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[ パスティーシュ/パロディ/ユーモア ]
怪船マジック・クリスチャン号
ブラック・ユーモア選集 第4巻
テリイ・サザーン 出版月: 1976年09月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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早川書房
1976年09月

No.1 5点 クリスティ再読 2026/04/15 20:37
有名な発禁書「キャンディ」の作者が、黒いユーモアを奔放に発揮し、現代の混沌に挑んだ代表的な作品。他に「博士の奇妙な冒険」を収録。

という惹句で1970年代前半のポケミス巻末に宣伝が載っていたハヤカワ「ブラック・ユーモア選集」の4巻目。作者テリイ・サザーンというと「博士の異常な愛情」とか「コレクター」とか「007 カジノ・ロワイヤル」とか「イージー・ライダー」に関わった脚本家である。映画人としてのキャリアは凄い。
もちろんエロで発禁になった「キャンディ」や本作も映画になっている。映画はリンゴ・スターやらピーター・セラーズやらユル・ブリンナーやらラクエル・ウェルチやらクリストファー・リーやら、超豪華キャストでバカやる映画で「映画秘宝」的に有名。

大金持ちのガイ・グランド氏が金に飽かせてとんでもない悪戯をやってのけるのが「マジック・クリスチャン」。この悪戯が世間を挑発するような悪辣なもので「笑えない」。ブラックユーモアとかプラクティカルジョークに回収できない悪質なものだから、始末に負えない。映画館を経営すれば、普通の劇映画に意味深に意味を捻じ曲げるようなカットを挿入して、観客の目を疑わせるのを売り物に。ドッグショーを開催すれば犬の代わりにクロヒョウを連れて、出ている小犬たちを食べさせたり。グランド氏のこんな悪逆無道の総集編が豪華客船「マジック・クリスチャン号」の航海。ここで悪趣味でシュールな混乱の極みが展開する。あたかも実現不可能なパフォーマンス企画みたいに読んでいたな。

でも併録の「博士の奇妙な冒険」はもっとヘン。金持ち向けの瀟洒な病院で皮膚科の権威として君臨するアイヒナー博士が主人公。診察に訪れた男トリーヴリイとの確執?みたいな追っかけっこが主題。間にこの病院の看護婦バーバラと薬局の甥ラルフの至極真っ当な恋愛話がないまぜに挿入されていて、これが可笑しくもなんともない。この対比がきわめてヘンテコ。いや博士とトリーヴリイとの確執の中でテレビのクイズショー「わたしの病気は何でしょう」の公開収録に紛れ込むあたりが真っ当にブラックで、他はなんというか訳が分からない。一応完全犯罪みたいなことを博士はやってのけたりする(苦笑)。まあタイトルからして「博士の異常な愛情」に掛けた訳題で、原題「Flash and Filigree」はさらに意味不明。この本だと巻末の予告は本書が仮題で「閃光と銀細工」と載っている。さらに意味不明なタイトル。おそらく編集ミスで「博士」の側の著作権表記に「マジック・クリスチャン号」のものが重複で入っている。さらに狂ってる。

困ったな。読者を困らせることが目的ならば、目的を果たしているとは言えるんだがな。笑いのツボが一致しないユーモアって、結構苦痛なものなんだ。


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テリイ・サザーン
1976年09月
怪船マジック・クリスチャン号
平均:5.00 / 書評数:1