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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1848件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.868 7点 絶叫城殺人事件- 有栖川有栖 2020/12/27 13:23
 作者は表題作と「雪華楼殺人事件」でミステリの悪魔を召喚してしまった。こうやられたら黙るしかない。ジーザス。
 ところが「壺中庵殺人事件」の“壺”は変。自殺に偽装する為のトリックで不自然な自殺体を作っては本末転倒だ。と言う見解が作中でも語られるが、そうまでして使う程の効果的なギミックだとは思えなかった。

No.867 5点 建築史探偵の事件簿 新説・世界七不思議- 蒼井碧 2020/12/27 13:23
 こじつけによる机上の遊びにせよ、作者が頑張ったのは、まぁ判る。注目すべきは“それなら主人は何のために死んだのです”と言う部分の論旨で、私は初めて読むパターンだ。

No.866 7点 涼宮ハルヒの憂鬱- 谷川流 2020/12/24 15:43
 うわーごめん見縊ってたよ。ちゃんとした話じゃないか。前半はともかく矢庭にSF化する後半の風呂敷の広げ方! ヒット・シリーズになっちゃったせいで読むのがちょいと恥ずかしいのが最大の弱点。
 ただ、この手の文体でも作家ごとの個性の差はある。某氏や某氏に比べるとツボに嵌まるポイントが少ないし、軽妙さの演出が却って鼻に付く部分があるなぁ。

No.865 8点 新本格魔法少女りすか 2- 西尾維新 2020/12/24 15:42
 魔法と言う理の掛け合いで勝負するシーンは、戯言シリーズのバトルより随分読み応えがある。ルールの設定が所詮は作者の掌の上なのだから、都合良く展開可能な弱点を持つ魔法を考えただけ、かもしれないが私にとっては想定外の論理で“その手があったか”と驚かされた。免疫が無いせい?

No.864 6点 ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ扉子と空白の時- 三上延 2020/12/24 15:38
 事件よりも横溝正史談義の方が面白かった。二人が友達になるシーンは泣けるね。横溝ファン小学生断固支持。夫婦が敬語で会話するところもキャラクターが出ていると思う。
 しかし、栞子さんも落ち着いちゃったし、“それなりに穏やかな世界”の安定路線が出来上がっているので、良くも悪くも“前作と同じ”である。もっと思い切った悪意を捩じ込んでもいいのでは? それともこのシリーズはもう、ゴールした後ゆったり走るウィニング・ランだと考えるべきか。

No.863 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 雨と九月と君の嘘- 太田紫織 2020/12/24 15:37
 第壱骨。目的がアレで、オカルト・ネタを絡めるのは有効だろうか? 結構な賭けでは。
 第弐骨。説得力のある話なだけに、余計なことを解き明かさなくとも、と言う気持になった。
 ラストで出し抜けに変節したかのようなことを言う櫻子さんの揺らぎがいい感じ。

No.862 6点 第四間氷期- 安部公房 2020/12/24 15:36
 予言機械によって殺人事件の真相を摑もうとの試みが、次々と意外な方向へ展開し、展開し過ぎ、円環は完結しない。その時々の思い付きで支離滅裂に雑誌連載する、と言う実験だったんじゃないかとさえ思う唐突さ。個々のエピソードはみなあくまで“手段”だったのだろう。最終章の少年の情景は美しい。
 しかし、機械の予言があそこまで詳細に亘るものなら、“作品途中の任意の時点から記述内容が丸ごと予言の文言に摩り替わっていた”と言う叙述トリック的解釈も成立する? その不確かさこそが“目的”?

No.861 7点 郵便配達は二度ベルを鳴らす- ジェームス・ケイン 2020/12/18 13:31
 えっ、郵便配達夫と不倫する話じゃないの?

 ――まぁ貴方、一体どこから部屋に入って来たの?
 ――おぉマダム、何を隠そう僕は透明人間なんですよ!
 みたいなのを期待していたのに……。

 それはともかく。この手の作品のパターンが定まる以前に、手探りで話を導いて、作者自身がびっくりしているような瑞々しさを感じた。
 裁判の茶番ぶりは笑っていいところ? コーラが意気込んで食堂経営に乗り出すところが可笑しい。(見当は付くけれど)アンモニア・コークって何?

No.860 7点 同姓同名- 下村敦史 2020/12/18 13:30
 おぉ社会派だ。且つミステリとしてのエンタテインする味わいもしっかり取り込んで、作者はなかなか健闘したと思う。因みに、私の本名で検索を試みると、BL小説のキャラクターがまずヒットするんだよね……。

 一つ気になった点:誹謗中傷する側の行動や文言が、かなり判り易く馬鹿っぽい紋切り型になっている。それはつまり“読者が読みたがる範囲内の仮想敵”と言う作者の演出なのかなぁ、それがあの程度のものだと思われるのはあまり面白くないなぁ。現実に流用されないように、歯応えのある罵詈讒謗は自粛しているのだろうか。

No.859 5点 同姓同名- 新津きよみ 2020/12/18 13:29
 同姓同名と言う要素にさほどの必然性は感じられず、単に紛らわしいだけ。
 悪いのは殺した男であって逃げた女ではない。
 銀座で財布を忘れた女と、4ヵ月後に横浜で再会――斯様な偶然が話の中心に据えられているのは如何なものか。このエピソードがあってこそ女の身許を探れたわけで、御都合主義だと言わざるを得ない。

No.858 5点 消人屋敷の殺人- 深木章子 2020/12/18 13:28
 それぞれのパーツを鑑みると私の好きなタイプの筈だが、何故かあまり惹かれなかった。トリックの使い方の問題、ってことだろうか?

 ネタバレっぽいけど気になった点。
 ・作中人物の台詞にあるように“招待状がニセモノである以上、(荒天でなければ)すぐに追い返されるだけ”と言う件が、結局曖昧なままになっている。
 ・Hが別人の振りをしてSと対面する場面がある。当然これはSがHの顔を知らないことが条件。SとHの職業からして、Hがそのことを確信出来る根拠は無い。言い訳の余地はあるけど、そこも含めて作中でフォローすべきだったのでは。

No.857 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 骨と石榴と夏休み- 太田紫織 2020/12/18 13:27
 ライトとはいえ、いやしくもミステリなら悪意が埋まっているほうが面白い。ってことで第壱骨は物足りなかった。
 第弐骨。櫻子さんかっこいい。
 第参骨。設定の割に東藤一族の面々はとても普通な感じ。その中に、妹が自殺しても尚あのスタンス、と言う告白がサラッと書かれていて効く効く。

No.856 7点 海を見る人- 小林泰三 2020/12/11 12:08
 本書は小林泰三のブライト・サイドだと思っていたけど、決してリリカルなだけの作品集ではないし、視覚的な想像を膨らませるとなかなかシュールかつグロテスクだし、こりゃあ表紙を飾る鶴田謙二のイラストに騙されていたわ(いいじゃないの幸せならば)。
 どれも面白いが、以前読んだ時と比べると結構“普通”な印象。変な世界の話はいっぱい読んだからね。

No.855 5点 - エラリイ・クイーン 2020/12/11 12:06
 天才的な女たらしが、引っ掛けた女を共犯にする、との設定なら、共犯者は幾らでもどこからでも調達出来る筈なのに、閉じられた人間関係・限られた容疑者の中だけで話が進行する不自然さにイライラした。出来が良いとは言えないが、テンポ良く進むのが救い。
 ハヤカワ文庫版の表紙はなかなかやってくれるぜ。大胆なネタバレでグッジョブ。

No.854 8点 バトル・ロワイアル- 高見広春 2020/12/11 12:05
 強引な引力を備えた話だ。バトル開始と同時に“他者の信義に期待する平和主義者=愚か者”と言う価値観に思考がシフト。殺人欲が刺激される。
 体力の無い私としては、前半は隠れて漁夫の利狙いか。一か八かで山火事を起こすのはどうだろう。機動性や脚の保護を考慮するとスカートは不利だから、女の子は死体から奪ってでもズボンに穿き換えるべきでは?
 文庫版解説では色々もっともらしい事が述べられているけれど、“中学生がガンガン殺し合う娯楽作品”と言う表層通りの読み方でもいいと思う。或る種の過剰さに意義があるとはいえ、1クラス分の人数を書き切るとは、作者も良く頑張った。

 あの彼がのべつ幕なしに煙草を吸っているでしょ。煙草の臭いは人の存在を示す重大な目印になって危険なのに。でもニコチン依存症になっちゃうと、そういう冷静な判断が出来ないらしい。
 山中に隠れた犯人が、警察の山狩りからは逃げおおせたのに、ニコチン切れに耐えられず煙草を買いに町に出て御用――と言う事例が実際にあったそうな。依存症って怖いね。

No.853 7点 万博聖戦- 牧野修 2020/12/11 12:04
 基本は壮大な与太話、されど前半の歪んだノスタルジーにせよ、後半の暗くて明るい未来予想図にせよ、塗り込められた悪意の質・量ともに半端ではない。世界は何故こんなに悲しいのか、うつろな笑いに託して問いかけてくる。
 最後まで主人公の心に潜む重石である割に、ヒロイン波津乃未明の存在感が弱い。或る種の過剰さに意義があるとはいえ、ちょいと長くて読み疲れたかな。

No.852 8点 新本格魔法少女りすか- 西尾維新 2020/12/11 12:02
 西尾維新は、理性を振り捨てた状態を描くのが実に上手い。また、キズタカの率直な一人称記述をフィーチュアしつつ、彼自身にも処理出来ないぐちゃぐちゃを浮かび上がらせて甘酸っぱい。色んな意味で痛い痛い。
 27歳りすか、潤さんと結構キャラが被ってない? あんなに台詞があって1分じゃ足りないでしょ。クトゥルー神話は正典を読んでいないので実はあまりピンと来ない。

No.851 9点 なめらかな世界と、その敵- 伴名練 2020/11/29 15:08
 凄いなこの人。“奇跡の才能”との謳い文句に偽り無し。
 非常にSF的なアイデアと、心を鷲摑みにするキャラクター設定と、それを十二分に具現化する文章力。おかげで私は、女子高生の向こう見ずな決断に驚き、百合めいた姉妹愛に悶え、“不可解な鉄道事故が日本中に与える影響”についての考察に感服する。
 どの短編がベストだとか打率何割だとかじゃなく全編グレイト(「美亜羽へ贈る拳銃」は構造を複雑にした割にその効果が薄い、とは思う)。
 「ひかりより速く、ゆるやかに」の、めくられた単語カードの言葉“ irrevocable /取り返しがつかない”――これが収録作品の共通したキー・ワードに思えるんだけど、どうかな?

No.850 6点 生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術- 泡坂妻夫 2020/11/29 15:04
 〈生者と死者のテスト〉について。描写が曖昧だけれど、六人の名前を書くところは隠しておらず、“その中の誰が死者かを当てる”ことが主眼? 隠して書いたら、作中の説明では透視出来ないよね。でも当てるだけなら6分の1の確率だ。場の雰囲気でその程度でも驚く、と言うこと? 良く判らない。
 また、自動書記の内容が同じ文字列のアナグラムなのは何を狙った演出なのか?

No.849 6点 スイス時計の謎- 有栖川有栖 2020/11/29 15:01
 二重基準を発見。「あるYの悲劇」で、“H○○○をY○○○と聞き違えた”との説を“イントネーションが別物”と退けている。一方「女彫刻家の首」では、“○○○○と×○○○を聞き違えたのでは”としているが、こちらだってイントネーションが違うじゃないの。小説であってもイントネーションをきちんと考慮に入れて欲しいと私は思う。しかしわざわざこの二つを同じ本にまとめなくとも……。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1848件
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