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麻耶子 狩久全集第二巻
狩久 出版月: 不明 平均: 7.00点 書評数: 1件

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No.1 7点 おっさん 2013/04/26 17:21
<狩久全集>(皆進社)の第二巻には、作者の、昭和二十九年から三十年にかけての成果がまとめられています。
編年体の収録作を、まず小説とエッセイその他に分けてナンバリングしておきましょう。

前者は――1.炎を求めて 2.誕生日の贈物 3.鉄の扉 4.女よ眠れ 5.煙草幻想 6.ジュピター殺人事件(藤雪夫、鮎川哲也の連作担当分も収録)7.十二時間の恋人 8.悠子の海水着 9.煙草と女 10.紙幣束 11.なおみの幸運 12.石(昭和二十九年度版) 13.記憶の中の女 14.或る実験 15.あけみ夫人の不機嫌 16.クリスマス・プレゼント 17.ゆきずりの女 18.ぬうど・ふぉと物語 19.麻矢子の死 20.そして二人は死んだ 21.十年目 22.学者の足 23.麻耶子 24.花粉と毒薬 25.銀座四丁目午後二時三十分 26.黒衣夫人 27.呼ぶと逃げる犬 28.砂の上 29.蜜月の果実 30.白い犬

後者は――31.編集後記(「密室」第十二号) 32.匿名小説合評 33.微小作者の弁 34.〔アンケート回答〕 35.編集後記(「密室」第十三号) 36.探偵小説のエプロン・スティジ 37.編集後記(「密室」第十四号) 38.匿された本質 39.後記(「密室」第十五号) 40.後記(「密室」第十六号) 41.詩人・科学者・常識人 42.対談「圷家殺人事件」 43.酷暑冗言 44.うしろむき序説 45.編集後記(「うしろむき」第一号) 46.編集後記(「うしろむき」第二号)

今回、オマケとして収録されているのは、「初稿版・麻矢子の死」(内容に関しては後述)の、直筆原稿30枚の、写真による復刻です。
なお、論創社『狩久探偵小説選』との重複は、27、33、38、43。作者生前唯一の短編集『妖しい花粉』(あまとりあ社)収録作は、5、23、24、28です。

アンカーをつとめた連作中編の本格もの(6)やユーモア仕立ての密室パズル(27)から、コントと称された、いまでいうショート・ショート(2、7、8、10~13、16、17、21、22、25、30)まで、解説(廣澤吉泰)で指摘されているように、「自由闊達さ」に溢れたさまざまな傾向の作品を、作者は商業誌・同人誌に発表しています。
そんななか。
探偵小説専門誌に発表されながら、探偵小説のモノサシではかりきれない、狩久が愛と性、生と死をモチーフにして、自身の人間観を結晶化したような、ブンガクという表現がおおげさなら、ジャンル・狩久とでもいうべき小説が目につくようになってきます。
テーマと“探偵小説”の折り合いがうまくつかず、いちじるしくバランスを崩した「或る実験」のような失敗作もありますが、ナイーブな少年の復讐譚に帰結する「鉄の扉」や、「その女を、僕が犯して殺したのです」という幕切れの主人公の告白とはまったく裏腹な、悲恋の物語に昇華した表題作「麻耶子」などは、この作者にしか書けない小宇宙を形成し、傑作といっていい出来になっています。
ちなみにこの 23.「麻耶子」(『宝石』昭和三十年六月号)は、当初「麻矢子の死」として『探偵実話』用に書かれたものの、地味であるとされ同誌でボツになった「初稿」(今回、オマケとして復刻されています)にもとづく作品。『探偵実話』には、ヒロインの死にかたをひねった、別作の 19.「麻矢子の死」(マギラワシイネ)が発表されています。

“性”を切り口に人間を描く、という試みは、しかし通俗化と紙一重で、実際このあとになるとブンガク性は後退し、ただのエロミスが増えてくるわけですがw
それでも、男に犯され夫を殺された女が、犯人をさぐるため、容疑者を次々に誘惑しその反応(また自分を犯そうとするかどうか)を見ていく「花粉と毒薬」の結末のつけかた――スタンリイ・エリンの影響かと思いきや、エリンが訳されるまえの作品でした――や、海辺で女を犯した男を、残酷な陥穽が待つ「砂の上」(筆者のお気に入り)の対比的な構成には、捨てがたい味があります。

いや、おっさんと違って、「セックスの匂いの強い」作品群はちょっと・・・という向きには、神と探偵作家の対話というユニークなプロローグを配し、倒叙ふうの偽装自殺工作のシニカルな顛末を描いた、「そして二人は死んだ」をお薦めしておきましょう。
本書が単行本初収録。素材の一部に、現在では「不適切」と見なされる要素があるため、今後とも商業出版物への再録は難しいと思われる佳品です。


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