海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.435 5点 或る豪邸主の死- J・J・コニントン 2014/08/22 16:15
(ネタバレなしです) 大学教授で数学者でもあった英国のJ・J・コニントン(1880-1947)の1926年発表のデビュー作です(シリーズ探偵は登場しません)。冒頭で読者に対するフェア・プレーを宣言していることがあのエラリー・クイーンに先駆けた「読者への挑戦状」であると評価されています。サンダーステッド大佐が謎解きに挑戦する本格派推理小説ですがやたらと悩んだりとまどったりしている上に、ある容疑者には犯人であってほしくないと肩入れしたりと、まともな探偵役ではありません。しかし同時代のアントニイ・バークリーのように思い切って羽目を外すところまでは踏み切れず、ユーモア路線ともシリアス路線ともつかない中途半端なところに留まったような気がします。「殺人光線発射装置」なる物が登場して驚きますが、SFミステリーではありません。淡々とした筋運びながら謎解きは意外と複雑です。

No.434 5点 スリープ村の殺人者- ミルワード・ケネディ 2014/08/22 16:02
(ネタバレなしです) ミルワード・ケネディが20冊近く書いたミステリーの中では1932年発表の本書はかなりストレートな謎解き作品に仕上がったとされる本格派推理小説です。少なくとも「救いの死」(1931年)よりは受け容れ易いでしょう。しかしながら考えていることを描写している場面が結構ある割には人物像が浮かび上がりにくいなどどうも文章が読みにくく、しかもアリバイ調べ中心のゆったりした展開なので退屈する読者はいるかもしれません。作品舞台(川の流れる村)の活かし方は上手だと思います。

No.433 9点 蘭の告発- キャロライン・グレアム 2014/08/22 15:55
(ネタバレなしです) 若い頃にはプロのステージダンサーだった経験もある英国のキャロライン・グレアム(1931年生まれ)はミステリー作家としてのデビューは50歳過ぎと非常に遅く、しかも最初は鳴かず飛ばずでしたが1987年発表のバーナビー警部シリーズ第1作にあたる本書が好評で、英国本格派推理小説の書き手としての地位を確立しました。小さな村を舞台にした、まさしくヴィレッジ・ミステリーですが内容は決して軽くなく、真相には恐いぐらいの衝撃があります。文章は読みやすく、本格派推理小説としての謎解きもよく出来ていますが、推理ゲーム感覚で読むような作品ではありません。バーナビー警部が見事に真相を見抜くのですが、それはまた秘められた悪意と残虐性、そして悲劇的運命がさらけ出された瞬間でもあります。知ってはいけないものを知ってしまったような気分にさせられる作品です。

No.432 10点 自宅にて急逝- クリスチアナ・ブランド 2014/08/21 16:10
(ネタバレなしです) 謎を巡ってああでもないこうでもないと議論するのは本格派推理小説の常套手段であり、これが巧妙だと真相に近づいているというわくわく感が高まってきたり、逆に謎が深まったりして面白さが格段に増えます。ブランドの凄いところは警察同士だけでなく容疑者同士にもやらせているところで、そこに異様な緊張感を生み出しています。1946年発表のコックリル警部シリーズ第3作の本書ではそれを家族間でやっていて、遠慮仮借なく「お前が犯人だろ」と告発し合っているのですからもう痺れます(笑)。作者得意のどんでん返しの連続に、思いもかけぬ急転直下の劇的な結末、そして最後の最後に明かされる不可能犯罪トリックと何もかもが素晴らしい演出効果をあげています。

No.431 6点 代診医の死- ジョン・ロード 2014/08/18 17:58
(ネタバレなしです) 1951年発表のプリーストリー博士シリーズ第53作となる本格派推理小説です。トリックは古典的ですがアガサ・クリスティーの某作品を連想させる大胆な使い方が印象的です。ただ有力な手掛かりが少なく、推測と仮説の域を出ない中盤の謎解き議論がやや単調です。忍耐強い調査描写を読者は覚悟して読む必要があります。

No.430 6点 非実体主義殺人事件- ジュリアン・シモンズ 2014/08/18 17:08
(ネタバレなしです) イギリスのジュリアン・シモンズ(1912-1994)は20世紀を代表するミステリー評論家として大変有名な存在ですが、ミステリー作家としても30冊近い長編作品があります。サスペンス小説や犯罪小説を得意としていますが初期作品にはマイケル・イネスやエドマンド・クリスピン風のユーモア本格派推理小説を書いていたようです。本書は彼のデビュー作で後に自ら駄作と切り捨て、本国でも絶版状態が続いたそうです。ユーモアはほとんど感じられませんがイネスやクリスピンだってデビュー作は結構手堅くまじめな作品でしたし、弱点というほどではないでしょう。アリバイを細かく検証する地味なプロットで特別な個性は感じられません。そこが作者は気に入らなかったのかもしれませんが謎解き説明は丁寧で本格派推理小説のツボは抑えてあります、

No.429 6点 北雪の釘- ロバート・ファン・ヒューリック 2014/08/18 16:53
(ネタバレなしです) 1961年発表のディー判事シリーズシリーズ第5作で、当初は本書をもってシリーズ終了する予定だったとか。そのためか寂寥感漂うエンディングになっています。謎の一部が他人の力を借りて解決しているところにちょっと不満を憶えましたが、それが劇的な幕切れににつながっているプロット構成は見事です。法廷場面を増やして判事らしい活動が多く描かれているのも本書の特徴です。

No.428 7点 スリー・パインズ村と運命の女神- ルイーズ・ペニー 2014/08/18 16:18
(ネタバレなしです) 2006年発表のガマシュ警部シリーズ第2作です。デビュー作の「スリー・パインズ村の不思議な事件」(2005年)と舞台は同じ、登場人物も一部共通しています。前作のネタバレはありませんが前作を先に読んでおくことを勧めます。丁寧な心理描写としっかりした人間ドラマが楽しめますが、本格派推理小説としての謎解きも十分に楽しめます。何しろ凍った湖上での感電死なのですから。

No.427 8点 飛ばなかった男- マーゴット・ベネット 2014/08/18 16:04
(ネタバレなしです) 英国の女性作家マーゴット・ベネット(1912-1980)のミステリー作品は長編8作に短編1作の存在が知られているのみですが、その数少ない作品の1作がCWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞(当時はクロスド・レッド・ヘリング賞と呼ばれてました)を受賞していてかなりの実力者と思われます。1955年発表の本書は記念すべき1回目のゴールド・ダガー賞の最終候補作で、惜しくも受賞を逃しましたがベネットの最高傑作とも評価されている本格派推理小説です。消息を絶った飛行機に搭乗予定だった4人の男。だが搭乗した(らしい)のは3人、名乗り出ない1人は誰かというユニークな謎、さらには物語の大半が回想シーンで占められているユニークな本格派推理小説です。これは明らかにパット・マガーの「被害者を捜せ!」(1946年)や「七人のおば」(1947年)の影響が見られますね。登場人物が個性豊かに描かれており後半になるとサスペンスもかなり盛り上がってきます。推理の論理性ではマガー作品を上回る出来栄えです。新訳で再販して大勢の読者に読んでもらいたい傑作です。

No.426 5点 個室寝台殺人事件- 草川隆 2014/08/18 13:28
(ネタバレなしです) SF作家として活躍していた草川隆(1935年生まれ)が(多分)初めて書いたミステリー作品が1986年発表の本書です。本格派推理小説に分類できますが犯人の正体は早い段階で見当がつき、ハウダニットの謎解きが中心になります。猟奇的犯罪、密室、さらには奇術師登場と派手そうな設定の割には地味な捜査と推理に終始します。しかも密室については実はトリックらしいトリックがなく、密室に期待するとがっかりすると思います(そもそもこれを密室と称してはいけないと思います)。また探偵役が複数(鈴木刑事、下川刑事、そしてある女性)いるのはいいのですが、彼らが全部の謎を解くわけではなく一部は第11章、第12章の犯行再現描写の中で説明されており、これも謎解きプロットとしてはちょっと物足りません。猟奇的事件を扱っていながらグロテスク描写に走らず、登場人物も無用に多くせず読みやすい点はいいのですが作品としての個性が欲しいですね。

No.425 10点 ビッグ・ボウの殺人- イズレイル・ザングウィル 2014/08/15 16:52
(ネタバレなしです) ロシア系ユダヤ人とポーランド人の間に生まれた英国のイズレイル・ザングウィル(1864-1926)はジャーナリストやシオニスト(ユダヤ民族主義者)としての活動がキャリアの中心でミステリー作品はわずかに本書と短編1作のみですが書かれた時代を考えると本書は驚異的にハイレベルの作品です。現代ミステリーや黄金時代(第一次世界大戦と第二次世界大戦の間)のミステリーを読み慣れた読者には目新しくないかもしれませんが、本書が発表された1891年当時の読者にとっては衝撃のトリック、衝撃の結末ではないでしょうか。冒頭に作者による序文が付けられていますが、「物語の主要部分でデータは全部出しておかなければならない」と、この時代にフェアプレーを意識していたこともまた革新的です。30年後の作品と言っても通用しそうな先進性が際立っています。

No.424 6点 ミステリ講座の殺人- クリフォード・ナイト 2014/08/15 16:37
(ネタバレなしです) 米国のクリフォード・ナイト(1886ー1963)は米国本格派推理小説黄金時代の1937年にデビューした作家で、ハントゥーン・ロジャーズを名探偵役にしたシリーズ作品を年2作のハイペースで次々に発表しました。1940年代後半に本格派の人気がなくなると非本格派路線へと作風を変えたところは同時代のヘレン・マクロイやパトリック・クェンティンと共通しています。1937年発表のシリーズ第2作である本書を読む限りでは謎解きに関係のない要素は最低限の描写にしようており、例えば探偵役のハントゥーン・ロジャーズは英文学教授という設定なのですが文学に関する話を全くしないのです。同時代のファイロ・ヴァンスやエラリー・クイーンなどやたら文学作品からの引用を連発する探偵とは大違いです。そのためか文章が特に上手いとも思えないのですが回りくどい表現も一切ないため意外と読みやいです。冒頭で「29の手がかり」があることを宣言し、巻末には手がかり索引を配置しているガチガチの本格派推理小説です。

No.423 6点 大鴉殺人事件- エドワード・D・ホック 2014/08/15 14:10
(ネタバレなしです) アメリカのエドワード・D・ホック(1930-2008)は短編ミステリーの名手として名高く、その作品数は800を超えるとも言われます。単純比較はできないとはいえ、短編12作を長編1作と換算しても60作以上書いた計算になるので多作家と評価しても差し支えないでしょう。一方長編作品は10作にも満たないそうです。1969年発表の本書はその数少ない長編第1作で、探偵役の名前がハードボイルド小説を連想させるハメットですが、中身は純然たる犯人当て本格派推理小説です。登場人物も多くなく読みやすい作品でした。メインの謎であるダイイングメッセージは謎解きの説得力が強力というわけではありませんが、他にも犯人当ての伏線は用意してあり、際立った特色はないものの安心して読めます。

No.422 5点 ベラミ裁判- フランセス・N・ハート 2014/08/15 13:41
(ネタバレなしです) 米国の女性作家フランセス・N・ハート(1890-1943)はは全部で4冊ほどのミステリーを書いたそうですが1927年発表のデビュー作の本書が最も名高いです。世界最初の法廷ミステリーとも言われ、エラリー・クイーンやレックス・スタウトが激賞しています。ほとんど全編に渡って法廷場面が描かれていることから日本でも早くから注目され、戦後間もなくの時期に裁判関係者への参考書として翻訳許可を申請して「小説だから」という理由で却下されたという面白いエピソードが残っています。夫が弁護士ということも手伝ってか法廷描写は結構リアルですが物語の流れをスムーズにするよう手続き的な流れなどは適宜省略されており、「裁判記録」ではなくちゃんと「小説」になっています。本格派推理小説に分類できますが被告人が有罪か無罪かを謎の中心にすえているところは異色です。法廷ミステリーの先駆的作品という歴史的価値だけでなく、プロットは緻密で証拠に基づく謎解きもしっかりしていて当時としては高水準のミステリーだと思います。ただ私の読んだ異色探偵小説選集版は旧仮名づかいだらけの古い翻訳であまりにも読みにくく、これからの読者向けには新訳版を出して欲しいです(本当は6点評価にしたいのですが翻訳で1点減点しました)。

No.421 5点 学長の死- マイケル・イネス 2014/08/15 11:45
(ネタバレなしです) 英国のマイケル・イネス(1906-1994)はオーストラリア、米国、英国で大学教授または準教授を歴任し、シェークスピアなどの文学作品研究者としても活躍したするなどこれぞ知識人というキャリアの持ち主です。ミステリーを書いたのも教授ならば著作の一つもなくてはと考えたのがきっかけだそうで、アプルビイ警部シリーズを中心に40作以上のミステリーを書きました(ちなみに本書の世界推理小説全集版では警視と表記されていますが多分間違いです)。その特色はファルス派と称される破天荒なプロットとユーモア、そして高尚な文学知識が散りばめられた独特なスタイルだそうです。1937年発表のアプルビイシリーズ第1作の本書はデビュー作のためか手堅過ぎるぐらいの文章で書かれており、ちょっと退屈でした(文学知識の方は危惧したほど乱用されていませんが)。第10章なんか後年の作者ならもっとユーモアを混じえて盛り上げたでしょう。登場人物も誰が誰だか整理が大変です。しかしながら第17章の「誤解の連鎖反応」が紐解かれる謎解きはなかなか劇的で読み応えがありました。

No.420 6点 チャーリー退場- アレックス・アトキンスン 2014/08/15 10:20
(ネタバレなしです) 演劇界との関係が深く舞台俳優や劇作家としてのキャリアをもつ英国のアレックス・アトキンスン(1916-1962)の1955年に発表した唯一のミステリー作品で本格派推理小説です。劇場を舞台にしておりその描写力はさすがと思わせますが大勢の登場人物の整理に苦心しているようなところもあり、同じ劇場ミステリーでもヘレン・マクロイの傑作「家蠅とカナリア」(1942年)と比べると少し雑然としているように思います。しかし劇が進行する中で迎えるクライマックスシーンはなかななかの迫力で、細かい場面切り替えが効果をあげています。謎解き伏線もしっかり張ってあります。

No.419 5点 月蝕の窓- 篠田真由美 2014/08/15 09:52
(ネタバレなしです) 2001年発表の桜井京介シリーズ第8作の本書は講談社文庫版の作者あとがきでも紹介されていますが桜井京介の視点で描かれる場面が多く、もともと社交的な性格でないシリーズ主人公の上に自閉気味になって悩んでばかりなので物語が何度も停滞します。さらにサイコ・サスペンス色を濃くして歪んだ感情描写を多々取り込んでいるのですから読んでて気が滅入ること!これはこれで高く評価する読書も多いでしょうが個人的には肌が合いませんでした。爽やかな読後感を残した「未明の家」(1994年)がとても懐かしくなりました。

No.418 5点 首切り坂- 相原大輔 2014/08/15 09:25
(ネタバレなしです) 相原大輔(1975年生まれ)が2003年に発表したデビュー作で明治44年を時代背景にした本格派推理小説です。最後に明かされるトリック(若竹七海は「お茶目なトリック」と評価しています)はなかなか意表を突いたものですがプロットとの関連がなく、典型的な「トリックのためのトリック」になっています。動機が完全に後出し的説明になっているところも弱点と指摘されるかもしれません。おどろおどろしいタイトルながら直接的な描写がほとんどなく、すっきりした文体でむしろ洗練さを感じさせます。この題材なら島田荘司や二階堂黎人なら怖さや不気味さをもっと強調できたでしょうけどこれは好みの問題で、私は本書程度が読みやすくて丁度よかったです。

No.417 6点 鐘楼の蝙蝠- E・C・R・ロラック 2014/08/14 18:35
(ネタバレなしです) 1937年発表のマクドナルド警部シリーズ第12作です。相次ぐ失踪事件、ついに死体が発見されたと思えば首なし死体と雲をつかむような状況が続きます。マクドナルドの捜査も少しずつ進展はしているのですが、一方で頭のいい犯人に巧妙にミスリードされているのではという不安がつきまといます。退屈ぎりぎりで踏みとどまったのは後半の展開が変化に富んでいることと(演出は抑制を効かせ過ぎという気もしますが)、最終的に5つの仮説を組み立てて犯人に迫るマクドナルドの丁寧な謎解きがあってのものです。

No.416 5点 指に傷のある女- ルース・レンデル 2014/08/14 18:23
(ネタバレなしです) 1975年発表のウェクスフォードシリーズ第9作で、シリーズ作品としては異色のプロットになっています。犯人の正体は意外と早い段階で見当がついており、決定的な証拠をウェクスフォードたちが捜す展開となっています。最後に驚きの仕掛けを用意してあるのは見事ですが、本格派推理小説として評価するとこれは微妙かもしれません。あらかじめ謎として提示されていたわけではないのですから、巧くだまされたという快感にはつながりませんでした。

キーワードから探す
nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)