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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.58 6点 気ままな女- E・S・ガードナー 2018/10/05 23:04
(ネタバレなしです) 1958年発表のペリイ・メイスンシリーズ第56作の本格派推理小説です。ある女性が見知らぬ女性と無理心中になりそうになって何とか助かり(相手は死亡)、その後(かなり無理矢理感がありますが)死んだ女性になり替わろうとします。脅迫者が現れたのを機にメイスンへ相談しますが、読者は彼女がメイスンに隠し事をしているのを知ったまま物語が進む展開が新鮮です(メイスンも薄々気づいていますが)。殺人事件が起きて彼女が10章でついに逮捕されたかと思うと11章ではもう法廷場面です。メイスンが被告を証言台に立たせるレアな場面が用意されています。17章でどんでん返しの真犯人指摘、しかしそれよりも「裁判記録を完全にするため」のメイスンの最後の一手が想像の斜め上を行く衝撃でした。18章のメイスンが真相に気づいた理由の説明は推理の説得力としてはどうなんだろうと思わなくもありませんが、それがタイトルに使われている「気ままな」の真意なのかもしれません(英語原題は「The Case of the Foot-Lose Doll」です)。

No.57 6点 吠える犬- E・S・ガードナー 2018/05/26 21:09
(ネタバレなしです) 1934年発表のペリイ・メイスンシリーズ第4作の本格派推理小説です。隣家の犬が吠えてうるさい、いや吠えていないというミステリーネタとして食指が動きそうにない問題で幕開けしますがメイスンは結構大真面目に取り組んでます。依頼人が駆け落ち(?)でいなくなってしまいメイスンは新たな依頼人を見つけてきますが、最初の依頼人の利益を損ねる可能性があるからと複数の依頼を引き受けるのに慎重な後年作品のメイスンとは少し違いますね。また弁護士の信条についてメイスンが何度も熱く語っているのが印象的ですが、依頼人を守るためとはいえ相当過激な手法をとってます。謎解きはかなり粗く、18章でメイスンが語る真相の一部には驚かされますが推理の根拠をほとんど説明していないので合理的とは言えても論理的とは言えないように思います。なお最後に生きるか死ぬかの問題を抱えているらしい女性の訪問で「奇妙な花嫁」(1934年)へ続くという幕切れにしていますがこの場面、新潮文庫版では読めますが創元推理文庫版とハヤカワポケットブック版では削除されています(創元推理文庫版ではその場面は「義眼殺人事件」(1935年)に挿入されています。でもそれだと出版順と矛盾してるんですけどね)。

No.56 5点 門番の飼猫- E・S・ガードナー 2018/02/10 22:08
(ネタバレなしです) 1935年発表のペリー・メイスンシリーズ第7作ですが充実作の多い初期作品の中ではちょっと劣るように個人的には思います。それでも複雑なプロットとサスペンス豊かな展開の組み合わせはまずまず楽しめます。第15章でメイスンが大胆な工作を次々に準備し、これは後でどのような劇的効果を挙げるのかとわくわくさせます。悪徳弁護士が登場したり法廷場面では思わぬ人物が証人になるなど本書ならではの見せ場もいくつかあります。しかし本格派推理小説としての謎解きは真相をひねり過ぎて犯人当てとしては納得しづらいものがあります(気の利いた手掛かりは印象的ですが)。なお最後は夢遊病者が眠ったまま殺人を犯したら犯罪責任は成立するかという謎を提示してシリーズ次作の「夢遊病者の姪」(1936年)が予告されて締めくくられます。

No.55 6点 とりすました被告- E・S・ガードナー 2017/10/28 00:12
(ネタバレなしです) 1956年発表のペリー・メイスンシリーズ第50作の本格派推理小説です。麻酔薬を使った治療を受けていた女性が何と殺人を犯したことを告白するという冒頭がなかなか刺激的です。告白は真実なのか、真実だとしたらこの告白は法廷で証拠になるのかというだけでも興味深いですがこの作者はまだまだひねりを加えます。ビン詰めにして湖に捨てられた毒薬、有能な秘書デラの意外なおせっかい、被害者と被告の意外な関係などが複雑に絡み合いますが、これでもメイスンシリーズの中では地味なプロットです。それでも嘘(であることは読者には明白)の証言でメイスンが追い詰められる法廷場面では緊張感が頂点に達します。ここぞとばかりにかさにかかる宿敵ハミルトン・バーガー検事に対してメイスンが被告人の権利を放棄するかのような勝負手を打ち、一気にどんでん返しの謎解きが繰り広げられます。

No.54 5点 脅迫された継娘- E・S・ガードナー 2017/08/20 01:57
(ネタバレなしです) 1963年発表のペリイ・メイスンシリーズ第70作です。脅迫事件に巻き込まれた夫、妻、そして継娘がある時は協力、ある時は(メイスンのアドバイスも無視して)独自に行動します。一方でメイスンが1人ではないとにらんだ脅迫者側もメイスンの策略で足並みが乱れながらも反撃し、先の読めないプロットに読者ははらはらします。これまでのシリーズ作品でも脅迫者との対決場面はありますが、今回は詐術師王と呼ばれる男と法廷で正面激突です。犯人当てとしての推理はそれほど緻密なものではありませんが、告発を立証する証拠についてはきっちり用意してあったところはさすがです。

No.53 5点 空っぽの罐- E・S・ガードナー 2017/04/22 23:10
(ネタバレなしです) 1941年発表のペリー・メイスンシリーズ第19作の本格派推理小説です。もともとスピーディーな展開でサスペンス豊かなのはこのシリーズの特色ですが本書の場合は同じサスペンスといってもかなり異色の部類です。何が待ち構えているかわからない場所へ乗り込むメイスンを描いた第8章や第15章はどちらかといえば冒険スリラー的などきどき感を生み出しています。その15章でのデラの「悪人の陰語」に1番びっくりしました。

No.52 4点 検事燭をかかぐ- E・S・ガードナー 2016/11/01 19:27
(ネタバレなしです) 1938年発表のダグラス・セルビイシリーズ第2作で、後にセルビイのライバルとなるアイネズ・ステープルトン初登場の作品です。事件がちょっと変わっていて、殺人をもくろんでいた(らしい)男が犯行に及ぶ前に事故で死んだ(らしい)というものです。粘り強く捜査を進めるセルビイの前に立ちはだかるのが地元の権力者で、事件関係者かもしれない息子をかばってセルビイに圧力をかけまくります。権力に屈しないセルビイの姿勢描写に力を入れた作品で、そういう読み物としては面白いのですが謎解きの方がどうにも粗すぎます。推理よりもはったりで自白を引き出している印象が強く、前作の「検事他殺を主張する」(1937年)と比べると本格派推理小説としての面白さは後退してしまっています。

No.51 6点 叫ぶ女- E・S・ガードナー 2016/10/06 01:33
(ネタバレなしです) 1957年発表のペリイ・メイスンシリーズ第53作の本格派推理小説です。身勝手な依頼人であっても依頼人を見捨てないメイスンが描かれるのは本書に限ったことではありませんが、それゆえに他に困っていそうな人物が頼ってきてもそちらの弁護人になることができません(依頼人の不利益になるかもしれないので)。そしてそちら側の弁護人が悪徳弁護士であることが事態をますますややこしくします。検事だけでなく悪徳弁護士の出方にも注意しながらの法廷論争はサスペンスたっぷり。ハミルトン・バーガー検事を巧みな法廷テクニックであしらいながら真犯人を指摘する推理が鮮やかです。

No.50 6点 偽証するおうむ- E・S・ガードナー 2016/09/15 17:48
(ネタバレなしです) 法廷で自説を絶対に曲げないような頑固証人をいかにして正しい方向へ誘導するのか、この難題を1939年発表のペリイ・メイスンシリーズ第14作である本書でメイスンが実に見事な手腕で処理します。最後のメロドラマが唐突でご都合主義的な感じもしますが謎解きとしてはよくできていると思います。

No.49 7点 緑色の眼の女- E・S・ガードナー 2016/09/13 13:07
(ネタバレなしです) 1953年発表のペリイ・メイスンシリーズ第42作で、ハードボイルド小説に登場しそうな悪党をメイスンがどうやって退治するかが一つの焦点になっています。もちろん腕力や拳銃ではなく知恵と機略でスマートに対処していますので暴力シーンが苦手な読者も安心して読める点では他のシリーズ作品と同じです。本格派推理小説としての謎解きもしっかりしており、印象的なトリックが使われています。他の作家による使用前例のあるトリックですが解決の伏線の張り方がなかなか巧妙です。

No.48 7点 おとなしい共同経営者- E・S・ガードナー 2016/08/31 11:28
(ネタバレなしです) 1940年発表のペリイ・メイスンシリーズ第17作である本書はメイスンの好敵手となるトラッグ警部が初登場する貴重な本格派推理小説です。これまでの作品でメイスンと対決した警察の人間は怒鳴り散らしてばかりで頭の回転が速いとはいえないタイプが多かったのですが、トラッグは考え方のバランスが取れていて一筋縄ではいかない雰囲気を持っています。まあそれでもメイスンの方が一枚上手で、作品によってはトラッグもトホホな目に遭ってしまうのですけど。本書はよくできた謎解きになっており、13章でメイスンがトラッグに説明する犯罪計画も大胆だし犯人をカモフラージュするミスリーディングも巧妙でした。

No.47 5点 危険な未亡人- E・S・ガードナー 2016/08/29 01:06
(ネタバレなしです) 初期のペリイ・メイスンシリーズではメイスンを弁護士というよりも私立探偵らしく描いている作品がありますが1937年発表のシリーズ第10作の本書もそんな1冊です。現場を引っ掻き回して警察から雲隠れする一方でしっかり容疑者を追い詰める行動派メイスンが描かれます。ハードボイルド小説の探偵よろしく卵をハードボイルドにしたりトーストを焦がす場面は狙いすぎだろと突っ込みたくもなりますが(笑)。複雑なプロットとたたみ掛けるようなストーリー展開のブレンドが絶妙で、思わぬ自白に意表を突かれる謎解き場面まで一気に読ませます。

No.46 7点 ビロードの爪- E・S・ガードナー 2016/08/27 07:08
(ネタバレなしです) 米国のE・S・ガードナー(1889-1970)は130冊以上の作品を残した大変な多作家です。350冊以上のカーター・ブラウン、400冊以上のジョルジュ・シムノン、550冊とも600冊ともいわれるジョン・クリーシーなどの怪物的作家もいますけど、ガードナーはほとんどの作品が国内に翻訳紹介されているのが凄いです。82冊も書かれた弁護士ペリイ・メイスンシリーズは依頼人のためには権力にも屈しない姿勢と行動力が描かれてハードボイルド風な要素もありますが過激な暴力シーンやエログロシーンはなく、本格派推理小説の謎解きの面白さも楽しめることが幅広い人気の秘密だと思います。1933年発表の本書は記念すべきシリーズ第1作です。第1作ゆえかメイスンと秘書のデラの信頼関係は後年の作品群と比べると微妙な距離感がありますね。どんでん返しの逆転がシリーズ通じての特徴の一つですが本書は特に印象的、あそこまで決定的だと思われる容疑にまさかあんなひっくり返し方があるのかとびっくりしました。

No.45 6点 寝ぼけた妻- E・S・ガードナー 2016/08/25 11:25
(ネタバレなしです) 私の読んだハヤカワポケットブック版では本書は1965年の作品と記載されているのに国内初版は1957年と矛盾していました。調べると正解は1945年発表のペリイ・メイスンシリーズ第27作でした。土地の売買とその土地の石油採掘権はどちらの権利が優先されるのかという、ちょっと難解な契約問題で始まりますがこれがメイスンも参加することになるヨット旅行、そして死体なき殺人事件へと発展するといつもの快調なストーリーテリングが楽しめます。非常に手ごわい容疑者が登場して、メイスンの推理を打ち砕くだけでなくメイスン自身までが訴えられるという大ピンチです。(ネタバレなしなので)紹介はここまで、後は読んでのお楽しみです。

No.44 5点 落着かぬ赤毛- E・S・ガードナー 2016/08/24 09:40
(ネタバレなしです) 1954年発表のペリイ・メイスンシリーズ第45作は読者が共感しやすい依頼人(女性)と弱者の味方メイスンという図式のわかりやすい物語です。メイスンの大胆な手腕が捜査陣を大混乱させて楽しいですけど、本当にあれって(結果オーライとはいえ)捜査妨害にならないのかな?謎解きはやや強引というか20章での重要証人(ハヤカワ文庫版の登場人物リストには載っていません)の登場があまりにも唐突な感じがします(名前だけは実は結構早い段階で登場してますが)。まあこのシリーズはスマートなメイスンが描けてればそれでいいのかも(笑)。

No.43 6点 嘲笑うゴリラ- E・S・ガードナー 2016/08/09 16:12
(ネタバレなしです) 膨大な作品を書いたガードナーには動物を扱った物語も少なくありません。当然犬猫の登場回数が1番多いと思いますが他にもカナリヤ、おうむ、金魚、燕、アヒルなど様々です。本書は1952年発表のペリイ・メイスンシリーズ第40作ですが何とびっくりゴリラが登場です。単なるお飾りではなくちゃんとゴリラを法廷論争のネタに使っているところはご立派で、読んでるこちらも興奮してウッホッ、ウッホッホッと胸を叩きました(嘘です)。序盤は筋を追うのにちょっと苦労しましたが最後は派手な捕り物劇もあってすっきりしました。でも中身の方はゴリラがらみの場面は覚えているんですがゴリラ以外の部分はほとんど忘れてしまいました(笑)。

No.42 5点 美しい乞食- E・S・ガードナー 2016/08/02 05:39
(ネタバレなしです) 1965年発表のペリイ・メイスンシリーズ第76作の本書は不幸な女性(ダフネ)を助けるメイスンという典型的な騎士道物語の出だしに加えて、途中までは「ころがるダイス」(1939年)を丸ごとぱくったみたいな展開となります。ダフネを単なる「虐げられしヒロイン」にしないところがひねりになっています。推理というより自滅誘導型で犯人を特定していて謎解き的にも物足りませんがテンポよく読ませるストーリーテリングには衰えを感じさせないし、シリーズファンにとっては目新しいものがなくてもいいのかもしれません。こういうのを偉大なるマンネリというのでしょうか?

No.41 5点 おせっかいな潮- E・S・ガードナー 2016/07/30 05:36
(ネタバレなしです) 1941年発表の本書は探偵トリオによる謎解きという設定がこの作者らしいのですが、デュリエ地方検事とその妻ミルドレッド、そしてウィギンズじいさんという組み合わせの中でメイスンシリーズのポール・ドレイク的な存在のウィギンズじいさんに名探偵役を割り振っているのが珍しいですね。なかなか面白そうなキャラクターですが本書と「けむるランプ」(1943年)の2作品にしか登場しなかったようです。26章構成になっていますが12章までは章が変わるごとに登場人物が交代し、それぞれが駆け引きしたり何かを企んだり疑惑の行動をとるというややまとまりの悪い展開で、13章からようやくトリオによる探偵活動が活発になってばらばらの物語が少しずつ一つの流れに収束されていきます。謎解きプロットは遺産相続の問題、アリバイ崩し、手紙の謎など盛り沢山で複雑なのでじっくり読むことを勧めます。終盤は「おかま事件」で強烈なユーモアをぶつけて読者をゆさぶり、そこから一気に怒涛のクライマックスへとなだれ込みます。

No.40 5点 これは殺人だ- E・S・ガードナー 2016/07/25 01:54
(ネタバレなしです) ガードナーがチャールズ・ケニー名義で1935年に発表したミステリーでシリーズ探偵は登場しません。探偵役のサム・モレインは行動力やはったりを駆使して捜査当局と渡り合いますがこれはハードボイルド探偵によくありがちな特徴で、弁護士ペリイ・メイスンに比べると個性には乏しいです。ハードボイルド的でありながらも非情さや残虐性はなく、本格派の謎解きも楽しめるところはペリイ・メイスンシリーズと共通しています。モレインが法廷場面で尋問役になれたのは地方検事ダンカンとの友情あってのものという設定は少々好都合すぎの気もします。犯人のトリックはなかなか機知に富んだものではありますがあの偶然のチャンスがなかったら打つ手なしだったように思え、やはりこれまたご都合主義的に感じられます。

No.39 6点 孤独な女相続人- E・S・ガードナー 2016/07/18 20:45
(ネタバレなしです) 1948年発表のペリイ・メイスンシリーズ第31作となる本書には容姿端麗な女相続人が登場しますが性格描写が意外とあっさりしているため読者が共感するほどのキャラクターになれていないのが惜しいです。でもマリリン・マーローという名前は当時人気絶頂だった女優マリリン・モンロー(1926-1962)に由来しているんでしょうね。物語としては切れ味があり、特に第11章や第17章でのやり取り場面や法廷でのトラッグ警部への反対尋問場面などは強い印象を与えます。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
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A・A・フェア(27)
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