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虫暮部さん
平均点: 6.21点 書評数: 2006件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.31 7点 ツングース特命隊- 山田正紀 2021/04/27 10:48
 はみ出し者の愉快で不機嫌なチームの珍道中、と御馴染みの設定ながら、エンタテインメントのツボを押さえた書きっぷり。主人公のカラーが薄い気はするが、死に行くキャラクターをドライに描いて切なく読ませる技に酔いしれた。異国や魔境の旅情も満載。ところがこれでも山田正紀作品群の中では地味な方なのである。

No.30 9点 竜の眠る浜辺- 山田正紀 2021/04/10 12:48
 ほのぼの系山田正紀の最高峰。最高峰も何も、こういう味わいの山田作品はほぼこれだけか。しかし作品リストにこの一冊があるだけで或る種のバランスが生まれている。異色作なのに代表作。
 エピローグに至っても事態は全く解決していない。にもかかわらず妙な安堵感に満たされるのは、登場人物を落ち着くべきところに落ち着かせる手際の良さ故か。

 但し、今回読み返して、“男女の役割分担”が作品全体を覆っている、とは感じた。勿論そういう時代の作品だからなのだが、普遍的なテーマの中でそれが目立つような。ああいう“ワイルド・ライフ”に於いては役割分担制に回帰してしまうものだろうか。

No.29 8点 謀殺のチェス・ゲーム- 山田正紀 2021/04/01 10:46
 若人2人の逃避行が、物語中盤の“ゲーム”とあまり有機的に結び付いていない。
 勝敗の基準が今一つ解りづらい。
 両陣営とも似たようなキャラクターが多く紛らわしい。
 題名に“謀殺”は変じゃない?

 しかしグッジョブ。息を詰めて一気に読みました。

No.28 7点 チョウたちの時間- 山田正紀 2021/03/25 12:52
 最初期の“説明出来ないことは説明出来ない”から、“説明出来ないことが説明出来ない理由を説明することで説明出来ないこと自体を浮かび上がらせる”手法へと進歩したような。背後に垣間見えた概念があまりに大きく、いつまでたっても読み終えた気がしない。

No.27 6点 地球・精神分析記録 ――エルド・アナリュシス――- 山田正紀 2021/02/16 11:50
 最初期のプリミティヴな勢い溢れる幾つかの長編を経て、ゲーム性と虚構性による或る種の冷徹な面白さへと階梯を昇り始めた作品、なんだけどまだ過渡的な印象。後年、過剰になって紙幅を肥大させる神学・民俗学や精神医学からの引用だが、この時期はまだ抑制されていて、今読むと物足りないくらいだ。4章の“犯罪が企業化した社会”の設定は、連作長編の1エピソードで終わらせるには勿体無い。

No.26 8点 ふしぎの国の犯罪者たち- 山田正紀 2021/02/03 12:02
 冷水を浴びせるようなラストは、決して嫌いなタイプではないのに、本作に限ってはあまりにショッキングで悲痛。それだけ登場人物達に愛着を感じていたのはニックネームの効用か? どの作戦も綱渡りの連続なのに、夢の中でステップを踏むような遊戯性をうっすらと滲ませた筆致でなんとなく納得させられてしまう。特に、あさっての方から急襲するような3話目のアイデアに感服。

No.25 6点 デス・レター- 山田正紀 2020/10/05 12:04
 実は本作、基本設定が '80年代の旧作の使い回しである。と言うことが最終話で明らかになり、更にもう一捻りある。そのラストの一塊が山田正紀ブシで美味しいところ。そこに至るまでのエピソードは地味で薄味のミステリ風。地味なりに面白いものもあればそうでもないものも。ここはやはり結末の純SF展開にもっと紙幅を割いて欲しかった。
 タイトルはサン・ハウスのブルースより。表紙イラストが素敵。

No.24 7点 襲撃のメロディ- 山田正紀 2020/07/26 14:54
 '70年代のうらぶれた世相のようなムードにそのまま巨大電子頭脳など幾つかのテクノロジーをぶち込んだ、今読むと少々奇妙な'90年代ディストピアを舞台にした反体制アクション。勢いと冷たさを併せ持つ筆致に胸が躍る。作戦内容に理屈として判らない部分(何故そういう行為によって列車がそういう対応を示すのか、とか)があるけど、それは私の理解力の問題。

No.23 7点 50億ドルの遺産- 山田正紀 2020/06/18 12:26
 あれっ?――“この島に隠されている五十億ドルの兵器のことでも、あちこちで、いいふらすことにしますかね”
 第三章で主人公がこんな風に駆け引きを試みるが、それはプロジェクトにとっても望ましいことである。どこまで事情を知っているか不明、と言う不安材料はあるが、内幕を打ち明ける程のことではない。相手が冷静なら、勝手にし給え、で放り出されるところ。

 寄せ集め集団によるハンド・メイドの戦術は山田正紀の十八番。毎度気持が昂る。

No.22 6点 剥製の島- 山田正紀 2020/05/29 12:06
 一貫してうらぶれた雰囲気のキャラクターばかり登場するが、各編それなりに差別化されていて楽しめる短編集。出来不出来はあって、「湘南戦争」がダントツで面白い。喜劇にせずあくまでハードボイルド的に書き切って潔し。「剥製の島」ストーリーはなんてことないが、描かれた情景のインパクトで勝ち。暗号モノの「閃光」は駄作。「マリーセレスト・2」は設定を作り込み過ぎでは。

No.21 10点 宝石泥棒- 山田正紀 2020/05/28 11:07
 山田正紀作品は概ね目を通しているが、最高傑作と推したいのは本書。イマジネーション豊かな異界、運命に抗う旅、奇妙な仲間達、友情努力勝利敗北。贅沢に全部載せてしかも隅々までこぼすことなく味わえる。
 『神々の埋葬』のように、まだ広げられる余地を残したままの完結でなく、『ミステリ・オペラ』など大長編の胃もたれ必至の物量戦でもなく。
 やや長めの『宝石泥棒』は、物語が内包するスケール感と具体的なページ数がピッタリ一致して、食い足りなさも読み疲れも感じない。諸々のエピソードがバランスよく盛られ、いや違う、バランスの悪さも滑らかな模様に見える高い視点に読者を導き、不器用な作家であちこちぶつけながら領域を広げてきた山田正紀としては驚くほど綺麗な球体を描いているのである。瑕瑾……はあるのかもしれないが、あまりに鮮やかな作品世界の中に居ては気付く余地が無かった。
 チャクラが小丑から料理で一本取る場面が大好き。

No.20 7点 崑崙遊撃隊- 山田正紀 2020/05/27 11:41
 ロスト・ワールドの冒険小説としては快作なのだが、結末で述べられる、崑崙に関するSF要素はどうなんだろう。作者は根っこがSF者だからそうなってしまうんだよ、と考えるのはSFファンとして嬉しい。しかしこれは時代背景と登場人物の思想・言動が密接に絡み合った物語である。現代的視点のSF的解釈を付け加えたのは、浪漫を損なう蛇足であるようにも思える。痛し痒し。

No.19 7点 僧正の積木唄- 山田正紀 2020/04/07 10:09
 刊行直後に読んだ時はあまり楽しめなかった。原因は明白なので此度再読するにあたっては万全の準備を心掛けた。ヴァン・ダイン『ベンスン殺人事件』から『僧正殺人事件』まで順に読み、平行して横溝正史も何冊かチェックして金田一耕助のキャラクターを再確認しておく。満を持しての本書である。
 トリビュートとは言え徒におもねった物ではない。例えば文体は概ねいつもの山田正紀そのまま。原典の文章が持つ旧時代ゆえの靄に鉋をかけて1930年代のニューヨークをくっきりと甦らせている。ファイロ・ヴァンス等の扱い方も、愛情ゆえに厳しくならざるを得ないと言った感じだ(一方で金田一耕助については愛情だだ漏れ)。
 続けて読むと、『僧正殺人事件』の動機の背後に暗示される広がりは、まさに山田正紀の守備範囲。ヴァン・ダインを補完しているように見せて、それに留まらず自分の場に持って行くあたり強かだ(その割に、明かされる真相はしょぼくて残念)。
 ネタバレ防止で幾らか曖昧な表現のところはあるが、さほど気にならなかった。但しこちらを先に読むと『僧正殺人事件』の犯人も見当が付いてしまうと思う。従ってやはりあちらを読んだ上で臨むほうが良い。問題は、『僧正殺人事件』が“ミステリ読みの基礎教養”の座をもはやキープ出来ないだろう、と言うこと。

No.18 8点 神狩り2 リッパー- 山田正紀 2020/03/02 10:34
 作者は、神によって着せられた濡れ衣を晴らすべく、既存の言葉で形容しようのないものを何とか表す為にこれほどの言葉を費やした。しかしまだそれは、並べられた言葉の向こう、語られたエピソードの向こう、脳が認識する五感の向こうにしかない。本を閉じてやっと物語が始まる。今も私は、世界の境界部がぱらりと捲れてメタ的な外部が顔を覗かせる不安に苛まれている。

No.17 5点 大江戸ミッション・インポッシブル 幽霊船を奪え- 山田正紀 2020/02/25 10:53
 前巻の順当な続きであって、それ以上の物凄いものでは、まぁない。どくろ大名のキャラクターはナイス。時代物ならではのトリックには苦笑。少し端折って1冊にまとめた方がスピード感も出て良かったのでは。ビジネスのことは言うな!

No.16 7点 流氷民族- 山田正紀 2020/02/20 13:43
 SFサスペンス、なんだけど思い返してみるとSF要素つまり亜人類に関する魅力的な設定は殆どが又聞き情報。美少女が写真と同一人物だときっちり確認されたわけではないし、眠る人々もスケールの大きなカルト集団に見えなくもない。あり得ない場面が読者の前に直接提示されることはなかったので、全てが壮大な勘違いとの解釈もアリ?
 それはそうと、終盤の船上の場面はカタルシスに満ちていた。峰くん見直したぜ。その後のミステリ的解説が結構ぐだぐだなのには参ったけどね。

No.15 7点 終末曲面- 山田正紀 2020/02/03 13:19
短編と言う枠の中に押し込められた物語の軋みが聞こえる。背景としてもっと大きな世界が感じられ、いわば設定としては長編的、結末は短編的、故に文字で表現された以上のエッセンスが行き場を失くしてえも言われぬ焦燥感を生み出した。特に「薫煙肉のなかの鉄」の世界にはもっと浸りたかった。
 「銀の弾丸」は、日本人作家による史上二作目のクトゥルフもの作品だとか(一作目は高木彬光「邪教の神」)。

No.14 5点 大江戸ミッション・インポッシブル 顔役を消せ- 山田正紀 2020/01/23 10:44
 天保の江戸を舞台に闇の勢力が激突(密室殺人も発生)。人間離れした遣い手がアレコレ登場するが、ギリギリ現世に留まっている(か?)。
 近年はSF回帰の傾向が目立つ作者だが、こんなシリーズに対する意欲もあるのかと意外に思った。終盤は強引な展開で無理に見せ場を作った感あり、以下次巻。

No.13 6点 贋作ゲーム- 山田正紀 2020/01/09 11:59
 作者曰く“実行不可能な作戦を数人のチームが達成する”シリーズの短編4本。個々の作戦は面白いし、短編サイズで過不足ないネタを上手く配している。しかし基本コンセプトが共通なのでどうしても似通った印象。主人公がみな世を拗ねてうらぶれた中年男なので尚更。そして、同趣向の長編に比べて切迫感が無いと言うか、やや淡白。

No.12 8点 神々の埋葬- 山田正紀 2020/01/05 12:48
 『神狩り』『弥勒戦争』『神々の埋葬』で“神シリーズ”とも呼ばれるらしい。しかし山田正紀は以降も繰り返し神をテーマに取り上げているわけで、その呼称はあくまで初期の視点による過去のものと捉えるべきだと思う。
 さて本作。スケールの大きさは言うまでもなく、若書きなりに『神狩り』等と比べると登場人物は存在感を増したが、まだストーリーを勢いで駆け抜けてしまった感がある。美味しいキャラクター設定だけしてガンガン使い捨てている。例えば後藤貢あたりのエピソードを一つでいいから(伝聞ではなく)挿入してあれば、ハードボイルドな結末の無常感もいや増したのではないか。

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虫暮部さん
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泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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