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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1985 5点 寝台特急出雲 殺意の山陰路- 草川隆 2018/03/21 22:08
(ネタバレなしです) 1987年の発表時は「寝台特急出雲殺人事件」 というタイトルだった本格派推理小説です。これまでに発表されたトラベル・ミステリーでは(無理矢理感はありますけど)密室の謎を絡めることで作品個性を出そうとしていましたが、本書では密室は登場せずアリバイ崩しというオーソドックスな謎解きになっています。登場人物も多くなくプロットも単純で犯人は比較的簡単に絞り込まれるし、アリバイトリックもそれほど凝ったものではありません。謎解きの底が浅いといえば浅いのですが、クロフツや鮎川哲也などのアリバイ崩し本格派と比べるとテンポ良く読める作品ではあります。

No.1984 6点 ピカデリー・パズル- ファーガス・ヒューム 2018/03/18 22:36
(ネタバレなしです) 1889年に発表された意欲作ながら「二輪馬車の秘密」(1886年)の成功には遠く及びませんでした。論創社版の巻末解説では本書を「純度の高い推理小説」として評価しています。なるほどロマンスやメロドラマの要素もありますが「二輪馬車の秘密」やウィルキー・コリンズの「月長石」(1868年)やアンナ・キャサリン・グリーンの「リーヴェンワース事件」(1878年)に比べるとその要素は抑えられ、謎解きの比重が増えたように感じられるところは当時のミステリーとしては進歩的と言えるかもしれません。新たな証言によって事件の様相が二転三転するプロットはなかなかの読み応えです。とはいえ結末が謎解き伏線を回収する推理による解決でないところは本格派推理小説としてまだまだ発展途上のレベルだと思います。

No.1983 5点 まだらの蛇の殺人- 阿井渉介 2018/03/17 05:37
(ネタバレなしです) 10作から成る列車シリーズを終了させた作者が新たに発表したのは6作の本格派推理小説から成る警視庁捜査一課事件簿シリーズです。随分と堅苦しいシリーズ名ですが活躍しているのは堀刑事と菱谷刑事のコンビで、組織としての警察描写はほとんどありません。1994年発表の本書がシリーズ第1作で、列車シリーズのスケールの大きさはありませんがコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの某名作を連想させる「まだらの蛇」というダイイングメッセージ、毒蛇の毒による連続殺人、人間消失など謎を沢山盛り込んでいるのはこの作者らしいです。事件の中心には大地主の一族がいるのですが、やたら大人数の上に個々の性格描写が弱いので誰が誰だか頭の整理が大変でした。そのため動機の謎解きにも配慮はしているのですが人間ドラマとして訴えるものが少なく感じました。

No.1982 5点 クイーン警視自身の事件- エラリイ・クイーン 2018/03/11 06:52
(ネタバレなしです) 息子のエラリー・クイーンの名推理の影で無実の人間を犯人と疑ったり全く犯人の見当がつかなかったりといいところのほとんどなかった父親のリチャード・クイーンに活躍の場を与えた1956年発表のシリーズ番外編で、エラリー・クイーンは全く活躍しません。内容的にもかなりの異色作で、殺される被害者が赤ん坊というのは私がこれまで読んだミステリーの中でもちょっと記憶にありません。タイトルに警視を使っていますがリチャードは警察を引退した身です。経験はあってもアマチュア探偵の立場のリチャードは赤ん坊の世話をしていた看護婦のジェシイ・シャーウッドとコンビを組んでの捜査になります。探偵役がエラリーなら自然とホームズ&ワトソンスタイルに落ち着くのですが、本書での2人はそれぞれ持ち味を発揮してほぼ対等の立場です。推理や情報を互いに隠すことなく共有していて非常にわかりやすいプロットですが、そのためか真相を最後まで隠すために決め手の証拠を最後の瞬間まで隠すという手段をとったため本格派推理小説としては読者に対してフェアと言い難いのがちょっと残念です。

No.1981 6点 ハンサムな狙撃兵- シャルル・エクスブライヤ 2018/03/08 11:05
(ネタバレなしです) 1962年発表のロメオ・タルキニーニシリーズ第2作のユーモア本格派推理小説です。前作の「チューインガムとスパゲッティ」(1960年)ではアメリカ人の目を通してイタリア人(タルキニーニ)のエキセントリックぶりを強調していましたが、本書では同じイタリア人ながらトリノ人(ツァンポール刑事)にとってヴェローナ人(タルキニーニ)がいかに変人に見えるかを面白おかしく描いています。tider-tigerさんがご講評で「ミステリを枠としたユーモア小説にして愛の賛歌」と評価されていますがなるほどと納得です。犯罪の謎解きはやってはいますがほとんど感覚的にこの容疑者は犯人ではないと決めつけていたりして、まともな捜査を期待する読者はあきれてしまうかも。タルキニーニは探偵役ではありますが愛の伝道師の方で目立ってます。ツァンポールは結構辟易してますが、タルキニーニは堂々と愛を語りまくります。

No.1980 4点 雪の上の血- ヒルダ・ローレンス 2018/03/03 22:18
(ネタバレなしです) ミステリー作品は1940年代の短い期間に4つの長編と1つの中編集を発表しただけの米国の女性作家ヒルダ・ローレンス(1906-1976)。その作風はサスペンス濃厚な本格派推理小説のようです。1944年発表のマーク・イーストシリーズ第1作の本書がデビュー作です。降り積もった雪のことを「母なる自然の毛布」と表現するなど光る描写もあるのですが、世界推理小説全集版が半世紀以上前の古い翻訳のためか非常に読みにくく感じました。私立探偵であるマークが秘書として雇われた家では人々が何かを恐れている様子で、やがて1人が謎の死を遂げます。その後も色々な事件が起きるプロットですが、時に誰が話しているのかわからないほど読みにくくてサスペンスが盛り上がりません。最後は容疑者全員を集めてのマークの謎解きがありますが複雑な人間関係の説明が中心で、犯人にたどり着く推理としては物足りませんでした。

No.1979 6点 死者の贈物- 中町信 2018/02/26 08:34
(ネタバレなしです) 1999年発表の和南城夫妻シリーズ第3作の本格派推理小説です。殺されそうになった女性は一命を取りとめ、殺そうとした男性は自殺するという無理心中未遂らしき事件が発生します。どこか不自然感もあるものの他に有力な意見が出るわけでもなく一応解決したかと思われますが、その後も事件関係者たちが次々と殺されたり自殺のような死を遂げます。残った容疑者ももちろんですが死者も怪しい行動をとったりしているので謎は複雑化します。密室ありアリバイ崩しありダイイングメッセージありとこの作者らしいサービスぶりで、(ネタバレ防止のため詳細を書きませんが)珍しい手掛かりが印象に残りました。犯人当てとしては不満を抱く読者もいそうな設定ですが、その不満をできるだけ解消するような配慮をしているプロットです。犯人が証拠に気づきながらそれを隠滅せずに証拠に小細工を施すなどはいささかやり過ぎにも感じますが、まあそれも作者の過剰サービスでしょうか(笑)。タイトルの由来が終盤で明かされるのも効果的です。

No.1978 4点 フードワゴン・ミステリー 死を呼ぶカニグラタン- ペニー・パイク 2018/02/24 02:33
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ペニー・ワーナー(1947年生まれ)がペニー・パイク名義で2014年に発表したフードフェスティバル・ミステリーシリーズ第1作のコージー派ミステリーです。主人公は新聞社から解雇されたグルメ記事担当(但し自身は料理が苦手の模様)のダーシー・バーネットで、フードワゴンを経営する叔母の手伝いをすることになりますが叔母の同業者が殺される事件に巻き込まれます。自分に不利な言動でどんどん容疑を深めてしまう家族に頭の痛いダーシーですがそういうご本人も決してしっかり者ではなく、ひやひやシーンには事欠きません。犯人から「素人とはいえつくづく無能な探偵」と馬鹿にされる始末ですが、その犯人もダーシー言うところの「いくつかのミス」を犯している模様。そのミスをちゃんと読者に説明してくれれば謎解き本格派推理小説として一本芯が通ったのですけど。

No.1977 5点 黒影の館- 篠田真由美 2018/02/21 09:59
(ネタバレなしです) 2009年発表の桜井京介シリーズ第14作です。過去のシリーズ作品でもシリーズキャラクターである蒼や深春と桜井京介の出会いを描いた作品がありましたけど、全15作のシリーズの大詰めとなる本書でまさか神代教授と桜井京介の出会いの物語を読むことになろうとは意表を突かれました。シリーズ前作の「一角獣の繭」(2007年)の思わせぶりの幕切れがどのように本書で進展するのかを期待していた読者は待ちぼうけを食わされます(笑)。作中時代は1980年、まだ教授でなかった神代が殺人容疑者になってしまい、かくまわれた(軟禁された?)館で浮世離れした体験をします。「あとがき」で作者はこのシリーズは本格派推理小説のシリーズとしてスタートしたがやがて本格派離れするようになったとコメントしていますけど、本書もいくつかの謎が最後に解かれるプロットではありますが巻き込まれ型サスペンス小説だと思います。本格派好きの私には好みの作風ではありませんが、講談社文庫版で600ページを超す大作ながら巧妙なストーリーテリングで退屈せずに読めました。

No.1976 5点 リトモア少年誘拐- ヘンリー・ウエイド 2018/02/17 22:47
(ネタバレなしです) ヘンリー・ウエイド(1887-1969)最後の作品となった1957年発表の本書は誘拐事件を扱った珍しい本格派推理小説です。少年が誘拐され、家族の不安や慎重に行動せざるを得ない警察を丁寧に描いていますが、この作者の手堅い文章だと誘拐ミステリーとしてはややサスペンスが不足気味に感じます。少年が無事戻るのか最悪の結果になるかはここでは紹介しませんが中盤で一応の決着を見せます。もっともその後の警察の捜査も依然として石橋を叩くように慎重です。まあ容疑者たちを片っ端からぎゅうぎゅう締め上げるなんてこの作者の作風では想像も出来ませんけど。登場人物リストに警察官が7人もいて何を考えているかも読者に対してかなりの部分をオープンにしているので意外性はありません。犯罪の謎解きと関係のない最後のオチが1番意外だったかも(笑)。

No.1975 5点 夜間病棟- ミニオン・G・エバハート 2018/02/15 08:53
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ミニオン・G・エバハート(1899-1996)はメアリー・ロバーツ・ラインハートと共にHIBK(「もしも知ってさえいれば」)派のサスペンス小説の巨匠として名高く、作品数も60作近くあります。1929年発表の本書がデビュー作で、7作書かれたサラ・キート(本書ではセント・アン病院の看護婦長)シリーズ第1作です。本格派推理小説としての謎解きも意識している作品で、盗まれたラジウム、エーテルのかおり、注射器、カフスボタンなど様々な小道具を謎づくりに使っています。しかし論創社版の巻末解説で評価されているようにプロットがぎこちなくて読みづらいです。サスペンス小説としての怖さや不気味さといった雰囲気よりも読みにくさの方が上回ってしまった感があります。謎解き説明も回りくどくてわかりにくいです。

No.1974 6点 霧の島のかがり火- メアリー・スチュアート 2018/02/12 22:14
(ネタバレなしです) 英国の女性作家メアリー・スチュアート(1916-2014)は1955年に作家デビューして約40年間活躍しましたが書かれた作品は約20作と多くはありません。しかしロマンチック・サスペンスと歴史ファンタジーの2つのジャンルにおいて重要作家と評価されているようです。ミステリーに絞れば前者ということになりますが1990年にCWA(英国推理作家協会)が人気投票した際にはロマンチック・サスペンス部門の上位10作でスチュアート作品が3作も選ばれました。さて本書は1956年発表の長編第2作であり、舞台はスコットランドのスカイ島です(トラベルミステリー要素もスチュアートの特徴です)。既に地元の少女が何者かに殺されている設定ではありますが、主人公がスカイ島に上陸してからの序盤の展開は少しもたつき気味です。しかし旅行客が登山に出かけたまま戻らない事件が起きてからサスペンスが増していきます。暴雨風、夜の暗闇、霧といった自然現象の使い分けも巧妙です。犯人を示す手掛かりもちゃんと用意されていてユニークな動機(単なる殺人願望ではない)が印象的ですが、やはり本格派推理小説よりはサスペンス小説として評価されるべき作品でしょう。

No.1973 5点 過去、現在、そして殺人- ヒュー・ペンティコースト 2018/02/12 21:45
(ネタバレなしです) 16の長編が書かれたジュリアン・クィストシリーズの1982年発表の第12作です。夜中にクィストに電話をかけてきたのは友人のダンで、彼の恋人ジェリが殺され、犯人を探して殺してやると告げて電話を切ります。ダンが見当違いの人間を殺しかねないと心配するクィストはダンと犯人探しに乗り出します。生々しい描写はありませんがジェリは殴られ、性的暴行を加えられ、刺され、そして頭部に銃弾を撃ち込まれるという残虐極まりない仕打ちを受けています。事件関係者の1人が同じ拳銃の銃弾で瀕死の重傷を負わされ、さらには6年前にジェリの故郷でジェリの両親も同じ凶器で襲われていたことがわかり(母親は死亡、父親は身体障害者になります)、事件は混迷の度合いが深まります。サスペンス豊かな展開で読ませる作品ですがハヤカワポケットブック版の裏表紙の粗筋紹介で「本格推理」とあるのは首肯できません(ハードボイルドに分類できると思います)。凶悪性がエスカレートする犯行の前にクィストが犯人の心当たりが全くつかないまま終盤を迎えたかと思うとあまりに突然の解決が待っています(読者は当てやすいかも)。そこには推理による謎解き要素はありません。

No.1972 5点 三十九号室の女- 森下雨村 2018/02/10 22:36
(ネタバレなしです) 代表作の一つと評価される1933年発表の本格派推理小説です。東京駅で呼び出しを受けた弁護士の須藤(主人公の1人)が電話に出ると女の悲鳴が聞こえて電話は切れてしまいます。電話をかけた場所が東京ホテルとわかり駆けつけるとそこの三十九号室で女の死体が発見されます。須藤は新聞記者の幡谷(もう1人の主人公)と一緒に謎解きに取り組みます。物語のテンポが早く、謎が深まる展開もなかなか魅力的です。人間関係もどんどん複雑化するので登場人物リストを作って整理した方がいいかもしれません。ただ本格派といっても論理的に整理された推理説明を期待してはいけません。幡谷が最終章で「一つの仮定の上に立った僕の直感的な解釈に過ぎない」と語っているレベルなのはこの時代の国内ミステリーとしては仕方ないのかもしれません。

No.1971 5点 門番の飼猫- E・S・ガードナー 2018/02/10 22:08
(ネタバレなしです) 1935年発表のペリー・メイスンシリーズ第7作ですが充実作の多い初期作品の中ではちょっと劣るように個人的には思います。それでも複雑なプロットとサスペンス豊かな展開の組み合わせはまずまず楽しめます。第15章でメイスンが大胆な工作を次々に準備し、これは後でどのような劇的効果を挙げるのかとわくわくさせます。悪徳弁護士が登場したり法廷場面では思わぬ人物が証人になるなど本書ならではの見せ場もいくつかあります。しかし本格派推理小説としての謎解きは真相をひねり過ぎて犯人当てとしては納得しづらいものがあります(気の利いた手掛かりは印象的ですが)。なお最後は夢遊病者が眠ったまま殺人を犯したら犯罪責任は成立するかという謎を提示してシリーズ次作の「夢遊病者の姪」(1936年)が予告されて締めくくられます。

No.1970 5点 死体は沈黙しない- キャサリン・エアード 2018/02/10 15:15
(ネタバレなしです) 1979年発表のスローン警部シリーズ第8作の本格派推理小説です。定年間近の化学教師(女性)の糖尿病による(と思われる)死、銀行口座には謎の大金があり、さらに行方不明の彼女の飼い犬、逃亡する彼女の甥など色々な謎をばら撒いていますがこの作者らしく展開は地味です。地味といっても例えばF・W・クロフツの地味さとも異なります。クロフツは徒労や失敗に終わった捜査までも緻密に描写しますが本書ではむしろ捜査描写はしばしば省略され、リーエス署長にスローンが随時簡潔に捜査結果のみ報告しています。結構大事な証拠がさらりと語られたりするので油断なりません。動機がかなり持って回ったようなところがありますがこれは後出し気味に説明されており、読者が事前に予想するのは困難でしょう。

No.1969 5点 孤独の罠- 日影丈吉 2018/02/08 23:22
(ネタバレなしです) 1963年発表の本書は「女の家」(1963年)と同じく文学志向を強めた作品です。「冬」に始まり「秋」で終わる4章構成をとりますが「冬」の章で妻と生後6ヶ月の子供を相次いで失った主人公の描写は非常に読者の共感を得やすいと思います。2人の死には犯罪性はなく、この章の終盤で子供の火葬の後に遺骨が2人分になっていたという不思議な事件が起きるまでミステリーらしさがありません。「春」の章になっても謎解きは進まず妹の結婚願望に対する主人公の複雑な思いが描かれ、またもミステリーから離脱するような展開となります(この章の終盤で新たな事件が起きますが)。主人公が推理する場面もありますが基本的には探偵役とは言えないでしょう。最後には謎は解かれるのですが、本格派推理小説でありながら謎解きの面白さを極力抑えることを目指したようなプロットは確かに文学風ではありますが読者の好き嫌いが分かれそうです。

No.1968 5点 邪悪なグリーン- アーロン&シャーロット・エルキンズ 2018/02/07 11:50
(ネタバレなしです) 1997年発表のリー・オフステッドシリーズ第3作です。今回のリーはプロ競技には参加せず(できないというのが正確)、アマチュアゴルファー相手のインストラクターという役割ですがその直接描写は多くなく、当然ながら登場人物もほとんどがゴルフ関係者ではないのでゴルフミステリーらしさはこれまでのシリーズ作品で最も希薄です。登場人物たちと被害者の秘密の関係が次々に明らかになる展開はそれなりに盛り上がりますが、ちょっと好都合過ぎる設定という気もします。終盤に犯人の不注意な発言にリーが気づくのですがこの発言では決め手として弱く、後は犯人が勝手に暴走しての解決で推理によって謎解き伏線を回収する解決になっていないのが本格派推理小説好きの私としては不満です。

No.1967 5点 空白の逆転殺人- 筑波耕一郎 2018/02/03 14:56
(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説です。3ヶ月前に失踪した女性から謎の電話がかかってくるところが幕開けです。失踪の1ヶ月前には彼女の妹が湖で自殺、さらに妹の恋人が密室で自殺しており最初からややこしい状況です。おまけに雪の上の足跡のない殺人まで起こります。文章は読みやすいですが複数の人間が捜査に参加するのでプロットはますますややこしいです。犯人の正体は早い段階で見えてきますが多くの謎が最終章まで残ります。トリックは小粒な上にこんなに手間をかける必要性があるのか疑問です。これまで作品内容と全く関連のないタイトルをつける傾向の多かった作者ですが本書に関しては内容に合致したタイトルで、これは進歩とみなしていいのかな(笑)。

No.1966 5点 青春迷路殺人事件- 梶龍雄 2018/02/02 22:53
(ネタバレなしです) 1985年発表の旧制高校シリーズ第4作の本格派推理小説でシリーズ最終作となりました。過去のシリーズ舞台が三高、二高、四高と続き、満を持しての一高生の登場ですが三高生も一緒に活躍するのが本書の特徴です(但し学校の直接描写はほとんどありません)。本書の作中時代は1936年で、「リア王密室に死す」(1982年)(こちらの作中時代は1948年)に登場する三高生とは共通する人物はいません。両校のアマチュア探偵が謎解きに挑む2人探偵のスタイルで、競争を期待する周辺人物もいますが主人公2人はそういう意識は全くなく互いに情報を公開し協力しながら捜査します。三高の英彦がモダンな(モダーンとも表記)東京の文化風俗に気圧される描写が印象的です(京都の街灯はガス灯なのに東京(銀座)は電灯という説明があります)。細かいアリバイ調査の地味な展開ですがトリックにはかなり大胆なアイデアが採用されています。容疑者の描写があっさり気味なので動機に関する丁寧な説明が後付けに感じられてしまうのが惜しまれます。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)