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文生さん
平均点: 5.85点 書評数: 456件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.276 7点 invert II 覗き窓の死角- 相沢沙呼 2022/09/16 21:19
150ページほどの中編と300ページ弱の長編の2本立て
中編の方は恒例の反転が炸裂。とはいえ、前2作と比べるとインパクトは弱め
一方、長編の方はアリバイ崩しがメイン。アリバイそのものは古典的なトリックですが、それを悟らせないミスリードがなかなかに巧妙。また、今まで犯人に対してマウントを取り続けていた城塚翡翠が今回初めて苦悩の色を深めていくのが印象的でもあります。
ミステリ部分はシリーズ中一番地味ながらも完成度は決して低くありません。謎解きと物語のバランスのとれた佳品です。

No.275 7点 此の世の果ての殺人- 荒木あかね 2022/09/16 20:59
小惑星激突による人類滅亡が近付く最中に事件の謎を追うというネタはベン・H ・ウィンタースの『地上最後の刑事』と同じですが、こちらは女2人終末紀行といった感じで独自の趣があるのがよい
ミステリとしては大トリックや驚愕のどんでん返しがあるわけではないけれど、巧妙なプロットで意外な真相を浮かび上がらせることに成功しています。
個人的に大好きな終末ものにミステリを掛け合わせ、破綻なくまとめ上げた点を評価してこの点数

No.274 6点 録音された誘拐- 阿津川辰海 2022/08/28 07:36
短編集『透明人間は密室に潜む』に収録されている「盗聴された殺人」の続編。
名探偵である大野糺が誘拐される話であり、探偵サイド・助手サイド・警察サイドと複数の視点から真相に迫っていく展開はテンポがよくてかなりの面白さです。要所要所で繰り出される巧みなロジックを用いた推理も本格ミステリとして読み応えがあります。
ただ、犯人隠蔽のために用いられたミスディレクションやトリックが単純すぎて直感的に犯人がわかってしまったのは残念。それから、裏で糸を引く犯罪請負組織の存在が個人的にあまり好きではありません。いろいろな業界に影響力があって関係者を手足のように動かせるという設定はちょっと都合よすぎるのではないでしょうか。さらに、『蒼海館の殺人』でさんざん言われた”人を自由に操りすぎ問題”はこの作品でも顕著です。
というわけで、十分に楽しめたのだけど、不満点も多いということでこの点数。

No.273 7点 俺ではない炎上- 浅倉秋成 2022/08/28 06:52
SNSがらみの犯罪とといったアイディアも無実の罪で追われる主人公といったプロットもそれら自体は目新しいものではありませんが、2つを合わせることで読み応え満点の令和型『逃亡者』に仕上がっています。視点を変えながら真相に迫っていく展開もスリリング。個人的には話題となった『6人の嘘つきな大学生』より好きな作品です。

No.272 4点 妖霧の舌- 竹本健治 2022/08/24 09:13
不穏で幻想的な雰囲気は悪くないものの、ミステリーとしてはあまりにも薄味すぎますし、かといって著者ならではのアンチミステリー的な趣向があるわけでもありません。読後かなり物足りなさを感じた作品です。

No.271 6点 エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン 2022/08/24 08:53
有名な「神の灯」は、建物が丸ごと消失する謎が魅力的ですし、ミステリとしての仕掛けもよく出来ています。しかし、本書を読む以前に建物消失と聞いた段階で「もしかしたらこういうトリックではないのかな?」と思い至ってしまったので高い点数はあげずらい。その辺りはカーの「青銅ランプの呪」、ホックの「長い墜落」、ロースンの「天外消失」などと同じかな。他の短編は堅実な面白さ。

No.270 7点 将棋殺人事件- 竹本健治 2022/08/23 08:07
ゲーム三部作のなかでもダントツで評判の悪い作品ですが、個人的には結構お気に入り。
竹本健治なので真相は最初から期待していなかったのがよかったのかもしれない。
五里霧中な謎にゾクゾクしましたし、噂を集めて分析するという趣向もスリリング。

No.269 5点 青春の証明- 森村誠一 2022/08/21 08:37
暴漢に襲われていた自分と恋人を救おうとした警官を見殺しにした贖罪として自ら警察官となって事件を追い続ける老刑事の話です。
証明三部作第2弾なのですが、著者の代表作でもある『人間の証明』や『野性の証明』と比べるとあまりにも地味。これだけ映画化されていないのもうなずけます。ただし、著者の脂が乗っていた時期に書かれた作品だけあって人間ドラマとしてはそれなりに読み応えあり。また、証明三部作といいながらもそれぞれ全く異なる作風であることから、続けて読むとギャップ的な面白さが味わえるかもしれません。

No.268 9点 竜の眠る浜辺- 山田正紀 2022/08/21 07:54
山田正紀の著作では『神狩り』と並んで一番好きな作品です。
人生に挫折した人々が町ごと白亜紀にタイムスリップしてそのなかで生きる希望を取り戻していく話なのですが、とにかく恐竜のいる日常が楽しげで読んでいてハッピーな気持ちになれます。山田正紀の長編小説でここまで明るくてユーモラスなのはこれくらいではないでしょうか?

No.267 8点 火神を盗め- 山田正紀 2022/08/21 07:41
落ちこぼれ集団が奮闘して大事を成し遂げるというベタな話ですが、SF作家ならではのアイディを盛り込んだスパイスリラーとしてかなり面白い作品に仕上がっています。落ちこぼれ社員たちが特技を活かして活躍するシーンが荒唐無稽ながらも楽しく、特に主人公とCIA工作員との対決は感動的ですらあります。山田正紀としては珍しくラストも爽やか。

No.266 7点 野性の証明- 森村誠一 2022/08/19 10:46
寒村での大量殺人という、まるで八つ墓村のような凄惨な事件の描写に引き込まれ、それに続く地方都市の首領と生き残りの少女を引き取った自衛隊員との暗闘も読み応え十分。加えて、皮肉な結末がインパクト大です。多少荒唐無稽な点は否めないものの、エンタメ性の高さでは著者の代表作である『人間の証明』を上回る力作です。

ちなみに、高倉健&薬師丸ひろ子主演の角川映画とは全くの別物で、原作では主人公が自衛隊と闘ったりはしません。

No.265 6点 ブラックサマーの殺人- M・W・クレイヴン 2022/08/19 04:00
6年前に父親に殺されたはずの女性が突然、姿を現すオープニングのインパクトが強烈で一気に引き込まれました。謎を追うポー刑事とティリー分析官のコンビも魅力的。
ただ、トリックに無理があるのが残念。ハイテクな衣を着せつつも、根幹にあるのは古典的な×っ××××トリックであり、そんなに都合よく×っ××××は見つからないだろうと思ってしまう。

No.264 3点 どちらかが彼女を殺した- 東野圭吾 2022/08/17 09:35
試みとしては面白いとは思うけれど、探偵役の推理にカタルシスを覚えることを期待してミステリーを読んでいる身としては肩透かし以外の何ものでもなかった。
個人的には自分の推理がことごとく外れて予想外の真相が提示される作品こそが至高のミステリーだと考えているので、自分で真相にたどり着かなくてはならない作品はどうにも物足りない。

No.263 6点 優等生は探偵に向かない- ホリー・ジャクソン 2022/08/03 12:10
今回は突然失踪した青年の行方を追う話ですが、前作同様SNSと関係者インタビューを駆使した調査が繰り広げられ、捜査小説しては相変わらずの面白さです。調査を続けていくうちに驚くべき事実に行きあたる展開にも引き込まれます。それになにより、ピップとラヴィのコンビが魅力的です。
ただ、独自の調査方法に対する新鮮味はさすがに薄れてきましたし、後味の悪い結末は好みがわかれるかもしれません。一方で、主人公の挫折と成長が描かれるなど、ドラマとしての深みは前作以上です。一方、三部作の真ん中ということもあって、結末はかなりもやもやしたものになっており それが作品の評価を下げる原因となっています。
ちなみに、本作の冒頭で前作のネタバレを盛大にしています。それに、物語自体も前作と密接に繋がっているので、本作の前に『自由研究には向かない殺人』を読んでおくことは必須です。

No.262 5点 二重らせんのスイッチ- 辻堂ゆめ 2022/08/02 14:15
身に覚えのない強盗殺人の証拠が次々と見つかり、主人公が追い込まれていく序盤の展開はサスペンス感があってなかなかいい感じです。しかし、用いられたトリックは誰しもが思い浮かべるであろう古典的なもので、しかも、すぐにネタバレしてしまいます。
むしろ、それに続いて行われる犯人たちによる主人公軟禁の物語が本編ですが、これが妙にほのぼのとしています。したがって、本格的なサスペンス展開を期待していた人は肩透かしを食らうでしょう。巧みな伏線回収の妙は味わえるものの、ミステリとしての仕掛けも小粒です。どちちらかといえば、ミステリ風味の家族小説として楽しむのが正解ではないでしょうか。

No.261 6点 呪いと殺しは飯のタネ- 烏丸尚奇 2022/07/31 20:10
ミステリとしては荒削りですが、読ませる力はかなりのもので、取材を通して意外な事実が明らかになっていく展開にぐいぐいと引き込まれていきました。ただ、ラストはあまり好みではないかな

No.260 7点 闇祓- 辻村深月 2022/07/22 05:49
闇の一族によって人々が破滅していく伝奇ホラーですが、超能力や霊能力といった超常的な力は一切出てきません。それではどうやって人々を破滅させるのかというと、地道なハラスメントです。設定は壮大なのに中身は普通のイヤミスという点が逆に新鮮ですし、こけおどしの描写がない分ぞっとさせられます。特に、いい人を演じつつ、周囲の人を死に追いやっていく”お父さん”のキャラが秀逸。ただ、最後の決着があっけなかったのがちょっと残念ではあります。

No.259 4点 脱北航路- 月村了衛 2022/07/22 05:22
祖国に裏切られた男たちの亡命劇を拉致問題と絡めて描いた作品であり、潜水艦での戦闘シーンは迫力満点で読み応えがあります。ただ、歴史上の偉人とかではなく、リアルタイムで実在している人物を(名前を変えているとはいえ)登場させるのは逆にリアリティが損なわれる気がしてあまり好みではありません。クライマックスが浪花節展開なのも好みに合わず。

No.258 8点 同志少女よ、敵を撃て- 逢坂冬馬 2022/07/22 05:00
実際に存在したソ連の女性スナイパー部隊を題材とした一級のエンタメ小説です。母をナチスに殺されたヒロインの復讐心を起点としての緊迫感あふれる狙撃シーン、仲間との友情、ヒロインの成長などが良く描けています。また、女性キャラたちがキュートに描かれており、シリアスな物語における緩急の付け方も見事です。後半テーマ性が前面に出すぎている点は個人的に好みではありませんが、それを差し引いても究めて完成度の高い作品だといえます。

No.257 7点 #真相をお話しします- 結城真一郎 2022/07/21 21:20
前半で伏線を張り巡らせて後半でどんでん返し及び仕掛けの解説をしていくスタイルの短編集。
まず最初の「惨者面談」は比較的真相を予想しやすいものの、シチュエーションの異様さにぞっとさせられます。その後もテンポの良いサスペンス展開や二段構えのどんでん返しなどで楽しませてくれますが、なかでも白眉なのは最後の「#拡散希望」です。離島で暮らす4人の小学生の物語が根底から覆される壮大などんでん返しに驚かされました。

ただ、どの作品も真相自体にリアリティはあまりないのでどちらかといえば、一種の寓話だと思って楽しむのがベターです。

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文生さん
ひとこと
本格脳なので本格度が高いほど評価も高くなります。ただし、本格好きと言ってもフェアプレーなどはどうでもよい派なのでロジックだけの作品は評価が低めです。トリックやプロットを重視した採点となっています。
好きな作家
ジョン・ディクスン・カー、土屋隆夫、竹本健治、山田正紀
採点傾向
平均点: 5.85点   採点数: 456件
採点の多い作家(TOP10)
ジョン・ディクスン・カー(18)
アガサ・クリスティー(17)
横溝正史(12)
エラリイ・クイーン(11)
西尾維新(11)
カーター・ディクスン(11)
森村誠一(10)
東野圭吾(10)
米澤穂信(10)
竹本健治(9)