皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
江守森江さん |
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平均点: 5.00点 | 書評数: 1256件 |
No.636 | 4点 | 外事警察- 麻生幾 | 2010/03/02 08:36 |
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NHKでドラマを観て原作の存在を知った(但しドラマでは原案扱い)
ドラマは「行列48時間」と並ぶ傑作だったので期待感が大きかった。 ドラマとは別物で話を広げ過ぎな感が否めない。 映像映えするドンパチシーンも小説ではリアリティを欠くので不用と思える。 実際の諜報活動に即し、ひっそりと潜伏する姿を坦々と描けば小説独自の良さが出たと思える。 ※余談 小説新潮・今月号の「情報戦」特集も併せ読めば「小説世界のインテリジェンス」が理解しやすい。 佐藤優がアレンジ作成したスパイ適性テストも楽しい。 |
No.635 | 7点 | 毒入りチョコレート事件- アントニイ・バークリー | 2010/03/02 06:01 |
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創元推理文庫の新版を読んだのでスッキリと読みやすかった。
問題編と言うべき事件の描写が殆どなく、概要と些細な手掛かりが提示されるのみで早々に「犯罪研究会」の面々による多重解決が開陳される。 先に開陳される推理を否定しながら何転もする推理合戦の趣向は、後続の本格ミステリに多大な刺激と影響を齎し賞賛に値する。 解決編のみ幾つも揃い、各々が開陳されている時点では論理的で面白い。 しかも、前者を総括しながら最後に開陳されるチタウィックの推理は秀逸。 しかし、前者の推理を否定する証拠や論拠が多分に後出しで読者は只々開陳される推理を読まされる点は残念。 多重解決のどれもが後出し否定されなければ全て正解になりうるので、アンチ・ミステリ的ウヤムヤ感も残る。 それでも、一読の価値ある古典的名作と云える。 |
No.634 | 7点 | 雀鬼- 三好徹 | 2010/03/01 23:44 |
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6つの章からなる連作賭博短編集。
各章で、それぞれ麻雀・花札・競馬・株相場・囲碁・カードを題材にしている。 全編に渡りプロの超絶な妙技とイカサマのからくりを捻りとしてドンデン返しミステリーにもなっている。 捻りの切れ味も良く、賭博を題材にしたコン・ゲーム作品として非常に面白い。 |
No.633 | 7点 | ダービーを撃つ女- 高本公夫 | 2010/03/01 23:04 |
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「日本競馬には影の演出家が居り、演出を読み切れば馬券で大儲けできる」を標榜していた作者が、実際の日本ダービー(5月開催)を題材に当年2月(小説雑誌にヒッソリと掲載)に小説形式でダービー馬を指名発表した実践的暗号解読競馬ミステリーの金字塔!!
《当年のダービーデーが「ガリバー旅行記」でガリバー来日の5月25日であり、ダイナガリバーが勝つ》との予言的中は小説のデキなんか軽く吹っ飛ばすインパクトだった。 ダイナガリバーの単勝と枠連総流しで帯封(百万)の払戻しを受けた思い出深い一冊で心情的には10点でもいい。 全5編からなる短編集で、ミステリ的な素晴らしさは「雪が溶ければ」のダブルミーニングな解答だろう(ネタバレ:水になる→春が来る) そんなセンスで馬券購入すれば小遣いには困らなかった。 ※余談 作者本来の馬券指南本も暗号解読の趣で非常に楽しめた(昨年のエリザベス女王杯でも応用出来てクイーン馬券が炸裂しウハウハだった) |
No.632 | 2点 | 金曜日の寝室- 阿部牧郎 | 2010/03/01 22:09 |
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作者は直木賞作家にして官能サスペンス小説の大家。
この作品自体にサスペンス色は無いのでミステリーの範疇外扱いで2点とした。 しかし、ひょんな事から社内のOLに社長の隠し子がいると知った主人公がナンパし肌を合わせながら探し出す「隠し子は誰だ」の辺りは、以降の官能サスペンスの原点だと思い取り上げた。 読書中この作品で描かれる「ある種の超能力ナンパ」は実際に有効なのか興味津々だった。 ここ一番で私的に実践し成功したので実用書としてなら満点(但し、ノーリスクで実践出来るが使用効果は保証しかねる) |
No.631 | 5点 | 背徳の勝負師- 新橋遊吉 | 2010/03/01 21:48 |
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競馬を題材にした和製ハードボイルドの趣な作品。
主人公の坊主・国東帝仙の周りで起きる騒動を馬券勝負や名馬との出会いと別れに絡めてコミカルに描いている。 主人公は、この作品以降も新シリーズで準主役として登場するが、その作品群は全くミステリーの範疇には含まれない。 それでも、競馬は普通に描けば何となくミステリーになってしまう気がする。 |
No.630 | 4点 | 八百長- 新橋遊吉 | 2010/03/01 21:34 |
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直木賞受賞作の表題作を含む短編集。
最初に、競馬を題材にしたサスペンス短編で直木賞が受賞出来た事に驚ける。 それでも表題作は、一人八百長に至る過程とレース描写が非常にサスペンスフルではある。 日本版ディック・フランシスな方向に向かわず、スポーツ新聞連載の要請に応じてドタバタ賭博活劇路線な作風になってしまった(私的にはその路線な作品群が好きなので惜しいとは思わない) ※余談 ミステリーではないが「競馬放浪記」は阿佐田哲也「麻雀放浪記」と並ぶ青春賭博小説の金字塔だと思う。 |
No.629 | 6点 | ハナシがうごく!- 田中啓文 | 2010/02/28 22:18 |
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ドタバタ上方落語ミステリーの連作短編集でシリーズ第四弾。
毎度のごとく、上方落語ネタに年季明け、CD発売、人間国宝認定、漫才への転向等の騒動を絡めドタバタする。 面白いのは間違いないが、勝手に謎も解決する感じで、今では主題がミステリーから離れがち。 正統派な本格ミステリで使えるネタをドタバタに絡めた初期の頃が懐かしくなりつつある。 このシーズンの頃から「小説すばる」の連載も滞りがちで(やっと今月スタートした最新シーズンはファイナルと謳っている)もうネタ切れなのかも? もはや落語ミステリの第一人者の座は愛川晶に奪われた! ※それでもドタバタ好きなので採点は甘め。 |
No.628 | 6点 | 少女探偵は帝都を駆ける- 芦辺拓 | 2010/02/28 05:10 |
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平田鶴子&宇留木昌介シリーズ第二弾。
細々と長期間に渡り書き貯め戦前の大阪を描いた6短編に、時系列的にはシリーズ終了を匂わせる修学旅行編の中編を纏めた連作集。 虚実取り混ぜた登場人物、時代背景に根差した動機、当時の最先端技術を逆手に取るハウダニット、映画・お笑い・探偵小説等への‘愛’に溢れた蘊蓄、冒険活劇の装いと本格ミステリとしての技巧、等々盛り沢山。 一方で、独特の読み辛さと作者のイジワルさが滲み出た表現が相まってもいる(この点のみ、どうにも好きになれない) 作者らしさ全開のバタークリームの如き作品で、好きならば濃厚さを満喫出来る。 あとがきにもある某作(田**文・梅*シリーズ)との被りは、本格ミステリ風とドタバタ風な見せ方の違いを比較でき、かえって楽しめた。 ※余談1 好きな方は「小説宝石」(‘09・12月号)に掲載された平田鶴子・お婆ちゃん探偵の短編もどうぞ! ※余談2 戦前生まれの老人に「きゅうじょうで天皇陛下が云々」との話をされ‘きゅうじょう’って?と疑問だったが、この作品できゅうじょう=宮城(昔の皇居の通称)だと分かりスッキリした。 |
No.627 | 6点 | 殺人喜劇のモダンシティ- 芦辺拓 | 2010/02/27 00:11 |
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昨年出版された「少女探偵帝都を駆ける」の予習として再読した。
平田鶴子&宇留木昌介シリーズ第一弾(もっとも、長編は本作のみで短編集も「少女探偵~」の一冊きり) 主人公達は、森江春策シリーズにもチョイ役で偶に登場するが、時代設定の関係で老人になっている。 冒険活劇風な作風でも独特の読み難さがあり作者が一般受けしない理由が垣間見える。 更に本格探偵小説‘愛’がほとばしり、詰め込みすぎで読書体力を要する。 戦前の大阪と探偵小説に興味を持てないとモタレて消化不良になりかねない。 それでも、好きな人にはフォアグラの様なもので至福の時間を得られる。 好き故に、作中で「犯人は早い時点で登場させる云々」と宣いながら実践し、見事に伏線回収(特にスクラップ)しつつ論理的に詰める展開を楽しめた。 ※余談 それでも読書時間が限られていた約15年前の初読時にはモタレてげんなりした記憶がある。 |
No.626 | 5点 | 警官の証言- ルーパート・ペニー | 2010/02/23 15:18 |
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先に翻訳されていた「甘い毒」以上に坦々と読み難い人物描写が続く前半で、翻訳者の技量より作者の作風に馴染めるかが一番の問題であると解った。
※要注意!! 以下ネタバレします。 第一部・第二部で語り手を替えて仕込んだ“密室トリック”が「読者挑戦」かつ作品の肝だが(幾ら作中で共犯を匂わせても)複数の共犯者無しでは成立せず、しかも怪しい奴の大半が共犯者ではカタルシスは得られない。 それでも、解決編前までの坦々とした展開と違い、読み難さに潜ませた伏線の回収と嘘の見破りから論理的に導く犯人指摘が読ませるだけに惜しい(とは言えトリックの構成上、手直しは無理) 宝探しの解決を付した点は一見親切だが「旧約聖書」に興味がないと(「般若心経」の暗号を一般的西洋人に解かせるイメージで)何ら楽しくない。 |
No.625 | 4点 | うつろな男の死- キャロライン・グレアム | 2010/02/22 09:07 |
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これ以降のバーナビー警部シリーズ原作が翻訳出版されず、ドラマ版が一人歩きしている事に納得する作品。
事件が起こるまでに半分を要しながら登場人物像を書き分け、人間関係を描いている。 人物描写に優れると判断するか、テンポが遅く読み難いと判断するかで作品評価が分かれる。 閉鎖的な田舎町の演劇サークル内でのフーダニットは(ドラマも含め)シリーズらしいが、人間関係を紐解き犯人に到達する為、もう一つ論理的ではない。 更に、聞き間違いなダイイング・メッセージも発音の関係から翻訳(吹替も)では通用しない。 ハッキリ言って、原作の長所と雰囲気をそのままに、約二時間に纏めてテンポの良いドラマ版(字幕)の方が格段に楽しめる。 |
No.624 | 4点 | 蘭の告発- キャロライン・グレアム | 2010/02/20 16:31 |
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AXNミステリーで「バーナビー警部」のドラマ版を観て、原作を読みたくなった。
十年以上のドラマシリーズ継続で、現在のドラマ(ストーリー)はオリジナル。 本作はバーナビー警部シリーズ第一弾で初期にドラマ化されている。 現在まで綿々と続くドラマの展開そのままに、閉鎖的な田舎町での人間関係を地道な聞き込み捜査で紐解き意外な犯人に到達する。 その意味ではドラマとセットで楽しめる。 しかし、プロローグをミスリードに使うやり方、プロローグから共犯を匂わせるも安吾「不連続~」な結末、シェークスピア等に詳しくないと分かりようがない伏線と、原作小説単独では今一つだった。 ドラマが非常に楽しめ期待していただけに残念でもある。 |
No.623 | 5点 | 高木彬光探偵小説選 - 高木彬光 | 2010/02/16 19:07 |
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幾ら好きな作家の本でも値段を考え即時購入せずに判断を保留した。
貴重な資料扱いなのか図書館に出版即時入庫したので早速読んだ。 大前田シリーズの中編「黒魔王」他、単行本未収録短編が16編と随筆・評論が収録された豪華版な本だった。 しかし、収録小説に神津恭介物は1編も無く、埋もれていた事に納得する程度な作品が揃い自腹購入は断念した。 随筆・評論では、私的な本格ミステリ嗜好の原点である作者の論考が読めて非常に嬉しかった。 しかし、トリック創作論での、あわやパクリ容認な主張は、当時の日本探偵小説界のモラルが浮き彫りになっていて残念でもある。 ※マニア以外はわざわざ購入する程の本ではない。 採点は小説4点・評論6点で平均した。 |
No.622 | 6点 | 甘い毒- ルーパート・ペニー | 2010/02/16 12:20 |
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エラリー・クイーン以外の海外・読者挑戦物は、ほぼマイナーで翻訳された作品が少ない。
それでも、蔵書検索で6作品チェックしたので順次読破する予定。 作者は、書いた全8冊が読者挑戦物らしいので全部翻訳される事を期待したい。 第一弾は、バレンタイン・デーに貰ったチョコを食べながらチョコレート毒殺事件がメインのこの作品を読むことにした。 時代背景・英国の風習に翻訳特有の読み難さがあり、加えて状況説明に終始する感のある第一部に、途中で投げ出したくなった。 更に、第二部での毒殺事件も実に地味で坦々としている。 しかし、そこに狙いと「陰の伏線」を潜ませる手際は見事で、読者挑戦物に相応しくロジカルかつシンプルに紐解かれる解決編は鮮やか。 但し、純粋なパズラー過ぎて、ミステリに小説を求める方には合わないと断言出来る。 ※私的には嗜好のド真ん中だが翻訳特有の読み難さと相殺して6点にした。 |
No.621 | 4点 | 利腕- ディック・フランシス | 2010/02/15 21:39 |
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英国ミステリー&競馬界の巨星墜つ!
作者の御冥福をお祈りします。 競馬での不正がテーマだが、現代の日本競馬と当時の英国競馬を取り巻く環境の違いを念頭に置いて読まなければならず、現代の馬券ファンにはとっっき難い。 しかも、日本では主流ではない障害レースが中心なのも馴染めない。 逆に言えば、競馬ファン以外な方々には先入観がなく適している。 探偵役で再登場となるシッド・ハレーは作者の分身に思える。 当時の英国にタイムスリップ出来るだけでも価値があるかもしれない。 シッド・ハレーが脅迫にビビる自分の弱さを乗り越えるハードボイルド的作品でミステリー色は薄い。 |
No.620 | 4点 | 007/007は二度死ぬ- イアン・フレミング | 2010/02/15 21:08 |
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物置の整理をしたら偶々ビデオ録画してあった「この作品」の映画と本がセットで出てきた。
ショーン・コネリーに浜美枝、更には丹波哲郎大先生まで登場する懐かしさだった。 日本が舞台だからわざわざ録画したのだろうが、当時の記憶は定かでない。 原作はそれなりのスパイ物だが、この作品の頃には映画化を前提に書いているのだろう。 それを考えればアクションや当時としてはお色気満載な映画を観た方が断然良い。 |
No.619 | 4点 | 妖精島の殺人- 山口芳宏 | 2010/02/15 15:23 |
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講談社ノベルスでの新シリーズは「~の大冒険」シリーズで活躍する探偵・真野原の孫が探偵役を務め、上・下巻に渡る「現代・本格おとぎ話」
上巻での幻想的な謎、下巻早々からの連続復讐殺人、更には閉ざされた孤島に造られた城での冒険を絡めテンポ良く楽しく読み進む。 解決編も、大技物理トリックから一気に紐解かれる。 ※要注意!! ここから他作品にも言及してネタバレします。 しかし、作品の肝である大技トリックの基本構造が東川篤哉「館島」の丸パクリで、しかもその事を解決編前に察せてしまう。 また、共犯者を次々に暴く結末の捻りもパッとしない。 上巻でのワクワク感が下巻で萎む残念な作品だった。 作者の「本格おとぎ話」な作風は好きなので次作に期待したい。 |
No.618 | 7点 | 田舎の刑事の闘病記- 滝田務雄 | 2010/02/14 10:56 |
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田舎の所轄を舞台にした脱力系ユーモアミステリ・シリーズ第二弾で全六話の連作短編集。
前作以上に一風変わった登場人物達のキャラが立ち、ドタバタに巧妙にまぶした伏線を回収しながらロジカルに収束させる手際が洗練されてきた。 第一話では、双子絡みな事件の定番的処理も楽しい。 取り分け表題作は「陰の伏線」とその気付きから導かれる論理的帰結は見事で、事件のチープさとの対比も鮮やかに脱力を齎す。 「肩の凝らない」を第一義にしながらも、気付き・トリック・ロジックと三拍子揃い、全話水準以上な本格ミステリに仕上がり侮れない。 シリーズ長編も執筆中らしいので、更なる進化を期待したい。 |
No.617 | 4点 | Wの悲劇- 夏樹静子 | 2010/02/13 22:33 |
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倒叙から一転して裏切り者探しになる展開が肝の作品。
しかし、根本的に時刻表アリバイトリック(が鉄オタなら即解決レベルな作品多数)と同様で、法の盲点を突いた作品も法律家には即解決だろうとの思いが付きまとう難点がある。 その程度な作品なので、どんなアレンジで映像化しても安っぽい二時間ドラマの領域を越えられない。 逆に言えば、この程度の作品はドンドン二時間ドラマ化してくれればテレビを観るだけで済ませられて楽チン。 メディアミックス大歓迎だが、どの作品も出来うる限り原作に沿っての映像化を望む。 |