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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1809件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.15 7点 最終退行- 池井戸潤 2010/07/15 22:47
”ザ・池井戸潤”とでもいうべき作品。
冷酷な銀行本部エリート対叩き上げの支店行員・・・という氏の王道パターンです。
本作品では、そこに戦後の「M資金」にまつわる疑惑を絡め、2つの事件が有機的に絡み合うことになります。
ラストはいつものとおり「勧善懲悪」的痛快な結末が用意されていて、小市民の読者にとっては溜飲を下げる思いですね。
やっぱり、経済関係のストーリーは他の作家よりも数段グレードが高い気がしますし、読んでいて引き込まれます。
さらに今回は痛快度が高かったため高評価としました。

No.14 7点 MIST- 池井戸潤 2010/05/28 23:25
作者としては珍しく、割と普通のミステリー作品。
予想外に面白い作品でした。
山奥の村で、「切り裂きジャック」を思わせる猟奇的連続殺人事件が発生、村で唯一の警察官である駐在が意外な真犯人に挑みます。
主人公を筆頭に、話の視点が次々と変わっていくので、普通はちょっと落ち着かない感じになりがちですが、本作品ではその辺りあまり気にならず、逆にスピード感を付け、緊張感を高める効果を生んでいます。
ラストの急展開もきれいに嵌まっていて、もっと高評価でもいいのですが、途中、榊氏(登場人物の1人)に関するサブストーリー等が結局中途半端になってしまったことなどを差し引いて、この評点となりました。

No.13 7点 銀行仕置人- 池井戸潤 2010/04/26 23:16
なにやら、故藤田まこと主演の時代劇のようなタイトルですが・・・
作品の内容としては、主人公の銀行員が銀行の上層部に嵌められ左遷→→内部に味方を得て上層部の悪事をあばき、見事に仇を討つ・・・という展開。
作者の長編によくあるパターンです。
本作は、銀行内部の専門的な用語や職務内容に触れている部分が比較的多いため、一般の読者にはやや分かりくい所があるかもしれません。
ただ、プロットとしては銀行版の「勧善懲悪痛快娯楽作品」なので、肩の凝らない読みやすい作品に仕上がっているとは思います。
しかし、銀行って「ドロドロ」したところですね・・・氏の作品を読むとつくづく感じてしまいます。

No.12 6点 オレたちバブル入行組- 池井戸潤 2010/03/02 20:41
タイトルが秀逸な長編。
特に、日頃何かにつけ上司に苛められているサラリーマンにとっては、胸がスカッとするとともに、サラリーマンの悲哀をしみじみ感じさせる作品です。
ストーリーとしては、計画倒産に巻き込まれ、その責任を一身に背負わされた主人公の銀行員が、自らの力で立ち上がり、計画倒産のカラクリを解き明かして汚名を注ぐ・・・という展開。
私も願わくは、この主人公みたいに、「白は白、黒は黒じゃ・・・」と常々正々堂々と言ってみたいものです。

No.11 7点 銀行狐- 池井戸潤 2010/01/11 23:26
作者の処女短編集。
表題作のほか、「金庫室の死体」「現金その場限り」「口座相違」「ローンカウンター」の全5作。
本作は、氏得意の連作短編集ではなく普通の短編集ですが、どれもなかなかの”切り口”で、短編の醍醐味が味わえます。
中では「金庫室・・・」が一番面白いですかねぇ・・・
被害者の預金通帳一つでさまざまな推理が展開されるシーンは、「銀行ミステリー」の第一人者(他にいませんけど)たる作者の面目躍如といった感じですし、ラストのどんでん返しも効いています。
やっぱり、「人間の欲望」と「金」「事件」は切っても切れない関係なんでしょうね。

No.10 7点 不祥事- 池井戸潤 2009/12/10 22:51
こちらも氏の連作短編集。
某銀行事務部臨店班に所属する美貌の女性銀行員、花咲舞が主人公の”痛快?銀行ミステリー”。
出世欲や組織の理論に毒された幹部行員の悪行に対して、主人公が正論を振りかざし、まさに「メッタ斬り」にしていきます。
全8編の中では、大百貨店の御曹司を悪人に据えた「腐魚」と「不祥事」が最も痛快です。
他にもアナグラムが面白い「荒磯の子」も捻りが効いててなかなかの良作。

No.9 6点 金融探偵- 池井戸潤 2009/11/21 23:50
こちらも作者の十八番(おはこ)「連作短編集」。
講談社でのシリーズとは若干趣が変わっていますが、主人公はリストラされた元銀行員という設定や経済・金融関連が背景に潜む事件を解決する・・・という部分は変わりありません。
金融ミステリーというニッチな分野では、他に追随を許さない作者ですが、やっぱり「金」という犯罪や事件に付き物の存在をリアリティー十分に書けている・・・のがいいですね(やっぱり、元銀行員ですから)
ただ、他の短編集よりはやや落ちる印象なので、評価はこの程度です。

No.8 7点 銀行総務特命- 池井戸潤 2009/11/07 22:12
都市銀行総務部、指宿課長を主人公とする連作短編集。
作者お得意のスタイルです。
指宿が上司の特命を受け、銀行内部の不正や犯罪の調査を秘密裏に行っていく・・・というのが基本展開ですが、企業というか銀行のドロドロした内部や、サラリーマンというか銀行員の悲しき習性といったものが身につまされます。
短編のため、どの一作も無駄のない筆致と余韻を残したラストが印象に残る良作でしょう。

No.7 5点 株価暴落- 池井戸潤 2009/10/24 19:35
池井戸氏らしい経済(銀行)ミステリーですが、ちょっと”やっつけ感”の残る一作。
銀行という組織の中で爪弾きにされた主人公が、自分の汚名を削ぐために事件の渦中に飛び込んでいく・・・という氏の王道パターンが本作でも出てきますが、他の良作とは違ってご都合主義的な展開が多すぎる気がしますね。
ちなみに本作には野猿(やえん)刑事という登場人物が出てきますが、とんねるずの影響?

No.6 5点 架空通貨- 池井戸潤 2009/10/02 23:47
乱歩賞受賞後の長編第2作目。
ある大企業に牛耳られている地方都市を舞台に、その街だけで流通している”通貨”をめぐって起こる犯罪・・・というのが粗筋です。
ちょっと中盤ダレ気味になるのと、大きな風呂敷を広げた割にはラストがややしょぼいというのが読後の感想ですかねぇ。
まぁ、まだ作家としての方向性が定まっていない時期だったんでしょうし、仕方ないかな。

No.5 8点 シャイロックの子供たち- 池井戸潤 2009/09/13 17:53
作者得意の連作短編集。
とある銀行の1支店の中で、つぎつぎと事件?が起こっていきます。
氏の作品のほとんどは銀行を舞台としており、本作もそうですが、テーマとしては「ごく普通の人間が持っている嫉妬や欲、狂気という感情を要因として起こる事件・犯罪」であり、それが銀行という組織や銀行員という人間性というフィルターを通すことで、一層魅力的な作品になるんじゃないか・・・という感想です。
本作は一気読み必至の良作という評価でいいと思います。

No.4 7点 仇敵- 池井戸潤 2009/09/05 23:18
大銀行を退職に追い込まれ、地方銀行の庶務係に左遷させられた一人の男を主人公にした連作短編集。
本作を含めて、作者はこういった連作短編集が得意ですね。本作では、銀行の1支店を舞台として、さまざま事件が起こりながら、それがラストにつながっていきます。
銀行の内幕なんかも書かれていますが、詳しくない方も十分楽しめます。

No.3 10点 BT’63- 池井戸潤 2009/08/24 21:53
作者初期の最高傑作。
文庫版で上下分冊となった大作ですが、息つく暇を与えない緊張感と愛情につつまれたストーリーが見事です。
~父が残した謎の鍵を手にすると、主人公の目の前に広がるのは40年前の風景だった。若き日の父が体験した運送会社での新規事業開発、秘められた恋。だが凶暴な深い闇が父に迫っていた。心を病み妻に去られた主人公は自らの再生を賭け、現代に残る父の跡を追い掛ける。~
う~ん。素晴らしい感動巨編でした。
タイムスリップして、父親と同化してしまう主人公。若き日の父は、自分のまったく知らないような情熱と強さを持つ人物だった。勤務先の倒産を何とか防ごうと孤軍奮闘する父にさらに襲い掛かる闇の手。それは、密かに父が愛していた女性にも魔の手を伸ばしていた・・・
そして、ついに起こる殺人事件。果たして、若き日の父は愛する女性や会社を救うことはできるのか・・・
特に後半は一気読みして、ラストは涙が出そうになりました。
自分の目には寡黙で愛情を注いでくれなかった父親に、こんな過去があったことを知った主人公に、なんだか自分の姿を重ねてしまう・・・親子の愛情、特に父と息子の愛情って割と難しいものですが、これこそが「愛」なのだというのを感じさせられます。
「池井戸潤」といえば、経済や金融関係の小難しいストーリーという先入観のある方にも、是非読んで欲しい1冊。
(氏の作家としての資質を十二分に感じ取れる作品です。とにかくお薦め! 因みに、BTとはボンネット・トラックの略)

No.2 6点 果つる底なき- 池井戸潤 2009/08/07 21:52
第44回江戸川乱歩賞受賞作。
最近、売れっ子作家へ一歩ずつ近づいている作者の長篇デビュー作です。
~「これは貸しだからな」という謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻は、かつて主人公の恋人だった。死者のため、そして何かを失いかけている自分のため、ただ1人銀行の暗闇に立ち向かう~ という粗筋。
まぁ、デビュー作ですから、文章の拙さや書き込み不足という印象はどうしても感じました。
プロットというかストーリー展開もちょっとご都合主義が目に付いてしまう・・・
ただ、この分野(銀行を主な舞台としたミステリー)については、今や作者の独壇場という気がしますし、他の作家が書く経済絡みのミステリーとは一味違うレベルの高さは感じます。(さすがに元銀行員ですね)
ミステリー的には真犯人がちょっと類型的で、サプライズ感には欠けますが、まぁ及第点というところでしょうか。
この賞の受賞作らしい作品だとは思います。
(「銀行」=お金。「お金」→「人間のエゴや欲望」ということで、ミステリーの舞台として「銀行」は馴染み易いんですねぇ・・・)

No.1 7点 空飛ぶタイヤ- 池井戸潤 2009/08/02 22:25
熱いオヤジたちの戦いに涙するエンターテイメント小説。
直木賞候補にも挙げられた佳作です。
~トレーラーの走行中に外れたタイヤは凶器と化し、通りがかりの母子を襲った。タイヤが飛んだ原因は「整備不良」なのか、それとも・・・。自動車会社、銀行、警察、週刊誌記者、被害者の家族など事故に関わった人それぞれの思惑と苦悩。そして「容疑者」と目された運送会社の社長が、家族や仲間とともに事故の真相に迫る。オヤジの戦いに思わず胸が熱くなる!~

粗筋からも明らかなように、本作は数年前に起こった某○菱自動車のトラックタイヤ脱輪事故を下敷きとしています。
そして、主人公として、社会の不条理に挑むのは、零細運送会社の中年社長!
大企業やメガバンクといった「厚き壁」に何度も跳ね返されるが・・・決してあきらめない!
そして、徐々に同志が増え、ついには感涙のラストを迎えます。
まぁ、このような経済系エンタメ小説を書かせたら、現在の日本で作者の右に出る者はいません。
本作も、突き詰めれば、昔ながらの「浪花節」、「勧善懲悪」といったプロットなのですが、これが実に心地よい!
やっぱり、日本人はこの手の話に弱いんですねぇ・・・
(日本経済の強さの源は、何といっても中小企業の技術力の高さでしょう。そういう意味でも、頑張れ「池井戸」と言いたくなる!)

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