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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.106 6点 ゼロのある死角- 笠原卓 2010/04/02 23:02
衣料会社間の信用調査が絡む本格ミステリで著者のデビュー作。
前半の産業ミステリのような展開が興味がない業界だけにかったるいが、容疑者が固まってからの怒涛のアリバイ崩しが読ませます。犯人のアリバイ工作が、写真、郵便の消印、電話、時刻表など重層的に設定されており、ラッキョウの皮むきの様相で、なかなか真相に到達しない。
ダミーの容疑者のアリバイ調べにページを割き過ぎるなど、無駄な描写を削れば、端正なアリバイ崩しものの秀作になったと思いました。

No.105 6点 村でいちばんの首吊りの木- 辻真先 2010/04/02 22:38
中編3作収録で表題作がベスト。
長男の殺人容疑をめぐる母親と次男の手紙のやり取りから意外な事実が浮かび上がる。伏線がていねいに敷かれ、ちょっとした叙述の省略が効いている。「街でいちばんの幸福な家族」は、父親の愛人を始末し家族の平和を守ろうとする娘の意外なトリックがしゃれている。娘の独白は読んでいて楽しい。「島でいちばんの鳴き砂の浜」は、リゾート開発に揺れる島での変死事件を無生物の視点で描く異色作ですが、ミステリの趣向自体は平凡でした。

No.104 7点 灰色の季節 ギョライ先生探偵ノート- 梶龍雄 2010/03/28 15:09
太平洋戦争前の旧制中学を舞台背景にした連作短編集。
ギョライ先生探偵ノートという副題がありますが、正彦少年などを中心にした青春ミステリの要素が強い第1短編集です。
「おふくろは霊媒」などの本格ミステリよりも、戦争の影がさしてくる後半の作品のほうが強く印象に残りました。正に灰色の季節です。
マイナーな出版社のためか文庫化もされず、手軽に読めないのはもったいない秀作短編集だと思います。

No.103 6点 人間の証明- 森村誠一 2010/03/28 14:31
「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?」
西條八十の詩をモチーフにして、一世風靡した著者の一般向け代表作と言われる作品。
当時、森村誠一のコアな本格を追いかけていて、この作品で戸惑った人も多かったのではないでしょうか。
本格ミステリとしては不満ですが、まあ楽しめたことは事実です。
(以下ネタバレ)
松本清張「砂の器」のネタバレもしています。


この人間ドラマが清張の「砂の器」とプロットが酷似していることは有名です。
1.栄光を掴みかけた主人公が、過去を知る人物の突然の登場により、身の破滅を恐れ殺害してしまう。
2.被害者は死の直前、主人公との思い出の地名をつぶやくが、標準語に不慣れなため意味が不明となる。
「人間の証明」では被害者が外国人のため霧積がキスミーに、「砂の器」ではズーズー弁のため亀嵩がカメダに・・というふうに。

No.102 4点 蝦蟇倉市事件2 - アンソロジー(出版社編) 2010/03/28 13:55
競作アンソロジー第2弾。6名中4名が今まで読んだことがない作家でしたが、変化球ばかりで出来はいずれも微妙。
米澤穂信の作品は一種の暗号ミステリとも言えますが、あとがきを読むと<法と正義>がテーマらしい。一人だけ浮いてました。
なにもそのためにモンテネグロから蝦蟇倉市にその人物を持ってくる必要がないし、「さよなら妖精」の後日譚で連作ミステリを企画しているなら、このアンソロジーを利用するのはどうなんだろうと思いました。

No.101 6点 スパイク- 松尾由美 2010/03/27 11:55
街角で出会った男性がつれていたビーグル犬は、主人公の飼い犬と同じ名前「スパイク」だった・・・いわゆるパラレル・ワールドもののSF恋愛ミステリ。
なぜ男性は翌週の約束の日に現れなかったのか、なぜ犬の名前が同じだったのか、余韻が残る切ない真相でした。

No.100 6点 香港迷宮行- 山崎洋子 2010/03/27 11:35
それぞれが目的を内に秘めた香港ツアー・グループが、観光地の行く先々で殺人ゲームを繰り広げる・・・コミカルなタッチのサスペンス・ミステリ。
著者はシリアスなものより、こういった作風があっている気がします。

No.99 5点 怪奇探偵小説傑作選〈4〉城昌幸集-みすてりぃ- 城昌幸 2010/03/27 11:22
ミステリ掌編小説集。
各作品が5~20ページの幻想・怪奇譚が50作以上収録されています。アンソロジーなどで読むのはいいのですが、まとめて読むとちょっとキツイ感じがします。

No.98 8点 方壺園- 陳舜臣 2010/03/26 23:40
本格ミステリ短編集。
第1短編集のためか、非常にパズラー志向が高く、歴史ミステリと本格ミステリとの融合という点でも成功していると思います。
ほとんどの作品で不可能犯罪を扱っていて逸品ぞろいですが、なかでも、表題作と「九雷渓」が傑作だと思いました。
この当時に発表された短編集ではピカイチではないでしょうか。

No.97 6点 黒水仙- 藤桂子 2010/03/26 23:18
「獅子座」に続く菊地警部シリーズ第2弾。鮎川哲也「ペトロフ事件」と賞を争った藤雪夫の「渦潮」を娘・桂子が改稿したもの。
前作同様、本格ミステリの展開から、後半に犯人像が浮き彫りになってから俄然面白くなりました。
密室殺人のトリックは中盤早々明らかになり、あとはアリバイ崩しになりますが、「心理的既成事実」を使ったアリバイトリックというのが目新しく、捜査陣が少しづつ暴いていく様は緊迫感がありました。
しかし、なんといっても一番の読み所は、異常な犯人像の設定です。幼少の頃からの体験を丁寧に描写し非常に存在感を持たせています。タイトルの二重の意味を浮き上がらせたエンディングも見事です。

No.96 7点 狼は瞑らない- 樋口明雄 2010/03/26 22:46
元警視庁警備課SPの山岳警備隊員を主人公にした山岳冒険小説の傑作。
政治の闇の部分を知る主人公抹殺を狙う組織というベタな要素はかえって余分ですが、冬山での猛吹雪や滑落の恐怖などの大自然との戦いが圧倒的な迫力で描写されていてグイグイ読める。
やはり直球勝負の冒険小説はいいなと思いました。

No.95 6点 雨中の客- 浅黄斑 2010/03/25 18:56
ミステリ短編集。
突然の訪問者が思いもかけない過去を燻りだす、後期の作品群からはちょっと想像つかない良質の初期連作短編集でした。
どんでん返しが冴えた表題作「雨中の客」がベスト。

No.94 7点 星の牢獄- 谺健二 2010/03/25 18:39
大震災と機械トリックというこれまでの社会派と本格派の混合作が、どうもアンマッチな印象でしたが、この作品は奇想を前面に出していて、このレーベルらしい作風になってます。
「宇宙人」を探偵役にし、クローズドサークルもので不可能トリックを見せ、叙述で驚かす・・小さな瑕疵はありますが、作風の転換は評価したいです。

No.93 5点 顔の中の落日- 飛鳥高 2010/03/25 18:13
発表された年代から古臭いのは止むを得ませんが、主人公格のホステス町子と謎の青年を中心にストーリーを組み立てていれば、教会でのラストシーンが生きたかと思います。
XXを利用したアリバイトリックは物語から浮いていました。

No.92 6点 獅子座- 藤桂子 2010/03/25 00:07
父娘合作の本格ミステリ。
鮎川哲也の「黒いトランク」と賞を競ったとのことで、期待が膨らみました。
暗号やアリバイトリックは父の考案でしょうが、今読めばそれほどのものとは思えません(トリック解明のプロセスはよかったですが)。むしろ、過去の眠れる殺人に絡んだ抒情的な部分が読ませました。
合作(娘の改稿?)のメリットが出た作品だと思います。

No.91 4点 二重生活- 折原一 2010/03/24 23:48
夫婦合作ミステリ。
このプロットからして折原が考案したのは間違いないでしょう。いつも通りの叙述トリックものです。
なぜ、合作で出す必要があったのか、イマイチ分らないです。

No.90 3点 覆面の佳人- 横溝正史 2010/03/24 23:27
横溝正史と江戸川乱歩の合作探偵小説!
といっても、ほとんど正史が一人で執筆したようです。
予想どおり、あまり面白くありません。古い古いタイプの通俗探偵小説で、新聞連載のためか、要所要所に山場を創っていますが、あまり必然性がなかったりします。
まあ、マニアしか手を出す必要はないでしょうね。

No.89 5点 悪霊の群- 山田風太郎 2010/03/24 23:12
名探偵神津恭介と荊木歓喜が共演、となると読まずにおけません。
プロット考案は高木彬光で、山田風太郎が執筆したと解説にありますが、この合作は成功したとは言えません。
当然、名探偵同士の推理合戦を期待しますが、歓喜先生が中心となった通俗スリラー風のストーリーで、終盤に神津が出てきてオシマイ。二人の対決は肩透かしの感で残念です。

No.88 6点 三度目ならばABC- 岡嶋二人 2010/03/24 22:45
初版に未収録だった短編が追加された増補版が出たので再読。
ミステリ趣向が光っているのは「十番館の殺人」ぐらいでしょうか、やはり山本山コンビのキャラとシチュエーションの面白さで読ませるタイプのミステリです。
美郷の「直感」でストーリーを走らせ、織田の「気付き」で終決というパターンを繰り返しています。
手慣れたものだと、今更ながら感心しました。

No.87 5点 Fの悲劇- 岸田るり子 2010/03/24 22:27
20年前の叔母の謎の死を追う女性を主人公とした本格ミステリ。
新しい装飾はされてますが、これは古いタイプのミステリでした。
主な謎は2つ、殺害現場の京都郊外のペンション型アパートが密室で当時入居者全員にアリバイがあったことと、叔母の出産したばかりの赤ん坊が消えたこと。密室トリック(同時にアリバイトリックでもある)はヴァン・ダイン時代のもので、赤ん坊の処理も使いふるされた陳腐なもの、容易に推察できました。

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