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虫暮部さん
平均点: 6.20点 書評数: 2075件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.475 5点 われはロボット- アイザック・アシモフ 2018/07/06 09:38
 ミステリも物するSF作家の筆頭アシモフ。“このロボットは何故そんな行動をとるのか?”というミステリ的な短編も幾つか含む本書は、ロボット工学の三原則が初登場した記念碑的連作集。ではあるけれど、今読んで物凄く面白いわけではない。“ロボット”“知性”“感情”と言った物事の捉えかたが変化しているせいもあるし、小説としてのマナーがちょっと古い気もするし、要は“昔のSF”と言う感じ。中では「証拠」が良かった。

No.474 6点 εに誓って- 森博嗣 2018/07/03 15:32
 とばっちりで殺されたバスの運転手が気の毒。最初から団体でバスを借り切っておけば済んだ話じゃないか。

No.473 8点 少女不十分- 西尾維新 2018/07/02 09:12
 最近報道された事件を連想させるような場面もあって胸が痛む。変なタイミングで読み返しちゃったなぁ。
 シリーズ化しようがない内容なので雑念の入る余地が無かったせいか、非常に純度が高く、西尾維新の諸々のシリーズの隙間を埋めるパテとして十二分に機能している。10年前の出来事を文章化しているという設定ゆえ、現在の自分による突っ込みが時々うるさいがまぁ許容範囲内。作者本人による作家論、と考えるなら筒井康隆に於ける『脱走と追跡のサンバ』に該当する作品である(適当)。

No.472 6点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2018/06/25 10:13
 そもそもロデオ・ショーがそんな大規模な興行として成立することがイメージしづらく、文化や時代の隔たりを感じたものだが、“クラブでキャブ・キャロウェイの新曲が演奏されていた”というくだりでなんとなくひとつにつながった。
 第8章、弾道学の場面は基本の再確認という感じで楽しかった。
 あと、これ書いたらネタバレ?犯人がサーカス芸人くずれで銃をすばやく分解して飲み込んだ、と推理したんだけど……。

No.471 8点 宵物語- 西尾維新 2018/06/19 10:54
 大学生になった阿良々木暦が女児誘拐事件の噂に噛む、ミステリ怪異譚。ここだけの話だけれど、結末の神様の台詞には感動してしまいましたでした。単なるキレイゴトになりそうな台詞をこれだけ肯定的に響かせるマジックは西尾維新の面目躍如。

No.470 6点 三重露出- 都筑道夫 2018/06/15 09:58
 これは、忍法帖のパロディを書くエクスキューズとして作中作設定を採用する一方、“人生の居候みたいな存在”達のうらぶれたムードをパロディで中和してもいるわけで、利害の一致によりふたつの中編を合体させたものに見えるが、ミステリ的に捻りの効いた絡み方ではない点が期待外れ。それぞれ悪くはないんだけど、“複数の短編を最終章でひとつにまとめる連作集”のような凝った構成に慣れた身としては、ふたつの話を平行して読んだという以上のプラス・アルファは特に感じなかった。と言う意味では時代に押し流されてしまった(元)傑作、なのかも。

No.469 6点 巨人たちの星- ジェイムズ・P・ホーガン 2018/06/15 09:56
 スパイ・スリラー風味が加わり、登場人物個々のキャラクターにスポットが当たった結果、壮大な展開も各人のせこせこした営みの蓄積なのだなぁとの感慨を覚える。
 後半はどう読んでも“関係者数名の後先考えない暴走のせいで宇宙戦争勃発”という内容で、根回しもせずにそんなに追い詰めちゃ駄目だよ!と思いつつ読んだが、その点に関して作中には突っ込みやフォローが一切見当たらないのが不思議だ。

No.468 5点 ミステリークロック- 貴志祐介 2018/06/07 10:19
 「鏡の国の殺人」「ミステリークロック」。視覚的要素の強いトリックで、じっくりと、考え読めば面白い、かもしれないが読みながら、即イメージが出て来ない。話との組み合わせ方、もう少し、考える余地あったかも。
 「ゆるやかな自殺」「コロッサスの鉤爪」。明瞭な一発ネタだが、驚きと言うより苦笑を誘われる。なんじゃそりゃあと、つい叫ぶ。
 何かしら、噛みあっていない印象が、どの話にも見受けられ、総じて言えば、もう一歩。帯に短し襷に長し?

No.467 7点 ドロシイ殺し- 小林泰三 2018/06/04 10:48
 ドロシイと言ってもセイヤーズではない。虹の彼方の惨事。犯人の隠し方が面白い。
 ところで女王陛下、わたしたちは何語で会話しているのでしょうか?
 ――何でも構わない気がします。
 しかし言葉を用いたトリックであれば言語の選択は重要ではないでしょうか?例えば英語で“身内”は……。
 ――揚げ足を取るものではありません。さあ、この泉の水をお飲みなさい。炭酸水なので、非常に美味なのです。

No.466 5点 首の鎖- 宮西真冬 2018/06/04 10:46
 第一章、近年社会問題化している題材を手堅く描いているが、それは良し悪しでちょっとありがちな感じもする。第二章、えっ、ここで事件が?あの人があの人を?結構予想外。で、第三章以降あれこれあって、登場人物がみなとても短絡的だがリーダビリティはあって、まぁそれなりの作品。
 同居人がいなくなったのに何もせず(言い逃れの内容すら考えず)“このまま逃げ切れるんじゃないかという気になってしまう”のは説得力が無い。そして、単行本カヴァーの粗筋紹介で第二章の内容に触れているのはバラし過ぎである。

No.465 6点 血か、死か、無か?- 森博嗣 2018/06/01 11:05
 このシリーズはひとつの物語をゆったり書いているようなもので、勿論なにがしかの出来事は起こるのだけれど、巻による印象の差が乏しい。ストーリーがどうと言うより、それによって提示される世界観を味わっている側面が強い。西尾維新なんかだとそれを思い切ってぶつけてくるけれど、Wシリーズはじわじわと染みて来る感じ。ただ意地悪く言うなら、既にほぼ焼き上がっている肉塊を少しずつ切り売りしているようにも思える。

No.464 5点 オーパーツ 死を招く至宝- 蒼井碧 2018/06/01 11:02
 イロモノだってことは作者読者出版社みな承知の上なんだから、オーパーツ等のイラストを(ミステリ的必然性は低くても)もっとバンバン挿入してくれたら更に楽しめたと思う。特に恐竜談義のところ。

No.463 5点 緑衣の美少年- 西尾維新 2018/05/31 12:21
 先生、実験は失敗です。と今回は言わざるを得ないか。作中作はそれ自体ちゃんと面白い内容にしないと。ただここでそれをもっともらしいイイ話にまとめず無理にでも逆張りでとっ散らかった解を提示するところが西尾維新の存在意義なのであって、内容は希薄でもキャラクター小説としては楽しい、とファンとしては擁護しておく。ああっ、でもこのシリーズはそういう巻が多過ぎだ……。

No.462 6点 Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件- 矢樹純 2018/05/29 10:51
 前半はスリリングでとても面白かった。後半、謎が交錯し過ぎて混乱したので、もう少し上手く整理してくれたらもっと驚けたかも。
 殺人事件に対して登場人物が皆やけに冷静だな~、しかし紋切り型にヒステリーを起こしたり怖がったりするだけがリアルな対応ではなく、これはこれでアリかな~、とも思った。

No.461 8点 未必のマクベス- 早瀬耕 2018/05/29 10:50
 '92年にデビューした作者が、'14年に発表した長編第2作。
 まず文章が素晴らしい。強い個性を感じさせるタイプではないが、何故か不思議なほど滑らかで心にそっとまとわり付いて来る。口当たりの良さに対してアルコール度数が高いので呑み過ぎ注意なカクテル、と言ったところか。
 そんなにこやかな語り口で綴られるのは、切った張ったのビジネスの裏側と、無粋な振りして純度の高い恋。殺人の場面もとても静謐で平穏。凄く“書ける人”だと思う。やや長めの話だが、それすらも、それだけ長い間作品世界に浸っていられるという喜びだった。
 何度か意味ありげに言及される数学問題の答がたいして面白くない、と言うのが難点。幾人かのキャラクターに関しては、書き分けが甘い気もする。

No.460 6点 迷蝶の島- 泡坂妻夫 2018/05/22 10:55
 恋愛話は爽やかなもののほうが好きなので、私にとって本書などはカロリーが高過ぎる。しかし“痴情のもつれ”を動機にするにはこのくらい濃い恋でないと説得力が足りないか。
 島での死までの描写で、現実と幻覚が恣意的に混ざっているのはちょっとずるいと思う(一応、黒い蝶を見てその人物のイメージが導かれた、という流れが設定されているようだけど)。

No.459 5点 マニアックス- 山口雅也 2018/05/21 10:21
 どれも良く出来た“奇妙な味の短編”。しかしそのせいで却って微妙な既視感を覚える部分も多かった。星新一のディープなタイプのショート・ショートを短編に引き伸ばしたような印象。悪くはないが“コレだ!”という感じでもない。

No.458 5点 エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン 2018/05/16 09:26
 地名と同じ苗字なんて珍しくもないのであって(単に縮尺の問題と言う気もするし)、5章で地図帳を手にエラリーが披露した推理は冗談を聞かされているような気分になった。その場にいた捜査陣が誰一人ツッコミを入れないので、“下手なミステリのワン・シーンを皆で演じている”みたいだ。
 ところで、裸体主義者の共同体が登場するのに、うっふ~んな描写があるわけでもない。それじゃ意味ないだろって。サーヴィスが足りないよ君ィ。

No.457 7点 がらくた少女と人喰い煙突- 矢樹純 2018/05/07 10:08
 骨格は古典的なクローズド・サークルであり、それにしては動機重視の解決編はあまりロジカルではないが、色々と味付けが巧みで、作者は良い意味で読ませ方を心得ていると思う。
 実は私は、拾ったジャズのCDを愛聴したり、拾った週刊スピリッツをきっかけに星里もちるにハマったり、拾った独和辞典を使いもしないのに積読していたり、拾ったヴァイオリンをいつか使う日も来るだろうと保管していたりして、陶子の気持が判らなくもないので気を付けたい。あ、でも坂口安吾の文庫本は拾って読んだが好みではないのでちゃんと処分した。よし大丈夫。
 よく判らないところがあった。恵三郎が陶子に対して“仁菜に似てきて気味が悪い”と発言したが、それは自身の妻とも共通する特徴である筈だ。どういう気持なのか?そう言えばその妻(=仁菜の母)の現況が語られていないね(私の見落とし?)。

No.456 4点 刺青殺人事件- 高木彬光 2018/05/07 10:07
 刺青と言う題材が雰囲気作りに上手く生かされているとは思う。

 以下、気になったことをネタバレしつつ記す。
 まず細かいこと。中盤で逮捕されたU氏の、犯行現場に侵入した際の証言。“浴室に電灯が点いていたのは知っていたが、水の流れる音だけで、誰もはいっている様子はないので、外からスイッチをひねって消した”。空巣の最中に何故そんな中途半端な(浴室内を確認するでなく、かと言って手を触れずに放置するでなく)行動を? そもそも何故“水音がする・電灯が点いている”家に空き巣に入るのか。その時点で退散しとけって。

 そして重大なこと。入れ替わりは必然性が希薄。主犯にとって、共犯がいざとなれば殺してもいい程度の相手なら、始めから共犯を殺しても同様の効果が望めるのでは?アリバイ工作等で役立ってはいるものの、共犯の存在自体がリスクなわけで、費用対効果としてどうなのか。共犯の方が主導的立場だったならまだ判るが、読み返してもそのあたりは藪の中。と言うか、そりゃないぜ主犯、共に生き延びるための入れ替わりじゃないのかよ!?

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.20点   採点数: 2075件
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