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[ 短編集(分類不能) ]
アウルクリーク橋の出来事/豹の眼
アンブローズ・ビアス 出版月: 2011年03月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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光文社
2011年03月

No.1 8点 クリスティ再読 2026/04/20 11:54
マーク・トウェインこの間したからね、ビアスはトウェインとも同時代人で、南北戦争の従軍歴・ジャーナリストとしての活躍も共通点。ハックルベリー・フィンについてのハードボイルド的キャラクター性をあっちでは見てみたんだけど、ビアスは世界を見やる視線がハードボイルド。というか、ハードボイルドの「無情さ」が極端に際立った作家だというべきだろうね。

この短編集は文庫200ページほどに14作を収録。ジャンル的にはホラー優勢、というべきなんだろうけど、ちょっとホラーとは違う肌合いがある。「怖さ」という感情を巡った作品でない、というか、主観的じゃないんだよね。あくまでも客観的な筆致で「何が起きた」を描写するスタイルで、その結末は残虐だったりするけども、それを感情のフィルター越しに描写することがない。突き放して描くのがビアスの真骨頂。
「夏の一夜」はポオお得意の「早すぎた埋葬」話なんだけども、医学校の学生が献体の代わりに墓暴きをして、偶然生き返った男に遭遇する話。題材からしてイカれているけど、結末がさらにイカれてる。非情ってもんじゃない。
「ジョン・モートンソンの葬儀」ならばやはりポオの「黒猫」みたい..と言わば言え、悪意なき猟奇、という話。
「チカモーガの戦い」は、南北戦争中に、農家の子どもが迷子になって、その間に農場が軍に襲撃されて一家が虐殺されるさまを、子どもが目撃する話。悲惨なんてもんじゃない。

というわけで、世界の無情さをあからさまに描くハードボイルドさが目立つ短篇なんだ。これにはビアスの軍歴も関わっており、軍歴に取材したと思しき「アウルクリーク橋の出来事」では、スパイ容疑で橋の上で絞首刑になる男の、その処刑の瞬間を描いた話。幻想といえばそうなのだが、あたかもそれが焼き付くようにリアルであり、異世界にその瞬間、陥没したかのような描写でできているような話。ビアスを愛読した藤子・F・不二雄が「超空間の漂流者」と呼んだのが、至極納得できる。この短編集で出現するあまたの幽霊たちは、幽霊というよりも生きながら超空間に沈没した人のように見えたりもする。

交差しあわない非情な世界たち。

この超世界を描いたのが、芥川龍之介が「藪の中」のヒントを得たという「月明かりの道」。いやまさに、不倫を疑った夫が妻を絞殺した?という話を、息子・夫・妻の亡霊によって語らせるが、話は相互にズレている。超空間は交差の一瞬に離れてしまい、二度と交わることはない。そんな非情さ。

アンブローズ・ビアス自身がメキシコの山中で失踪したというのに、深く納得する。ビアスも超空間に飲まれたのであろう。


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アンブローズ・ビアス
2011年03月
アウルクリーク橋の出来事/豹の眼
平均:8.00 / 書評数:1