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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1848件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.24 5点 少女外道- 皆川博子 2024/11/24 11:10
 この作者の表現としては、こういうものの方がコアに近いのかも知れない。私はエンタテインメントの読み方の癖が抜けずに、つい落としどころを求めてしまうな~。
 連作長編ではないけれど、収録作品が互いに反響し合ってとある世界を織り上げている。そのせいもあって、どの短編のどの部分が良い悪いと言った感慨は持ちづらい。ミステリ的に見ると視点・時系列の転換や叙述上の仕掛けが中途半端に思えるが、そういう “パターンに則らない自在さ” こそがこのささやかな箱を成立させているのである。

No.23 6点 アルモニカ・ディアボリカ- 皆川博子 2024/10/18 10:58
 舞台設定も登場人物もシリーズ前作より濃くなって、(なのに)読み易さもアップ。但し、読者の視点から重層的に見える幾つもの事件が、ちと未整理。特に、過去の出来事と、その情報を現在に伝える為の行動が、絡み合って必要以上に判りにくいのが惜しまれる。グラスの縁をなぞっているといきなり指先が切れる妄想に囚われるので危険だよ君達。

No.22 7点 開かせていただき光栄です- 皆川博子 2024/09/13 12:01
 かの時代、かの土地に於ける価値観、制度、技術などによって犯罪捜査やら何やらが随分違った様相を見せるのは時代ミステリの醍醐味。殺人の扱いが意外に軽くて笑ってしまった。物語の背骨は大きく湾曲していて、引き拡げられた肋骨の中に色とりどりの内臓が通常の三倍くらい詰まっている。美しい畸形だと感じた。♪熱くて冷たいハート。賢きは腎臓。肥大した肝臓は美味なり。ランララ~。

No.21 7点 クロコダイル路地- 皆川博子 2024/08/23 13:15
 あくまで個人(しかも下っぱ)の視点で描いたフランス革命前後。しかしそもそもの生活環境の不潔さや不合理さに、どういう勢力が、どういう主張が、どういう根拠が、と言った事柄がどうでも良くなってしまう。結局 “そのカネをよこせ!” と言うのが革命だ、と思った。
 誰が主人公と言うわけでもない長々しき作品ゆえ、復讐にせよ裁判にせよ物語の核とは思えない。もう少し “決着” らしいものが欲しかった。しかしそれが “歴史” なのか。単にライフゴーズオンでは読者があっちから帰って来られない。
 貧民の子供達が臨時収入を見世物に費やしてしまうのがとても不思議だった。

No.20 7点 壁-旅芝居殺人事件- 皆川博子 2024/07/18 11:41
 語り手が無味無臭で、重要な立場の割に部外者っぽい気分(名前が最後まで覚えられなかった)。そのせいで単なる好奇心からフラフラと探偵役じみた行動をしている、と思ったらラストの反転が効いた。
 登場人物の気持を非常に技巧的に扱っているなぁ、心理劇系かぁ、と読み進めると、存外に謎解き的な真相。しかし “ちょっとレコードのところにお行き” の台詞が後出しなのは如何なものか。

No.19 7点 愛と髑髏と- 皆川博子 2024/06/14 12:59
 幻想的な犯罪的な短編集。理屈で割り切れない機微をロジカルに(?)描いているものが幾つか。割り切れないまま描いているものが幾つか。“判らなさを楽しむ” にはあまりにも人間が生々しいので、“何故そうなる?” と口走ってしまう私。修行が足りません。

No.18 5点 光源氏殺人事件- 皆川博子 2024/05/31 15:12
 “オブセッション” なるアイデアは光る。しかし物語の奥の方に折り込み過ぎ。なかなか表面に出て来ないので、それに対するアクションと併せて最後にドバッと説明する形になってしまった。せめて物語中盤で明かさないと、驚きをしみじみ味わう暇も無い。
 しかも謎解きが非常に駆け足なので、作者にとっては “推理小説形式にすれば多少は売れるから” と言う、恋愛模様を書く為の方便に過ぎないのではないか、と思ってしまった。

No.17 7点 悦楽園- 皆川博子 2024/05/16 13:17
 皆川博子が雑誌に発表した初期短編は、作者本人に “書き捨て” みたいな気持もあったようで、短編集への収録状況がちょっと面倒なことになっている。どうすれば効率的にコンプリート出来るのか。まぁ編集時に秀作からピック・アップするのは自然だし、二度出会ったら二度読めば良い。
 本書は1974~85年の短編集4冊からの6編と、単行本初収録4編を併せた、94年刊行の初期傑作選。後者4編は『鎖と罠』(2017年)にも再録されており、“本書でしか読めない話” は無い。

 導入部での入りづらさは若干あるものの、その一山を越えれば、悪意が普通のことのようにシレッと書かれる独特の手際、特に「獣舎のスキャット」の一人称は効く。初短編集『トマト・ゲーム』に収録されていたものの、作者曰く “あまりに不健康かなァと、自粛” して文庫化の際に差し替えたそうな(ハヤカワ文庫版では復帰)。いやいや他の作品だって大して変わりませんよ。

No.16 7点 光の廃墟- 皆川博子 2024/04/11 13:27
 擬似CCみたいなキャンプ地で、殺意が芽生え過ぎだよ。最初の死をキッカケに箍が緩んじゃったんだね。癖の強い登場人物達が自然に描かれていて、ぶつかり合う気持も腑に落ちる。様々な血の絆である。この主人公が図書館勤務と言う設定はそそるな~。
 ただ、心理劇としての強さに受け皿としての物理劇が追い付いていない嫌いはあり、ミステリとしての緻密さには欠けるか。

No.15 7点 結ぶ- 皆川博子 2024/03/01 13:57
 冒頭に置かれた表題作のインパクトがあまりに強くて、他の作品が記憶に残らないなぁ。
 と言いつつ注目作を挙げておく。「花の眉間尺」「蜘蛛時計」「U Bu Me」「心臓売り」。
 そもそも同系統(幻想小説)の短編のセレクションであり、収録作品には壊れ物のようで実は強固な文体や半透明な情景を重ね合わせるような構造と言った共通点が見られる。その為まとめて読むと似ていると感じられるものもまぁあるので、座右に備えて折々に少しずつ読むのが相応しかろう。それじゃ病んじゃうか。創元推理文庫版には4編追加。

No.14 7点 薔薇忌- 皆川博子 2023/12/29 15:24
 舞台芸能短編集だけど、泡坂妻夫の職人ものみたい。あっちで耐性が付いていたからスンナリ読めたってとこがあるかも。具体的なイメージは出来ずともなんとなく情景が伝わるいにしえの語彙。カードの家を作るように丁寧に積み上げられる台詞と男女の機微。
 結構強烈な筈の各編結末のサプライズが意外にサラッと流れたのは、日常と幻想を抱き合わせる筆致のなす業か。因みに作者の性別に起因すると思われるような違いは私は感じなかった。

No.13 7点 猫舌男爵- 皆川博子 2023/12/21 13:03
 このタイトルは都筑、しかしまるで清水、いや多くは言うまい。思わず作者名を見直したこの表題作、「睡蓮」のパロディにも思える。この2編をわざわざ1冊にまとめるとは……。本文を読まずに描いただろと思える表紙が、しかしそれ故に最も的確と言うこの捻れ。好きだなぁ。
 因みに “針ヶ尾奈美子” は旧作に登場した名前で、伏線と言う程ではないがファン・サーヴィス?

 他3編。読み易くはないが読む気にさせる言葉が、美醜の垣根を飛び越える。

No.12 8点 花闇- 皆川博子 2023/12/14 13:32
 三代目澤村田之助――幕末に、絶大な人気を博しつつも、四肢を失い、しかしなお舞台に立ち続けた女形が実在した。と言う軽い知識はあったけれども、同時に思っていた。そんなことが可能だったの?
 差別的ではあっても綺麗事抜きで妥当な疑問だろう。本書はそれに、そこそこ答えてくれた、かな。

 高慢ながら芸には真摯。そんなキャラクターをこれでもかとばかりに示し、読者の心に浸透した頃合を見計らっておもむろに手足を奪う。史実だから仕方ないけど作者は鬼か。
 田之助が中心であることは間違いないが、時代に押し流される歌舞伎界の群像劇でもある。中でも大道具師の忠吉の才気は忘れ難い。長谷川! と声が掛かって嬉しいね(私は武将より参謀に惹かれる傾向があるのだが、これも?)。
 しかし役者は改名・襲名が多くてややこしい。叙述トリックに使える。

 知識が乏しいのでどこまでが史実か判らないのだが、期待したより飛躍が少なく、リアリティに対し忠実に書かれている印象。截断後の舞台の様子も意外なほど冷静に描写されている。
 それがこの人の作風だし時代小説のマナーだ、とは知りつつ、そこにもう一歩の何かがあれば、と惜しむ気持も少しある。

No.11 6点 相馬野馬追い殺人事件- 皆川博子 2023/11/24 14:14
 フーダニットはなかなか意外なところを突いている。事件を二つ重ねた煙幕に引っ掛かった。犯人は、一人殺したら歯止めが利かなくなって行動のハードルが下がってしまった感じ。犯人じゃなくても板挟みで素直に供述出来ないとか、皆がバラバラなことを考えて錯綜して行くとか、面白いドラマ。
 しかし、描き方がごちゃごちゃし過ぎ。しばしばページを遡らないと状況が判らなくなってストレスの多い読書になってしまった。

No.10 5点 知床岬殺人事件- 皆川博子 2023/11/04 13:53
 前半と後半が別のプロットみたい。二重人格と事件の絡みが希薄。当人が何も言わないのに、人格の状態や程度を他者が推察出来ると言うのは納得しづらい。
 とは言え、筆力があるので読まされてしまう。犯人のキャラクターをもっと深く掘り下げると魅力的だったのではないか。
 映画監督の鬱屈する様は、作者も “書きたいものと売れるものとの乖離” で苦闘したようだから、それが反映された憂さ晴らしなのだろうか。

No.9 7点 聖女の島- 皆川博子 2023/09/22 12:57
 倉橋由美子『スミヤキストQの冒険』みたい。後年の作品を引き合いに出すなら麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』?
 凡庸な大人達が残酷なまでに書き込まれている一方、少女側のキャラクターに際立った書き分けが無くて物足りない気はする。しかしこれが “聖女” 側の物語だとすると、暴動しようが心中しようが少女達は所詮一山幾らのモブなのだろうか。漂白したかのような雑味の少なさが、この作者の場合はプラスに働くね。

No.8 6点 花の旅 夜の旅- 皆川博子 2023/08/17 12:17
 まるで新本格と言う感じの凝った構造。各短編は深みがありつつ結末を書き過ぎない美意識が好ましい。メタ部分は、前半で期待した程に盛り上がる真相ではなかったので、やや失速との印象が残ってしまい惜しかった。

No.7 6点 ライダーは闇に消えた- 皆川博子 2023/01/06 11:19
 半端に退廃的な青春群像劇、かと思いきや存外にきちんとしたミステリに着地して好印象。中盤のバイク話に引き込まれて、気付いていた筈の伏線をいつの間にか忘れていた私。
 “作者が死んだら賞金が宙に浮く” と言う部分がピンと来ないが、そういうもんなの?

No.6 7点 冬の雅歌- 皆川博子 2022/12/15 15:33
 本作中の某の過去を深掘りしたような長編が後に書かれており、各々単独で読めば傑作なのだが、2冊並べると “中途半端にリメイクしたんだな” と言う印象に変わってしまう。作者はこっちで自分役を死なせていることになる。
 精神病院、アングラ劇団、学生運動、新興宗教(的な精神修養)。私好みの要素がバラバラのピースのようにちりばめられ……バラバラなまま幕切れ。このエンディングは、しかし割とストンと腑に落ちたな。 

No.5 6点 妖かし蔵殺人事件- 皆川博子 2022/12/01 12:22
 手持ちのネタで手堅く書いた感じ。不可解な現象に比べてトリックはしょぼいが、それはそれで歌舞伎をリアルな商売として描いた作品世界と合致しているかも。
 興行の本番中はみんな視野狭窄に陥りがちだから、そこを狙うのは賢い。しかし公演を中断させることも辞さない、同業界人のくせに血も涙も無い計画だな……。入れ換わりが上手くいく保証は無いので、そこは賭けだね。
 特に後半、人間関係が込み入って来るので、もっと意識しながら読むべきだった。犯人のキャラクターが今一つ摑めず、真相を知っても “ふーん” と思うしかなく残念。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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