人もいるだろう。ただそういう場合はその部分を読み飛ばしてしまっても、ストーリー理解には全く影響がないのでそうしてよいと思う。
ミステリとしては、謎も推理も割と単純。真犯人は意外だったが。 御子柴シリーズとはだいぶ色が違う。色が違うものを書けることこそ作者の力量だが、その分読者のシリーズの好みも分かれるということ。 |
No.23 | 7点 | 連続殺人鬼カエル男ふたたび- 中山七里 | 2019/01/05 11:10 |
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中山氏の作品は、出版社さえも超えて多くの作品で同じ世界が共有されて登場人物がつながっており、いわば「中山七里小説ワールド」が形成されている。読者は作品を単体で楽しむだけでなく、「あっ!この弁護士はあの『〇〇〇〇』に出てきた弁護士だ!」とか、「この監察医はあの『〇〇〇〇』の…」などと、他作品を思い返しながらその世界を楽しむことができ、それがシチリストたちの一つの醍醐味になっている。(このことについて中山氏は「ミステリだけで読者を惹きつけるだけの手腕がないので、付加価値をつけることにした」と言っているそうだ)本作はまず、こうしたシチリストの欲を大いに満たしてくれる登場人物たちである。
本書を紹介する広告文等で「前作から読むことをお勧めする」といったものが散見されるのはそういった点もあるし、あとはそもそも完全に前作読了を前提として書かれていて、前作の真相が作中で平気で書かれているので、本作「ふたたび」を読んでから前作「カエル男」を読むことはホントにお勧めできない。 さて、冒頭は前作の終わりの時点から始まるが、その後の展開は前作とそっくりで、酸鼻を極める惨殺が「カエル男」の犯行声明文と共に続く。前回と違うのは、前回は飯能市内に限られていた犯行が、他県や東京都にまで範囲を広げてしまったこと。警視庁との合同捜査本部が置かれた時には「ひょっとして〇〇刑事も登場するのか・・・?」とかなり期待したが、それはなかった。 この事件に関しては渡瀬よりも古手川が奮闘するパターンも前作から踏襲されていて、そういう点ではちょっと既視感を感じるところもあった。 真相は、真犯人は読めなかったものの、作中で犯人として追われている人物が当人ではないことはずいぶん前から気付いていたので、驚きはさほどでもなかった。 氏の多くの作品に描かれる加害者の人権問題や憲法39条についての問題が色濃く描かれており、単なる謎解きだけではない、幅広い物語に仕上げられているのは相変わらずで、さすがだった。 |
No.22 | 7点 | 能面検事- 中山七里 | 2018/12/30 22:48 |
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大阪地検一級検事の不破俊太郎に事務官として仕えることになった新人・惣領美晴。だが、対面の初っ端から「辞めてくれ」という強烈な洗礼を食らう。思っていることがすぐに顔に出てしまう美晴に対し、周りの状況に一切左右されずポーカーフェイスで信念のままに突き進む不破。あまりに冷静・冷徹で、表情一つ変えない不破についたあだ名は「能面検事」。
また面白いキャラクターが出てきた!立場は真逆だけど、キャラとしては「〇〇曲の〇〇」シリーズの御子柴礼司に近い気がする。 「翼がなくても」では御子柴VS犬養の夢の対決があったが、それはどちらかというと「冷静・冷徹」VS「熱血」という分かりやすい構図だったので、シチリストとしてはがぜん「冷静・冷徹」同士の対決、御子柴VS不破をいつか…と期待してしまう。 作品は相変わらずリーダビリティが高く、読み易い&厚みのある内容だった。 |
No.21 | 7点 | 翼がなくても- 中山七里 | 2018/12/15 10:15 |
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犬養隼人と御子柴礼司の競演というのが、シチリストにとってはたまらない。
ミステリの真相としてはいたってシンプルで、ネタだけで見れば短編でも収まりそうな内容だが、障害者アスリートやそれに貢献する科学技術研究をテーマとして物語を膨らませ、読み応えのある作品となっている。全て筆者の、巧みな人間描写をはじいめとした筆力の為せる技で、さすがである。 沙良のライヴァルの多岐川早苗の、超然としたプロ意識がかっこいいと思った。 |