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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1853件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.60 9点 延暦十三年のフランケンシュタイン- 山田正紀 2023/04/27 13:27
 SF設定が基盤にあるし、宗教者の物語だし、すわ最初期の〈神シリーズ〉の再来か? とも思ったが、事象より個を描いているあたり、もう少し後の時期のアクション系連作集の匂いの方が強い。そこに加えた一捻りがつまり、延暦年間と言う時代設定なのである。
 この設定が非常に有効で、ベタで大仰な展開も内心如夜叉の玉依の女性性も違和感無く読めた。滂沱の涙が三回とは自分でも驚き。現代物だったらそこまで素直に浸れなかったかも。

No.59 7点 人喰いの時代- 山田正紀 2023/04/27 13:26
 思うまま書いたらネタバレしてました――。
 作者は本作と『ブラックスワン』で “SFを書いて、かつミステリーを書くという独特なスタンスを築きたい、という思いもあったのだが ~ SF作家がミステリーを書いた、というふうに受けとめられることになった” と述懐している。
 それもむべなるかな、と私は思うのだ。山田SFのキー・ワードである “虚構性” がそのまま引き継がれているんだもの。
 作中の某の心を何らかのブラック・ボックスであると解釈すれば、『地球・精神分析記録』や『夢と闇の果て』と近似の構造だ。いつもの手で来たか、と見られても仕方が無い。
 但し、ミステリであることを重視するなら、その虚構は開きっぱなしではなく何らかの形で収斂するのが望ましい。
 イヤ、一概にそうとは言えないか。しかし本作の場合は、五話目までは割と古風できちんとまとまった本格ミステリ短編なのに、最終話で虚構性をぶっこんでしかも中途半端に閉じかけたままなので、どうにもバランスが悪い。身も蓋も無く言えば、この部分は作中作だよ! あっ、そう。で済んでしまう感じ。
 その点が、本作を合理的なミステリと捉えても、破格の実験作と捉えても、物足りない。いっそ最終話をカットして、昭和初期の歴史ミステリに徹するのもアリだったのでは。

No.58 6点 七面鳥 危機一発- 山田正紀 2023/04/20 13:31
 山田正紀には “本を一冊読めば一冊書ける” との噂があるらしい(本人は一冊じゃ無理ですと否定している)。
 似たような意味で、本書を構成する各短編も、主人公言うところの “泥棒のルーティン・ワーク” を略さずしっかり書き込み引き伸ばせば『24時間の男』系統の長編に仕立てられるのではないか。
 それをギュッと濃縮した、と言うには、のほほんとした書き方で個々のネタがそこまで研ぎ澄まされていない。何を盗んだのか判らないとか依頼人が泣いたとか七面鳥最後の選択とか七子が “ちぎれるように手を振った” とか、胸に残るポイントはあるけれど、それとこのそこそこのストーリーを秤にかけると分が悪い。水準の高い作家の、凡作。

 但し、スパッと楽しめる娯楽作品として成立するにはあまり高過ぎない方がいいと言う側面もあるんだろう。
 “コミック・アクション” と銘打ち表紙イラストがモンキー・パンチってそりゃ狙いは明確。全編一人称だから山田康雄の声で脳内再生されちゃうよ。あっ、今の若い人は違うのか。

No.57 6点 魔空の迷宮- 山田正紀 2023/03/24 12:38
 発表時点で作者は十年選手だが、本書は最初期の “神シリーズ” に回帰したような伝奇サスペンス。(いつものことだが)世渡り出来ない主人公。その周りに現れては消える人の連鎖。都市のもう一つの貌。
 面白い歴史ネタを絡めたが、説明だけで終わってしまった、裏側に潜り切れなかった、との感が強い。黒幕との対決がもっとじっくりあっても良かった。
 武藤に関しては、何故そこまで入れ込むのか、人物像の裏打ちが甘いのでは。途中で死ぬ奴ならそれでもいいけどさ……。

 C-NOVELS 版の表紙イラストはイメージと違うな。サイズが明記されているわけではないが、あんな肉感的な “男が悦ぶ女” 的なキャラクターは出て来ないでしょ。みんなもっと棒みたいな身体だと思う。主題に関わる重要な問題なので厳しく指摘しておきたい。その反省を踏まえてか、文庫版の表紙はそれなりに嵌まっている。 

No.56 8点 幻象機械- 山田正紀 2023/03/17 12:23
 “日本人の正体” をスケールの大きなSFミステリの形で暴いている。全体を貫く薄暗い空気が、押入れに隠れた遠い日の記憶のようで心地良く怖い。思い切り曲解するなら、連城三紀彦『戻り川心中』をSFの鏡に映した反射像。虚実綯い交ぜ、だが引用されている不気味な歌は “実” だ、ってところが凄いね。真相も実だったらどうする?

No.55 6点 郵便配達は二度死ぬ- 山田正紀 2023/03/09 12:12
 “警察小説” とまでは行かずとも半分くらいは警察官の視点で描かれている、にもかかわらず雲を踏むようなふわふわした空気に包まれ、入り組んだ真相もリアリティ云々ではなくそんな空気込みで成立する様は、ミステリの型を借りて真夏の夜の夢を演じているよう。
 しかしこの公演、大成功とは言い難い。原因はスターの不在? 群像劇が裏目に出て、はぐらかされたような読後感。それはそれで一つの表現コンセプトだと言えなくもない(か?)。
 暗号はまぁ御愛嬌。読者の楽しめる暗号ってなかなか無いな~。

No.54 6点 24時間の男 一千億円を盗め- 山田正紀 2023/03/02 12:41
 種々のピースを上手く組み合わせているが、全体的に趣味的と言うか、切迫した動機付けがもう1ポイント欲しい気がした。
 コンピューター攻略の部分よりアナログなアイデアの方が面白い。れい子が無色透明なキャラクターにして妙に蠱惑的だが、それ故に出番が限られるのは仕方ないか。要所々々を締める役だから泣くな私。
 30年以上前の “最新技術” なのに、それほど古くは感じなかった。アップデートされていない私。

No.53 6点 恍惚病棟- 山田正紀 2023/02/17 13:38
 大まかな謎は二つある。“病棟で何が起きているのか?” は、ミステリの柔らかい部分と硬い部分の予想外の混ざり方と言う感じで驚かされた。一方、その舞台で発生した悪意による出来事については、曖昧な部分が多くスッキリしなかった。

 主人公のキャラクターについて。読者視点で読み取れる印象と、作中で他の人達が彼女に接する時の評価にギャップを感じた。“過大評価されている人” と言う意図的な設定なのだろうか。
 研修医・新谷のノートは、発表当時のセンスとしても失笑ものである(筈)。それこそ痴呆老人からのメッセージかと思った。

No.52 8点 謀殺の弾丸特急- 山田正紀 2023/02/03 11:57
 超冒険(スーパーアドベンチャー)シリーズ第三弾、だそうな。第二弾『火神を盗め』は、キャラクターの身上や動機付けがアレコレうざったかった。対して本作は、否応無しに巻き込まれて “生き延びたい” だけの設定が、玄人相手の無茶な逃走劇に却って説得力を持たせている、と私は思う。相手を死なせても精神的な呵責がいつの間にか有耶無耶になっているあたりも、判る。
 “機関車 VS 攻撃ヘリ” では素人ならではのアイデアが炸裂して痛快無比。一方、ジャングルの中で一晩停車しても無事(なのに翌朝にはあっさり追い付かれる)、と言う流れには首を傾げた。

 尚、計画的殺人は起きていないわけで、タイトルは “無謀な自殺行為” の略、かな。

No.51 8点 たまらなく孤独で、熱い街- 山田正紀 2022/09/01 12:24
 殺人者については諸々未解明なまま。そういうミステリ的な “納得” を脇に置けば、文脈とか整合性とかとは別のところでかなり腑に落ちる(判らなさが判る)話。“孤独” を描いたと言うと陳腐だが、そう言うしかない。
 真ん中の部分、つまり “彼” を、ここまで思い切って空白に出来たのは作者の胆力ゆえ、だろうか。
 SF作品では虚構性の強さが特徴の人だし、見る角度を変えると “誰でもない殺人者が、しかしその時その場所に確かに居た” と言う幻想小説にも思える。

No.50 8点 デッド・エンド- 山田正紀 2022/08/02 11:56
 山田正紀の宇宙SFしかも長編って実は珍しい。そしてJ・P・ホーガン『星を継ぐもの』あたりと同じ意味でのSFミステリである。スケールの大きなホワイダニット?
 そこに主人公個人の、言ってしまえば卑小な絶望をぶつけて対比、とするには何か足りない気がする。ただ、この謎とその真相はとても好きで、つまり全面的高評価ではないけれど必要なポイントは確保されている。

No.49 7点 魔術師- 山田正紀 2022/04/23 12:49
 神獣聖戦シリーズは作者本人による『神狩り』のリメイクみたいなものだと思う。デビュー時より語彙が増えた分、虚構性の切迫感も増強されている。“鉱脈を掘りあてたかもしれない” とのコメントや『神狩り2 リッパー』との共通性もむべなるかな。但しキャラクター造形も相変わらずなのである。

No.48 5点 神獣聖戦 Perfect Edition- 山田正紀 2022/03/16 12:05
 動的な物語を或る種の背景に引っ込めてまで、本来は背景の役割であるところの “世界のありさま” を主役に引っ張り出している。上巻まるまる使って設定紹介をしているようなもので、正直そこは読みづらかった。記述を繰り返し重複させる悪癖もきつい。作者のアクロバットに付いて行けなかった気分で悔しい。
 後半ようやく登場人物(人に限らず)が前面に出て来て面白くなるが意外とあっさり終結。説明にここまで紙幅を割いておいて、具体的なアクションはこれだけ? いや、ページ数としては充分長い筈なんだけど、壮大な設定を延々読まされたせいでスケール感が狂っちゃったんだね。

 「テイク・オン・ミー」の歌詞が、厳密に言えばちょっと違う。“密室殺人” は有名なバカミス系トリックの応用?

No.47 8点 魔境物語- 山田正紀 2022/01/30 12:08
 光風社版、天野喜孝の美麗表紙が素敵。
 山田正紀のこの時期の冒険小説系作品は “はみだし者達の即席チーム、無謀な道行” ばかりなのだが、「まぼろしの門」はその中でも最高位に置くべき逸品。孝平がいるからこそ嘉兵衛のキャラクターが生きる構造に仏教を上手く絡めて、ラストシーンではもう泣きそう。
 「アマゾンの怪物」も、パターン通りではあるが作品の水準として劣るものではない。全員に裏がある省エネ設定?
 ただ、中編2編収録と言うなんとも中途半端なパッケージが、山田正紀作品リストの中で本書の存在感を妙に薄くしているように思える。せめてもう1編あれば……もしかして “魔境” テーマでシリーズ化するつもりが頓挫したのだろうか。

No.46 7点 化石の城- 山田正紀 2022/01/16 12:01
 これは作者初の “明確なSF要素を含まない長編” だ。
 ところが山田青年はあとがきにこう綴っている。

 “ぼくはSF作家を志す者だ。なぜ他の小説をではなく、SFを選んだのかという理由のひとつに、諸先輩の誰もが口にされることだが、その間口の広さがある。(中略)ぼくの独断にすぎないかもしれないが、すでに日本においては、SFを小説の一ジャンルと考えるのは正確でないような気がする。頭のなかで繰り返したあるシミュレーションを、小説にとりいれるテクニック、あるいはそれに伴う「思想」のような気がするのだ。
 ――というわけで、この『化石の城』は現代史をテーマにしたSFである。”

 これは、山田正紀を読み解く上で、なかなか重要かつ親切な告白ではないか。
 デビュー作で星雲賞を受賞し、立て続けに傑作SF長編を発表、一躍SF界の寵児となるかと思ったらアクション小説へも手を伸ばした。それはそれで面白いのだが、“初期作品のようなSFを(初期のうちに)もっと書いて欲しかった” 私にしてみれば “何故そっちへ行った!?” との疑問を拭い去ることが出来ずにいた。てっきり出版社主導の “売る為の路線” として書いたのかな~と邪推していたのだが、しかし本人としてはそこまでの区別は無かったと言うことだろうか。
 超自然現象の有無とかにこだわらず、本作から『宿命の女』や『人喰いの時代』を経て『ミステリ・オペラ』あたりに辿り着くものが “現代史SFと言う思想” だとすれば、山田正紀のミステリが何故いつもミステリとして何か欠けているように感じられるのかの説明になるような気がする。

No.45 7点 宿命の女- 山田正紀 2021/12/29 12:16
 問題は結末間近で明らかになる “宿命の女” なる芸術作品。私の感受性の欠如か、“そういうものでそういう表現が出来る” と言うことがイメージしづらく “なんじゃそりゃ” と思った。
 思ったがしかし、数ページ読み進むうちにみるみるそれが自分の中で “アリ” に変わって行く。大袈裟に言えば、心の一部が組み替えられたような気分で面白かった。
 主人公が美術雑誌編集者で、アクションに於ける強みがまるで無く、優柔不断なままラストまで流れ着くあたりも苦笑を誘われ良い感じ。

No.44 7点 裏切りの果実- 山田正紀 2021/12/26 11:02
 それにしても暑い。そして疲れて、空っぽ。返還前夜の沖縄の空気がこれでもかとばかりにリアルに描かれている。いや実物知らんけど、リアルな気が、する。現金輸送車は宿命的に狙われる。
 結末近くで明かされる伊波名の意外な小賢しさと、それによって露わになる志郎の空虚さ(とは大袈裟か)が印象的。ドストエフスキーを持ち出したりして、実はインテリ? 理想に敗れた活動家あがり? “刑務所” ってそういうことか?

No.43 7点 開城賭博- 山田正紀 2021/11/03 15:24
 広義の“時代物”作品集。SF要素はありません。
 表題作。“史実”と言うアドヴァンテージはあれど、短い描写で賭けの場に見事引きずり込まれた。「恋と、うどんの、本能寺」。もっと紙幅を割いて、うどんの真相を追求して欲しかった。「独立馬喰隊、西へ」。作者十八番のはぐれ異能集団もの。幾度も読んだパターンだけどグッと来ちゃうね。私には判らないけど、岡本喜八監督へのオマージュとの由。

No.42 7点 恋のメッセンジャー- 山田正紀 2021/10/16 10:46
 愛読者にしてみれば「眠れる美女」は定番ネタで、処理の仕方もパターン通りかも。「かまどの火」は『宝石泥棒』の一場面を移植したよう(良い意味で)。上司からのこんな通信方法は嫌だ。
 他に生物学SFミステリ(とは言い過ぎ)、飛行機乗り達の切ない話、切り裂きジャックの話。アイデアを引っ張り過ぎない短編らしい短編が集まっている。植物が視点人物を務める「西部戦線」の語り口が面白い。

No.41 7点 京都蜂供養- 山田正紀 2021/10/03 11:11
 1994年。作者の単行本未収録短編の多さに憤った編集者が“山田正紀コレクション”と銘打って全3巻の短編集を企画。本書はその奇妙な味編。

 と言うことらしいが、“奇妙な味”って、ジャンル分けしづらい作品に対する逃げ口上になってないか? 私としては、認定に際してもう少し高いハードルを求めたい。
 本書の収録作は全体的に“奇妙な味”と呼ぶには鋭い。少なくとも一部分には刃が付いている気がする。
 はっきりとSFである「モアイ」。実はSFの「鮫祭礼」。表題作は伝奇ミステリ? 真に“奇妙な味”なのは「転げ落ちる」「近くて遠い旅」くらい。一番滑稽で怖いのは「獣の群れ」。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1853件
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