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[ 警察小説 ] 裏切者 |
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| ジョルジュ・シェルバネンコ | 出版月: 不明 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
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| No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2025/12/10 13:17 |
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| 日本に江戸川乱歩賞があるように、イタリアにはシェルバネンコ賞が、ある。
2010年代に論創社から2冊シェルバネンコは出版されているけども、マニアの憤激を買ったハヤカワの世界ミステリ全集で、早くも1970年代に「裏切者」が翻訳されている。ソ連の「ペトロフカ、38」とかドイツの「嫌疑」と同じ巻だけど、その2つはポケミスから刊行されているにも関わらず、本作はポケミスにならなかったんだよね。あとがきの座談会によるとルドヴィコ・デンティーチェ「夜の刑事」がポケミスで紹介されて、シェルバネンコも本作を含む2冊の翻訳権をゲットしたそうだが、結局シェルバネンコのポケミス入りは叶わなかった。まあ「薔薇の名前」だって凄い凄いと聞かされながら、翻訳が遅遅と進まなかったことから見ても、イタリア語をエンタメの水準で翻訳できる翻訳家がレア、という事情も伺われるな。実際本作の翻訳も生硬。まあ文章が文学寄りでもあるし、英米エンタメの客観的な語り口じゃなくて、詩的・誇張的な感情表現が多いから訳しづらい作品でもあろう。 主人公は安楽死に関わったことで服役し医師免許を取り上げられ、裏街道を生きることを強いられた医師、ドゥーカ・ランベルティ。親友のミラノ警察のカッルア警部の影の助けにより、警察の協力者として細々と生活を送っている。持ち込まれるのは堕胎やら....今回の依頼人の要望は「処女膜の再生手術」だった。結婚相手が処女にこだわるために、何としても処女でなければならない...と話を持ち込んだのはその女の隠れた恋人。ドゥーカが服役中に知り合った悪徳弁護士ソンパーニの紹介だという。女は手術に訪れ、恋人が取りに来るからと軽機関銃の入りのバッグを置いていった。ソンパーニはその直前に運河に車ごと落ちるという不審な死を遂げていた。親友のカッルア警部に報告したドゥーカは、刑事と共に女を追跡する。果たして嵐の夜、運河沿いに車を運転する女と恋人は、突然現れた対向車からのマシンガンの銃撃を受けて、運河に落ちた.... こんな始まり。主人公ドゥーカ医師の屈折感が面白い。裏街道を歩まざるを得ない元エリート。読んでいて近いのは「新宿鮫」。ハードボイルドっぽい孤立感があるし、事件は荒っぽく、ドゥーカ自身が医学知識を生かした拷問をしたりする(をい)。事件はギャングの抗争だけではなく、第二次大戦中の因縁も...ドゥーカはその手術を持ちかけた男に「医師免許の回復を手伝おう」と持ち掛けられもするし、カッルア警部からも医師免許回復に尽力しようと申し出がなされたりする。しかし、ドゥーカはガリレオが宗教裁判した「転向表明」の文書で誘いを断る... なかなか、アンチヒーローな陰影感があって、いい。エンタメ度は少し低いが、興味深い作品。 (ハヤカワ世界ミステリ全集もあとガードナーと37の短編だけか。来年やろう) |
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