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虫暮部さん
平均点: 6.21点 書評数: 2294件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.33 6点 昨日の肉は今日の豆- 皆川博子 2026/07/22 14:18
 『ジンタルス』からのスピンオフは本編に負けない面白さ。
 表題作のような “肉体の変容” は、時々見る悪夢でリアルにイメージ出来てしまいとても怖い。痛みを伴わないのが却って不気味。首筋がぞわぞわする。
 この人の幻想系短編は謎めいた場面を切り取ったようなものが多いけど、私は「『希望』」のようにオチ(っぽいもの)がある方がいいな。詩や俳句は良く判らん。

No.32 8点 風配図- 皆川博子 2026/07/22 14:18
 少女が女商人として成長する話。奴隷が割とまっとうな主人の下で鋭い観察眼を磨く話。キリスト教の抑圧が大きな時代のシスターフッドの話。利害が入り組んだ公国の権力争いの話。
 どれもちょっとそういう要素はあるが、総体としてはどれでもなく、じゃあ何の話だったんだろう。
 彼等の “自由意志” の形が現代人と違うのだな、とは思う。記述形式の混乱はそれを反映させているのかも。
 ところで、翻って自分の自由意志だって何かに鋳られてはいないとは言えない。登場人物達の共感出来ない論理は、実は歪んだ鏡に映った私自身である。
 その鏡を見ることこそ、歴史小説の意義なのかもしれないが、しかし他の作家の歴史ものでこうまでの面白さを感じることはあまり無く、やはり何かセンスがフィットするところがあるのだろう。時代考証の上でしっかり書き込んでいるのに、歴史小説に感じがちな重厚さと言う名の鈍重さが皆無なのが素晴らしい。

No.31 7点 ゆめこ縮緬- 皆川博子 2026/07/22 14:17
 '90年代後半に雑誌掲載された幻想短編を集めたもの。ではあるが幻想色はあまり強くない。一時代前の浪漫主義文芸のように湿度の高い視点で流麗かつ濃密に生活が記され、忘れた頃にここぞと言う一点に幻想の楔が打たれる。すると世界がそこで折り畳まれてしまうのだ。
 “あっ、そういう話になるのか” と狐につままれた気分の繰り返し。

No.30 7点 忠臣蔵殺人事件- 皆川博子 2026/07/22 14:17
 実は私、忠臣蔵って殆ど知らない。何しろ吉良上野介と小栗上野介を混同していたくらいだ。“忠臣蔵の裏側、華やかな仇討ちのかげに埋もれた部分” と言われても、表側を知らないのでピンと来ない。
 歴史ミステリではなく、そのへんは装飾に留まっているのが幸いであった。時代がかった浪漫(?)である “仇討ち” が、欲得ずくの法律問題に反転したのは衝撃。探偵役の記者が結構私情に駆られているのに苦笑。
 “錯乱して自殺” と言うのはどうなんだろうなぁ。説得力としては五分五分だけど、事件の中にそのピースを混ぜるのが面白さに貢献しているとは思えないのである。

No.29 7点 薔薇の血を流して- 皆川博子 2026/07/22 14:16
 中編三編収録。いずれも少々剣呑な旅情小説で、人物描写の確かさが光る。異国の日本人の愛と哀しみのタペストリー。に気を取られていると、意外なところに捻りがあってミステリに変貌する。

No.28 10点 ジンタルス- 皆川博子 2026/06/23 16:09
 これはちょっと吃驚するくらい面白かったな。寒さ、飢え、喪失、孤独、様々な苦痛が物語のアップダウンを彩り、嫌な奴もマシな奴も陰影に富む存在感を持ち、全てを象る言葉自体が柔軟な完成度を誇る。
 主人公が良い流れに乗れば乗るだけ、“このままで済む筈がない” と不安が募った。見せ場は多いが、敢えて一つ選ぶなら “マクシミリアンの最期”。平行する二つの物語がミステリ的な絡み方をしなかった点が不満と言えば不満。
 フェイヴァリットに『白痴』を挙げる作者のこと、ドストエフスキーへのオマージュかも。とか言える程、かの文豪を読んだわけじゃないけれど。

 雑誌連載時は〈風配図 Ⅱ〉と銘打たれていたが、物語が繫がっているわけではない。“シリーズ” の定義の問題。テーマや手法にうっすら共通性があるから続編的扱いをしていたのかなぁ?

No.27 5点 顔師・連太郎と五つの謎- 皆川博子 2025/09/18 13:45
 犯人サイドの濃厚な物語が事件の表面にはなかなか滲み出て来ないし、短編だから改めてじっくり語るスペースも無い。各編の末尾に折り畳んで無理矢理詰め込んだみたいでもどかしい。中では「ブランデーは血の香り」が比較的上手く配分出来ていると思う。
 「消えた村雨」の犯人は、そもそも疑われるようなポジションではないのに、トリックを弄したせいで目立ってしまったんじゃない?

No.26 4点 変相能楽集- 皆川博子 2025/09/09 14:30
 元ネタが能楽。ハードルが高いなぁ。イメージの連鎖による自由な連想ゲーム。“幻想小説” と単純に捉え切れないし。どうせ知識など無いのだから余計な配慮はせずに無心に読むわけだが、それでも判らぬ。と認めるのは悔しいが如何ともしがたい。

No.25 6点 北の椿は死を歌う- 皆川博子 2025/02/28 12:38
 椿姉妹を始め事態の原因となったアレコレが面白いのに、最後に駆け足で説明されるだけ。裏側に引っ込め過ぎではないか。斎原家を訪ねるあたりまでは表側から描くのも仕方ないが、後半は倒叙っぽくして殺しの過程や心理をしっかり書いて欲しかった。暴走して殺しのハードルが下がるあの人と、“ついて行けん” と見切ってしまうあの人と。だいたいそっちの方が作者の得意技じゃないか。

 はっきり書かれてはいないが、万起子は “ずっと熱心に妹を探していた” と言うより、“ちょっとした偶然をきっかけに火が点いた” みたいに思える。その結果がアレでは非常に据わりが悪い。故に却って残酷なインパクトを感じた。
 新婦失踪の真相はかなりの綱渡り。ただの失踪で良いのにリスクを冒して成りすましをする必要は無いよね。

No.24 5点 少女外道- 皆川博子 2024/11/24 11:10
 この作者の表現としては、こういうものの方がコアに近いのかも知れない。私はエンタテインメントの読み方の癖が抜けずに、つい落としどころを求めてしまうな~。
 連作長編ではないけれど、収録作品が互いに反響し合ってとある世界を織り上げている。そのせいもあって、どの短編のどの部分が良い悪いと言った感慨は持ちづらい。ミステリ的に見ると視点・時系列の転換や叙述上の仕掛けが中途半端に思えるが、そういう “パターンに則らない自在さ” こそがこのささやかな箱を成立させているのである。

No.23 6点 アルモニカ・ディアボリカ- 皆川博子 2024/10/18 10:58
 舞台設定も登場人物もシリーズ前作より濃くなって、(なのに)読み易さもアップ。但し、読者の視点から重層的に見える幾つもの事件が、ちと未整理。特に、過去の出来事と、その情報を現在に伝える為の行動が、絡み合って必要以上に判りにくいのが惜しまれる。グラスの縁をなぞっているといきなり指先が切れる妄想に囚われるので危険だよ君達。

No.22 7点 開かせていただき光栄です- 皆川博子 2024/09/13 12:01
 かの時代、かの土地に於ける価値観、制度、技術などによって犯罪捜査やら何やらが随分違った様相を見せるのは時代ミステリの醍醐味。殺人の扱いが意外に軽くて笑ってしまった。物語の背骨は大きく湾曲していて、引き拡げられた肋骨の中に色とりどりの内臓が通常の三倍くらい詰まっている。美しい畸形だと感じた。♪熱くて冷たいハート。賢きは腎臓。肥大した肝臓は美味なり。ランララ~。

No.21 7点 クロコダイル路地- 皆川博子 2024/08/23 13:15
 あくまで個人(しかも下っぱ)の視点で描いたフランス革命前後。しかしそもそもの生活環境の不潔さや不合理さに、どういう勢力が、どういう主張が、どういう根拠が、と言った事柄がどうでも良くなってしまう。結局 “そのカネをよこせ!” と言うのが革命だ、と思った。
 誰が主人公と言うわけでもない長々しき作品ゆえ、復讐にせよ裁判にせよ物語の核とは思えない。もう少し “決着” らしいものが欲しかった。しかしそれが “歴史” なのか。単にライフゴーズオンでは読者があっちから帰って来られない。
 貧民の子供達が臨時収入を見世物に費やしてしまうのがとても不思議だった。

No.20 7点 壁-旅芝居殺人事件- 皆川博子 2024/07/18 11:41
 語り手が無味無臭で、重要な立場の割に部外者っぽい気分(名前が最後まで覚えられなかった)。そのせいで単なる好奇心からフラフラと探偵役じみた行動をしている、と思ったらラストの反転が効いた。
 登場人物の気持を非常に技巧的に扱っているなぁ、心理劇系かぁ、と読み進めると、存外に謎解き的な真相。しかし “ちょっとレコードのところにお行き” の台詞が後出しなのは如何なものか。

No.19 7点 愛と髑髏と- 皆川博子 2024/06/14 12:59
 幻想的な犯罪的な短編集。理屈で割り切れない機微をロジカルに(?)描いているものが幾つか。割り切れないまま描いているものが幾つか。“判らなさを楽しむ” にはあまりにも人間が生々しいので、“何故そうなる?” と口走ってしまう私。修行が足りません。

No.18 5点 光源氏殺人事件- 皆川博子 2024/05/31 15:12
 “オブセッション” なるアイデアは光る。しかし物語の奥の方に折り込み過ぎ。なかなか表面に出て来ないので、それに対するアクションと併せて最後にドバッと説明する形になってしまった。せめて物語中盤で明かさないと、驚きをしみじみ味わう暇も無い。
 しかも謎解きが非常に駆け足なので、作者にとっては “推理小説形式にすれば多少は売れるから” と言う、恋愛模様を書く為の方便に過ぎないのではないか、と思ってしまった。

No.17 7点 悦楽園- 皆川博子 2024/05/16 13:17
 皆川博子が雑誌に発表した初期短編は、作者本人に “書き捨て” みたいな気持もあったようで、短編集への収録状況がちょっと面倒なことになっている。どうすれば効率的にコンプリート出来るのか。まぁ編集時に秀作からピック・アップするのは自然だし、二度出会ったら二度読めば良い。
 本書は1974~85年の短編集4冊からの6編と、単行本初収録4編を併せた、94年刊行の初期傑作選。後者4編は『鎖と罠』(2017年)にも再録されており、“本書でしか読めない話” は無い。

 導入部での入りづらさは若干あるものの、その一山を越えれば、悪意が普通のことのようにシレッと書かれる独特の手際、特に「獣舎のスキャット」の一人称は効く。初短編集『トマト・ゲーム』に収録されていたものの、作者曰く “あまりに不健康かなァと、自粛” して文庫化の際に差し替えたそうな(ハヤカワ文庫版では復帰)。いやいや他の作品だって大して変わりませんよ。

No.16 7点 光の廃墟- 皆川博子 2024/04/11 13:27
 擬似CCみたいなキャンプ地で、殺意が芽生え過ぎだよ。最初の死をキッカケに箍が緩んじゃったんだね。癖の強い登場人物達が自然に描かれていて、ぶつかり合う気持も腑に落ちる。様々な血の絆である。この主人公が図書館勤務と言う設定はそそるな~。
 ただ、心理劇としての強さに受け皿としての物理劇が追い付いていない嫌いはあり、ミステリとしての緻密さには欠けるか。

No.15 7点 結ぶ- 皆川博子 2024/03/01 13:57
 冒頭に置かれた表題作のインパクトがあまりに強くて、他の作品が記憶に残らないなぁ。
 と言いつつ注目作を挙げておく。「花の眉間尺」「蜘蛛時計」「U Bu Me」「心臓売り」。
 そもそも同系統(幻想小説)の短編のセレクションであり、収録作品には壊れ物のようで実は強固な文体や半透明な情景を重ね合わせるような構造と言った共通点が見られる。その為まとめて読むと似ていると感じられるものもまぁあるので、座右に備えて折々に少しずつ読むのが相応しかろう。それじゃ病んじゃうか。創元推理文庫版には4編追加。

No.14 7点 薔薇忌- 皆川博子 2023/12/29 15:24
 舞台芸能短編集だけど、泡坂妻夫の職人ものみたい。あっちで耐性が付いていたからスンナリ読めたってとこがあるかも。具体的なイメージは出来ずともなんとなく情景が伝わるいにしえの語彙。カードの家を作るように丁寧に積み上げられる台詞と男女の機微。
 結構強烈な筈の各編結末のサプライズが意外にサラッと流れたのは、日常と幻想を抱き合わせる筆致のなす業か。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.21点   採点数: 2294件
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