皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
怪物 |
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ハリントン・ヘクスト | 出版月: 1956年01月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1956年01月 |
早川書房 1983年12月 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | 2019/10/26 15:26 |
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(ネタバレなし~中盤、勘のいい人、海外ミステリファンはちょっとだけ警戒)
その年の11月。英国のドーセット地方で、地主のマイクル・ベルハンガアが、彼の父の代に近所のリバーズ家の手に渡ってしまった地所で、もともとはベルハンガア家のものだった農地「血の畑」を買い戻そうと尽力していた。現在のリバーズ家の当主であるジョージ・リバーズは近場でホテル「青いピーター」を経営する頑固者。そして彼の息子の若者リチャードは、ベルハンガア家の美少女フィリスと熱愛関係にあり、その仲は少なくともマイクルの方は容認していた。やがてようやくリチャードが、マイクルの申し出る土地譲渡のための談合に応じることになり、二人は人目の少ない海の側の倉庫を打ち合わせの場に選ぶが、実はそこは半年前に土地の漁師の息子で6歳の少年ジャック・ノーマンが殺された死体が見つかった場所。しかも警察と招聘された私立探偵の懸命な捜査にもかかわらず、犯人はまだ不明なままだった。そしてその倉庫で、またも新たな殺人事件が……。 1925年の英国作品。イーデン・フィルポッツがハリントン・へクスト(ポケミス版の標記はハリングトン・ヘキスト)名義で書いた、フィルポッツとしては比較的初期の作品らしい。 大昔に買って放っといたポケミスが見つかったので、そのうち読もうとこのしばらく脇に置いておいて、この度ようやく読了。ちなみにこのポケミス版『怪物』。裏表紙は完全に作者ヘクスト(フィルポッツ)の経歴と評価の話題で埋められており、どんな物語か事件かもわからない。その辺もあってやや食いつきが悪かった。評者は読者としては、最低限の発端~序盤的なあらすじ、または物語設定の情報が事前に欲しいタイプの人間である(じゃないと作品に食いつく端緒も得られないので)。 ソレで本編だが、物語はリチャードとフィリス、若い恋人同士の恋模様の描写から始まるので、この二人が主役となって何かしらの事件に巻き込まれるスリラーかと思いきや、彼らは主要人物の一角には据えられながら、もう少し広角なカメラが捉える視界でストーリーは進行。意外に普通のパズラーっぽい作りになる。 中盤で、え? そんな趣向も出てくるの、という感じに結構、技の数は多い作品。その意味ではなかなか楽しめるクラシック作品なのだが、真犯人とさる殺人事件の動機に関しては当初から見え見え。 【以下、ごく曖昧に書くつもりだがネタバレの危険性あり】 というのも、フィルポッツ(ヘクスト)は、日本に紹介された作品の大半が総じて(中略)を主題にする作家で、しかも今回は(中略)からしてアレなので、その条件に合致して一番ミステリ的、ストーリー的に文芸的な効果を上げられそうな人物は……となると、もう物語の4分の1も読まないうちに、話の底がおおみね見えてしまう。 その意味では物語の求心力がいまひひとつ盛り上がらず、やや倦怠感を抱くところもあった(そしてその辺を相応に補ったのが、さすがクリスティーのお師匠さんらしい前述のストーリーテリングの上手さだが)。事件の真相が真犯人の述懐でほとんど明かされるのもパズラーとしてはナンだし、一方で例によってフィルポッツらしい(中略)テーマの文芸ミステリとして読むならば、犯人が心情吐露する部分はある意味で本作のクライマックスであり、そこそこの迫力はある。 【以上、ネタバレの危険性がある部分 おわり】 評点としては、あれやこれや勘案して、この程度。キライじゃないけれど、本作の肝心の主題が今となっては……の部分もあるし。 (その点じゃ、同じヘクスト名義の『テンプラー家の惨劇』なんか、すでにこの時代にコレをやっていたのか! と驚かされた、個人的には大好きな、ある意味で時代を超えた秀作なんだけどな。) |