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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.6 6点 失われた世界- アーサー・コナン・ドイル 2016/03/16 09:59
先日に光文社古典新訳文庫からアーサー・コナン・ドイル「失われた世界」が刊行された
ノンシリーズは別にしてドイルが創造したシリーズキャラの中ではホームズの次に世界的に有名なのがチャレンジャー教授だろう
インディ・ジョーンズの元ネタみたいなキャラで、ホームズにも冒険小説的な要素が有るが、元来が伝奇ロマン的資質のドイルだけに、ある意味ホームズよりも作者らしいキャラじゃないかなぁ
今までも複数の出版社から刊行されており、別に希少価値なんてないのだが、古典新訳文庫だけに新たな翻訳上のセールスポイントがあるかってところかな

スピルバーグ監督の「ジュラシックパーク」と「ロストワールド」は一応マイクル・クライトンの原作という建前になっているが、最初から映画製作と同時進行で内容も小説に準拠する必要はないとクライトンも承知していたのだという
まぁ内容は全くの別物だが、映画版にしてもクライトンの小説版にしても、その題名の由来はドイルのこの作品なのは100%間違いないでしょう
その位有名な作品で、これまで当サイトで登録が無かったのは驚くべきで、他にもSF作品の登録は沢山有るのだからジャンル的な問題ではなさそうだ、既読の人は多いと思うんですけどね

世界遺産でもある南米ギアナ高地、周辺の低地とは隔絶された周囲が絶壁の台地の上の平原、世界最高落差の滝エンジェルフォールもこの地域に存在する
周囲の低地とは生物が簡単に行き来出来ないことから独自の生態系を保っている、もっとも昨今では観光客の増加で外部から種子が持ち込まれたりして問題になっているらしいが
この独自の生態系という要素に着目して、恐竜が生き残ったという発想の素晴らしさがドイルの勝利だろう
映画のようにDNA解析からの復元という発想の方が科学的だしリアリティがあるし今風だが、なんかセコくなった感もあるよね、冒険ロマン精神という意味では
映画で言えばさ、インディ・ジョーンズが冒険小説的なのに対して、「ジュラシック・パーク」や「ロストワールド」は冒険ロマンと言うより最初からスリラー小説的なものを目指した感が有るんだよなぁ

No.5 5点 シャーロック・ホームズ最後の挨拶- アーサー・コナン・ドイル 2014/05/29 09:56
発売中の早川ミステリマガジン7月号の特集は、”シャーロック・ホームズ・ワールド”、映像絡みも有るんだろうけど何か頻繁にホームズ関連の特集が組まれている気がするなぁ、ネタ切れ?

シリーズ第4短編集が『最後の挨拶』である、世のネット書評でもかなり評価が低いが、当サイトでおっさんさんも指摘されてましたが、私も基本的アイデア自体はそんなに悪くないと思う
ところがこれもおっさんさんの御指摘通りで、そのアイデアの煮詰めと活用への工夫が全く足りない、たしかにやっつけ仕事的にさっさと纏めちゃったって感じだ
じゃぁ何故にアイデアの活用の仕方が下手なのか、そこで第4短編集だけの特殊事情を考えると、『最後の挨拶』には過去の3短編集とは大きく違う点がある
第1から第3短編集までは、ほぼ1年間に雑誌連載された短編を纏めたものである、このパターンは復活後の第3短編集『生還』でも基本的に変わらなかった、つまり収録各短編の執筆時期に隔たりは無かったわけだ
ところが第4短編集『最後の挨拶』は断片的に発表された短編を集めたもので、各短編の執筆時期がバラバラである
本来は第2短編集に収録予定だったのが自主判断で見送られた「ボール箱」はまぁ別扱いとしても、1908年から1917年までと幅広い
第一次世界大戦勃発後に書かれ英独のスパイ合戦を背景にした表題作「最後の挨拶」を除くと大部分は第一次大戦前夜の不穏な時代に書かれている、この時代背景の影響が大きい気がするんだよね
この時代はミステリー史的に言えば、ウォーレス、オップンハイム、サッパー、フレッチャーといった通俗スリラーが流行した時代である
私はジャンルとして本格派に対してスリラーが格下とかつまらないものとか意義の薄いものとかとは認識していないスタンスである、スリラーだって面白いものは面白いのである、読者側がパズル要素だけを求めようとするからつまらないと感じるだけなのだ
ドイルもそんな風潮に合わせただけなのかも知れない、ただドイルには資質として合っていなかった可能性は有るが
ドイルは名作「失われた世界」に見るように冒険ロマン小説は得意で、決してホームズだけのドイルではない
しかし非本格の中で冒険ロマンとスリラー小説とは全く異質なもので、ドイルは本格派以外だと怪奇小説とかもう極端に異郷を舞台にした冒険小説方面とかに行っちゃった方が合ってるタイプだと思う、ホームズものにも異郷の物語部分の方が精彩が有るものも有ったりするからね
だから眼前の大都会ロンドンを舞台に据えてリアリズムを志向した場合はホームズみたいな理知方向に行くか怪奇色を前面に出すかが持ち味であって、世の各書評での短編集『最後の挨拶』の評価の低さは作者ドイルがスリラー系統だけは合わなかったのも一因かも

No.4 8点 シャーロック・ホームズの冒険- アーサー・コナン・ドイル 2013/08/29 09:56
先日ジョージ・ニューンズ社から「ストランド版 シャーロック・ホームズの冒険 上」が刊行された、上下巻それぞれ6編づつ収録
ジョージ・ニューンズ社と聞いてすぐ分かる人は一応のホームズ通だ、そうあの雑誌ストランド誌の発行元である
この時のストランド誌掲載版の雰囲気を再現しようという試みらしく、新訳日本語だが横書きで、つまりオリジナル版の英語をそのまま日本語に置き換えた感じだ
もちろんシドニー・バジェットの挿絵も当時の雰囲気そのままに再現されているらしい
これで価格が800円台なのだからホームズファンは間違いなく買いだろうな
「ホームズの冒険」を書評するなら今でしょ!という事で書評済だったけど今回のタイミングに合わせて一旦削除して再登録

ドイルという作家の持ち味は伝奇ロマン志向だ
作中でホームズがワトスンに対し、”理知的推理を君が枝葉をつけて物語が過剰になってる”と非難する件がある
つまりは作者ドイルも自身の持ち味を分かってたんじゃないかな、ドイル自身は戯画化されたホームズよりもワトスンに近いタイプだという説は昔から有るしね
この伝奇ロマン志向が無かったら魅力半減だろうしね

あまり言及されない短編についてちょっと
「花婿の正体」は低い評価が多いが、これは○○トリックが嫌われているのが理由だろうが、昨今は異常に○○トリックを忌み嫌う読者が多いな、それだとクリスティなんか読めないよな(苦笑)
私は割と○○トリックにアレルギーが無いので気にならなかった、むしろ「花婿の正体」こそミステリー短編のエッセンスって感じがするんだよな
だいたいさぁ、「花婿の正体」の○○トリックを批判しておきながら、「唇のねじれた男」に対しては好意的な風潮なのは解せないよな
「技師の親指」は地味だが私好みな短編で、朧気な場所の推定などは面白い
「緑柱石宝冠事件」も話題にならない作だが、雪上の足跡から推論を巡らす件などホームズ式捜査の特徴は出ているんじゃないだろうか
「ぶな屋敷」はいわゆる館もので舞台設定的には私の好みじゃないが、後の時代に数多く書かれるお屋敷ものの原型を創ったんじゃないかな

No.3 6点 バスカヴィル家の犬- アーサー・コナン・ドイル 2013/03/04 09:58
先月27日に創元文庫から「バスカヴィル家の犬」の新訳版が刊行された、まぁ他社から新訳が次々に出ている現状では創元の旧訳版は古かったからね、新訳は遅かったくらいだよね

今更だがドイル長編の中での「バスカヴィル家」の特徴は、前2作のような2部形式構成を採用していない点である
また怪しげな館が舞台だったりオカルト伝説を雰囲気作りに使用したりと、現代の本格読者に好まれそうなガジェットが目立つ
一方で謎解き面で見ると、犯人の意外性などは重要視されていない、犯人の意外性云々だけで言うなら例えば「緋色の研究」などの方が意外なくらいだ
「緋色の研究」「四人の書名」は後半が過去の因縁話なのでドイルの伝奇小説・冒険小説面が出ているように思われがちだが、表面的には当時の大都会ロンドンで起きた三面記事的事件に過ぎず単に海外での因縁話がロンドンに影を落としているだけなのだ
また何と言っても初期2作には犯人逮捕場面など前半部だけなら短編的な切れ味が有るが、そういう点では「バスカヴィル家」は話自体が短編形式では書ききれなくて長編で書かれたのも納得だ
刊行年的には初期2作が「ホームズの冒険」以前に書かれているのに対して、「バスカヴィル家」は「回想」と「生還」の間に書かれている
ホームズ短編連作で一躍名を上げた以前と以後に書かれたものとの相違なんだろうな、やはり書かれた時期への考察は重要なんだなと思った
そして「バスカヴィル家」のロマン性を見るとドイルの本質はやはり伝奇ロマンス作家なんだと思わずにいられない

No.2 7点 シャーロック・ホームズの回想- アーサー・コナン・ドイル 2012/07/24 09:55
明日7月25日発売の早川ミステリマガジン9月号の特集は、”シャーロック再生”
今年6月に原書房からエドワード・D・ホック著のホームズパロディ集が、光文社版と同じ日暮雅通の訳で刊行されており、その関連という意味合いもあるのだろうか、ホックの短篇も掲載されるようだ

さて『回想』と言えば泣く子も黙るホームズ短篇集シリーズとしては2番目の短篇集である
つまり『冒険』と『生還』の間に挟まれているわけだ
まぁそれだけが理由ではないのだろうが、世間一般の評価はどうも地味な印象である、やはりどうしても『冒険』との比較論が無意識に入ってしまうからなんだろうと推測する
しかし私はこの『回想』が結構好きなんである

いやたしかに『冒険』と比較してしまうのは分かる、例えば「株式仲買店員」などは殆ど「赤毛連盟」の二番煎じだし、「ギリシア語通訳」は兄マイクロフト登場の特殊性を除外すれば「技師の親指」の焼き直しっぽい、しかも両作ともプロット終盤が腰砕けで「赤毛」「技師」の劣化バージョンだ
「まがった男」に至っては、腰砕けどころかそもそも謎の動物の足跡が意味を成して居らず必要性が感じられない
『冒険』の方が全体に展開がシンプルで切れ味が有るが、『回想』では一応工夫は感じさせるのだが悪い意味で複雑になってしまっている
例えば「入院患者」なども狙いは分かるんだけどプロットとしては上手く纏めきれずに中途半端である

このように欠点も多い『回想』だが、それでも何か不思議な魅力が有るんだよなぁ
回想ってくらいだからノスタルジックな回顧調とでも言うか、こういう味わいは『冒険』や『生還』ではあまり感じられなかったところで、独自色は有ると思う

収録作中で客観的ベストはやはり「名馬シルヴァーブレイズ」、私好みの地道な調査追跡場面も有るし、閉鎖空間じゃなくて屋外ものだし
一方で個人的な好みは回想テーマの1作でもある「マスグレーヴ家の儀式書」、やはり痕跡を追う調査追跡場面有りだし悲劇的な真相が雰囲気と調和している
あとは他の方も挙げられている「黄色い顔」、たしかにホームズの推理は空振っているんだけど、ちょっと『冒険』には無い味が有る、ある意味ドイルらしいんじゃないかな

No.1 7点 シャーロック・ホームズの帰還- アーサー・コナン・ドイル 2012/03/05 09:59
おっさんさんの書評拝見して、特に収録作中どの作を評価するかの点について意見の近さを感じたので私も書評したくなってしまいました、『帰還』はずっと後回しにしていたんだけど(苦笑)

おっさんさんお薦めの2作、「六つのナポレオン」「金縁の鼻眼鏡」は私も同感で客観的に見た場合の集中ベストだと思いますね
前者は謎解きもさることながら、評価したいのはプロット構成力がシリーズ初期に比べて進歩している点
この真相だとナポレオン胸像6体の内、どうしても重要な1体だけが主眼となり他の5体が軽く扱われがちなんだけど、この作では狙いが空振りする他の5体にもそれぞれに万遍なく役割が与えられているのが上手い、他の5体が無意味じゃないんだよね
後者「金縁の鼻眼鏡」は昔からシリーズ随一の読者挑戦ものとの評価が有る作で、たしかに読者に手掛りが与えられている
読者が推理出来るかどうかにやたらこだわるタイプの読者もこの作なら文句を付けられないのでは
客観的な集中ベストは上記の2作だが、個人的な好みでの№1は「プライオリ・スクール」、この短篇集収録作だけでなく読んだ第1~第3短篇集までのシリーズ短篇中でもベスト5に入るくらい好き
この作も昔から論理の誤謬があるとして有名な作で、自転車の轍の重なり具合に関する推論は明らかに作者の勘違いだろう
しかしそんな瑕疵には目を瞑ろう、私は地道に足取りを巡る捜査小説というパターンが好きなのだ
シリーズ中でも地味っちゃ地味だが、地味好きな私としてはこの痕跡を追う地道な調査が嗜好に合う
自転車と言えば「美しき自転車乗り」もヒロインの造形のモダンさが良い、ドイルは女性を描くのが紋切り型であまり上手くない印象があるが、この作では珍しく活き活きしている

逆に有名な作で過大評価だと思うのが「ノーウッドの建築業者」と「踊る人形」
「ノーウッド」が名作と言われてきた原因はまたもや乱歩、シリーズ中最もトリッキーな作として乱歩が高く評価したというわけだ
結果的に不思議な謎になるというパターンでなくして、犯人側の方からはっきりトリックらしいトリックを仕掛けるパターンはシリーズ中には案外と他に無いので、トリック好きな乱歩の目に留まったのだろう
しかしアメリカっぽい陽気な雰囲気が何となくミスマッチ
「踊る人形」も暗号と人間ドラマとの融合がミスマッチで、これならポーの「黄金虫」の方が雰囲気と合っている

いずれにしてもホームズが復活してからの作はレベルが落ちるみたいに言われがちだけど、小説創りの面などはシリーズ初期よりもむしろ上手くなってると思う
年代的に見ると、第2短篇集『回想』から10年間ものブランクが有るのだが、決してそのブランクが無駄ではなかったという事だろうか、個人的には『冒険』に比べてもそれほど劣っているようには感じられなかった

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