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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 恐怖の島 冒険家ジム・メイトランド |
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サッパー | 出版月: 2014年06月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
論創社 2014年06月 |
No.1 | 6点 | mini | 2014/08/04 09:59 |
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英国工兵隊将校のハーマン・シリル・マクニールは第一次大戦中から人気作家だったが、当時は現役軍人が本名で小説を書く事は禁止されていたので、トレンチでは無い塹壕(サップ)を掘る工兵の通称であるサッパーの筆名を使用した
サッパーは冒険スリラー小説の書き手として当時の人気作家であり、もっと早くまともな紹介がなされていてもおかしくなかった作家である 実は私はサッパーの歴史的位置を今まで間違えて捉えていた、1910年代の古典的スリラー小説作家達、E・ウォーレスやオップンハイム等と同期だと思い込んでいたのである ところがサッパーを代表するシリーズ、退役軍人ブルドッグ・ドラモンドのシリーズ第1作目がそもそも第1次大戦終結後の1920年であり、この「恐怖の島」に至っては本格黄金時代の真っ只中1930年(31年説も有り)の作なのである、ちょっと驚いた つまりサッパーは本格派全盛期の中で冒険スリラーを書き続けた作家だったのである、そして書かれた年代が内容にも影響していると思われる 正直言って「恐怖の島」の宝島での宝探しという基本設定自体が古臭い、全体に1910年代のスリラー小説を引き摺っている感じだ ネット上の評価で「宝島」の方が上という意見が有ったが、いや「宝島」と比較しちゃいかんよ(笑) 当サイトでは冒険小説とスリラーとは同ジャンルに分類投票するシステムになっているが、仮に冒険小説とスリラー小説とを区別して考えてみよう そうするとこの「恐怖の島」は7対3位の比率でスリラー小説の要素の方が多い、島に上陸してからの冒険小説的部分は後半の3分の1程度で、王道の冒険小説を愛するタイプの読者が読んだら物足りなく感じるに違いない 全体に人対大自然ではなく、人対人同士の腹の探りあい裏のかき合いに終始するスタイルは、サッパーってやはり根はスリラー作家なんだろうな 私の受ける印象では、第一次大戦前のスリラー小説の流行と第二次大戦後の冒険小説ブームとの過渡期的な中途半端さを感じる、まぁ良く言えば1粒で2度美味しいとも言えるが それとこれは明らかな欠点だと思うのだが、英国人から見た南米の人々に対する見下した気持ちが滲み出ているのが鼻に付く ただし小説としては面白く読めるし上手い作家だと思う。サッパーはきっと根っからのエンターテイナーなんだろう ところで各出版社の皆様、「ブルドッグ・ドラモンド」の新訳を出してもいい頃なんじゃないでしょうか |