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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1386 6点 奥鬼怒密室村の惨劇- 梶龍雄 2011/01/10 18:08
戦時下の疎開先の閉された山村を舞台に、少年視点で語られる殺人事件ということで、初期の青春ミステリ風の物語をイメージさせますが、実際は官能&猟奇連続殺人を扱った本格編。
しかも、それらの表面的な事象の裏に隠された構図は、予想外で驚かされます。
文章は相当読みずらいのですが、これまでの作風自体をミスディレクションにしたようなプロットは買いです。

No.1385 6点 三幕の殺人- アガサ・クリスティー 2011/01/10 15:42
これは、動機面から推理しても絶対真相には至らないでしょう。いかにもクリスティらしい意地の悪い仕掛けで、同じ年に似たコンセプトの名作を書いていますから、作者のお気に入りのアイデアだったのかもしれません。
ネタバレになりますが、
ポアロの最後のセリフ、「私が飲んでいたかもしれないんです」は、結構インパクトがあり印象に残ります。

No.1384 6点 あした、カルメン通りで- 森雅裕 2011/01/10 15:01
プリマ・ドンナ鮎村尋深シリーズ。前作「椿姫を見ませんか」から3年後、舞台を札幌に移した第2作。
ミステリの要素は、マリア・カラスの遺品の十字架に隠された謎ですが、本格度はだいぶ減退しています。オペラ・ネタに偏った内容は、素養のない身にはとっつきにくい点もあった。
ただ、ヒロイン尋深の斜に構えた造形は魅力的で、音彦とのトークバトルのような掛け合いも健在。独特の青春ミステリのテイストは、癖になる読み心地よさがある。

No.1383 6点 死体が転がりこんできた- ブレット・ハリデイ 2011/01/09 13:37
赤毛の私立探偵マイケル・シェーン登場のシリーズ6作目。
「死の配当」の令嬢フィリスがその後シェーンの妻兼秘書になっている時期の作品です。
マイアミにあるシェーンの探偵事務所に、旧知の同業者が死体となって転がり込む発端からテンポよく読ませます。発表時期が戦時中のため、ドイツ・スパイや軍の機密書類漏えい事件などがミスディレクションに使われていたりします。
結末の意外性充分で、単なるB級ハードボイルドではなく、予想以上にミステリの骨格を備えた作品だった。

No.1382 5点 下町探偵局- 半村良 2011/01/09 13:10
東京両国にある小さな探偵事務所を巡る連作ミステリ。
所長の下町(シモマチと読む)を始め、所員いずれもが”訳あり”の過去をもち、その身の上話的な人情もののストーリーが多くて、若干戸惑ってしまった。
ミステリ的趣向はあまり見られず、やるせない結末も多いので読後感がいいとはいえない。

No.1381 6点 ウィッチフォード毒殺事件- アントニイ・バークリー 2011/01/09 12:49
迷探偵・ロジャー・シェリンガム、シリーズの2作目。
ベントリー夫人の夫毒殺疑惑を巡って、前作からのワトソン役・アレックと姪の娘・シーラの3人組で調査に乗り出します。調査過程はやや平板な展開ですが、3人のやり取りが面白くて楽しめる。
バークリーといえば”多重解決”ですが、本書がそのとっかかりの作品ではないでしょうか。ただ、シェリンガムの結論が二転三転した末の真相は脱力ぎみ。

No.1380 6点 ゲノム・ハザード- 司城志朗 2011/01/08 23:52
発端から不条理な謎を提示したインパクトのあるサスペンス・ミステリでした。
帰宅した主人公がローソクに囲まれた妻の死体を発見し、かかってきた電話をとると、その妻の声が聞こえて来るという冒頭から、”いったい何が起こっているのか”という不可解な状況がつづき、最後まで読者を引っ張っていく構成がスリリングです。
10年以上前のサントリー・ミステリ大賞読者賞作品ですが、今年改稿文庫化されたようです。

No.1379 5点 ピカデリーの殺人- アントニイ・バークリー 2011/01/08 23:29
ピカデリー・ホテルでの毒殺事件の目撃者となった、チタウィック氏が巻き込まれる本格編。
数々の傑作群にはさまれて出版された本書は、作者の作品の中でも犯行トリックが工夫されていて、珍しくオーソドックスな本格ミステリといえますが、探偵役のチタウィック氏が(シェリンガムと比べると)個性に乏しく、いまいち面白味に欠けます。チタウィック氏の伯母や犯人像など面白い人物も登場しますが、全体的に地味な作品という印象です。

No.1378 6点 太鼓叩きはなぜ笑う- 鮎川哲也 2011/01/08 17:58
銀座の会員制バー「三番館」のバーテンが安楽椅子探偵を務める連作ミステリの第1集。
このタイプの連作ミステリの不文律?に則り、「隅の老人」「ブロンクスのママ」「退職刑事」などと同様、バーテンの名前はありませんが、私立探偵や弁護士までレギュラー・キャラクター全員が名無しという徹底ぶりです。
ほとんどの作品でアリバイ・トリック(アリバイ奪取トリックも)を扱っているのは、いかにも作者らしい。

No.1377 7点 最上階の殺人- アントニイ・バークリー 2011/01/08 17:25
これは、バークリー中期の佳作でしょうね。
マンション最上階に住む老女殺害事件自体はシンプルで地味ですが、終始シェリンガム視点で語られているため、迷探偵の推理過程や心の動揺がまんべんなく描かれています。とくに、被害者の姪・ステラがシェリンガムの秘書になっての二人のやり取りと、いつもの多重解決が読みどころで面白かった。
以下ネタバレになりますが、
本書で作者が意図したのは、名探偵像の反転と同時に、ミステリ愛読者の頭に染み付いた「意外な犯人」像の反転でしょう。

No.1376 5点 幸せの萌黄色フラッグ- 井上尚登 2011/01/07 21:56
相模原のサッカー・クラブの用具係・坂上青年の事件簿第2弾。今作は、J2リーグ編です。
前作が面白かったので続けて読了。いきなり、坂上君のプライベート状況の微笑ましいサプライズで始まりますが、事件のほうは例によって非常に軽めです。
表題作でのスカウト担当・渡辺さんの”苦境ぶり”が一番笑える。

No.1375 6点 獣たちの庭園- ジェフリー・ディーヴァー 2011/01/07 21:43
ナチス政権下のドイツを舞台にした歴史冒険サスペンス。
これまでのディーヴァーの作品と全く異なる設定ながら、ベルリン・オリンピックなどの情報を多く取り入れた当時の雰囲気創りは◎。なれないジャンルに取り組んだ意欲は評価したいです。
一方、そのため物語のテンポはやや悪いように感じました。主人公の経歴はユニークで面白いものの、こういった要人暗殺ものは過去に多く書かれており、先達の傑作には及ばないように思います。

No.1374 5点 ホペイロの憂鬱- 井上尚登 2011/01/07 18:31
相模原にあるJFL所属のサッカー・チームのホペイロ(用具係)坂上青年を主人公にした連作ミステリ。
どの作品も、たわいのない”日常の謎”が提示されており、ミステリ的には些か弱いのでこの点数ですが、Jリーグ昇格をめざすチームの裏方、サポーターなど登場人物が皆魅力的で、読み心地がよかった。

No.1373 6点 証拠が問題- ジェームズ・アンダースン 2011/01/07 18:06
殺人容疑で逮捕された夫の潔白を証明するため、被害者女性の兄とともに調査に奔走することになる妻・アリソン。
「黒い天使」を連想させるプロットで、天使の顔・アルバータと本書のヒロインが重なるところですが、アイリッシュ風の叙情性はなく、アリソンは現代的で芯の強い女性として描かれていて、小説のテイストも明るめです。
登場人物が限られており、途中真相はなんとなく見えてきますが、巧妙な叙述のテクニックで核心はうまく隠蔽されています。
小粒ながらスマートな叙述トリックものでした。

No.1372 6点 T.R.Y. - 井上尚登 2011/01/06 18:48
20世紀初頭、革命の気運高まる中国と日本を舞台に、日本人の天才詐欺師・伊沢を主人公にした謀略・コンゲーム小説。
プロットが複雑すぎるきらいはありますが、実在の人物を多数登場させ、虚実取り混ぜた構成と騙し合いの連続は、デビュー作とは思えない軽快なエンタテイメントに仕上がっています。
ラストの逆転につぐ逆転のドンデン返しは、お約束気味とはいえ、なかなか痛快でした。

No.1371 6点 音もなく少女は- ボストン・テラン 2011/01/06 18:16
聾唖に生まれた娘イヴ、ろくでなしの夫に耐えるその母親、ナチス・ドイツからの移民で女店主のフラン、この3人の女性を中心に、援け合い慰め合いながら40年に及ぶ女たちの非情な運命との闘いを綴った物語。
これはミステリか?と問われれば、答えに窮しますが、短く区切られた120以上の章立てのひとつひとつのシーンが、後に写真家になるイヴの手による写真のように思えてくるその筆力に圧倒されます。とくに、ラストの”創造者””保護者””破壊者”の聖三位一体像に見立てた表現が感動的。

No.1370 5点 南部殺し唄- 都筑道夫 2011/01/05 18:53
滝沢紅子シリーズ、長編の第4弾。
シリーズ最終作となった本書は、メゾン多摩由良団地の集団探偵ものではなく、岩手県の旧家を巡る殺人事件に紅子と春江が巻き込まれるという本格編。
横溝風というか、旧家土蔵の密室殺人などの設定はどこか物部太郎シリーズを思わせますが、ロジックは例によって軽めでした。

No.1369 6点 聖なる怪物- ドナルド・E・ウェストレイク 2011/01/05 18:35
ドタバタ・コメディの早川書房に対し、文春文庫は「斧」、「鉤」に続く本書と、いずれもノワールなクライム小説で対抗しているようだ。
隠退した老優がインタヴューに応える構成で語られる酒とドラッグにまみれた半生は、映画界の裏話・暴露話を交えて、むしろユーモアを感じさせるストーリーですが、そこはウエストレイク、最後にきて読者に戦慄を与えるトリッキーな仕掛けが炸裂します。
小粒ですが、読んで損はないクライム・ミステリだと思う。

No.1368 5点 踊るひと- 出久根達郎 2011/01/04 20:16
なんとも”奇妙な味わい”のある短編7作が収録された作品集。
ホラー&怪談噺が中心で、ミステリといえないものも含まれていますが、それぞれ内容に合わせて語り口を変え、読者を迷宮に誘う技巧を見せてくれています。
ミステリ的には、長期不在中に友人から届いていた複数の手紙文で構成しラストに戦慄をもたらす「踊るひと」と、女子高生二人の交換日記のみで構成し最後に二重のどんでん返しを用意した「くっつく」が印象に残った。

No.1367 7点 愛しき者はすべて去りゆく- デニス・ルヘイン 2011/01/04 19:08
ボストンの私立探偵パトリック&アンジー・シリーズ。
このシリーズは現在まで5冊邦訳されていますが、1冊おきに出来不出来の波があるような気がする。第4弾の本書が個人的にシリーズ最高傑作だと思います。
毎回テーマは重たい。今作は児童虐待・親権問題を内包した4歳の少女誘拐を扱いながら、プロットを二転三転させて、予想外の着地を見せてくれます。探偵二人の関係にも大きな転機が訪れるという意味でもシリーズの分岐点の作品といえます。

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