皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1829件 |
No.929 | 6点 | 女学生探偵と偏屈作家-古書屋敷殺人事件前夜-- てにをは | 2019/02/12 22:29 |
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50万再生を突破した和ロックテイストの人気ボカロ曲「古書屋敷殺人事件」より、オリジナル小説が誕生!
作者のボカロP・てにをは自身による書き下ろし3編を収録! 女学生探偵シリーズ「古書屋敷殺人事件」の作品世界を舞台した前日譚!! 女学生探偵・花本ひばりと、ドS推理作家・久堂蓮真の痛快事件録!!! ボカロとはボーカロイドの略で、ヤマハが開発した音声合成技術及びその応用製品の総称のことです。で、本作はあの初音ミクが歌う『古書屋敷殺人事件』の前日譚として、作者であるてにをは自身が書き下ろした作品です。中編2作と短編1作で構成されたもの。 中編はどちらも謎めいた事件(不可能犯罪的な)を扱っていますが、真相はあっけないもので、ミステリとしては弱いと言わざるを得ません。しかし、プロットはよく練られており、十分楽しめると思います。間に挟まった短編はある有名な海外の作品のネタバレをしていますのでご注意下さい。 ラノベ以上にライトな文体で読んでいてとても心地よさを感じます。舞台は昭和の中頃、安保闘争や学生運動が盛んだった頃の東京ですが、それ程時代を感じさせるような描写はありません。主人公の女学生探偵ひばりと推理作家の久堂との関係性がくっきりと浮き上がって、もどかしさなどは気になりません。とりわけひばりの一つ一つの言動が可愛すぎて、目が離せません。勿論探偵役は彼女ですが、すべてを見通した久堂の存在も見逃せないですね。古書店の店主枯島が京極堂なら久堂はさしずめ榎木津といったところでしょうか。その辺りの人物像が果たして京極作品をリスペクトしてのことなのかは定かではありませんけど。 |
No.928 | 5点 | ファントムの夜明け- 浦賀和宏 | 2019/02/10 22:02 |
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いまだかつて、これほど哀しいホラーはなかった。これほど恐ろしいファンタジーはなかった。これほど残酷なラブ・ストーリーはなかった。あなたはこの哀しくも衝撃的な結末に耐えられるか。死はいつも愛する者を奪っていく。でも、あなただけは。元恋人の失踪、明らかになる妹の死因、忍び寄る死の気配。連鎖する悲劇の果てに待っていたのは…。
浦賀を何作か読んできた人には、やや食い足りないのではないでしょうか。らしさはそれなりに出ていると思いますが、クセがない比較的淡々とした文章となっている為、あまりのめり込めませんでした。 所謂超能力を扱った作品ですが、それを信じる側信じない側両面から描かれており、一体本当に超能力は存在するのか、読者はそれに翻弄されます。結局意外な形で結論は提示されます、まあ一種のファンタジー或いはSFでしょうから、それで全然問題ないとは思います。 中盤まではどっちに転がるか分からないような展開でしたが、終盤から俄然描写が生き生きとしてきて、本来の作者の姿を取り戻し覚醒した感があります。やはりこの独自の浦賀ワールドが全開にならなければ面白くありませんからね。 個人的には期待していたものとは違っていましたが、逆に一般読者にとってはこれくらいの適度な刺激が丁度良いのかもしれません。これもある意味ジャンルミックスと言えるでしょう。SF、ホラー、ファンタジー、ミステリなどが混然一体となった、ちょっと毛色の変わった作品です。 |
No.927 | 6点 | 少女不十分- 西尾維新 | 2019/02/07 22:24 |
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悪いがこの本に粗筋なんてない。これは小説ではないからだ。だから起承転結やサプライズ、気の利いた落ちを求められても、きっとその期待には応えられない。これは昔の話であり、過去の話であり、終わった話だ。記憶もあやふやな10年前の話であり、どんな未来にも繋がっていない。いずれにしても娯楽としてはお勧めできないわけだが、ただしそれでも、ひとつだけ言えることがある。僕はこの本を書くのに、10年かかった。
この異形の小説を前に6点という可もなく不可もない点数を付けるのは如何なものかと、正直思います。結論から言うと西尾維新ファン必読の書であり、とんでもない物語なのであります。その意味からすれば、私はダメ読者なのでしょう。 最初、自叙伝か私小説のような出だしで、これはドキュメンタリーなのかと勘繰りたくなりますが、明らかなフィクションです。ただ、己の内面や癖を吐露している数々の描写の何割かは、西尾維新自身本来のパーソナリティである可能性も否定できません。 極端に会話文が希薄で、他人には理解しがたい少女の行動と、こちらもいささか理解に苦しむところの多い主人公の心理状態と行動。こんなものを読まされて、一体どうすればいいと言うのでしょうか。しかし、序盤こそ読みにくいとか思っていましたが、それがやがて癖になるのは、多少なりとも作者に共感しているせいかもしれません。「変わっている」という感覚が、ああ解ると自分と重ね合わせている私の心持はやはり異常なのでしょうか。 |
No.926 | 6点 | 文豪ストレイドッグス外伝 綾辻行人VS.京極夏彦- 朝霧カフカ | 2019/02/04 22:26 |
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“殺人探偵”と呼ばれる綾辻行人は、殺人事件の真相を見抜くと犯人が必ず事故死するという危険な異能を持つため、異能特務課の新人エージェント・辻村深月から監視を受ける身だ。ある日、2人は奇怪な殺人事件にまつわる謎解きを政府から依頼される。だがそれは、綾辻の永遠の宿敵で社会の敵でもある妖術師・京極夏彦との命懸けの闘いの始まりだった―。異能バトルミステリ、待望の文庫化!書き下ろしのあとがきを収録。
『BOOK』データベースより。 キャラクター小説でありエンターテインメント、且つ本格ミステリですかね。 綾辻行人、京極夏彦、辻村深月という大御所作家の名を借りてはいるものの、それぞれのキャラはご本人とはほぼ無関係です。綾辻は超人的な無謬の名探偵であり、京極は「憑き物落とし」を駆使する得体の知れない悪役の老人、辻村は若くて可愛い新人エージェントです。ですので、京極夏彦の熱狂的なファンにはちょっと辛いかもしれません。が、そのキャラ設定は本人のご希望らしいので仕方ないですね。 概ね面白いのですが、書く人が違っていたら更なる傑作に仕上がったのかもしれないと思うとやや残念ではあります。 まあしかし、この作品の良さは綾辻と京極の直接対決が真っ向勝負だという点にあるのではないでしょうか。その辺り、押さえるべきところはキッチリ押さえているのは見事です。また密室のトリックはなかなか良く考えられていますが、肝心のメイントリックには拍子抜けの感が否めません。 物語はある事件がベースとなり、様々な登場人物がそれぞれの役割をもって複雑な様相を呈し、アクション、異能、謎解き、憑依、超絶的存在などなどの要素を内包して、一見無秩序にさえ見える異形なる終息へとなだれ込みます。 それなりのスピード感や抑揚があり、見せ場の連続と言えなくもありません。全体的にやや取っ散らかった印象は拭えませんが、まずまずの出来だと思います。 ちなみに、坂口安吾も出てきますよ。 |
No.925 | 6点 | 姫君よ、殺戮の海を渡れ- 浦賀和宏 | 2019/01/31 22:29 |
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敦士は、糖尿病の妹・理奈が群馬県の川で見たイルカを探すため、彼女と友人とともに現地へ向かう。当初イルカの存在を信じていなかった敦士だが、町の人々の不審な様子により、隠された秘密があることに気が付く。やがて彼らが辿り着いた真実は悲痛すぎる運命の扉を開けていく――。少年少女の切ない青春を描いた傑作恋愛ミステリ。
主人公で語り手の敦士は短気で喧嘩っ早い、その妹理奈はすぐ拗ねてへそを曲げるという情緒不安定な兄妹。ほかの登場人物にも感情移入の余地はなく、嫌悪感を覚えて途中で読むのを止めてしまう人がもしかしたら多いかもしれません。 愛か、青春か、冒険か、正直何を描きたいのか良く分かりません。特に前半は面白みがなく、文章にもキレが感じられず、困ったもんだなあと思いながらダラダラ読んでいました。しかし、終盤想像もしない事態が待っており、とんでもない着地点を作者は用意していました。やはりこの浦賀、只では終わりません。これ以上書くとネタバレしてしまいそうなので、この辺でやめますが、取り敢えず長くても最後まで読みましょうってことだけは言えます。 読み終えて、呆然としながらあのシーンはそういうことだったのかという感動が後からこみ上げてきます。こういった体験はそうそうあるものではなく、貴重な経験をさせてもらった気がします。 |
No.924 | 7点 | 虚構推理短編集 岩永琴子の出現- 城平京 | 2019/01/27 21:48 |
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妖怪から相談を受ける『知恵の神』岩永琴子を呼び出したのは、何百年と生きた水神の大蛇。その悩みは、自身が棲まう沼に他殺死体を捨てた犯人の動機だった。―「ヌシの大蛇は聞いていた」山奥で化け狸が作るうどんを食したため、意図せずアリバイが成立してしまった殺人犯に、嘘の真実を創れ。―「幻の自販機」真実よりも美しい、虚ろな推理を弄ぶ、虚構の推理ここに帰還!
『BOOK』データベースより。 妖怪変化、幽霊などが棲む異世界と本格ミステリを絶妙に融合させた珠玉の連作短編5作。 何と言っても岩永琴子とその恋人、桜川九郎のキャラがとても好感がもてます。二人とも人間ならざる存在でありながら、いかにも人間臭いごく普通の感覚を持つため、異様さが逆に際立ちます。キャラとして個人的には『電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを』の化け猫が可愛くて気に入っていますね。 短編それぞれが違ったタイプの作品なので、様々なストーリーやトリックが楽しめます。虚構推理と言ってもあくまで正統派のミステリであって、嘘や推測で固めた推理でありながらも、真実味は間違いなく存在します。いかにもな解決に、それ以外に真実はあるのだろうかという気にさせてくれるほど、琴子の推理には説得力があると思います。 いずれにせよ、流石城平京恐るべし、と感じました。漫画の原作もいいですが、もっと本格ミステリの新作を描いて欲しいですよね。 |
No.923 | 6点 | 時の鳥籠- 浦賀和宏 | 2019/01/23 22:33 |
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「この子は近い将来、自殺する」。初対面の少女の運命をなぜか私は知っていた。少女に出会った瞬間意識を失った私は、心肺停止から奇跡的に蘇生するが、見るのも聞くのも全て昔のものだ。もしかしたら私は未来から来た人間なのか。私は少女を自殺から救うべきなのか。時空の螺旋が絡み合う安藤シリーズ第二弾。
『BOOK』データベースより。 「安藤直樹シリーズ」第二弾と言うより、続編なのでしょうか。前作と対を成すストーリーなのですが、謎を完全に補完している訳ではありません。なんかまったりしています。そう、多分浦賀の感性を僅かでも多く感じ取ってしまえる者だけが、この作品を評価するのだと思います。 本作から読んでも訳が分からないということにはならないですが、やはり順序を踏んで第一作から読むのが本筋と感じます。同じ描写の繰り返しが多いとか、宮野のパートは正直いらいないのではないかとか思ってしまいますが、そうなると悪戯に枚数を増やして冗長さを助長している、みたいになります。で、必然的に退屈で詰まらない、まるで作者が自分だけの世界に浸り過ぎなのでは?という感想にもなりかねません。結局それが浦賀という人の一つの特徴でもあり、広く一般読者に受け入れられない要因になっているのかもしれませんね。 ただ平均得点がこれだけ高いのは、私には理解できません。デビュー作を凌いでいるかと問われれば、否と答えるしかないのが私個人の結論です。面白いかという観点で言えば面白くはないと思います。しかし、何故かどこかに惹かれるものを持っている、不思議な作品であるとは言えます。要するにフィーリングの問題、或いは相性の問題ですかね。とにかく難しい作家ですよ、難解なのではなく行間を読み取る繊細さが要求されると言ったらいいんですかね。 |
No.922 | 6点 | 記憶の果て- 浦賀和宏 | 2019/01/20 22:10 |
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父が自殺した。突然の死を受け入れられない安藤直樹は、父の部屋にある真っ黒で不気味なパソコンを立ち上げる。ディスプレイに現れた「裕子」と名乗る女性と次第に心を通わせるようになる安藤。裕子の意識はプログラムなのか実体なのか。彼女の記憶が紐解かれ、謎が謎を呼ぶ。ミステリの枠組みを超越した傑作。
『BOOK』データベースより。 「ああ、彼女の歌は日本人の琴線に触れるね」。作中人物の台詞です。確かに彼女のファーストアルバムは素晴らしい出来栄えでした。しかも数多くのヒットナンバーを世に送り出しています。まあそういう訳で、ジャンルミックスな本作ですが、これは『安藤直樹シリーズ』のほんの第一歩に過ぎないことを思い知らされました。そして、『萩原重化学工業連続殺人事件』はまさしく本シリーズのシーズン2に間違いないと認識を新たにしました。今までの私は大きな間違いを冒していたようです。『萩原・・・』こそ浦賀の一つの到達点に違いないと今私は確信しています。 本作、全体的に思うのは、輪郭がぼやけているような気がするということです。確かに本筋はわきまえていますが、あまりにも様々な要素が入り混じっていて、どこに焦点を置いてよいのか分からず仕舞いな感じで。 安藤の内面を当時まだ十代の若さで描き切ったことには、十分に作者の才気が感じ取れますし、ここが原点なのはその後のシリーズを読み進めば理解できてくると思います。ただ、いくつもの謎を残したまま、つまり未完のまま完結してしまっているのは、デビュー作としてどうなのかなという気はします。最初からシリーズ化を狙っているのは明白ではあっても、初読の読者にとってそれはやはり不親切なのではないかと思います。 安藤直樹に対して感情移入できないとする向きもありますが、彼は金田と同じくらい身勝手な性格なので、仕方ないんじゃないでしょうかねえ。 |
No.921 | 7点 | お前の彼女は二階で茹で死に- 白井智之 | 2019/01/16 22:20 |
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高級住宅地ミズミズ台で発生した乳児殺害事件。被害者の赤ん坊は自宅の巨大水槽内で全身を肉食性のミズミミズに食い荒らされていた。真相を追う警察は、身体がミミズそっくりになる遺伝子疾患を持つ青年・ノエルにたどりつく。この男がかつて起こした連続婦女暴行事件を手がかりに、突き止められた驚くべき「犯人」とは…!?鬼才が放つ怒涛の多重解決×本格ミステリ!
『BOOK』データベースより。 前にも書きましたが、白井智之の新作と聞いて黙っていられない私は、今回も早速購入し、諸事情によりようやく読み終えました。はっすーさんに後れを取ってしまいましたが。 内容はとても充実しており、二冊分読んだような気分です。それにしても、本作はいろんな意味で凄いですね。相変わらずの特異設定を伏線に利用し回収、見事に解決に結びつけ本格ミステリへと昇華しているのが凄い。命に対する尊厳の欠片もなく、人を人とも思わない無機質なもののように扱うところが凄い。ある人物の鬼畜の如き所業の数々が凄い。人名や地名のネーミングセンスが凄い。といった具合です。 個人的には前作のほうが好みでしたが、これはこれで素晴らしいと思います。グロさはやや控えめだというものの、そちらに耐性がない方には決してお勧めできない代物です。しかし、どういう頭の構造をしていればこんな複雑で捻じくれた小説を書けるのか、作者に対する畏敬の念を禁じえません。粗削りな面は否めませんし、表紙のセンスの悪さは何とかならんものかと思いますが、今年の年間ベスト10が今から楽しみです。今これだけ直截的な表現ができる作家は、彼をおいて他にいないのではないでしょうか。 |
No.920 | 6点 | トリプルプレイ助悪郎- 西尾維新 | 2019/01/12 21:54 |
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岐阜県の山奥―裏腹亭。偉大な作家・髑髏畑百足が生活していた建物に、その娘であり小説家である髑髏畑一葉はやってきた。三重殺の案山子―刑部山茶花―が送りつけた予告状から事件は始まる―。気鋭・西尾維新が御大・清涼院流水の生み出したJDCワールドに挑む!維新×流水=無限大。
『BOOK』データベースより。 前作『ダブルダウン勘繰郎』に比べて格段に本格度が増しています。しかも、今回はJDCの探偵が二人(正確には三人)も出てきてサービス精神も大いに感じます。だからと言ってJDCらしさが出ているかとなるとそうでもない気がします。まあ、作者が違うのだから仕方ないでしょうが、その代わり西尾維新の本領を発揮していると思います。 メインは密室ですが、トリックが意表を突くものでさすがにこれは見抜けないですね。さすが西尾、こうした本格ものを書かせても凡人の発想にはない才能を感じさせます。ただ、やや無理があると言えなくもありません。ご都合主義とまではいかなくても、んん?って感じの不自然さが気になります。 トリビュートもいいですが、九十九十九や龍宮城之介辺りを主人公にしたパスティッシュも読んでみたいですね。 |
No.919 | 6点 | ダブルダウン勘繰郎- 西尾維新 | 2019/01/10 22:07 |
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京都―河原町御池交差点。蘿蔔むつみはそびえ立つJDC(日本探偵倶楽部)ビルディングを双眼鏡で一心不乱にみつめる奇妙な探偵志望者・虚野勘繰郎とめぐりあう。―それが過去に66人の名探偵の命を奪った『連続名探偵殺戮事件』の再起動と同調する瞬間だとは思いもよらずに…!?新鋭・西尾維新が御大・清涼院流水の生み出したJDCワールドに挑む。
『BOOK』データベースより。 推理小説というより探偵小説でしょうね。短いのと主要登場人物が4人と少ないこともあって、ストーリー性にはあまり期待できません。しかし、その中にも仕掛けとトリックを盛り込んで、上手く纏め上げている感じです。物語の抑揚はしっかりしていて、ちゃんと見せ場はあります。スマートさと破天荒さが上手くミックスされているように思います。 JDCに欠かせないスケールの大きさはありません。それよりもキャラクターに特化しており、それぞれの個性やスタンス、物事のとらえ方、考え方等を大切にしているのだと思います。それは各自の台詞によく表れており、探偵というなんだかよく分からない職業に対する作者なりの解答なのかもしれせん。 トリビュートとは言っても、JDCの名だたる名探偵は出てこないため往年のファンにとっては寂しいかもしれませんね。まあ一人だけ人気の黒衣の名探偵が友情出演してますけど。勿論名前は明かされませんよ。それが西尾流ってことなのだと思います。 |
No.918 | 7点 | 頭蓋骨の中の楽園- 浦賀和宏 | 2019/01/07 22:16 |
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首なし死体として発見された美人女子大生、菅野香織。彼女の死と殺害方法は、ミステリ小説の中で何故か予告されていた。首は見つからぬまま、再び発見される首なし死体。異常な連続殺人の背後には、密室の中で自ら首を切断して自殺した作家の存在があるという。被害者の同級生、安藤直樹が事件の真相を追う。『記憶の果て』『時の鳥篭』に続く安藤シリーズ第3弾。
『BOOK』データベースより。 後編途中まではユーモアを適度に含んだ青春ミステリの様相を呈しています。凄惨な事件が起こる割には文体は意外にも軽く、大変読みやすかったのですが。180ページに及ぶ解決編からガラリと雰囲気が変わります。果たしてここまで大風呂敷を広げて大丈夫なのか、と心配になったりもしましたが、一つ一つの事件が繋がりを持ち、複雑に絡み合って収束します。しかし、私は苦しみました。それなりに集中していたはずなのですが、面白かっただけにその分苦痛も感じました。それはAmazonでの下巻のレビューにネタバレに近いものを発見してしまったからです。肝心の首を切断した理由・・・これに関わる部分を。それにより、読後しばらくすっきりしない気分を味わわされました。やはり断りのないネタバレはいけませんね。読むと決めた作品のレビューをわざわざ見た私にも罪はありますが、それにしても。 しかしまあ、冷静になって考えてみれば安藤直樹という男がどんな人物なのかが知りえたことは大きいですし、『萩原重化学工業連続殺人事件』との関連もある程度掴めたので、そこは納得できて良かったのではないかと考えています。 最初は8点つけようかと思っていましたが、それでは『萩原・・・』を超えてしまうので、やはり同等にすべきと考え、7点です。 |
No.917 | 7点 | 家守- 歌野晶午 | 2019/01/03 22:35 |
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これはかなりの高水準の短編集だと思います。全て家に纏わる物語に体裁としてはなっていますが、それぞれ違ったタイプの作品です。例えば表題作。本格物で、現実的かどうかは別にして、相当奇妙奇天烈な密室トリックを用いていますが、その発想力は見事としか言いようがありません。しかもその裏に隠された真実は、驚嘆に値します。一見何でもないような出来事が伏線となって読者を翻弄します。
『人形師の家』は明らかに島田荘司の影響を受けていると思われる作風ですね。冒頭のピグマリオンの神話からラストに至るまで、巧妙に話を繋げる高等テクニックには脱帽するしかありません。 『転居先不明』は異色な作中作の変形であり、そのプロットは思わず上手いと拍手を送りたくなります。 ほかの作品にも言えることですが、全体を通して構成の妙は歌野作品の中でもトップクラスなのではないでしょうか。この作者は短編のイメージがあまりないと思いますが、逆に大胆な着想が余計な夾雑物を排しており、トリックやプロットが際立っているように感じました。適度に捻りも効いていて、抑揚に富んだ書きっぷりは他に類を見ないものとなっていると思います。 いずれ劣らぬ佳作揃いの5篇。光文社文庫刊を新たに角川文庫から再刊行されて、入手しやすくなっていますので、是非読んでいただきたいものです。 |
No.916 | 6点 | 掏摸[スリ]- 中村文則 | 2018/12/30 22:43 |
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東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎―かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは…。大江健三郎賞を受賞し、各国で翻訳されたベストセラーが文庫化。
『BOOK』データベースより。 短いですが、中身がぎっしり詰まったアングラ小説です。裏の社会を描いた本作は、我々が体験できない非日常に満ちており、特に掏摸に関する実態やその手口などは、とてもよく研究されていて真に迫るものがあると思います。 非常に陰鬱な世界観と、狂気を超える愉悦とが縄のように交錯しながら物語は進行し、迫真のサスペンスを産んでいます。特に支配される立場にある主人公の一挙手一投足には目が離せません。 登場人物は子供に至るまで世間から弾き飛ばされた破滅型の人間ばかりで、作者らしくその内面を言動で鋭く抉っています。それは台詞による心理描写に、より優れており、木崎の長広舌などはその最たるものです。しかもこの木崎という男、本物の恐ろしさを湛えた超極悪人そのものですね。 作中に塔が何度も出てきますが、作者自身の解説によれば幼き日の原風景の一つだとのこと。これもなんだか納得できる気がします。誰もが持つ忘れがたい想い出のひとかけら、本人にとっては死ぬまで去らない何気ない一瞬。それがこの物語の原点のようです。 尚、主人公のその後は語られず終いですが、続編で明らかにされている模様。なのでやはり『王国』を読まずにはいられない私がそこにはいます。 |
No.915 | 5点 | ふたりの果て ハーフウェイ・ハウスの殺人- 浦賀和宏 | 2018/12/28 22:05 |
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引き裂かれたふたりの世界。転落事故に遭い姿を消した妹を探す健一。隔離された学園に囲われる少女、アヤコ。選ばれし、美しき子供が暮らす洋館での殺人事件。この結末は、予測不能―!!著者渾身の「実験的」長編ミステリー誕生。
『BOOK』データベースより。 良くも悪くもらしいと言えばらしいですが、一般読者にとっては意味が分からないとか、これじゃあ何でもアリじゃんという感想になってしまうと思います。しかし、それが浦賀ワールドなので仕方ありませんね。 タイトル通り、「ふたりの果て」パートと「ハーフウェイ・ハウス」パートが並行して進み、中盤まで何も起こる気配がなく、やっと丁度折り返し地点で殺人が起こります。しかし、それも謎めいたものではなく、ここまでは正直タルいと感じました。 謎と言えば、アヤコと綾子は同一人物なのか、同時に現れる二人の健一はどうなのかというもので、興味はもっぱらその辺りに偏ってしまいます。あれこれ考えを巡らしても到底真相は掴めません。そこここに伏線は張り巡らされていますが、そりゃ解らんはずだわ。 結局最後は浦賀らしく、死んでいるのに死んでいない的な有耶無耶感満載で、それにプラスして悪く言えばメタに逃げたと罵られても仕方ない状況に。実験的なのかもしれませんが、それはこの人にとっては当たり前のことなので、今更堂々と帯に謳うほどのこともなかったのではないでしょうかね。有体に言えば、単行本で刊行するような大した作品ではないと思いました。いきなり文庫でよかった気がしますが。 |
No.914 | 7点 | 人魚の眠る家- 東野圭吾 | 2018/12/23 22:24 |
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「娘の小学校受験が終わったら離婚する」。そう約束していた播磨和昌と薫子に突然の悲報が届く。娘がプールで溺れた―。病院で彼等を待っていたのは、“おそらく脳死”という残酷な現実。一旦は受け入れた二人だったが、娘との別れの直前に翻意。医師も驚く方法で娘との生活を続けることを決意する。狂気とも言える薫子の愛に周囲は翻弄されていく。
『BOOK』データベースより。 生きているのか、死んでいるのか。 これは脳死と臓器移植という大変重いテーマに、真っ向から挑んだ問題作です。しかし読者に色々考えさせながらも、決して暗くなり過ぎずエンターテインメントとしても機能している、稀有な作品と言えると思います。得てして難解になりがちな内容を明確に作者の意図を提示しながらも、植物状態として生かすのか、脳死判定をおこない臓器提供をするのかとの命題を、読者に投げかけています。 6歳の少女がプールでの事故で脳死状態だと判断された時、また両親が脳死判定を拒否し延命措置をし続けていることに対し、家族や親族がそれぞれの立場から様々な心情を抱え、苦悩する姿は読み応え十分です。 そんな中一人狂気に走る母親の薫子には、極端ではありますが、子供に対する愛情が見て取れます。しかし、やはり彼女に対しての違和感は拭いきれません。ですから、そこまでするのかという恐ろしさをどうしても禁じ得ませんね。決して他人事ではないのでしょうが、読んでいて若干の息苦しさを覚えずにはいられません。 第四章での募金活動には大いに疑問を感じる部分があったりもしましたが、エピローグは気の効いたエンディングで、後味の良い締め方だったと思います。この辺り如何にも東野らしい味が出ていて好感が持てますね。 |
No.913 | 8点 | 鬼の跫音- 道尾秀介 | 2018/12/19 22:55 |
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ホラーでこれだけ楽しめる作品集はあまり見かけません。一概にホラーと言っても、『ケモノ』や『瓶詰の文字』のようにミステリ要素の強いものもあったり、非常にバラエティに富んでいて一つひとつ味わいが違います。しかも短編なのに、二転三転する作品が多く、凄くエッジが効いており、完成度としては初期の短編集なのを考慮すれば非常に高いものと言わざるを得ません。しかも、どれもこれも読後気分的に引き摺られるものばかりで、佳作秀作揃いだと私は思います。
それぞれが独立した短編なのに、Sと言う人物が重要な存在であったり、鴉や昆虫などが小道具として使われていたりする共通点があり、特に動物の扱いがぞんざいだったりします。そこには情の欠片もなく、命というものに対する尊厳など一切存在しません。それは人間に対しても情無用である点で相通じるものがあります。そこに私は道尾秀介の作家としての覚悟が見られる気がします。 取り敢えず、ホラー作品はワンパターンになりがちなところがあると思いますが、これだけ種類の違った短編を並べられる作者には敬意を表したいですね。個人的に滅多に付けない8点を献上するのに躊躇いはありませんでした。素晴らしい作品集だと思います。 |
No.912 | 7点 | 女王暗殺- 浦賀和宏 | 2018/12/17 22:07 |
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美しい母と二人、何不自由なく暮らしていた武田。その母が殺害された。謎の数字と、自らが本当の親ではないことを言い遺して―。自分が見てきた世界は何だったのか?自分は何者なのか?記憶喪失の女、自分を付け狙う怪しい影、実の母を殺した友人…無関係に見えた複数の謎の向こうに、武田はついに巨大な陰謀があることを知る!
『BOOK』データベースより。 本作は『安藤直樹シリーズ』のシーズン2の第二作にして、『萩原重化学工業シリーズ』の第二弾だそうです。とは言え、私自身『安藤シリーズ』を全く読んでいないわけで、そこに関しては何も語ることができません。ただ、安藤直樹なる人物は本シリーズには登場しないことだけは確かです。つまり、作者本人がそう銘打っているだけで深い意味はないのだと思います。 上に紹介した概略だけ読んでも、多くの人が何が何だかわからないでしょう。要するにそういう事ですよ。簡潔にストーリーなりあらすじを纏められるような代物ではないんです。 ですから感想だけ述べると『萩原重化学工業連続殺人事件』に比較して、幾分毒気が抜けている感じはしますが、相変わらず捻くれた物語を紡いでいるなと思います。恋愛小説的な要素も含んでいますが、最後には木っ端微塵に砕かれます。SF、サスペンスなども引っくるめて本格ミステリの形はかろうじて維持していると思います。おまけの密室なんかもサービスで無理矢理入れ込んでいたりしますし。 やや心残りなのは、最後真相が明らかになる過程が足早過ぎて頭の中に浸透するのに時間が掛かる点、前作も感じましたが肝心の萩原重化学工業が背景にあるはずなのに、ほとんど触れられていない点、でしょうかね。ですが、好きですよ私は、こういう訳の分からない世界観というのか、おそらく浦賀にしか書けない独特の作風が。 最後に、本作を読まれる方は(おそらく誰もいないでしょうが)、前作から読んだ方が理解しやすいと思います、余計なお節介ですが。 |
No.911 | 7点 | ふたえ- 白河三兎 | 2018/12/13 22:19 |
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超問題児の転校生・手代木麗華がぼくらの世界を変えてしまった。ドン臭い「ノロ子」、とにかく地味な「ジミー」、将棋命の「劣化版」、影の薄い「美白」、不気味な「タロットオタク」―友達のいない五人と麗華で結成された『ぼっち班』の修学旅行は一生忘れられない出来事の連続で…。物語が生まれ変わる驚きの結末!二度読み必至、どんでん返し青春ミステリーの傑作誕生。
『BOOK』データベースより。 月曜日に書店に行きました。なぜか火曜日出版のはずの『このミス』が並んでいましたので早速手に取ってまずは第一義の高山一実のインタビューから。ざっと目を通し、いよいよ国内外のベスト20を確認、残念ながらあまり興味が湧かず、そっと戻して少しだけ後ろ髪を引かれる想いで書店を後にしました。 どうでもいい話をしてしまいました。 さて『ふたえ』ですが、一章ごとに語り手である主人公が入れ替わる、修学旅行中のちょっとした冒険譚です。それぞれがぼっちであり、男女とも過度に美化されることもなく、等身大の高校生を描いている時点で既に心惹かれるものがありました。 読み心地は最高です。ですがミステリの要素はごく薄く、確かに日常の謎的な案件を含んだ物語もありますが、それよりも恋愛小説の色のほうがより濃く描かれており、どちらかと言うとミステリと言うよりも青春小説なのかなと・・・ と思っていましたが、最終章で見事にやられました。これは完全なミステリです。ええ、ええ、そりゃもう何度も前に戻って読み返しましたよ。その度に実によく考えられているし、上手く読者に隠蔽された事実を悟らせないように尽力されているなと思いました。私が読んだ作者の小説の中では断トツの出来ですね。 各章ごとに読みどころがあり、特に第一章では笑いのツボが至る所に地雷のように埋め込まれていますし、全体として悲しくも爽やかな逸品となっています。 |
No.910 | 7点 | あなたが消えた夜に- 中村文則 | 2018/12/09 22:06 |
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ある町で突如発生した連続通り魔殺人事件。所轄の刑事・中島と捜査一課の女刑事・小橋は“コートの男”を追う。しかし事件は、さらなる悲劇の序章に過ぎなかった。“コートの男”とは何者か。誰が、何のために人を殺すのか。翻弄される男女の運命。神にも愛にも見捨てられた人間を、人は救うことができるのか。人間存在を揺るがす驚愕のミステリー!
『BOOK』データベースより。 第一部は奇妙な点はありますが、通り魔事件を扱った普通の警察小説です。第二部では事件が複雑化し混迷を極めます。誰も彼もが一癖ある人物ばかりで、語り手である主人公の中島さえ心に傷を持っています。そんな中、唯一女刑事の小橋が魅力的でとても好感が持てます。人物造形が最も優れており、性格の良さがこの暗い物語を中和する役割を担っています。 第三部で様相が一変します。手記を中心に据え、ある人物の心の闇が浮かび上がります。それだけではなく、警察関係者以外の登場人物のほとんどが破滅型の人間ばかりで、読者は一体何を信じればいいのか判断がつかず、足元が崩れ落ちるような感覚にさえ陥ります。 この作者は、人間の業やさがを描くことがまるでライフワークのようになっているのかもしれません。人はそれを圧倒的人間ドラマと呼ぶのでしょうが、非人間的な残酷性、自己崩壊、歪んだ信仰心、欺瞞、洗脳などのカオスを果たして単なるドラマと片付けてよいものか評者は迷うばかりです。 人間の心の持つ奥深さ、脳から伝達される揺らぎを描かせたらこの人の右に出る者はいない気がしますね。 |