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[ その他 ] 裸舞&裸婦 於符 真&贋 狩久全集第六巻 |
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狩久 | 出版月: 不明 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
No.1 | 8点 | おっさん | 2014/03/11 14:43 |
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2013年に、東北の皆進社から一挙刊行された<狩久全集>、その最終巻にあたるのが、小説やエッセイ類の未発表原稿をまとめた本書です。
収録作は、順に以下の通り(小説に#を付しました)。 #1.裸舞&裸婦 音符 真&贋 #2.墓周(構想中のストーリーの断片) #3.尺取虫の歌(同上) 4.推測と記憶に基く或るうしろむきの回想(未完の自伝の冒頭) 5.甲虫の歌(少年時代のエピソード) #6.逆転(未完) #7.火星人Q(同上) 8.≪不必要な犯罪≫に関するメモ 9.麻耶子考(1の一部に転用) 10.独断と偏見に基く硬派探偵小説私観(同上) 11.日記 作者の没後、三十年以上にわたって、その存在の有無が取り沙汰されてきた、幻の“第二長編”が編者・佐々木重喜氏の手で発掘され、巻頭に置かれていますが、この『裸舞&裸婦 於符 真&贋作』(らぶ&らふ おぶ きゅう&ナイン)は、厳密には“連作短編集”です。 狩久の死亡パーティに家族や友人たちが集められ、そこで故人(?)の奇妙な二人一役説が語られる、第一部「らいふ&です・おぶ・Q&ナイン」は、基本的に、単発の短編として発表されたものと同一です。 そして、狩久の生死が不明のまま進行する第二部「らぶ&らすと・おぶ・Q&ナイン」ではさきのパートに登場した、金髪の黒人女性が暗躍します。書店で客に、強引に狩久の本を薦める“彼女”の正体とは・・・? 第三部「ばあす&みす・おぶ・Q&ナイン」では、珍妙な手段でまたぞろホテルの一室に集められた関係者を、狩久の小説に魅せられた“宇宙人”が、TVのモニターごしに調査します。なんでも狩久の生い立ちをさぐり、小説作法の秘密に迫ろうということらしいのですが・・・ 第四部「ふぃにっしゅ&う゛ぁにっしゅ・おぶ・Q&ナイン」では、一連の「Q&ナイン」シリーズで作中人物のモデルにされた、編集長(島崎○)と小説家(梶○雄)が、狩久にはた迷惑なシリーズをやめさせるべく協議し、一計を案じます。しかし、それを受けて事態は予想外の方向へ・・・ 最後の第五部「とおく&じょおく・あらうんどQ&ナイン」は、狩久が司会者になっておこなう、作中人物たちの座談会です。そこで、探偵小説の本質は“奇想”だと力説する狩久。どうやらこの作者、「Q&ナイン」シリーズを、完全に探偵小説のつもりで書いたらしいのですが・・・ リアル島崎博氏w は明言を避けていますが・・・これは限りなくボツ原稿の匂いがする。出してあげたいけど商業出版では無理、という判断で、結局お蔵入りしたのではないかな。 作者の思惑はともかく、これを探偵小説として考えず、普通にユーモア小説として受けとめれば、話術はたくみで、退屈はしません。 しかし、あまりに“世界”が狭く、自己愛が強すぎる。 おそらく、短編「らいふ&です――」は、15節のラストで終えるべきだったのでしょう。宇宙人が登場する16節は、本来、蛇足。 でも、その小手先のどんでん返し(もしかして・・・カーの『火刑法廷』を意識したか?)に、作者が淫してしまった。アレをどう発展させるか――というベクトルへ走りはじめてしまったのですね。 そのエネルギーを、残された時間を、亜久子・研吉ものの新作に向けてくれていたら・・・と痛切に思います。 でも。 単体での評価が難しい、そんな怪作も、個人全集のこの位置に置かれ、「日記」と対置されることで、ファンや研究者には、作者理解のための必読の文献になっていることは、間違いありません。 そして、巻末に配された、昭和五十年代の「日記」こそが、私小説風探偵作家と呼ばれた狩久の、まさに白鳥の歌ともいうべき“傑作”なのです。 健康面の不安、生活の苦しさ、それをかかえながら、それでも書くことの喜び、みなぎる自信、激しい失意――軌道修正しながら、新たな目標を定め、人生を悔いないものにしようとする決意。 読んでいて、胸が痛くなりました。かえりみて、自分のなんと怠惰なことよ。 鮎川哲也をめぐるエピソードなど、ここでしか読めない裏話もあって、ミステリ・ファンなら興味津々、というのも勿論ですが、それ以上に、(プロ・アマを問わず)モノを書くという業にとりつかれた人間なら、これは・・・来るものがありますよ。 かくして、日記で構成された「氷山」に始まった<狩久全集>は、作者自身の「日記」で見事に円環を閉じました。 編集にあたられた佐々木氏、そしてこの企画の成立に携わったすべての関係者に、惜しみない拍手をおくります。 パーフェクトな全集でした。 で、と。 <狩久全集>は全六巻ですが、セット販売は全七冊なんですね。あと一冊は何かって? 狩久夫人の著作をまとめた『四季桂子全集』(全一巻)です。ここまできたら、読むしかないですねwww |