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壁の中 狩久全集第三巻
狩久 出版月: 不明 平均: 6.00点 書評数: 1件

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No.1 6点 おっさん 2013/06/25 17:01
全六巻よりなる、皆進社の<狩久全集>、そのちょうどなかばにあたる本書には、作者が昭和三十一年から三十三年にかけて、商業誌に発表した二十六の短編作品と、同人誌に寄せた一本のエッセイがまとめられています。

前者は――1.原稿魔 2.アミーバになった女 3.孤独 4.見知らぬ恋人 5.海から来た女 6.壁の中 7.赤いネクタイ 8.見えない狙撃者 9.窓から 10.写真を配る男 11.安息の果実 12.奇妙な夜 13.或る情死 14.悪魔の囁き 15.狙われた女 16.偸まれた一日 17.腕のある絨毯 18.不思議な椅子の物語 19.なまめかしい依頼者 20.脅迫記 21.完全な殺人計画 22.夜を偸む女 23.キッス・マークにご用心! 24.ぬうど・だんさあ物語 25.その女を抱け 26.吸血の部屋

後者にあたる、「活版印刷の決定まで」は、結果として、狩久が東京支部の主力メンバーとして牽引してきた『密室』誌に寄せた、彼の最後の文章になりました。
先にナンバリングした、この時期の小説作品の発表舞台に、なぜかデビュー以来の付き合いである『宝石』(業界内のステイタスは高いが、業績悪化による原稿料不払いが恒常化していた)の名前が無いことと合わせて、巻末の解説(塚田よしと)では「(・・・)経済的な事情から、稼げることが確実な媒体に専念せざるを得なくなっ」ていった、「背水の陣の狩久像」がイメージされています。

作者のプライベートに関する憶測はさておき、探偵小説の“鬼”以外にもアピールするため、狩久が従来以上にいろいろなタイプの短編を書いた――トリックを中心とした謎解きものはもちろんのこと、怪談、ファンタジー、性愛小説、コメディ・タッチの戯曲や翻訳を装ったハードボイルドなんてものまで書いた――その軌跡を一望できる巻になっていることは間違いありません。
編みかた次第では、『狩久ひとり雑誌』が出来そうな本ですw
ちなみに、本格中心にセレクトされた、論創社の『狩久探偵小説選』との重複は無し、「セックスの匂いの強い」作者の自選集『妖しい花粉』(あまとりあ社)収録作は、5、10、14、18です。

表題作は、かつて「壁の中の女」として、鮎川哲也編『怪奇探偵小説集〔続々〕』(双葉社)に採られた、病床の青年と正体不明の黒衣の女をめぐる、恋愛怪談。悪い作ではありませんが、最終節のタネアカシが必ずしも明晰ではなく、そこで文章のリズムまで乱れているような気がして、じつは筆者の評価は、もうひとつです。
オチのあるファンタジー(?)なら、恋人と喧嘩して車にはねられた女性が、彼の目前でふたつに分裂してしまう騒動記「アミーバになった女」なんかのほうが、好みなんだよなあ。

アンソロジー等には、真面目で重い“代表作”が採られがちな狩久ですが、一転、軽く遊んだときのこの人の良さは、もっと知られてよいですね。
今回、別枠でオマケとして収録された、未発表原稿による「素人ラジオ探偵局 紛くなった切手」(編者・佐々木重喜氏の「解題」によると、NHKラジオの「素人ラジオ探偵局」用に書かれた、放送台本の可能性が高いようです)などは、“日常の謎”をあつかったコミカルなパズラーで、まことに楽しい。

さて。
解説では、集中のベストとして「海から来た女」(「読者の脳裏に“真相”を焼きつける構成の妙」)、「写真を配る男」(「懐かしの江戸川乱歩を彷彿させる語りくち」)、「夜を偸む女」(「官能ミステリの佳編」)あたりが推されています。
構成と話術を重視したチョイスで、そのへん筆者も異論はありませんが、第一巻、第二巻の「落石」「摩耶子」あたりの、他を圧するような清新な傑作ぶり(ある意味、アマチュアの渾身の作)とは違って、円熟期のプロの仕事の好見本、といったところですね。

“多作”の無理が響いたか、特に後半、イタタタタ、作者大丈夫? と感じるお話が無いではありませんが、好プレーばかりではなく、そうした珍プレーも含めて、狩久ファンなら読後感を語り合って楽しめるクロニクルです。


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