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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1853件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.20 8点 神狩り2 リッパー- 山田正紀 2020/03/02 10:34
 作者は、神によって着せられた濡れ衣を晴らすべく、既存の言葉で形容しようのないものを何とか表す為にこれほどの言葉を費やした。しかしまだそれは、並べられた言葉の向こう、語られたエピソードの向こう、脳が認識する五感の向こうにしかない。本を閉じてやっと物語が始まる。今も私は、世界の境界部がぱらりと捲れてメタ的な外部が顔を覗かせる不安に苛まれている。

No.19 5点 大江戸ミッション・インポッシブル 幽霊船を奪え- 山田正紀 2020/02/25 10:53
 前巻の順当な続きであって、それ以上の物凄いものでは、まぁない。どくろ大名のキャラクターはナイス。時代物ならではのトリックには苦笑。少し端折って1冊にまとめた方がスピード感も出て良かったのでは。ビジネスのことは言うな!

No.18 7点 流氷民族- 山田正紀 2020/02/20 13:43
 SFサスペンス、なんだけど思い返してみるとSF要素つまり亜人類に関する魅力的な設定は殆どが又聞き情報。美少女が写真と同一人物だときっちり確認されたわけではないし、眠る人々もスケールの大きなカルト集団に見えなくもない。あり得ない場面が読者の前に直接提示されることはなかったので、全てが壮大な勘違いとの解釈もアリ?
 それはそうと、終盤の船上の場面はカタルシスに満ちていた。峰くん見直したぜ。その後のミステリ的解説が結構ぐだぐだなのには参ったけどね。

No.17 7点 終末曲面- 山田正紀 2020/02/03 13:19
短編と言う枠の中に押し込められた物語の軋みが聞こえる。背景としてもっと大きな世界が感じられ、いわば設定としては長編的、結末は短編的、故に文字で表現された以上のエッセンスが行き場を失くしてえも言われぬ焦燥感を生み出した。特に「薫煙肉のなかの鉄」の世界にはもっと浸りたかった。
 「銀の弾丸」は、日本人作家による史上二作目のクトゥルフもの作品だとか(一作目は高木彬光「邪教の神」)。

No.16 5点 大江戸ミッション・インポッシブル 顔役を消せ- 山田正紀 2020/01/23 10:44
 天保の江戸を舞台に闇の勢力が激突(密室殺人も発生)。人間離れした遣い手がアレコレ登場するが、ギリギリ現世に留まっている(か?)。
 近年はSF回帰の傾向が目立つ作者だが、こんなシリーズに対する意欲もあるのかと意外に思った。終盤は強引な展開で無理に見せ場を作った感あり、以下次巻。

No.15 6点 贋作ゲーム- 山田正紀 2020/01/09 11:59
 作者曰く“実行不可能な作戦を数人のチームが達成する”シリーズの短編4本。個々の作戦は面白いし、短編サイズで過不足ないネタを上手く配している。しかし基本コンセプトが共通なのでどうしても似通った印象。主人公がみな世を拗ねてうらぶれた中年男なので尚更。そして、同趣向の長編に比べて切迫感が無いと言うか、やや淡白。

No.14 8点 神々の埋葬- 山田正紀 2020/01/05 12:48
 『神狩り』『弥勒戦争』『神々の埋葬』で“神シリーズ”とも呼ばれるらしい。しかし山田正紀は以降も繰り返し神をテーマに取り上げているわけで、その呼称はあくまで初期の視点による過去のものと捉えるべきだと思う。
 さて本作。スケールの大きさは言うまでもなく、若書きなりに『神狩り』等と比べると登場人物は存在感を増したが、まだストーリーを勢いで駆け抜けてしまった感がある。美味しいキャラクター設定だけしてガンガン使い捨てている。例えば後藤貢あたりのエピソードを一つでいいから(伝聞ではなく)挿入してあれば、ハードボイルドな結末の無常感もいや増したのではないか。

No.13 8点 弥勒戦争- 山田正紀 2020/01/05 12:45
 乾いた筆致の仏教SF。水面下の全体像がきちんと在って、その上で氷山の一角だけ断片的に描いている感じ。逆に言えば“ここをもっと深く掘ってよ!”と言う箇所があちこちに見られ、決して小説巧者ではない。しかし妙な生々しさが時折グイッと鎌首をもたげる。なんだこれ。

No.12 8点 神狩り- 山田正紀 2019/12/05 12:50
 いや~、スッキリした小説である。余計な重複が無いし、多面性に欠ける一本気キャラばかりだし。かと言って貧弱なわけではなく、頑健な骨格に引き締まった筋肉を具えたアスリートの力強さだ。
 一方で、“説明出来ないことは説明出来ないのだ”と言う説明で押し切ろうとしているのは、若書きと言うかまだ手持ちの駒が少なかったんだなぁと感じる。それを形にしようと徐々に饒舌になったのかもしれない。
 まぁ読書に関して一神教である必要など無いのだ。熱いデビュー作と厚い近作と、面白さの質は変わったが山田正紀はどちらも面白い。

No.11 7点 戦争獣戦争- 山田正紀 2019/11/30 16:14
 現世と重なり合いつつ微妙に違う世界で戦いに明け暮れる種族、と言った設定は目新しくもないが、山田正紀は巧みなエピソード構築、鮮やかな視覚的イメージ、そして言葉自体の存在感で厚みの付与に成功している。でも腐肉や糞便に関するイメージ喚起力は困るな~。
 惜しむらくは少々贅肉を付け過ぎてリーダビリティが犠牲になっている嫌いがある。3分の2を過ぎて読み疲れた頃にググッと話が収斂して(中原さんのエピソードは泣けた)オオッと来た後がまた長い。もう少し流れが良くなれば結末のカタルシスも増すと思うのだが、この作者の大作主義は良し悪しなので全部込みで付き合うしかないのだろう。

No.10 8点 神曲法廷- 山田正紀 2019/09/27 12:02
 本来もっと影響力と言うかカリスマ性と言うかその手の強さを持っている筈の登場人物(複数)が、“空っぽ”と評される被告人と同様いやにのっぺりと描かれている。極論全員人形みたいだ。
 ちっぽけな人形を指ではじいたら、互いにぶつかり合ってあっちで壊れこっちで壊れ。それを天空の高みから見下ろしている気分だった。ぼんやり霧がかかったようなイメージが頻出することもあり、人間ドラマという感じではない。そしてそれこそ作者の意図のように思える。

 ところで、彼女の登場場面で、プライヴェートを地の文で説明しているのはアンフェアでしょう。

No.9 6点 創造士・俎凄一郎 第一部 ゴースト- 山田正紀 2017/10/02 07:20
 摑みどころのない描写は話が進むにつれますます曖昧になり、雨に打たれて迷い込む街は更に荒涼とし、足下はどんどん覚束なくなる。幾つかの短編を内包する形で街がいびつに崩れて行く。話の核だけを取り出せば他愛ないものかもしれないが、構成と文章による巧みなコーティングで読者の気を滅入らせる手管は筋金入りだ。まぁ厳しく評するなら、“虚構性を重視した本格ミステリ”という得意の芸風で一冊焼き増ししただけ、ではある。
  俎凄一郎というのは綾辻行人の館シリーズに於ける中村青司のような存在で、館ならぬ街シリーズといったものを意図していたのだろう。私は(ファンの欲目もあるにせよ)面白いと思ったが、中断するほど不評だったのだろうか。とはいえこの作者には『神狩り』(1974年)の続編を2005年に発表したという前科もあり、シリーズが突如再開される希望が皆無とは言い切れない(と思いたい)。

No.8 8点 ここから先は何もない- 山田正紀 2017/08/29 09:10
 予備知識無しで粗筋も知らずに読んだので(これが良かった)、ミステリのリアリティの枠内に留まって説明を付けるのか、SFの領域に踏み込むのか、ラスト直前まで判らずページを繰る手が止まらなかった。ここまで話を大きくするかと驚くやら呆れるやら。『謀殺のチェス・ゲーム』と『神狩り』をいいとこ取りして混ぜたよう。作者あとがきによれば『星を継ぐもの』(ジェイムズ・P・ホーガン)への不満を解消する為に書いたとの由。

No.7 6点 鏡の殺意- 山田正紀 2017/08/02 10:52
 事態の進展に伴い足許から世界が崩れて行って、しかし再構築はされず、真相らしきものが一応明らかになったあとも摑みどころの無い場所にポツンと残されていることに気付く……というのはミステリ系に限らず山田正紀作品によく見られる構造。ストーリーが直線的で細かな目配りに欠けるし、“真実の確定”が中心ではないし、厳しく見るなら、曖昧な“雰囲気”を核に据えた舌先三寸とも言える。しかし再読したところ以前よりも面白く感じたのは、私がミステリに求めるものが変わってきたからか。

No.6 6点 カムパネルラ- 山田正紀 2016/11/28 10:57
 呪師霊太郎シリーズでも題材とした宮沢賢治にSF側からアプローチした作品。SF設定の中で殺人が発生、中盤までその謎解きで進むものの、ミステリ的決着が中途半端なままSF的カタストロフで押し流してしまった。こういう結末なら全体のSF度がもっと高くて良いと思う。

No.5 7点 屍人の時代- 山田正紀 2016/11/21 12:21
 ミステリの形を借りて時間の無常を描いた風情は好き。
 しかし、第二話の“毒ガスの用心のため口だけで息をする”と、第四話の“貨車を燃やして石灰粉を消してしまわないと、農場に搬送できない”の理屈が判らない。苦労して辻褄を合わせたという印象が残る。このひとのミステリは多少破綻しててもアリなんだけど……。

No.4 7点 カオスコープ- 山田正紀 2016/11/11 11:28
 認識論、存在論、脳地図といった“山田正紀用語”は“確立された個性”か“ネタの使い回し”か微妙なところだが、一応の整合性を維持してミステリに着地しているのは立派。複数の殺人事件が些細な枝葉に思える遠近感の狂ったヴィジョンに呑み込まれる快感。
 でも正直に言えば、冒頭の「大鴉」談義が一番面白かった。

No.3 6点 ロシアン・ルーレット- 山田正紀 2016/11/08 09:58
 作者御得意の虚構性を生かしたミステリアスなストーリー集(短編集のような長編)。どのエピソードもやりきれなくて面白い。しかしこれの何処がロシアン・ルーレット?

No.2 6点 火神を盗め- 山田正紀 2016/10/31 10:53
 ところどころにさぁ感動的に盛り上がれと促すような文章があるが、それに乗っかるにはキャラクターの掘り下げが甘い気がした。工藤はなんであんなに強気なの。フツーの会社員があんな風に会社を脅すなんて、フィクションとしてのリアリティに欠ける。かつて過激派だったとかの過去がなくちゃ。

No.1 6点 人間競馬 悪魔のギャンブル- 山田正紀 2013/08/19 10:07
同著者のかつてのアクション系SFを思わせる、良い意味でのB級作。『ミステリ・オペラ』系の濃厚作品ばかりでは、愛読者も疲れてしまうからね。とはいえ、人物造形の妙は流石。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1853件
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