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[ 短編集(分類不能) ] 怪奇探偵小説名作選〈4〉佐藤春夫集-夢を築く人々 ちくま文庫 |
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| 佐藤春夫 | 出版月: 2002年05月 | 平均: 5.50点 | 書評数: 2件 |
![]() 筑摩書房 2002年05月 |
| No.2 | 6点 | クリスティ再読 | 2026/01/09 22:12 |
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| 江戸川乱歩登場以前から実は探偵小説って日本に存在していた。これって意外に見落としがちなことだけども、ポオとボードレールの紹介とホームズ人気が刺激になって、日本人作家の創作がいろいろなされていた。岡本綺堂の「半七捕物帖」も乱歩に先行するし、国枝史郎も「探偵小説」を標榜している。乱歩自身、谷崎潤一郎の「白昼鬼語」、村山槐多の「悪魔の舌」と並べて、佐藤春夫の「指紋」を「日本の最も優れた探偵小説」と述べていたりするのだ。
乱歩以前の探偵小説受容は、ポオ・ボードレールといった詩人経由という印象が強い。佐藤春夫も本質的には詩人だし、詩人にこそモダン都市に潜む浪漫耽美の世界として「探偵小説」というジャンルへの着目があったのだとも感じるのだ。だから佐藤春夫の小説処女作「西班牙犬の家」(1917)は明白にポオの影響下にある幻想小説と見ることができよう。解説によると「中央公論」の増刊号で探偵小説特集号が出たときに掲載されたのが、乱歩が名作として挙げた「指紋」(1918)である。これは阿片耽溺者が、長崎の阿片窟で遭遇した怪死事件にちなんで取得した金時計に残された指紋と、アメリカ映画で残された指紋との同一を巡って、病的な空想を繰り広げる話。かなり濃厚な幻想譚だが、主人公造形に「アッシャー家の崩壊」の透視的な探偵譚らしさを感じたりもするのだ。そりゃ乱歩が気に入るよ。 さらに「陳述」では青年医師と看護婦の確執から発作的な殺人に至る話。「オカアサン」は購入した鸚鵡が喋る言葉から、その鸚鵡が依然飼われていた家を想像する話。「日常の謎」的な推理譚でもあるが、三好達治の散文詩「鳥語」が「ワタシハヒトヲコロシタノダガ」と叫ぶ鸚鵡の話であるのを強く連想させる。三好のこの詩も十分すぎるくらいにミステリなんだよね(苦笑) そして「のんしゃらん記録」はディストピアSFで、諸星大二郎の「浸食惑星」っぽい設定。過剰人口を処理するために人間を植物に変える技術が開発され、主人公はバラになってしまうという、シュールな幻想譚に滑っていく。 戦後には「女人焚死」が、信州の山奥で見つかった女性の焼死体が自らを焼く自殺ではないか?という事件を扱っている。これ実話みたいだ。まさに猟奇事件というほかない。 猟奇的という文字は自分が curiosity hunting の訳語として造語したのが、いつの間にかこういう風に使われはじめたもので、最初そういう用法を予期しなかっただけに、それを見ると必ず腹立たしくなるのを禁じえない。 だそうだ。オリジネーターとは恐れ入りました。確かに継続的にミステリ的というべき作品を書いていることも間違いない。 |
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| No.1 | 5点 | 蟷螂の斧 | 2017/11/13 15:48 |
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| 裏表紙より~『谷崎潤一郎とともに探偵小説のジャンルも開拓し、のちに文壇の重鎮的存在となった佐藤春夫の、幻想美溢れる作品世界。初期の代表作「西班牙犬の家」、探偵小説の先駆けとなり谷崎が絶賛した「指紋」、新しい方法意識で小説世界の幅を広げた未来都市小説「のんしゃらん記録」の他「女人焚死」「女誡扇奇譚」など、幻想・耽美的作品を収録。また評論として「探偵小説評論」「探偵小説と芸術味」も収録。』~
探偵小説(的小説?)としては「指紋」「オカアサン」「「女人焚死」あたりか。「指紋」は1908年警視庁が指紋制度を採用、その10年後の作品です。当時としては新鮮な題材であったのかも。「オカアサン」(1926)は買い取ったインコの言葉だけから前の持ち主の生活を推理するもの。「九マイルは遠すぎる」のパターンを先取りしています。「女人焚死」は足を縛られた女性の焼死体が発見される。他殺か自殺かというもの。その他、全体的には幻想譚的な作品が多かった。ミステリーの歴史を知るには役立つと思います。次回は、江戸川乱歩氏の前の時代、明治から大正初期の作品集「文豪による探偵小説」を手にする予定。 |
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