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[ 短編集(分類不能) ] ストリンドベリ名作集 |
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| ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ | 出版月: 不明 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
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![]() 白水社 2011年05月 |
| No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2026/05/01 14:42 |
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| 懸案で取り上げたかった作家。今でこそ新劇でかろうじて「令嬢ジュリー」が上演される程度で「忘れられた作家」に近い人だけど、ダークな心理劇というかなかなか業が深くて「新青年」趣味に近い面があるから。いっぺんここで紹介して見たかったんだ。この本は戯曲6本「父」「令嬢ジュリー」「ダマスカスへ第一部」「罪また罪」「死の舞踏」「幽霊ソナタ」を収録。
まあそういう趣味には最初2つの自然主義的な「父」「令嬢ジュリー」が叶う。後の4本は象徴劇みたいなもので、もう一つ仮借ない強烈さがなくなるからね。でもさあ、まさに「新青年」短編タイトルにありそうなものが多いんだよね。 「父」は家長である「大尉」が、妻のラウラとの間の長い「男女闘争」の果てに狂死する話。ラウラが武器とするのは、娘のベルタが不倫の子だという仄めかしであり、「父は自分の子が本当の子であるかが分からない」という宿命的な謎によって、性格不一致な夫をほぼ意図的に破滅させる。ダークな感情が爆発する、まさに女性作家のサスペンス小説の味わい。 「令嬢ジュリー」では没落しかかっている伯爵家の令嬢ジュリーが、夏至の夜の浮かれた背景で、下男で野心家のジャンを誘惑する話。ここではその親世代の男女同権が親に対する反抗や家族不和を準備した、という背景もあるから、「父」の後の世代の話みたいなものだ。ジュリーは積極的にジャンの野心を刺激して、南国イタリアに逃れてといった空想を煽る。しかし、ジャンにも領主の伯爵への隷属感もあれば、ジュリーも身分差のある下男のジャンに女王様気取りだったり、下品に媚を売ったりなど、かなり「病んでる」のが見もの。ジュリーはジャンに体を許した後、ジャンは急に現実に我にかえる。ジュリーはお気楽な家出の準備をするが、ジャンの冷酷さにヒステリー。とまあ、男女のエゴと利害が極端に衝突するだけ。 最終的にはジュリーの自殺が示唆させるけど、「父」と「令嬢ジュリー」の二作については、「前ミステリ」といった退廃的な心理劇なのが、昔からも妙に好き。いや実際、すごく「新青年」っぽい。まあ今だとフェミニストにキャンセルされそうな劇なんだけどもね(苦笑) 作者のストリンドベリ自身、かなり「危ない」キャラで、生活は破綻しまくっていたようだけど、突如「回心」しちゃって、それ以降の劇作が「ダマスカスへ」以降。「罪また罪」は一番狭義のミステリ色がある。内妻と子供がある劇作家が、自らの劇の成功に酔って友人画家の恋人を奪って駆け落ちしている間に、その子供が不審死を遂げて、その子殺しの容疑で劇作家が逮捕される話。まあ別にミステリ的な真相があるわけではないんだが。 日本では戦前にはよく紹介された作家だけど、戦後はとんと忘れられた作家でもある。しかし、同国人のイングマール・ベルイマンがストリンドベリを演劇でよく取り上げ、映画作品もで強い影響を感じさせる。「叫びとささやき」とか「ある結婚の風景」とか「秋のソナタ」とか、まさにストリンドベリ的な世界なんだよ。だからか、評者は変な親近感を抱いていた作家だった。ちょっと負債を返したような気分である。 |
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