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[ 短編集(分類不能) ]
お・それ・みを 怪奇探偵小説名作選(3)水谷準集
ちくま文庫
水谷準 出版月: 2002年04月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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筑摩書房
2002年04月

No.2 6点 クリスティ再読 2024/06/28 10:17
昔から水谷準の作品というと、アンソロで楽しませてもらっていたのだが、まとまった個人集としてあらためて読んでみた。このちくま文庫版なら、アンソロ定番作品ももれなく収録していて、懐かしい...となることもしばしば。どうやら著者は戦後の一時期が過ぎたら推理作家引退を決め込んで、作品集を出すことを拒んでいたと解説にある。まあそれでも、アンソロには収録され続けていたから、評者にも親しみがあったわけだ。驚くことに亡くなったのは、21世紀に入ってから(2001年)、晩年はゴルフに関する著作ばっかりだが、1990年代までゴルフの著述があるようだ。

でまあ、やはりアンソロによく収録される作品には、収録されるだけの理由があることもよくわかる。城昌幸と似たタイプの幻想・ユーモア・ロマンの短編作家だが、城ほどには高踏的な散文詩っぽさはなくて、モーリス・ルヴェル風の奇譚作家という立ち位置。初期なんてかなりルヴェルの影響が強いと思うよ。さらに城と同様に強いポオの影響が見えるが、怪奇色よりもロマン味が優るという持ち味。この路線での大成功作はいうまでもなく気球による成層圏の奥津城を描いた「お・それ・みお」。有名カンツォーネを取り合わせたことで味わいが深まっている。
そして「恋人を喰べる話」も死体処理ネタ(無花実で苦笑)でインパクトが強いし、ルヴェルの「或る精神異常者」を本歌取りした「空で唄う男の話」など、戦前の代表作というとこのロマンの味わいでインパクトのあるショートショート規模の作品が多い。アイデアストーリーが主戦場だ。
とはいえ、やや長い作品「胡桃園の青白き番人」はロマン路線の集大成。幼少期の記憶を重ね合わせたもので、意外なオチも備えているから、「ミステリ」と銘打ったらこの作品になるのかな。「司馬家崩壊」は形の上では王道ミステリになるけど、パロディ色が強くて、しかも雄大な暗号もの、という奇抜な話。かなり変なインパクトがある。

戦後となると一転して、微妙な心理主義の話になってくる。「ミステリ」に対するこだわりみたいなものは薄くて、心理主義ホラーといった方がいい作品も多い。愚連隊の決闘事件の意外な罠を描いてクラブ賞を得た「ある決闘」は、かなりミステリ色が強い方。事件としては弱いが、車椅子の観察者という魅力的な名探偵を作り出した「カナカナ姫」がミステリとしては一番いいのかなあ。「東方のビーナス」とか「魔女マレーザ」とかホラー幻想譚だしね。
一番長い「悪魔の誕生」も異常心理のリアリティは薄いけど、ストーリー・テラーとしての腕は楽しめる。そういえば詩人の「関昌平」って風貌からして城昌幸でしょう。

というわけで、長らくの宿題をし終わったような心持ち。断片的にしか触れてなかった作家について、全貌みたいに把握できて満足。

No.1 6点 蟷螂の斧 2016/04/12 22:04
大正11年(1922)から昭和28年(1953)までに発表された28篇。センチメンタルでロマンティックな雰囲気の作品が多く、大正・昭和という時代を感じさせてくれます。恋と死をテーマにしたものが多いですね。
お気に入りの作品。
①「恋人を喰べる話」(1926)・・・カニバリズムではありませんが、恋人を失った男の悲哀を描いた作品。
②「お・それ・みを」・・・墓場あらしがあり、遺体がなくなった。犯人は恋人で気球の研究者であった。ロマンティックな作品。
③「胡桃園の青白き番人」・・幼なじみの女の子をを洞窟に閉じ込め死亡させたと思い込む。17年間後、死んだはずの幼なじみは生きており、結婚し子供(女の子)もいる。男のとった行動は。サイコ風作品。
④「まがまがしい心」・・・自殺した彫刻家から、自宅に「心」と題する作品が届けられた。その理由が分からない。最後の一行的作品。


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