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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.11 6点 緑のカプセルの謎- ジョン・ディクスン・カー 2016/10/10 10:29
つい最近2~3日前に、創元文庫からカー「緑のカプセルの謎」の新訳版が刊行された、旧版も古い訳だからまぁ新訳への切り替え移行の一環ということである

「緑のカプセル」は1939年の作だが、「テニスコート」「かぎ煙草入れ」「連続殺人事件」とかの40年代前半辺りの作は、初期のオカルティズムが影を潜め、不可能興味は有るものの怪奇色を薄めた一般的なパズラーが多い
パズル要素では流石にカーらしさは発揮しているものの、雰囲気作りという点ではちょっと薄味な作が多い
再び怪奇色も入れるようになるのは46年の「囁く影」以降だと思う
と考えると、時代的には丁度戦争中、つまり世界大戦中の作には何故かオカルト色が薄いという事になる
何かあれですかね、戦争の最中には小説中に怪奇色を導入するのに不都合な理由でも有ったのでしょうかね、再び怪奇色を入れてくるのと戦争の終結とがリンクしてますもんね

そういう流れからすると、「緑のカプセル」は怪奇色の薄い普通の本格っぽい傾向が始まった頃の作だと言えよう
そういう意味からすると、「緑のカプセル」はカーらしくない作ではある
一方で限定された状況設定での不可能性は強烈で、その点ではいかにもカーらしいとも言える
要するにさ、カーという作家に雰囲気や演出とかそういった要素まで求めるような読者には正直物足りなさは有るんだよね
逆にパズル要素や不可能興味しか求めずに、極論言えば雰囲気や演出を邪魔だと考えるようなタイプの読者にはぴったり合う作である
同作者中で他の作に比して、「緑のカプセル」の評価がかなり高い読者は後者のタイプなのだと思う

No.10 4点 髑髏城- ジョン・ディクスン・カー 2015/12/02 09:57
先日に創元文庫から「髑髏城」の新訳版が刊行された、初期のバンコランもののシリーズ第3作目である、藤原編集室の企画のようだ
旧訳は古かったからね、新訳も遅かったくらいで当然でしょうね
シリーズ全5作の内、バンコランもので既読なのは第1~3作目までだけなので、私の書評はアテにならないんだけどね(苦笑)

髑髏城ってのはそういう形状の城ってだけで、雰囲気の盛り上げに寄与している以外は謎解き上の重要な意味は無い
その代わりベタなくらい所謂本格のガジェット満載で、いかにも二階堂とかが好きそうな舞台設定だぁ(大笑)
パリ、ロンドンといった都市が舞台だった前2作から大きく舞台設定を変えた
しかし私はクローズドサークルとか館ものが嫌いな性格で、こうした人里離れた怪しげな館みたいなタイプの舞台設定に全く興味を惹かれない読者なので、はっきり言って私には「髑髏城」に舞台設定上の加点要素は一切無い、いやむしろ原点対象(笑)
本格派的視点で見ても真相はつまらないし、何より大らかさとユーモアの欠片も無いのがカーらしくない

とこう書くと駄作みたいな評価なんだが、好意的に見るとこの作品、カーが大好きだった冒険ロマン精神は発揮されているんじゃないかなぁ
本格派として見たら駄作だが、例えば真相の一部などは世界大ロマン全集だよな(中笑)
ライバルのドイツ側の探偵役アルンハイム男爵の登場も、もしこれがフェル博士ものだったらあまり効果的とは思えないが、バンコランなのでまぁいいんじゃないかな、逆に男爵が居なかったらそれこそつまらない普通の本格になってただろうし
フェル博士の名を出したついでに言うと、「夜歩く」や「絞首台の謎」などはフェル博士ものでも通用した話なので、冒険ロマンだと割り切れば「髑髏城」はバンコランで合っているのかも
ドタバタも特徴の1つではあるカーだが、フェル博士もので冒険ロマン風の話をやるとちょっとチグハグ感が有るんだよね

まぁそんなわけで、本格派としては3点、冒険ロマンだと割り切れば5~6点、間を取って4点にした次第
雰囲気作りなどははいかにもなカーなのだけれど、総合的見地だとカーらしいんだからしくないんだか判断に迷う(小笑)

No.9 6点 喉切り隊長- ジョン・ディクスン・カー 2015/08/03 09:58
予定では本日3日に扶桑社文庫から、シェリー・ディクスン・カー「ザ・リッパー」が刊行されるらしい、文庫で上・下2巻のちょっと大作っぽいようだ
さてシェリー・ディクスン・カーという名前でもうお分かりのように、カーの孫娘なのである
内容的には切り裂きジャックテーマの一種の歴史ミステリーなのも祖父を髣髴とさせるではないか

カーは晩年には歴史ものに傾倒していたのは皆様御存知でしょう、ただ私は「ビロードの悪魔」はじめカーの歴史ものは殆ど未読で、唯一既読だったが「喉切り隊長」である
一応当サイトのジャンル投票では歴史ミステリーに投票したが、歴史ものという観点を離れて見れば、これはまんま”冒険スパイスリラー”である
当サイトでのTetchyさんの御書評が過不足なく言い表されておられるので、私が付け加える要素は殆ど無いのですが(苦笑)、弱点ポイントの御指摘も同感
一部の紹介文に、”刺客を放った黒幕は誰か?”とか”徘徊する喉切り隊長の正体は?”とか、本格派的興味を煽る文句が散見されるが、そういう期待で読んではいけない
刺客を放った黒幕なんて凡そ推測出来てしまうレベルだし、そもそも謎解き的興味で話は進行しない
カーは本質的には冒険ロマン志向の作家だと思うが、歴史上に舞台を移す事で、水を得た魚のように冒険ロマン精神が全開になったのだろう、まさにノンストップフルパワー、作者の楽しんで書いている姿が目に浮かぶようではないか

No.8 2点 テニスコートの謎- ジョン・ディクスン・カー 2014/07/22 09:56
創元文庫からディクスン・カー「テニスコートの謎」の新訳版「テニスコートの殺人」が刊行された、予定では本日刊行だったはずだが早まったみたいだね、創元で着々と進められているカー新訳切り替えの一環だろう

舞台は雨上がりのテニスコートだが、密室もののヴァリエーションとして実質的には”雪上の足跡テーマ”の部類だろう
本格派の価値はトリックの巧拙だけで決まるものではないのだが、でもこのトリックはなぁ
完璧に見抜いたわけではないが、大体こんな感じのトリックなのでは?と予想してたら、まぁそんな感じだった、真犯人もカーの癖に慣れているので当てちゃったし
実は久生十蘭に殺害方法が似た某短編があって、短編ネタではあるのだが十蘭の某短編トリックの方が切れ味とユニークな面白さを感じるのは私だけ?
もちろんトリックだけで評価が決まるわけじゃないけど、じゃあトリック以外にカーらしい見所が有るかというと、オカルト風味も無く物語的にも平坦
カーには結果的には失敗作だが当初の狙いとアイデア自体は決して悪くないという作も時々有るのだが、「テニスコート」の場合は結局何が狙いなんだかもよく分からんし、狙いがトリックだとしたらショボいし、要するに全てに面白くない駄作にしか思えないのであった

No.7 9点 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー 2014/07/11 09:54
昨日10日に早川文庫から「火刑法廷」に続いて加賀山卓郎訳による「三つの棺」の新訳版が刊行された、未だ立ち読みしてないので例の誤訳とかどう改善しているのか気になるところだ
「三つの棺」は既に書評済だが今回の新訳版刊行に合わせて一旦削除して再登録

カー作品は一部の有名作しか読んでいないが、私が読んだ範囲内での最高傑作は「三つの棺」である
当サイト以外でも世に数あるネット上の書評を閲覧して感じるのは、案外と評価が低いなという点と、ポイントがズレてる印象
思うにその最大原因は、この作品が”密室もの”という前宣伝につられて読まれてる傾向がある事で、密室という観点で読んだらピンとこなかったという理由が多いようだ
まだ初心者の頃に読了してすぐに感じたのは、これは”密室”が肝ではないのではないかという事、今でもその考えは変わらない
はっきり言ってしまうぞ、この作品の本質はずばり”叙述トリック”だ
いや~、カーって時々やるんですよ叙述!、例えば「貴婦人として死す」とか
「貴婦人として死す」は誰が読んでもいかにも叙述トリックなんだけど、「三つの棺」はあからさまじゃないから分り難い、でもこれやはり”叙述”ですよ、読者を狙い撃ちにしたね
これは最初から”読者に○○を錯覚させる”のが最大の狙いだと思う
つまり第1の密室事件の方が脇役で、だってあのアイテム使った視覚的奇術トリックなんて陳腐だしさ
でもあんな陳腐なトリック使ったのも仕方が無い、だって第1の事件がないと全体の構成が成立しないからね
当サイトでもE-BANKERさんが指摘されておられる、”密室より一種のアリバイトリックの方が素晴らしい”という御意見は本質を突いておられると思う
それと有名な”密室講義”の章だが、これはおまけ、省略してもいい
大体さぁ~、この密室講義の内容って案外と体系的には分類整理されて無くってさ、思い付いたまま羅列したような印象なんだよな
決して”密室講義”の章があるからこそ作品全体の価値が有るという風には思わない
敢えてこの章を挿入したのは、謎の仕掛けに対し、わざとらしいとか人工的や御都合主義だとかという非難が出る前に釘をさしておいたというところでしょう
今の読者って、社会派的要素を嫌い隔離された館とか孤島とかやたらと人工的な舞台設定を好むくせに、トリックや謎の仕掛けに対してはやれ非現実的だとか有り得ないとか非難する傾向があるが、私は矛盾を感じるなぁ
「三つの棺」について、人工的とか非現実的とかの非難は私は的外れに感じる、これは最初から人工的な仕掛けの極致を狙った作品だと思うから
大体ねえ私の長年のミステリー読者としての経験からすると、この作品に対して御都合主義という語句しか出てこなかったり極端に低く評価する読者にロクな奴は居ないという印象は有る

”仕掛けの為の仕掛け”に陥った作品は本来は私の嗜好からは外れているのだが、仕掛けやアイデアそのものが優れている場合は高評価する事にしている、例えばレオ・ブルース「ロープとリングの事件」とかクリスティ「葬儀を終えて」とか
「三つの棺」も、深みのある人物描写や人間ドラマなど全く無い仕掛けだけの作品だが、このアイデアに関しては高評価せざるを得ない、当サイトでの空さんの10点評価も分かります

No.6 5点 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー 2013/11/29 09:56
昨日28日に創元文庫からディクスン・カー「夜歩く」の新訳版が刊行された、藤原編集室絡みのようだ
創元では少し前にも同じ初期のバンコランもの「蝋人形館の殺人」が出ており、創元的には旧訳版が存在せず新訳と言うより初訳に近いものまで含めて、初期のカー作品の新版を揃えようという事なのかな、ついでだから「毒のたわむれ」なんかも頼むよ

さて「夜歩く」が作者のデビュー作にしてバンコランものの第1作ならば、シリーズ第2作目が「絞首台の謎」である
無理矢理オカルト的はったりを利かせた雰囲気重視な作風など基本的には「夜歩く」と大差ない感じ
私には世のネット書評では「絞首台の謎」の評価の低さに対し「夜歩く」の評価が相対的に高い感じがしてしまう
「夜歩く」に好意的な評価が多いのは作者のデビュー作という理由も有りそうでまた読まれる度合いも多いのだろう
「夜歩く」をあまり高くは評価してない私としては、まぁ五十歩百歩な感じなんだけどなぁ
ただし「絞首台の謎」の大きな弱点は、地理的あるいは舞台の視覚的なイメージが湧かない点で、それが謎解きの本質に関わっているので見取り図を添付し難かったであろう事情は察するものの、とにかく図面無しには訳分からん、てな印象はたしかに有るな

No.5 4点 死時計- ジョン・ディクスン・カー 2013/06/10 09:57
* 本日10日は”時の記念日”、そこで4作限定で私的読書テーマ”時計シリーズ”で行ってみようか、第1弾はカー「死時計」だ

「死時計」は1935年の作で、この頃は「黒死荘」「白い僧院」「三つの棺」「赤後家」などが書かれており、言わばカーの最も脂が乗っていた時期の作だと言えよう、それだけに「死時計」も作者の熱気と言うのかな、文章にも気合が感じられて微笑ましい
問題はその気合が空回りしいてるんだよなぁ
私は”駄作”と”失敗作というのは分けて考えている
”駄作”と言うのは、当初の狙い自体が良くないというか、作者の技量以前に基本アイデアに拙さがあるものを指すと思う、つまりどう書いてもこのアイデアでは無理があるみたいな
一方の”失敗作”というのは、基本アイデア自体は悪くない、作者の狙いは良く分かるのだけど、作者の技量不足か、あるいはテクニックは有るんだけど惜しいところで的を外したみたいな、一歩違えば名作にも成り得たのに見事に失敗したみたいな作を言うと私的に解釈している
この「死時計」はまさに偉大な失敗作なんじゃないかなぁ
気持ちは分かるんだよね、真犯人の設定、動機、ミスディレクション等々、やろうとした事は理解出来るんだけど、やはり書き方が拙かったんじゃないかと
最大の欠点は、この謎の提示の仕方では一種の犯人の不可能性が全く効果を挙げていない点で、読者は何が謎のポイントなのかを把握し難い、これでは謎が解かれても驚きを感じ得ない
もちろん評価出来る面も有って、例えば最近起きた百貨店での盗難事件の扱いなどは流石に上手さを感じさせる
しかしメインの謎がどういう意味なのか読者に分からないのでは効果も半減だ
やはり最盛期に惜しいところでミスった失敗作以外に適切な評価が見当たらない

No.4 4点 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー 2012/12/20 09:55
本日20日に創元文庫からカー「曲った蝶番」の新訳版が刊行される、創元ではクイーンなどと同様にカーも新訳版への移行を着実に進めておりその一環
一方の早川書房は「三つの棺」の新訳をやる気無いのかな、どうする早川?
* 「曲った蝶番」は以前に書評済だけど一旦削除して再登録

以前からある傾向がある事に気付いていたのだが、カー作品で「曲がった蝶番」の評価が高い人ほど「三つの棺」の評価が低い傾向があって、この両作どうやら反比例の相関関係が有るようだ
私は「三つの棺」を極めて高く評価していてその理由は書評時の機会に譲るが、言わば反比例するように私は「曲がった蝶番」をあまり高くは買わない
「曲がった蝶番」はカー作品中でも物語性が豊かという意見が多いが、終盤の過去の経緯の章を除くと物語性が豊かと言うより色々な出来事がゴチャゴチャと繰り出されてるだけに思えるのだよな、なんか纏まりが悪いちゅうか
終盤のタイタニック号の件も、要するにドイル長編に見るように後半に動機に繋がる経緯を後付けした感じで、ホームズ長編の構成パターンを批判しながら「曲がった蝶番」を絶賛するというのは矛盾を感じる
舞台設定もお屋敷もの館もの風なんだが、私はCCや館ものという舞台設定に全く興味が無い読者なのでこの面でも魅力は感じなかった
あと特殊なトリックだが、まぁこれは読者側が推理出来るような代物で無いのは大目に見る、これはこれで別にいいのだが、トリックが説明されても”だから何?”みたいな感心するようなトリックじゃないしなぁ
私にとってはカーの最高傑作と言ったら、なんたって「三つの棺」なんである

No.3 6点 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー 2012/05/29 09:58
* とりあえず復旧再登録(^_^;) *
先日に創元文庫から「皇帝のかぎ煙草入れ」の新訳版が刊行された
別段旧訳に問題が有ったという話は聞いたこと無いから、何でここで焦って新訳版を出す意味が有るのか疑問だが、創元は7月にも「黒死荘の殺人」の新訳版が予定されており、ここ数年でカー作品の新訳切り替え時なのかも知れん

ところで当サイトでのカー作品での書評数を調べると上位は現時点でこうなる

「皇帝のかぎ煙草入れ」 ・・・ 21人
「三つの棺」 ・・・ 16人
「火刑法廷」 ・・・ 14人
「ユダの窓」 ・・・ 12人
以下は1桁台

なんと「かぎ煙草入れ」が圧倒的な書評数なのである
必ずしも書評数と実際に読まれている度合いが比例しているかは不明だが、まぁ多く読まれているのは間違いないだろう
推測だが「かぎ煙草入れ」が人気作なのは、カー作品にしては癖が無いのでカー入門書として選ばれ易いという理由が有るのではないだろうか
しかも癖が無いからといって、単に無難に纏まっています、というわけでもなく、それなりに見事な技巧が施されており、入門し易く名作であるという要素を兼ね備えている
「三つの棺」や「火刑法廷」ではどう見ても初心者向きじゃ無いもんなぁ、一方「ユダの窓」の場合は初心者向きではあるけれどカーという作家の特徴を知るという目的には向かない異色作だしね
まぁそれ言うと「かぎ煙草入れ」もカー得意のオカルト趣味が希薄だったりと、カー本来の持ち味が出ているわけじゃないんだけどね
ただ全編法廷シーンで押し通すカーにしては特異なプロットの「ユダの窓」よりは、「かぎ煙草入れ」の方が普通の本格な分だけより万人向きだとは言えるだろう

No.2 5点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2012/03/22 09:59
本日22日に創元文庫からカーのバンコランものの初期作品「蝋人形館の殺人」が発売となる
あぁ新訳復刊ね、と単純に思った貴方は早とちり、と言うのも創元としては”復刊”では無いからだ
そこでバンコラン登場全5作品を整理してみよう

「夜歩く」(1930)舞台はパリ、創元、早川etc
「絞首台の謎」(1931)舞台はロンドン、創元etc
「髑髏城」(1931)舞台はライン河畔、創元
「蝋人形館の殺人」(1932)舞台はパリ、早川PM
「四つの凶器」(1937)舞台はパリ、早川PM

以上の5作しか無いが面白い事に気付く
まず最後の「四つの凶器」は刊行年が間が開いており、既にフェル博士が軌道に乗ってきてからの作だ
さらにバンコランはフランス人探偵なのに舞台は意外と国際的
そして「夜歩く」だけは創元と早川の両社版が有るが、2作目と3作目は創元版は有っても早川版が無く(2社以外の版は除いて)、逆に4作目と5作目はポケミス版は有っても創元版がこれまで存在しなかった
そう、つまり創元文庫が「蝋人形館」を手掛けるのは実は初めての事なんである
まぁポケミス版「蝋人形館」は以前に復刊はされたものの訳が古かったからね、この調子で入手難の初期ノンシリーズ作「毒のたわむれ」なんかも新訳頼むよ

2作目3作目と舞台が転々とした後、「蝋人形館」では「夜歩く」以来再びパリに舞台は戻った
その「夜歩く」だが作者のデビュー作で、文章などにも作者の意気込みは伝わる
ただ語り手ジェフ・マールの存在感が希薄だったりフランス人探偵だったり怪しい雰囲気といい、何となくポーのデュパンをイメージしてしまって形式の古さを感じた
探偵役バンコランは悪魔的な風貌と性格は雰囲気出てるんだけど、結構饒舌な奴だよな、とにかく喋る喋る、案外と口調は軽いんだ(笑)
これがどうにもミスマッチで、謎解きがどうのなんて事よりも気になってしまう
フェル博士だとさ饒舌でも気にならないんだ(再笑)、作者がバンコランを見捨ててフェル博士に移行したのも分かるなぁ
「三つの棺」も当初はバンコランを想定してたという説も有るし、1937年になってから「四つの凶器」で復活させたのもどういう意図だったのだろうね

No.1 6点 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー 2011/08/25 09:52
本日25日に早川文庫から「火刑法廷 新訳版」が刊行される
訳が古かった他のカー作品も新訳に切り替えられるのだろうか

さて「火刑法廷」と言えばカーの代表作みたいに語られてきた
と同時に賛否両論好き嫌いが分かれる作だろうともよく言われてきた
何故好き嫌いが分かれるのか?、もちろんそれはあのラストを容認出来るかどうかにかかっているからと考える人が多数だろう
あのどんでん返しのラストが気にならない読者は高く評価するし、気に入らない読者は低めの評価がこれまでなされてきた
曖昧な終わり方に対し”そういうのも有りだ”と寛容な人は高めの評価、何事も100%全部説明されないと気が済まない性格の人は低めの評価なんだろうね

さて私はと言うと全く別の観点での考え方を持っているのである
私は全てが解明されないと気が済まないタイプの読者では無くて、『異色作家短篇集』なども愛読しているように曖昧な終わり方など気にならないし全く平気
そこで他の書評者から疑問が出てこよう、即ち、”じゃあ、何でお前の採点は低いんだ?、あのラストが許容出来るのなら評価が高くてもいいじゃないか?”と・・
はいごもっとも、私はあのラストは好きだし全然平気、じゃあ何故点数が低いのか?
私の採点が低いのは、あのラストが気に入らないのが理由じゃなくて、それまでの普通の本格としての部分があまり大した作品とは思えないからなのだ
バレバレの死体消失トリック然り、ラスト以外の部分に何か特筆するべき要素があまり感じられない
ただしラストのどんでん返しに関するテクニックは流石はカーと言える高水準で、あのラストだけなら8点、普通の本格としての部分が4点、で両者の間を取って6点とした次第

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