皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1848件 |
No.408 | 9点 | 時計館の殺人- 綾辻行人 | 2017/11/08 13:08 |
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館シリーズの中では一番好き。
敢て挙げるなら、撲殺という手段が気になる。実際にやったことは無いのでなんとも言えないが、どのくらい殴れば相手が死ぬのかはなかなかイメージしづらい。腕力も必要だし。作中で一応の説明は施されているものの、それに関して他の選択肢が無いとは思えず強引である。加害者が“殴る”と言う肉体性の強い行為に宗教的な苦行の如き熱狂を覚えていたとか解釈するしかない。時計の針を刺したケースはあるが、最初からナイフを併用するくらいの設定の方が自然な気はする。 ところで、谷山浩子のアルバム『歪んだ王国』に於て、綾辻行人が「時計館の殺人」「気づかれてはいけない」の2曲の作詞をしています。また「王国」では歌声を披露しています。ファン必聴、と言う程ではないけど……。 |
No.407 | 4点 | アノニマス- 野崎六助 | 2017/11/06 10:16 |
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作者の引っ込みが付かなくなってどうとでも解釈出来そうなところへ不時着したような感触。面白い部分もあるが、長さに見合う読書体験だったとは言えない。虚構性を利用してミステリを解体した、と言う点は最近読んだ某長編と共通しているが印象はだいぶ違う。何でもありなものを面白く読ませるには相応のヴィジョンと手並みが必要なのだな~と2編を比較して思った。
ネット上の文章のわざとらしい軽薄さは、意図的なものだと判ってはいても耐え難い(ということは作者の意図が成功しているわけか?)。 ストーリー設定上しかたないとはいえ、何編ものホラー小説が結末やその解釈まで紹介されているのは好ましくない。 (ところで、作品によってはジャンルを明記することがネタバレになっちゃいますね。) |
No.406 | 7点 | 妖女のねむり- 泡坂妻夫 | 2017/11/06 10:15 |
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精緻に組み上げられた幻想的なロマンスとしての評価は出来る反面、愛読者の贔屓目で見ても偶然に頼り過ぎではある。これだけネタがあれば、私でもその気になるだろう。ところでラストがあれでは、死んだ彼女は何だったんだと淋しくなった。 |
No.405 | 5点 | 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン | 2017/11/01 10:10 |
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ルナリアンは12進法。ルナリアンとガニメアンの指の数。両者の間を隔てる二千五百万年の時間。といったあからさまな伏線に全くノータッチなのは続編で回収する為の仕込みなのだろうか?
それはそうと物語中盤、チャーリーの手記とその矛盾が紹介された時点で、月に関する真相は即座に見当が付いてしまった。世界各地で議論が巻き起こりあらゆる種類の新説奇論が氾濫し、との設定にするには難易度が低いと思う。知識の乏しいアマチュアがポロッと思い付いてトンデモ本として出版されそうな説だ。 |
No.404 | 8点 | 完全なる首長竜の日- 乾緑郎 | 2017/11/01 10:09 |
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情感を程好く伝える的確な文章とどっちへ進むのか予測が付かないストーリーに乗せられているうちに世界が溶け出してしまった。なんでもアリなシチュエーションも、そのこと込みで面白ければアリだと私は思う。
難点を挙げるなら、サリンジャーの短編について内容をかなりバラした上で自作品とリンクさせていること。あそこまでバラさないと成立しないレヴェルの引用は控えるべきだと考える。 |
No.403 | 4点 | りら荘事件- 鮎川哲也 | 2017/10/30 12:39 |
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非常に強い既視感。勿論それは鮎川哲也の子供達の作品を沢山読んだせいであって、本作のほうが元ネタである(だからと言って、今読んでがっかりした気持が帳消しになるわけではない)。ミステリとは形式に縛られたスタイルであるとまざまざと感じた。“人間が描けていない”との評は本書にこそ贈られるべきではないか。ポンポン殺し過ぎだ。刑事があまりに牧歌的&無能である点はまぁ大目に見よう。 |
No.402 | 7点 | 一の悲劇- 法月綸太郎 | 2017/10/24 09:02 |
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新本格の作家が誘拐を主題にするなら、このくらい捻るのは当然だよねぇ。一人称の文章の自己批判的な部分は、意図的なものだとしても少々鼻に付いた。事件関係者が限られているので、ダミーの解決編の度に消去法で網が絞られて、真犯人に到達した時にはちっとも“意外な犯人”ではなくなってしまったのが勿体無い。 |
No.401 | 7点 | 美少年椅子- 西尾維新 | 2017/10/24 09:00 |
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遂に今回は明確な謎を伴う事象が姿を消し、前作と次作への橋渡しのためだけで一冊刊行するに至ってしまった。まぁ、謎解き要素の低いギャングものとか警察小説で、レギュラー登場人物の一日を描いて終わり、みたいなのもあるから、それをライトな学園ものに応用するのもアリでしょう。物凄く良い方に解釈するなら、もしかすると、“事件→捜査→解決編”といった定石を意図的に外して、シリーズの一冊ごとにパターンを変えていこうという、ミステリに対する批評を含んだ試みなのかもしれない。私は好きだ。 |
No.400 | 8点 | オーバーロードの街- 神林長平 | 2017/10/24 08:56 |
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介護施設の入所者虐待からスタートして、行為の主体とは、意志のありかとは、とどんどん発展しスケールアップする。しかし延々とディベートで話を広げがちなこの作者にしては、何が進行しているかが明確で、良い意味で判り易いストーリー。最後の喧嘩のシーンはカタルシス満載だし、比較的きちんとまとめて終わっている感じも私には好ましかった。
(どうでもいい感想)大麻良というネーミングでふと思ったのだけれど、英語圏でディックという名前は昨今どういう扱いなのだろうか。 |
No.399 | 7点 | 失われた過去と未来の犯罪- 小林泰三 | 2017/10/17 08:52 |
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全体的にそこまで“犯罪”という要素を前面に出した話ではないので、このタイトルはどうなのか。期待したほどミステリ寄りではない。
双子の姉妹のエピソードは「双生児」(『完全・犯罪』収録)と同じ基盤を別方向に発展させたもの、だよねぇ。面白くはあるがこういう使い回しは感心しないなぁ。 と、引っ掛かる点はあるが、論理の積み重ねがいつの間にか歪でスラップスティックな情景を作り出す手法は粘着質な作者ならでは。“記憶”というテーマは小林泰三SFの特質に合っているのだろう。但し本作はグロ抜き。 |
No.398 | 8点 | 少女は夜を綴らない- 逸木裕 | 2017/10/16 12:58 |
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こういう、殺伐とした青少年の心象を描いたミステリは好き。その手の話ではどうしても定番になってしまうネタ、といったものはあるわけで既視感を覚えた部分もあるが、それでも尚、良く出来ていると思う。
イヤな事柄を本当にイヤな感じで書くのが巧み。適度に意外でテンポの良い展開でページを繰らせ、なかなか説得力の有る落とし所に上手く着地している。難を言えば、ボー研の後輩のキャラクターが薄い(ので、後半いきなりしゃしゃり出て来た印象)。 私は読みながら『オーダーメイド殺人クラブ』(辻村深月)を思い出していたが、本書の方をより高く評価する。 |
No.397 | 4点 | ダマシ×ダマシ - 森博嗣 | 2017/10/12 13:17 |
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今に始まったことではないが、思い付きだけで場当たり的に書き進めて、色々綻びが出たけれど書き直すのは面倒なので、ひとの心の曖昧さを免罪符にして辻褄を合わせた、という感じ。本作では、わざわざ殺すほどの必然性が全く無い、という点が致命的。あの人が偶然あの人の顔を知っていてあっさり身元が割れるのも手抜きとしか思えない。他にも合点の行かない記述は多く、森博嗣の近作は不自然ポイントを探す為に読んでいるかのような私である。 |
No.396 | 6点 | ゴースト- 山田正紀 | 2017/10/02 07:20 |
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摑みどころのない描写は話が進むにつれますます曖昧になり、雨に打たれて迷い込む街は更に荒涼とし、足下はどんどん覚束なくなる。幾つかの短編を内包する形で街がいびつに崩れて行く。話の核だけを取り出せば他愛ないものかもしれないが、構成と文章による巧みなコーティングで読者の気を滅入らせる手管は筋金入りだ。まぁ厳しく評するなら、“虚構性を重視した本格ミステリ”という得意の芸風で一冊焼き増ししただけ、ではある。
俎凄一郎というのは綾辻行人の館シリーズに於ける中村青司のような存在で、館ならぬ街シリーズといったものを意図していたのだろう。私は(ファンの欲目もあるにせよ)面白いと思ったが、中断するほど不評だったのだろうか。とはいえこの作者には『神狩り』(1974年)の続編を2005年に発表したという前科もあり、シリーズが突如再開される希望が皆無とは言い切れない(と思いたい)。 |
No.395 | 6点 | 完全・犯罪- 小林泰三 | 2017/09/25 11:07 |
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「双生児」。それまでは強引であっても一応論理の積み重ねで転がして来た話に、最後の最後で唐突に不条理な異物(“終わりではなかったの”)が突っ込まれて終幕、というのはやっぱり話がおかしいと思う。しかし、そのひとが嘉穂であれば事の成り行きをペラペラ話す理由も無いんだよね。というか、“そうだ。一つ方法がある。”ってなんのこと?
「隠れ鬼」「ドッキリチューブ」は前半を読めば後半の見当も付いてしまうが、それでもダレることなく一息に読まずにはいられない文章の気持悪さが素晴らしい。 |
No.394 | 6点 | Y駅発深夜バス- 青木知己 | 2017/09/19 12:44 |
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「九人病」が一番良かったが、最終章の二重三重の仕掛けはいらなかったのでは。
表題作。トリックは面白いが、第三者の行動に依存する側面が強いことと、その時間が数時間に亘る長さであることが難点。彼が途中で何か目立つことをすればアウトであって、私だったらこの計画には乗らないなぁ。 「猫矢来」。加害者の行為の危険度を考えると、警告のしかたが幾らなんでも遠回し過ぎだと思う。 全体として。ミステリに対する誠意は伝わって来るが、だからといって飛距離が物凄く長いわけではない。 |
No.393 | 7点 | T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか- 詠坂雄二 | 2017/09/14 11:12 |
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好きなタイプの作品だし前半は面白いのだが、それに比して結末の爆発力に欠けた。がっかりと言う程ではないが、何かもう少し違ったまとめ方があったのではないかという気もする。
本を手に取った時、“表紙のタイトルに難読でもないのにわざわざルビを振っている、あれっ、濁らないんだ?”とチラッと気になったが、それがああいう伏線だったとは。 |
No.392 | 4点 | 本陣殺人事件- 横溝正史 | 2017/09/11 10:55 |
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期待した程おどろおどろしくないし、どうにもギクシャクして感じられる部分が散見され、探偵小説というよりは事件の報告書、もしくは推敲前の未定稿を読んでいるような気分だった。犯人の心情、また両者の主導権の変遷、と言った部分が興味深かったが特に後者はさらりと流されていて残念。ホームズもののネタバレは編集判断でカット出来ないのだろうか(せめてタイトルを伏字に!)。差別用語なんかよりよほど“不適切な表現”だと思うのだが。粗筋紹介の“新郎新婦が惨殺されていた”というのはアンフェアな表記では?
「車井戸はなぜ軋る」と「本陣殺人事件」は、事件の真相の構造がうっすらと共通していないか。被害者ふたりのうち片方が……とはいえそれ自体はよくあるパターンだし、二度ネタだと非難するようなことではない。並べて読むと似ているなぁと思うくらいで。であるからこそ、これを併録したのは戦略ミスだ。「車井戸はなぜ軋る」は、面白いのに結末でがっかり。しかもそのがっかりは作品そのもののせいではない。別の本に収録されていればこうは思わなかった筈だ。私の感動を返して欲しい。 |
No.391 | 4点 | 見たのは誰だ- 大下宇陀児 | 2017/09/05 09:00 |
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第一部の強盗のくだりはそれなりに面白く読めたが、そのあとは場当たり的に展開して無理にまとめたような感じで苦笑することしきり。これが発表時点で探偵作家としてキャリア30年の作者によるものだから困っちゃうなぁ。
この時代は“恋人”のニュアンスで“愛人”と言ってたんですね。 |
No.390 | 6点 | ビブリア古書堂の事件手帖7- 三上延 | 2017/09/04 09:35 |
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単なる思惑の擦れ違いではなく悪意が絡んでいるせいで、一連の出来事が作為的な“大金をかけたゲーム”のようになっている。色々因縁はあるにせよ、なんでそんなのを相手にするの? という感じである。単独で読めば面白いが、シリーズの終幕としてこういうカラーの話を持ってきたのは少々残念。
歯磨きしながら読書は私もするなぁ。 |
No.389 | 8点 | 虹を待つ彼女- 逸木裕 | 2017/09/04 09:34 |
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これは面白い。(良い意味で)長沢樹あたりと共通する空気を感じた。
工藤の嫌な奴っぷりや、似て非なる榊原みどりのキャラクターが良い。細かなエピソードや脇役の配置も巧みで、そのおかげで結末の“失恋”にも説得力がある。 ただ晴の内面が(一応の説明は施されたが)ブラックボックスなので、厳しく言うなら“読者受けを狙った不思議ちゃん”のまま終わった点がちょっと残念。生前の彼女はこんなことを考えていたのか!と視界がガラッと変わるような驚愕を期待していた。前半が面白かったので期待値が膨れ上がってしまったわけです。 |