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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2813件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1933 5点 絶版殺人事件- ピエール・ヴェリー 2017/11/04 22:29
(ネタバレなしです) 森英俊がフランス最良のミステリー作家と評価したピエール・ヴェリー(1900-1960)は大人になっても夢やロマンを追い続けた作家で、30冊ほど書いたミステリーに対しても「詩的でユーモアに富んだものにすること」を目指していたそうです。1929年発表のデビュー作は非ミステリー作品ですがミステリーデビュー作は1930年発表の本格派推理小説である本書です。船上での毒殺事件は一見単純で、第1章の第9部で警察が挙げた仮説ぐらいしか可能性がなさそうに思えますがなかなか大胆な真相を用意しています。謎解き伏線もそれなりに用意してあります。後半になるともつれにもつれる展開となりますが、前半の事件と後半の事件の関連性が思ったより弱いのが惜しいです。これなら2つの作品に分けてもよかったのでは。

No.1932 5点 無人島の首なし死体- 藤原宰太郎 2017/11/04 21:56
(ネタバレなしです) 1988年発表の久我京介シリーズ第2作の本格派推理小説です。この作者ですと古今のミステリーのネタバレが気になるところですが果たして作中でネタバレの大盤振る舞い(笑)。首なし死体はエラリー・クイーンの「エジプト十字架の謎」(1932年)にクレイトン・ロースンの「首のない女」(1940年)、アリバイ・トリックはアガサ・クリスティーの「シタフォードの謎」(1931年)にロイ・ウインザーの「死体が歩いた」(1974年)、密室トリックは斎藤栄の「国会議事堂殺人事件」(1978年)がネタバレされていますのでまだ未読の方はお覚悟を。トリックが小粒なのはまあ仕方がないところでしょうが、手掛かりに基づく推理というよりは思いつきが当たったレベルの謎解きにしか感じられないのが少々不満です。

No.1931 5点 殺意のバックラッシュ- ポーラ・ゴズリング 2017/11/04 01:13
(ネタバレなしです) 1989年発表のストライカーシリーズ第2作の警察小説です。連続警官殺し(序盤で早々と4人殺されます)の犯人探しプロットです。冒頭で犯人が自分の賢さを自画自賛しているような場面がありますが、殺人手段のほとんどが遠距離からの狙撃ということでは知能犯らしさが感じられません。姿の見えない犯人相手にストライカーたちの捜査は後手に回ることが多く、特に肝心のストライカーのミスが目立つありさまで他の捜査官の方がお手柄ではという気がします。ハヤカワ文庫版の巻末解説ではこのシリーズを「クラシックパズラーに近い」と評価していますが本書に関しては、登場人物の1人が「確信は正しかった。だが、間違っていた可能性もある」と述懐しているように丁寧な推理で犯人を絞り込む本格派推理小説の味わいは少なく、作者都合でいくらでも(他に)犯人を仕立てられるような気がします。サスペンスがなかなかの切れ味でどんでん返しも上手く嵌っています。

No.1930 6点 コール- 結城恭介 2017/10/29 17:13
(ネタバレなしです) 1995年発表の雷門京一郎シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「殺人投影図」(1994年)と比べるとユーモアはほとんど見られず、理系要素が格段に強くなります。第2章で登場人物の1人が(当時の)ハイテクの産物として「留守番電話、ファクス、ポケットベル、携帯電話、PHS、パソコン通信、インターネット」を語っていますが、本書に登場するフォンフリーカと名乗る大胆な知能犯がこれらを駆使したトリックの数々で京一郎や警察をきりきり舞いさせます。京一郎以上に「頭がクラシック」な私には完全には理解できませんがトリック説明はとても丁寧で、その中では携帯電話で話している被害者を飛び降り自殺させるトリックがデジタルトリックとアナログトリックを組み合わせたもので印象的です。トリックだけでなく犯人当ての謎解きにもきちんと配慮されています。本書と同年発表で、ネット社会が産み出した犯罪を描いた本格派推理小説の栗本薫の「仮面舞踏会」と読み比べるのも一興かもしれません。

No.1929 6点 とりすました被告- E・S・ガードナー 2017/10/28 00:12
(ネタバレなしです) 1956年発表のペリー・メイスンシリーズ第50作の本格派推理小説です。麻酔薬を使った治療を受けていた女性が何と殺人を犯したことを告白するという冒頭がなかなか刺激的です。告白は真実なのか、真実だとしたらこの告白は法廷で証拠になるのかというだけでも興味深いですがこの作者はまだまだひねりを加えます。ビン詰めにして湖に捨てられた毒薬、有能な秘書デラの意外なおせっかい、被害者と被告の意外な関係などが複雑に絡み合いますが、これでもメイスンシリーズの中では地味なプロットです。それでも嘘(であることは読者には明白)の証言でメイスンが追い詰められる法廷場面では緊張感が頂点に達します。ここぞとばかりにかさにかかる宿敵ハミルトン・バーガー検事に対してメイスンが被告人の権利を放棄するかのような勝負手を打ち、一気にどんでん返しの謎解きが繰り広げられます。

No.1928 5点 偽りの墳墓- 鮎川哲也 2017/10/25 12:23
(ネタバレなしです) 1962年発表の短編版(私は未読です)を長編化して1963年に出版された鬼貫警部シリーズ第7作の本格派推理小説です。時刻表や地図が登場するのはこのシリーズらしいのですが単なるアリバイ崩しプロットではありません。重要そうに思えない証拠品で容疑者が顔色を変えたのはなぜかとか、嘘らしい証言だが何のためにそんな嘘をつくのかわからないとか、結構ひねりのある謎が用意されています。しかしりゅうさんのご講評でも指摘されているように、第一の事件の謎解きと第二の事件の謎解きのつながりが弱く、どこか間延びしたプロットに感じられるのは長編化の問題点かもしれません。また鬼貫警部の登場場面が最後の2章だけの上に、斎藤警部さんのご講評で指摘されているようにアリバイトリック説明のかなりの部分が犯人自白によるものという締めくくりも本格派としてはどこか消化不良に感じられました。

No.1927 4点 ヴォスパー号の遭難- F・W・クロフツ 2017/10/22 13:55
(ネタバレなしです) ジュリアン・シモンズが評論集「ブラッディ・マーダー」(1992年)で「フレンチ警部物のうちでは秀作に属する」と評価した、1936年発表のフレンチシリーズ第14作の本格派推理小説です。序盤は好調です。大西洋を航行中の貨物船ジェイン・ヴォスパー号の船倉で爆発が起き、船員たちの奮闘むなしく沈没してしまう第1章はなかなか劇的です。その後海事審問が開かれ、事故ではなく何者かによる犯罪の可能性が濃厚になり保険会社が探偵を使って調査を開始しますが、その探偵が行方不明になってフレンチの登場になるまでの展開にもよどみがありません。しかしフレンチが失踪者の足どりを追跡する、文字通り「足の探偵」らしさを発揮すると物語の流れは一気にスピードダウンします。捜査が順風満帆でないところがリアリティ重視派の読者にはたまらないのでしょうけど個人的には結構辛かったです。第14章でフレンチが「つぎの三日間はこの事件にかかわって以来もっともつまらない、もっともみのりの薄い日々だった」と述懐してますが、いやいやそこに至るまでも十分じりじりさせられましたよ(笑)。フレンチが最初から「悪党ども」と呼んでいるように複数犯による事件の可能性が高いことも本格派の謎解きとしては好き嫌いが分かれそうです。

No.1926 6点 葬送行進曲殺人事件- 由良三郎 2017/10/21 21:52
(ネタバレなしです) 1985年発表の本書はタイトルから結城鉄平シリーズを期待する読者もいるかもしれませんが非シリーズの本格派推理小説で、音楽に関する描写もありません。とはいっても名探偵役の飄々としたキャラクターは結城鉄平に通じるところがありますが。最初の4章で企業秘密が漏洩し、金庫の中から指紋が発見されたことから守衛の逮捕、そして判決が出たところで一段落します。5章からは舞台ががらりと変わり、葬儀場で棺の中から頭が2つと胴体が1つ、押入れから胴体が1つ発見されるという怪事件の謎解きが始まります。両方の事件に関係する人物がいたことから2つの事件の謎解きは融合し、容疑も転々とします。トリックもありますが一番印象に残るのは犯人の計画の緻密さでした。あまりに細部までこだわり過ぎて間抜けな警察を上手くミスリードできなかったところまで丁寧に謎解き説明されます。

No.1925 6点 雪と毒杯- エリス・ピーターズ 2017/10/19 13:21
(ネタバレなしです) 1960年発表のシリーズ探偵が登場しない本格派推理小説です。往年のオペラ名歌手が死去するのを看取った遺産関係者たちが帰途で飛行機事故に会い、雪の山村にたどり着きますがその中の1人が毒殺されます。警察の介入はかなり後半になってからで、それまでは容疑者同士が謎解きに取り組むプロットです。最後のアクション場面以外は派手な場面はありませんが思わぬ証言で緊張感が一気に高まるなどサスペンスは十分あり、人物描写にも配慮されていてなかなかの良作です。後年の修道士カドフェルシリーズの謎解きに物足りなさを感じる読者にもお勧めです。

No.1924 4点 牧場に消える- 佐野洋 2017/10/10 16:11
(ネタバレなしです) 1975年発表の本格派推理小説とサスペンス小説のジャンルミックスタイプですが評価に悩む作品でした。ほれ込んだ競走馬の生涯をフィルムに収めようとしている主人公のフィルムが未使用のフィルムとすり返られる事件、そしてその競走馬を育てている牧場を調査していたらしい記者の失踪事件、この2つを中心にした謎解きプロットですがミステリーの謎としては魅力に欠けます。D・M・ディヴァインの作品のように地味な謎でも読み応えのある本格派はあるのですが、本書は残念ながらその域に達していないように思います。動機、トリック、人間ドラマなどそれぞれの要素で最低限の仕事はしていますが、逆に最低限以上のものを感じられず個人的には退屈でした。

No.1923 6点 死者はふたたび- アメリア・レイノルズ・ロング 2017/10/05 10:01
(ネタバレなしです) シリーズ探偵の登場しない、1949年発表の本格派推理小説です。論創社版の巻末解説で「ハードボイルド風の異色作」と紹介されていますが、周到に用意された謎解き伏線に推理に次ぐ推理と本格派推理小説としての基本はしっかりしています。確かに古典的ハードボイルド作品に登場しそうな私立探偵を主人公にしていて「探偵が何者かに後頭部を殴られて気絶」する常套的な場面までありますけど。死んだと思われた夫が生きていたらしいが果たして本物なのか、という謎で始まるプロットは地味過ぎの感もありますが妻が本物だと証言しても本物か偽者か容易には決着しません。本物なら今までどうしていたのか、偽者ならどんな目的があるのか、偽者なら妻は巧妙に騙されたのかそれとも偽者に脅されて偽証したのかそれとも偽者と知りつつ自ら嘘をついているのかと謎はどんどん膨れ上がり、殺人が中盤まで起きない展開であっても退屈しませんでした。

No.1922 5点 QED 諏訪の神霊- 高田崇史 2017/10/04 19:01
(ネタバレなしです) 2008年発表の桑原崇シリーズの第14作の本格派推理小説です。このシリーズは歴史ミステリーと評価できますが史実の謎解き、文学作品の謎解き、伝説の謎解きなどなかなかバラエティーに富んでおり、後期作品になると神事の謎解きが増えてきます。本書は諏訪大社と祭り(御柱祭や御頭祭)に関する謎解きがメインで、現実の殺人事件(しかも連続殺人事件)の謎解きは扱いが小さいのですがそれもこのシリーズならですね。崇以外に諏訪の人間も議論に加わってなかなか盛り上がりますが崇をもってしてもかなりの難題だったようです(そもそも私は何が謎なのかさえも理解できてないのですが)。しかしその謎が解けると同時に現実の事件も一気に解明されるという展開がなかなか印象的です。俗人の私は十分に理解も納得もできなかったのですが、神事の謎解きと事件の謎解きの絡ませ方は巧妙だと思います。ところで酒を飲みながらの議論場面が多いのですが、最初こそ日本酒でしたが途中からリキュールやカクテルなど洋酒系に走っているのは和風の謎解きにそぐわないと思うのは考え過ぎでしょうか?(笑)

No.1921 6点 隅の老人 完全版- バロネス・オルツィ 2017/09/30 23:29
(ネタバレなしです) シリーズ全作品(38短編)を収めて国内で独自に出版された作品社版の「隅の老人」がありますが、ここで感想を書くのは英国で1909年に出版された第2短編集です。このシリーズはデビュー作である「フェンチャーチ街駅の謎」(1901年)から最後の事件を扱った「パーシー街の怪死」(1901年)までの「ロンドンの謎」6作が雑誌連載され、好評だったためか続けて新シリーズとして「グラスゴーの謎」(1901年)から「バーミンガムの謎」(1902年)までの「大都市の謎」が7作発表されましたが、第2短編集はこの初期作品を(なぜか「グラスゴーの謎」を除いて)12作収めています。当時はコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの世界的成功を受けて多くの作家が活躍していましたが、その中でこのシリーズは名前のない探偵役を(実はある作品で正体についてのヒントがありますが)採用したことが特徴です。また事件の紹介から真相説明まで喫茶店の片隅での探偵役の語りに終始しているというパターンのため、安楽椅子探偵の先駆けと紹介されたこともあります。もっとも直接描写はないものの結構足を使って情報収集していることから、今では安楽椅子探偵としては評価されないようですけど。事件の発生から捜査の進展、いよいよ犯人特定かと思わせて強力な反証により迷宮化(最初のどんでん返し)、そこで隅の老人の推理による更なるどんでん返しというプロットが多く、当時としては非常に緻密な本格派推理小説だと思います。ただ構成がしっかりしているという強みは一方で類似パターンに陥りやすい弱点でもあります。動きの描写がほとんどないのでサスペンスは求めようもなく、何作も続けて読むと少々もたれてくるのも確か。しかし作品間の出来栄えにバラツキは少なく、個人的な好みは「地下鉄怪死事件」と「ダブリンの謎」ですが他もなかなか読ませます。

No.1920 4点 ぼくらの世界- 栗本薫 2017/09/23 23:36
(ネタバレなしです) 1984年発表の「ぼくらの」三部作の最終作となった本格派推理小説です。「ぼくらの気持」(1979年)から5年の空白がありますが主人公の栗本薫の登場するシリーズ作品としてはこの間に秘境冒険小説の「魔境遊撃隊」(1984年)があります。軽妙な雰囲気の本格派という点では他の三部作作品と共通してはいますが主人公の栗本薫以外の2人の仲間、石森信と加藤泰彦がほとんど目立たずこれでは「ぼくらの世界」というより「ぼくの世界」ではないでしょうか。そして過去2作品にみなぎっていた情熱のようなものが失われているのも残念です。エラリー・クイーン作品のネタバレを謎解きに絡めているのも読者の評価が分かれそうに思います。

No.1919 5点 忘却のパズル- アリス・ラプラント 2017/09/23 12:43
(ネタバレなしです) アメリカのアリス・ラプラントが2011年に発表した小説デビュー作の本書はミステリーとして評価されただけでなく、医療や健康を扱った作品に与えられるウエルカム・ブック・プライズを受賞したことが特色でもあります。主人公のジェニファーを認知症患者に設定し、創元推理文庫版で550ページ近い物語は彼女の視点とあやふやな記憶の描写に終始します。どこかで例えば警察による捜査描写でも挿入されていれば読者は落ち着くことも可能だったでしょうが、ひたすらジェニファーと作品世界を共有することになるので頭の中がもやもや感で一杯になり謎解きを忘れてしまいそうになります。但し同じように「信用できない語り手」を扱った夢野久作の「ドグラ・マグラ」(1935年)や京極夏彦の「姑獲鳥の夏」(1994年」のようなしつこさやくどさをそれほど感じないのは、創元推理文庫版の巻末解説で述べられているようにひとつひとつの場面を短く切り上げているのが功を奏しているからだと思います。本格派推理小説としては論理的な推理による王道的な謎解きではなく、むしろ異色の結末で真相を明かしているのも本書のプロットでは有効に感じます。

No.1918 5点 恍惚病棟- 山田正紀 2017/09/18 23:27
(ネタバレなしです) 1992年発表の本書のハルキ文庫版の「あとがき」で発表当時「新・社会派」と評価されたことに対して作者が憮然としているのが興味深いです(そもそも作者のミステリー分類の中には「社会派」というジャンルがなかったようですが)。しかし(メルカトルさんのご講評で指摘されているように)用語が時代の古さを感じさせるところはあるものの、作中の「痴呆症」(現在用語では「認知症」)の描写や犯行の背景にはある種の社会性を感じさせます。同じ「あとがき」の中で作者は「現実がそのまま幻想に転化し、幻想が現実を強固に裏打ちする本格ミステリー」を模索していた時期の作品と本書を位置づけていますが、主人公の視点や思考描写には一点の曖昧さもないのに終盤になって(やや唐突に)もやもや感が増してくるのはその試行錯誤の表れなのでしょう。

No.1917 5点 貴族屋敷の嘘つきなお茶会- ロビン・スティーヴンス 2017/09/17 00:48
(ネタバレなしです) 2015年発表の英国少女探偵の事件簿シリーズ第2作です。今回は主人公の1人であるデイジーの実家で起きた殺人事件の謎解きです。シリーズ探偵の家族が容疑者になるという設定はドロシー・L・セイヤーズの「雲なす証言」(1926年)という前例があるものの非常に珍しいです。探偵の立場と家族の立場の両方の立場の中でデイジーがどう動くかが見ものです。デイジーが容疑者リストからこの人は犯人でない、この人は怪しいと早い段階から結論を急ぎ、ワトソン役のヘイゼルがそれを諌めるというどんでん返しの図式は前作と共通しています。謎解きとしては大詰めの第6部の4章で登場する証拠や第6部の7章の自白が後出し説明に感じられてしまうのが残念です。

No.1916 5点 出雲3号0713の殺意- 池田雄一 2017/09/11 01:01
(ネタバレなしです) 長編ミステリー第7作である1987年発表の伊夫伎警部シリーズ第1作の本格派推理小説です。本書以降の作品が西村京太郎のトラベル・ミステリー風なタイトルになったことは賛否両論あるとは思いますが、作者にとってはターニング・ポイントになった作品かもしれません。婚約者のカメラマン片岡を実家に招待して両親に紹介しようとする小林みさき。しかし片岡は現れるどころか殺人容疑者として警察に追われる身となり、彼の無実を信じるみさきも新たな殺人に巻き込まれるという典型的なサスペンス小説の展開を見せます。片岡が無実なら犯人はあの人間しかいないとみさきが疑う人物はしかし、強固なアリバイに守られています。アリバイ崩しを何度失敗してもめげないみさきの推理と行動力には執念さえ感じさせ、捜査のプロである伊夫伎警部の舌を巻かせるものがあります。犯人当ての面白さはほとんどありませんがそれぞれの事件に様々なトリックをぜいたくに注ぎ込んだ力作です。

No.1915 6点 月明かりの男- ヘレン・マクロイ 2017/09/06 10:47
(ネタバレなしです) 1940年発表のベイジル・ウィリングシリーズ 第2作の本格派推理小説です。創元推理文庫版の粗筋紹介では月明かりの中を逃げる不審人物に関する3人の目撃証言がそれぞれ食い違っている謎(レオ・ブルースの「骨と髪」(1961年)をちょっと連想しました)をハイライトしていますが、銃弾の見つからない射殺とか、警官が見張っている犯行現場に何者かが何度も侵入を試みるのはなぜかとか他にも謎が沢山用意されています。被害者や容疑者たちに学者を揃えたためか難解な用語が時々登場しますし、手掛かりには時代の古さを感じさせるものもあります。動機に関する議論で学術的な理由、経済的な理由、そして政治的な理由までが可能性として登場するところが当時の本格派としては結構モダンだと思いますが、なじみにくくて読者の好き嫌いが分かれるかもしれません。しかしながら有罪を立証することは不可能だと自信満々な犯人をベイジルが推理で追い詰めていく最終章はなかなか印象的です。

No.1914 5点 ホテル・カリフォルニアの殺人- 村上暢 2017/08/27 01:39
(ネタバレなしです) 村上暢(むらかみのぶ)(1980年生まれ)の2017年出版のデビュー作の本格派推理小説です。タイトルはアメリカのロック・バンド「イーグルス」の名曲に由来しており、主人公トミー(日本人です)の設定をアメリカ横断を目指すミュージシャンにして随所で音楽知識を披露させているのが特色です。内容はモハーベ砂漠の奥にあるホテル・カリフォルニアで起こった密室殺人事件の謎解きです。直接描写されるホテルの客はわずか1人(刑事を含めても3人)、ホテル経営者や支配人も登場しません。そもそもわざわざ飛行機やヘリコプターで砂漠の中のホテルにセレブ客が集まる理由も明確ではありません(最終章である年中行事が理由として説明されますが自身が直接行事に参加するのではないのだから理由として弱いと思います)。小説として設定が不自然なところが一杯ですが、そこを謎また謎のオンパレードで押し切ってます。綱渡り的なトリックは好き嫌いが分かれそうですが作者の気合を感じさせます。但し作中でヴァン・ダインの二十則(1928年)やノックスの十戒(1928年)を引用しているのは失敗だと思います。これらの規則を律儀に守る必要はないというのが現代ミステリーの趨勢ではありますけれど、わざわざ引用までするのならば遵守してほしかったです。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2813件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)