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[ 本格/新本格 ]
SINKER 沈むもの
平山夢明 出版月: 1996年06月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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徳間書店
1996年06月

No.2 6点 ぷちレコード 2023/04/15 22:26
幼女を冷酷無残に切り刻む連続殺人事件が発生。捜査に窮した警察庁警備局は、児童殺害容疑で収監中の天才心理学者プゾーの助言を得ようとする。その見返りは、他人の意識に「沈む」ことで、その身体を操る超能力者ビトーを、プゾーと接触させることだった。
「羊たちの沈黙」をサイコ・ダイビング風にひと捻りしたような設定だが、さすがその道のエキスパートの手になるだけあって、細部にわたる猟奇的蘊蓄が半端じゃない。人間とはかくも残虐になれるものか、と暗澹たる思いに駆られるようなエピソードが詰め込まれているのだ。何よりも恐ろしいのは、それらの多くに紛れもない現実的裏付けがあることだろう。

No.1 6点 人並由真 2019/07/26 04:23
(ネタバレなし)
 20世紀の終盤に連続する少女誘拐殺人事件。同一犯の仕業と断定はできないものの、三人もの幼い体を残酷に損壊した邪悪な手口には共通感があった。捜査官のひとりで初老のキタガミ警部は有能な刑事ながら、大久保清事件を経て日本警察の現場に初期プロファイリング技術の導入を提案したことから当時の上層部に疎んじられ、冷や飯を食わされてきた身だった。キタガミは謎の殺人鬼と対決するため、今は都内の医療刑務所に収監される元児童心理学者の殺人誘拐犯「プゾー」こと藤尾逸馬教授のアドバイスを必要とする。だがプゾーはキタガミの請願に冷笑で応え、やむなくキタガミは人間の心に入り込む事のできる「SINKER(沈む者)」と呼ばれる超能力者の青年「ビトー」こと吉沢敦志に協力を依頼。SINKERが対象者から精神汚染される危険を承知の上で、ビトーにプゾーの接触を望む。だがそんな間にも謎の誘拐殺人魔は、さらに次の標的へと手を伸ばしていた。

 平山作品(長編小説の実作)は初読。新作映画『ダイナー』が話題なのでその原作を読んでも良かったが、たまたま先日のヤフオクで本作『SINKER』が20000円だの25000円(帯付きなら)だのと信じられない価格で落札されているのを認めて、興味が湧いて借りて読んでみた(Amazonでも現在、出品者ひとりだからあまり客観性はないものの、それでも約30000円のお値段!)。
 なんでもこれが作者の処女長編(フィクションとして)だったというし。
 
 でまあ、感想だが、いやまあ、とにかくいっきに半日で読み終えた。
 内容はあらすじの通り「わたしならこうリトールドする『羊たちの沈黙』」なのだが、これだけ具を足してあって味付けを濃くしてあれば、充分に独自性を誇ってもいいであろう(ちなみに評者は『羊たち~』は映画しか観てません。すみません)。
 本作の場合は、邪悪な敵を倒すため巨悪の力を借りるというおなじみの構図を利用する側からの二弾重ね(それも半ばSFティスト)にした工夫もさながら、初老主人公キタガミの抱える事情と内省、警察組織と公安部の軋轢や、被害者側のそれぞれの家庭に潜む暗い病巣など、新規のネタもたっぷり取りそろえている。
 あと終盤、一章ごとの文字数をどんどん減らしていき、読み手に気分的な加速感を与えるあたりなど実にあざといが、ある意味では映画的なカットバック手法の小説メディアへの的確な応用だし。
 ミステリの謎解き要素としては、え? これで終っていいの? というところも無きにしもあらずだが、もともと読者にそういう勝負を持ちかけていた作品じゃないし、文句には当たらない。巻を措く能わず熱に浮かされたように最後まで読まされたのは事実。
 あとまあどぎつさを極めるくらい残酷描写は出てくるが、意外に叙述が良い意味でドライで不快感や嫌悪感があまりないのは見事だね。弱者が惨殺される場面の連続ながら、良い感じに醒めた紙芝居的な感じで一貫していた。あえていうなら(中略)の部分は、いくらかなりとも辛かったけれど。

 平山作品に慣れ親しんだファンが初めて、あるいはまた改めて、読むのなら、また違う感触もあるのだろうとは思うけれど、一見の自分としてはそんな感じ。

【お願い】どなたかすでに本作をお読みで作品の内容を把握されている方、ジャンル投票に参加ねがって、本作の正しいジャンル分類の改訂にご協力願えますと幸いです。
 自分は(あれこれ迷った末に、かなり広義のハイブリッド性の高い)警察小説だと思いました。少なくとも絶対に「本格/新本格」ではないと思います(汗)。


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