皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.701 | 6点 | 石黒くんに春は来ない- 武田綾乃 | 2017/01/27 22:15 |
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注意!最後にややネタバレ気味の発言があります。
いわゆる学園もので、スクールカーストやいじめの実態をリアルに描いた青春小説。ミステリかどうかは読み手の捉え方次第だが、ガチガチのミステリでないことは確かです。 まあ簡単に言えば、目には目を、歯には歯を、スマホにはスマホをという感じでしょうか。しかし、恐ろしいですねスマホ社会は。かのベ○キーの不倫騒動もこのアプリから流出したのがきっかけでした。 主人公のクラスには女王様とその取り巻きが存在しており、その女王様のいじめを受けて一人の生徒が自殺未遂?事件を起こします。その最上位のカーストに対して、誰がどのように立ち向かうのかが読みどころになります。しかし、それはいじめと言うより、女王様の身勝手な発言により狙われた生徒が次々と傷ついて不登校になるというもので、それほどハードなものではありません。そこが個人的には生ぬるいというか、いまひとつ逆襲のカタルシスが得られない要因となってはいますね。 例えば、北乃きい主演のドラマにもなったコミックス『ライフ』にも設定が似ていますが、こちらは一人の生徒を徹底していじめ抜くわけで、立場が逆転した時の爽快感は段違いです。 本作は終盤でようやくミステリとして機能します。やや意表を突かれますが、それほどのサプライズとは思いません。しかし、孤立した女王様を追い詰めるシーンは読みごたえがあります。 |
No.700 | 8点 | 葬式組曲- 天祢涼 | 2017/01/24 22:20 |
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これは文句なしの8点ですね。
タイトルからの印象は、社会派?それとも日常の謎的なジャンルかなという感じですが、第一話の『父の葬式』は確かにそうでした。しかし読み進むにつれて意外にもトリッキーな連作短編集だということに気づきます。お棺の遺体消失、祖母の火葬を何とか回避しようとする喪主、まるで本物のような幻聴などを葬式というテーマを絡めながら、見事に本格ミステリとして昇華しています。 さらに最終話での見事な回収、素晴らしいです。 デビュー作の『キョウカンカク』からは考えられないほど作風を変えて、堅実な作品に仕上げており、年齢層を超越した誰もが楽しめ納得できる傑作をものにした感が強いです。 |
No.699 | 5点 | 砕け散るところを見せてあげる- 竹宮ゆゆこ | 2017/01/20 21:56 |
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ラノベです、はい。定番の学園ものですね。よくあるボーイミーツガールな感じの青春小説ですかね。
作者の優しさからなのか、読者層を考慮してなのか、最も生々しいシーンや痛々しいシーンは割愛されています。それが私には少々物足りなかったりもしますが、やはりラノベなのであまり過激な描写は避けたいところでしょう。 もしミステリに置き換えるなら、さしずめイヤミスですかね。しかし、あくまで主人公の少年少女にスポットを当てているので、作者もあまりミステリに重きを置くような意識はなかったものと思われます。 ストーリーは至って単純ですが、それよりも二人のぎこちない愛情表現が初々しく、キャラも立っているので、ラノベ読者は大満足なのではないでしょうか。もう少し捻りがあっても良かった気もしますが、まあ面白かったですよ。いきなりUFOがどうこうってのは驚きましたが、特にオチはありませんので期待しないでください。 |
No.698 | 6点 | 入らずの森- 宇佐美まこと | 2017/01/18 22:13 |
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山深き過疎の町、尾峨町の尾峨中学校に勤める都会育ちの教師圭介、尾峨中学に通う数少ない生徒で、複雑な家庭の事情で東京から転校してきた金髪の少女杏奈、仕事に馴染めず逃げ出すように引っ越してきた、農業を営み始めたばかりの隆夫、認知症で入院する淳子とその娘ルリ子。彼らの人生がリンクした時何かが起こる。
森の奥深くに息づくそのものの正体とは一体・・・。 地味に怖いです。ということはあまり怖くないとも言えますが、じわじわと来ます。 平家の落ち武者伝説や、過去の惨劇なども絡んできますが、それほどの緊迫感はなく、いま一つ盛り上がらないまま物語は進行していきます。ところが途中から一気に面白くなります。これがこうなって、そこから、うむそう来ますかって感じで、妙に腑に落ちる語り口が巧妙なことを遅まきながら痛感します。よく練られた構成も作者のしっかりとした実力に裏打ちされたものだと思いますし、本作が単なるフロックでないことは読んでいただければお分かりになるでしょう。 |
No.697 | 6点 | 美人薄命- 深水黎一郎 | 2017/01/14 22:11 |
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独居老人宅に、月二回お弁当を配達するボランティアに励む大学生総司と、片目が見えない老女カエとの交流をほのぼのと描いた青春ミステリ。終盤までミステリ要素が薄く、文芸に近い作品かと思っていたら作者の企みにまんまと引っ掛かります。実は冒頭からトリックが仕掛けられており、何気ない日常が伏線になります。
ボランティア団体、ひまわり給食サービスで偶然再会したかつての同級生に何とか接近しようと試みたり、宅配先の老人たちの様子や出来事をちょっとしたユーモアで包むように描いてみたり、カエの戦時中の辛い過去がカットインされていたりと、読者を飽きさせない工夫がされています。巧みな構成で物語全体に変化をつけています。 所々、涙を誘うシーンなどもあり、ガチガチの本格ミステリで疲れた頭をほぐす意味で一読の価値ありと思います。色々考えさせられる作品でもありますね。 |
No.696 | 7点 | 神様の裏の顔- 藤崎翔 | 2017/01/12 21:53 |
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適度なお笑い要素、平易で誰にでもわかりやすい親切な文体、すんなり頭に入ってくる巧みなストーリー展開、終盤のサプライズと売れ筋ポイント満載の傑作です。
舞台は通夜での焼香、通夜ぶるまいの席、親族控室とどこか辛気臭い感じもしますが、それも含めて雰囲気は悪くありません。元教師で誰からも慕われていた坪井誠造は果たして本当に神様のような存在だったのか、をめぐって親族、店子、元同僚らが推理やディスカッションを繰り広げます。すると次第に故人の裏の顔が浮かび上がってくるという仕組みになっていますが、果たして・・・。 終盤までは各語り手が遭遇する事件が披露され、そこから二転三転、とんでもない反転が繰り返されます。最後の最後まで飽きさせることなく面白く読ませる手腕は確かなものがあり、今後の活躍が期待される新人の登場です。 |
No.695 | 7点 | 虚実妖怪百物語 急- 京極夏彦 | 2017/01/09 22:05 |
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さて、いよいよ最終巻です。
「妖怪小説に7点も付けるのはどうなの、お前は」というご意見も十分頷けますが、面白いのだから仕方ありませんね。 今回は新たに夢枕獏や鈴木光司らが登場します。本シリーズは京極夏彦氏の交友関係を熟知するほど面白みが増します。どの人物がどんな役割を果たすのかといった観点に注目すると、より楽しめると思います。まあ、ほとんどの読者がそれらの恐らく実在の人物を知らないので、この人はこんな風貌でこんな性格なんだろうなと想像を逞しくして読む他ありませんが。 本作、妖怪やら怪獣やら漫画の主人公が暴れまわるクライマックスもいいですが、その後に訪れる実に平和でのんびりとした露天風呂のシーンがとても印象深いんです。こんな静かな落ち着いた雰囲気の場面を読むのはいつ以来だろうかと、遠い過去を懐かしむとともに、噛み締めるように読める幸せを実感します。 で、結局多数の登場人物の中、荒俣宏が主人公なのでしょうかね。最も盛り上がるシーンで活躍します。京極夏彦はミステリ的側面の謎解きを一応担当して、面目を躍如し、一番最後に水木しげる先生が美味しいところをさらいます。 最後まで読んで良かったと思えるような楽しい作品ではありました。 |
No.694 | 6点 | 闇に香る嘘- 下村敦史 | 2017/01/04 21:45 |
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なかなかの良作だと思います。ただ盲目の主人公の一人称で描かれているためもあり、終盤までやや冗長だしいささか退屈な感じは否めません。題材が中国残留孤児だからある程度やむを得ないかもしれませんが。
巻末の参考文献を見るまでもなく、作者は相当深く理解に及んでから書き始めたようですし、読者もいろんな意味で勉強になります。残留孤児に関して、視覚障碍者に関して。 終盤謎解きに至り、一気に覚醒したがごとく面白くなります。それまで社会派の印象が強かったですが、ここに来てようやく本格ミステリの本領を発揮しますね。まさかの展開が待っています。エピローグも一抹の救いがあっていいですね。 個人的に『占星術のマジック』が受賞を逃す以前から乱歩賞とは相性が悪いですが、これは合格ラインではないかと思います。 |
No.693 | 7点 | ジェリーフィッシュは凍らない- 市川憂人 | 2016/12/30 21:50 |
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『そして誰もいなくなった』を意識した作品としては出来はいいほうだと思います。構成はしっかりしているものの、なぜか全体的にすっきりしない感じがします。飛行船の中で起こる殺人劇と、それから遅れること数か月の捜査が交互に描かれているプロット自体は悪くないのですけどね。
一つとても気になる点もあります。検死に関することなんですが、ややあっさりし過ぎているような。まあ、あまり突っ込むと自らネタバレしてしまう可能性が高いですから仕方ないですかね。 トリックはそれほど大胆なものではなく、手品のタネを明かされた時のがっかり感が漂います。ただし、それをうまく隠ぺいしている手腕は確かなものがあると思います。 エピローグがそのまま解決編になっている辺り、センスを感じますね。 |
No.692 | 6点 | 虚実妖怪百物語 破- 京極夏彦 | 2016/12/26 21:58 |
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前作の地味な展開から一転、ど派手で荒唐無稽なストーリーへと発展していきます。妖怪どころか、巨大ロボが発進し、それに搭乗しているのが荒俣宏なのです。さらに木原浩勝はヘリからパラシュートで落下し、都知事を襲来し槍で突き刺したりします。どうやら黒幕はあの『帝都物語』の加藤らしいと匂わせています。
今作では新たに綾辻行人、貫井徳郎が登場。前作からの京極夏彦や平山夢明もそれなりの活躍をします。活躍というか、彼らは意見するだけで行動は起こしませんけど。で、あの水木しげる先生は・・・次巻で大いに暴れる予定(勝手な予想)です。 まあとにかく、コメディタッチで描かれながら、抑えるべきツボは抑えている感じで、笑える上に高揚感も味わえるという贅沢な一品に仕上がっていることは確かです。最終巻でどうケリをつけるのか楽しみであります。 |
No.691 | 6点 | Dの殺人事件、まことに恐ろしきは- 歌野晶午 | 2016/12/22 22:08 |
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江戸川乱歩の作品を現代に蘇らせ、最先端のハイテクを駆使して本家とはまた違った目新しさを披露する短編集。元ネタは『人間椅子』『押絵と旅する男』『D坂の殺人事件』などで、これらを読んでいるとより楽しめることは間違いないが、未読でも支障はない。
目立つのはスマホの機能を最大限に利用している作品が多いこと。やはり現代人にとってスマホはどうあっても手放せないアイテムなのだろう。だが、スマホを使いこなせない人にとっては、理解不能な部分もあると思うので、そこは想像力で補うしかないと思う。 しかし、これはあまり公言できないことかもしれないが、個人的に歌野晶午という人はどうも垢抜けないところがある気がしてならない、文章やプロットなど。私だけだろうか。 |
No.690 | 7点 | 今はもうない- 森博嗣 | 2016/12/18 21:50 |
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このような変化球は私の好むところである。導入部の爽やかさも非常に印象深く、感銘を受けた。だが美点ばかりというわけではない。みなさんご指摘されているように、シンプルな謎のわりにページ数を割きすぎなのは否めないであろう。こんな解決法がありますよと小出しにするのはいいが、どれも驚くようなものではなく、正直予測の範疇に収まるといえる。さらに最後に萌絵と犀川による謎解きがおこなわれるが、あまりにあっさりしすぎていて何かこう物足りなさを感じる。
密室の謎はさして珍しいものではないが、メイントリックはかなりいい。森博嗣がこんなものを?といった意外性は見逃せないものがある。 それにしても西之園の気性の荒さばかりが目立つ作品ではあった。それも魅力なのかもしれないが、私は御免こうむりたい。 |
No.689 | 5点 | 虚実妖怪百物語 序- 京極夏彦 | 2016/12/14 21:55 |
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京極版「妖怪大戦争」らしいが、序というだけあって一冊丸ごとプロローグのような作品である。
妖怪関係者?の水木しげる、荒俣宏、京極夏彦ら作家陣に編集部の人々が多分実名で加わり、さらに榎木津礼二郎の子孫らしき榎木津平太郎や木場という人物まで参戦している。 本作の手法は映画『ジョーズ』に似ており、序盤に妖怪をちらつかせておいて、その周辺の出来事を冗談っぽく描いてイライラさせて、最後にぞろぞろと妖怪を登場させるという常套手段を取っている。 ただ残念なのは三人称で書かれているが、京極夏彦を京極自身がどう描くのかと言う興味を持って読んだわけだが、結局本人は本作では登場しなかったことだ。ちょっと焦らしすぎじゃなかろうか。いずれ続巻を読むのだから少しくらいサービスすればいいのにと思うが。 |
No.688 | 8点 | 猫には推理がよく似合う- 深木章子 | 2016/12/09 21:52 |
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たとえ単行本でも、これはと思った作品は迷わず買うのが私のスタンスでもある。そしてこれは大正解であった。面白い。それはもう非の打ち所がないというか、文句のつけようがないというか。
しかし、何を書いてもネタバレにつながるので、何も書けない。下手なことを書いたらこれから読む人に叱られるのだ。この作品こそ大いに人に薦められるミステリに違いないと私は断定する。あ、個人的に、です。 私はこれを読みながら、昔「新本格」に夢中だったころの自分を思い出していた。雰囲気が何となくあの頃のそれに似ていなくもないような・・・。とにかく、文庫化されてからでもいいから読んでほしいなあ。 |
No.687 | 6点 | 首折り男のための協奏曲- 伊坂幸太郎 | 2016/12/05 21:50 |
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思えば単行本刊行時から文庫化を待ち続けていた気がする。その魅惑的なタイトルに惹かれ、しかし期待を裏切られた時の保険として文庫本を待つ姑息さ。それこそが私の読書に対する姿勢であり本質なのだ。
で結局本作の感想はと言うと、可もなく不可もなくといったところか。タイトルから想像されるようなもっとダークな感じのサスペンスを想定していたことは自分の身勝手ではあるが、考えてみれば伊坂幸太郎がそんな暗い話を書くはずがないではないか。というわけで、この愛すべき短編集は連作と捉えると「ちょっと違う」と思わざるを得ないので、それぞれが独立した短編と考えたほうが都合がいいように思う。下手に首折り男はいったいなぜ次々と殺人を犯すのかとか、どんな残虐な性格の持ち主なのかとか、あまり深追いしないで、それぞれ色の違う短編を楽しむ余裕を持って臨むのが得策ではないだろうか。 個人的には『人間らしく』のクワガタのエピソードが好きだ。本作品集の中ではそれほど重要なポイントではないが、このマニアックさがたまらないのである。『合コンの話』も最もまとまりがあって好感が持てる。 |
No.686 | 6点 | オーブランの少女- 深緑野分 | 2016/12/01 22:07 |
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どの作品も文芸としては一流かもしれないが、ミステリとしてはいささか薄味。しかしながら、どれもなかなかに印象深いのでもっと高得点を付けるのに吝かではないのだが、いかんせんミステリ要素が薄く・・・。
例えば表題作『オーブランの少女』などは、導入部に関しては申し分のない吸引力を持って読者を引き付けるので、その後の展開が物凄く期待できるが、結局謎解きはほとんど皆無であり、起こったことをそのまま書き連ねているに過ぎず、個人的には望んでいない方向へ行ってしまった感が強い。実に勿体ないと思う。 また最終話『氷の皇国』は全般的に引き締まった好編だが、やはり謎解きが中途半端だし、犯人もあまりにミエミエでせっかくの素材が台無しになってしまっている。まあそれを差し引いても高得点は堅いのだけれど。 というわけで、私としては作者の力量は認めるが、このサイトでの採点はこの程度で致し方ないのだ。今後の活躍に期待したい作家ではある。 |
No.685 | 6点 | 人ノ町- 詠坂雄二 | 2016/11/26 22:10 |
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旅人が世界各地?を放浪し出会う、様々な不思議な出来事。無国籍でありながら旅情を誘う連作短編集。
これは凄いとは思わないがなんかいい。謎もいたってシンプルだがなんかいい。乾いたざらざらした質感がなんかいい。 そう、この作品は読んでいて異国を旅しているような錯覚を覚える、そんな物語なのだ。主人公は旅慣れているので、言葉には困らないらしいし、結構危険な目にあったりもするのだが、落ち着いた言動で余裕をもって回避できる度胸の持ち主だ。そんな旅人とともに放浪気分を味わいたいと思う人にはお薦め。 詠坂氏にしては分かりやすい文体なので思ったより読みやすいし、それぞれの短編がなかなかに印象深いので、長く記憶に残りそうな予感がする。 |
No.684 | 6点 | おそろし 三島屋変調百物語事始- 宮部みゆき | 2016/11/23 21:55 |
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第一話はかなり怖い、オチが素晴らしい。しかし残念ながら次第にトーンダウンしていく気がする。どれも今一つ捻りが足りないというか、ストーリーをすんなり落としすぎという感じがしてならない。
とは言え、文章の流麗さ、情感あふれる描写力、臨場感、どれをとっても一流と言って差し支えないだろうと思う。 ホラーとしては第一話を除いて、それほど怖さを感じないが、このシリーズはそういう問題ではないのだろう。人間の業の深さを鋭く抉り、その存在の儚さを幾度となく繰り返し指摘しているところを見る限り、宮部の怪談はその名の通り変調、変わり百物語だと言えるのではないか。 |
No.683 | 7点 | あやし~怪~- 宮部みゆき | 2016/11/16 21:55 |
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江戸の怪談話(勿論フィクション)を集めた短編集。全体的に暗い。怪談だから当然かもしれないが、その分雰囲気としては最高。ところが人間が生きている。生き生きしているわけではないのだが、ほとんどの登場人物に存在感があり、それはほんの端役に関しても言える。
江戸時代だからと言って、妖怪や幽霊の類はほぼ出てこない。やはり怖いのは人間そのものということだろう。 個人的にベストは『女の首』。この作品が最もミステリ的趣向が盛り込まれているからである。ホラーだけど話が理路整然としており、起承転結もしっかりしているので、読んでいて一番気持ちがよかった。主人公の太郎にもなんとなく感情移入できるところもお気に入り。 |
No.682 | 5点 | 緋い猫- 浦賀和宏 | 2016/11/10 22:03 |
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昭和二十四年の東京。プロレタリア文学好きの女子高生洋子は、学生や工員たちの集う喫茶店で、共産主義寄りのリーダー的存在である青年佐久間に惹かれていく。ところが、周りに恋人同士と認められた頃、彼は突如失踪する。洋子は青森にある彼の実家を訪ねるが、それが彼女の運命を狂わせることになるのだった。
というわけで、本格として登録されているが、サスペンスなので読もうと思っている方は(多分いない)、注意されたい。 まあ何となく既視感を覚えるストーリーだし、実際よくあるパターンの物語だが、それなりに新味があるのかと問われれば否と答えるしかない。帯には「息を呑む、衝撃的な結末!」と謳っているが、読者が期待している種類のものとは違い・・・おっとこれ以上はネタバレになるから書けない。 浦賀らしいと言えばそれまでだが、中身が希薄なのはお約束のようなものだ。主人公の洋子と共に過酷な運命を追体験すればそれで十分な作品だと思う。 |