皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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虫暮部さん |
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平均点: 6.21点 | 書評数: 2006件 |
No.11 | 8点 | 弥勒戦争- 山田正紀 | 2020/01/05 12:45 |
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乾いた筆致の仏教SF。水面下の全体像がきちんと在って、その上で氷山の一角だけ断片的に描いている感じ。逆に言えば“ここをもっと深く掘ってよ!”と言う箇所があちこちに見られ、決して小説巧者ではない。しかし妙な生々しさが時折グイッと鎌首をもたげる。なんだこれ。 |
No.10 | 8点 | 神狩り- 山田正紀 | 2019/12/05 12:50 |
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いや~、スッキリした小説である。余計な重複が無いし、多面性に欠ける一本気キャラばかりだし。かと言って貧弱なわけではなく、頑健な骨格に引き締まった筋肉を具えたアスリートの力強さだ。
一方で、“説明出来ないことは説明出来ないのだ”と言う説明で押し切ろうとしているのは、若書きと言うかまだ手持ちの駒が少なかったんだなぁと感じる。それを形にしようと徐々に饒舌になったのかもしれない。 まぁ読書に関して一神教である必要など無いのだ。熱いデビュー作と厚い近作と、面白さの質は変わったが山田正紀はどちらも面白い。 |
No.9 | 7点 | 戦争獣戦争- 山田正紀 | 2019/11/30 16:14 |
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現世と重なり合いつつ微妙に違う世界で戦いに明け暮れる種族、と言った設定は目新しくもないが、山田正紀は巧みなエピソード構築、鮮やかな視覚的イメージ、そして言葉自体の存在感で厚みの付与に成功している。でも腐肉や糞便に関するイメージ喚起力は困るな~。
惜しむらくは少々贅肉を付け過ぎてリーダビリティが犠牲になっている嫌いがある。3分の2を過ぎて読み疲れた頃にググッと話が収斂して(中原さんのエピソードは泣けた)オオッと来た後がまた長い。もう少し流れが良くなれば結末のカタルシスも増すと思うのだが、この作者の大作主義は良し悪しなので全部込みで付き合うしかないのだろう。 |
No.8 | 8点 | 神曲法廷- 山田正紀 | 2019/09/27 12:02 |
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本来もっと影響力と言うかカリスマ性と言うかその手の強さを持っている筈の登場人物(複数)が、“空っぽ”と評される被告人と同様いやにのっぺりと描かれている。極論全員人形みたいだ。
ちっぽけな人形を指ではじいたら、互いにぶつかり合ってあっちで壊れこっちで壊れ。それを天空の高みから見下ろしている気分だった。ぼんやり霧がかかったようなイメージが頻出することもあり、人間ドラマという感じではない。そしてそれこそ作者の意図のように思える。 ところで、彼女の登場場面で、プライヴェートを地の文で説明しているのはアンフェアでしょう。 |
No.7 | 8点 | ここから先は何もない- 山田正紀 | 2017/08/29 09:10 |
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予備知識無しで粗筋も知らずに読んだので(これが良かった)、ミステリのリアリティの枠内に留まって説明を付けるのか、SFの領域に踏み込むのか、ラスト直前まで判らずページを繰る手が止まらなかった。ここまで話を大きくするかと驚くやら呆れるやら。『謀殺のチェス・ゲーム』と『神狩り』をいいとこ取りして混ぜたよう。作者あとがきによれば『星を継ぐもの』(ジェイムズ・P・ホーガン)への不満を解消する為に書いたとの由。 |
No.6 | 6点 | 鏡の殺意- 山田正紀 | 2017/08/02 10:52 |
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事態の進展に伴い足許から世界が崩れて行って、しかし再構築はされず、真相らしきものが一応明らかになったあとも摑みどころの無い場所にポツンと残されていることに気付く……というのはミステリ系に限らず山田正紀作品によく見られる構造。ストーリーが直線的で細かな目配りに欠けるし、“真実の確定”が中心ではないし、厳しく見るなら、曖昧な“雰囲気”を核に据えた舌先三寸とも言える。しかし再読したところ以前よりも面白く感じたのは、私がミステリに求めるものが変わってきたからか。 |
No.5 | 6点 | カムパネルラ- 山田正紀 | 2016/11/28 10:57 |
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呪師霊太郎シリーズでも題材とした宮沢賢治にSF側からアプローチした作品。SF設定の中で殺人が発生、中盤までその謎解きで進むものの、ミステリ的決着が中途半端なままSF的カタストロフで押し流してしまった。こういう結末なら全体のSF度がもっと高くて良いと思う。 |
No.4 | 7点 | 屍人の時代- 山田正紀 | 2016/11/21 12:21 |
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ミステリの形を借りて時間の無常を描いた風情は好き。
しかし、第二話の“毒ガスの用心のため口だけで息をする”と、第四話の“貨車を燃やして石灰粉を消してしまわないと、農場に搬送できない”の理屈が判らない。苦労して辻褄を合わせたという印象が残る。このひとのミステリは多少破綻しててもアリなんだけど……。 |
No.3 | 7点 | カオスコープ- 山田正紀 | 2016/11/11 11:28 |
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認識論、存在論、脳地図といった“山田正紀用語”は“確立された個性”か“ネタの使い回し”か微妙なところだが、一応の整合性を維持してミステリに着地しているのは立派。複数の殺人事件が些細な枝葉に思える遠近感の狂ったヴィジョンに呑み込まれる快感。
でも正直に言えば、冒頭の「大鴉」談義が一番面白かった。 |
No.2 | 6点 | 火神を盗め- 山田正紀 | 2016/10/31 10:53 |
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ところどころにさぁ感動的に盛り上がれと促すような文章があるが、それに乗っかるにはキャラクターの掘り下げが甘い気がした。工藤はなんであんなに強気なの。フツーの会社員があんな風に会社を脅すなんて、フィクションとしてのリアリティに欠ける。かつて過激派だったとかの過去がなくちゃ。 |
No.1 | 6点 | 人間競馬 悪魔のギャンブル- 山田正紀 | 2013/08/19 10:07 |
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同著者のかつてのアクション系SFを思わせる、良い意味でのB級作。『ミステリ・オペラ』系の濃厚作品ばかりでは、愛読者も疲れてしまうからね。とはいえ、人物造形の妙は流石。 |